10年ほど前、山陰を旅行した時に、ある島で夏ミカンの原木というのを見た。それは外国から海を渡って海岸に流れ着いたもので、それが根付いて日本に広まったという解説が看板に書いてあった。島崎藤村の詩にも「名も知らぬ遠き島より流れ寄る椰子の実一つ」というのがあるように、海に囲まれた島国である日本の沿岸には、いろんなものが漂着した。昔の人になったつもりで想像してみると、海岸に流れついたいろんなものを見つけるたび、海の向こうには不思議な宝の国があると思っていただろう。
夏ミカンや椰子の実といったものばかりでなく、時には外国人だって流れ着いただろう。そうした人たちが、日本にない知識や技術を持っていたりしたわけだから、海外に対する憧憬は今以上だったかもしれない。
図書館で借りた「日本の神々 多彩な民俗神たち」という本を読んでいる。何気なく手にとって開いて見たら、エビス様や大黒様といった神様がイラスト入りで説明してあり、「そういえば名前は知っているのに、どういう神様かは知らないな」と思い借りて来たのだ。まだエビス様と大黒様と弁財天しか読んでいないが、意外だったのは宝船に乗っている七福神は外国からやって来た神様だということである。大黒様はインドでは戦闘の守護神だったというから、日本に来てずいぶん性格が変わったことになる。
ただ、こうした海の向こうのものが何でもかんでも素晴らしいという考え方は、近頃は通用しなくなっている面もあるだろう。植物の種が流れ着いた頃と違い、プラスチックゴミが大量に流れ着く現在、厄介なものばかりが日本に押し寄せ、日本人はその対応に四苦八苦しているのである。