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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

大使たちが動く(1)

2010-11-29 | Weblog

投票時間が、夕方5時で締め切られ、開票が始まった。私は、第一回投票の日と同じく、国連機に乗って、こんどは北部のオディエネとコロゴを視察して回った。さすがに遠かったので、コロゴに着いた時にはもう投票が締め切られ、開票が始まっていた。こちらの方では、投票も開票も、順調に行っているようである。

さて、アビジャンに飛んで帰って、夜9時から国連本部に集まり、チョイ国連代表のもとで、欧州連合(EU)、アフリカ連合(AU)、カーターセンター(米国)、西アフリカ通貨同盟(UEMOA)、仏語圏機構(OIF)、そして日本と、選挙監視団が集まって、視察結果の報告会が行われた。今度は決選投票であり、各地の投票所では真剣勝負で、いろいろ緊張した事象があったことが報告される。投票率の高低や、妨害活動などの全体像はまだ分らない。そして、今現在において、一番肝心な開票作業と、その開票結果を運搬し、集計するという、最も神経をつかう作業が行われているのだ。

報告会の閉会に際して、チョイ代表が、大使の皆さんだけ、ちょっと残って私の執務室に集まってください、と言った。何事だろうか、皆が集まっているこの報告会の場では話せないことがあるのだ。それで、おおよそ15人ほどの大使たちが、エレベーターで4階まで上がって、会議室の机を取り囲んだ。夜10時前である。

チョイ代表が、いきなり挨拶もなく言いだした。
「最大の危機です。選挙が駄目になる。どうしたらいいのか、大使がたの協力を得たい。」
どういうことが起こっているのか。私にはさっぱり分らない。
「いろいろな緊張した事件がありながらも、開票までは各地で進んでいます。ところが、開票結果を、集計のために地方選挙管理委員会まで届ける段階で、大問題が発生しました。夜間外出禁止令です。」

夜間外出禁止令が夜10時から発出されることは、もう前日から分っていた。何が問題なのだろう。
「夜間外出禁止令のために、各地の地方選挙管理委員会で、開票調書を受け取るべき委員が、家に帰ってしまったということです。だから、せっかく開票調書を投票所から届けても、誰も受け取る人はいない。だから、集計所のところで、開票調書が宙に浮いた状態になっています。これはたいへん危険です。その開票調書が夜の間に失われたら、もう選挙結果は台無し、大混乱になる。」

ちょっと待ってください。夜間外出禁止令は、選挙管理委員をはじめ選挙関係者対象外にする、と明確に述べているではないですか。なぜ家に帰ってしまったのですか。
「そのとおり、選挙管理委員は仕事を続けることができるはずです。でも、これは野党側のボイコットなのです。つまり、野党側は、夜間外出禁止令は大統領側が出した奇策だと考えている。だから、夜間外出禁止令を取り下げることを要求しました。ところがバグボ大統領は取り下げなかった。それで怒って、実力行使に出たと考えられます。中央選挙管理委員会でも、副委員長がさっさと家に帰ってしまい、集計作業を放棄、だから、今晩のうちに投票結果を明らかにしていくという段取りが、もうまったく機能しなくなりました。」

選挙管理委員会は、中央でも地方でも、バグボ大統領の「人民党」、ウワタラ候補の「共和連合」、ベディエ元大統領の「民主党」、そして候補は出していないが「新勢力」、その他の政党諸派から、それぞれ平等に委員を得て構成されている。決選投票のこの段階になって、バグボ大統領の「人民党」の委員と、ウワタラ候補支持の「共和連合」と「民主党」などのその他の委員の合計との割合は、1:4になっている。つまり、選挙管理委員会の委員は、バグボ大統領に反対する勢力のほうが多いのである。

「ウワタラ候補は、選挙管理委員たちにそういう指示を出して、これでバグボ大統領側に損失を与え、その「奇策」を封じたつもりなのでしょう。ところが、大違いなのです。そういう混乱を自ら招いては、せっかく自分のところに入るべき選挙結果も、途中で失われてしまう。ウワタラ候補が自分で勝てると考えているのなら、開票調書を保全することに全力を尽くさなければならないのに、それと反対のことをしているのです。」
チョイ代表は、悲痛な面持ちである。自分はそのことを、ウワタラ候補に説得しようとしたが、頑固に夜間外出禁止令が悪いのだと言っている。だから、大使たちにも助力を得たい。今から、ウワタラ候補のところにでかけて、説得を試みてほしい。

しばらく、この話にいったいどういう背景や考慮があるのか、どういう説得がありうるのか、などの議論が続いた。米国大使が、席を立って出て行った。しばらくして戻ってきた。携帯電話を振り回している。
「今、ウワタラ候補本人と電話で話しましたよ。」
おおっ、と声がわく。さすが米国大使である。携帯電話で簡単に話をしている。こういう芸当は、私にはできない。

「ウワタラ候補が言うには、自分が指令を出したわけではない。各地の選挙管理委員が、夜間外出禁止令で、自分の身に危険が及ぶことを恐れて、自主的に委員会を閉めてしまったのだ、だから、自分にも今の事態はどうしようもない、ということです。」
米国大使が、そう説明すると、チョイ代表が違う違うと言う。
「違うのです。今の事態が、ウワタラ候補に決して利益にはならないことを説明して、彼から選挙管理委員たちに号令をかけ、すぐに集計所に戻って作業を続けるように、動いてもらわなければならないのです。」

そこでフランス大使がおもむろに言う。
「チョイ代表の心配は分ります。でも、これはバグボ大統領側と、ウワタラ候補側との間での、いわば政治ゲームなのですよ。ひとつひとつの手を打つなかで、開票結果がどうなるのかは、彼らが一番良く知っている。彼らの間で、今真剣試合が繰り広げられているのです。そこに、外交団として口を差し挟んではいけない。国連として、どちらかの政治的な利益になるかもしれない行動をとってはいけない。」

すでに夜10時半をまわっている。全国で夜間外出禁止令(夜10時以降)が適用され、つまり、もう選挙管理委員会を含めて、街では何も機能していないという状態になっているはずだ。チョイ代表は、焦燥感を顕わにして言う。
「たしかに、政治ゲームかもしてないけれど、ここで開票結果が失われれば、過去何年にもわたって、心血を注ぎ、莫大な資金を注いで、ここまでたどり着いた大統領選挙が、水泡に帰するかもしれないということです。選挙の実施はコートジボワールの主権事項であり、国連や外交団は中立を保たなければいけない。建前ではそうかもしれないけれど、ここで選挙が大きな危機に曝されているのなら、何としても救わないといけない。」

大使たちの間では、躊躇の沈黙が続いた。チョイ代表は、頭を抱えて言った。
「分りました。大使の皆さんからの助力は得られない、と。大統領選挙がどうなっても、コートジボワール側の問題だから、仕方がないのだと、諦めるしかないのですね。それならば、もう夜も遅いので、帰ってお休みください。そのかわり、明日の朝、いったいどういうことになっているのか、見てもがっかりしないでください。」
そして、席を立った。

廊下に流れ解散のようになったところで、ドイツ大使、スイス大使、そして私とで、チョイ代表を取り囲んだ。
「助力できないと言っているのではありません。皆、困った事態をどうするか考えて、答えが出ないのですよ。選挙を運営実施するのはコートジボワール側だから、大使としてコートジボワール側にああしろ、こうしろ、と言うわけにはいかない、ということはご理解ください。しかし、今の事態には大きな懸念がある、と伝えることはできるでしょう。」
私たちから、そう述べた。そして、さっそくウワタラ候補の私宅に出向く、と言った。

「ぜひ、そうしてください。選挙を救ってください。」
チョイ代表は、まだ怒った顔のままで、そう言った。それで、国連本部からウワタラ候補と深夜の面会をとりつけようと、彼の事務所に電話しても繋がらない。それでは、ここにいる大使だけで、彼の自宅に押しかけよう、と私が提案した。面会なしに訪れても、私たちの要件の重大さから失礼ではないし、門前払いされることもなかろう。とにかく行こう。

米国大使とフランス大使は、もう先に帰ってしまっていた。私は、米国大使に電話をした。やはりウワタラ候補に働きかけることにした。ぜひ一緒に来てくれないか。これは外交団が選挙過程を指図しようというのではなく、今の状態に懸念があることを伝え、迅速に選挙結果が出ることが大切だという考え方を伝えるための面会なのだ、と説明した。米国大使は、それならば自分も一緒しよう、現場で落ち合おうと言った。フランス大使とは、電話が繋がらなかった。仕方がない。

夜間外出禁止令で、車のまったく途絶えた通りを、大使車が10台ほど連なって、猛烈なスピードで飛ばした。ウワタラ候補の自宅に到着し、趣旨を説明したら邸宅内に案内された。そこには、すでにフランス大使が来ていた。彼は、自分の判断で来たのだ。すでに夜11時近くである。

ウワタラ候補に、現在集計作業が止まっているために、選挙過程が危殆に瀕することになるのではないか、と心配しているのだ、と伝えた。各地の選挙管理委員を説得して職務復帰させないといけない。ウワタラ候補のほうから、説得できないのか、と。

ウワタラ候補は、私たちの顔を見回して、言った。
「夜間外出禁止令がいけないのです。私は、バグボ大統領が対面討論でこの話を持ち出した時に、それは悪影響が大きいから止めるべきだと言いました。その後も、彼には私の懸念を話して、夜間外出禁止令は、前日はもう仕方がないとして、投票日当日の今日は撤回しようとことになったのですよ。コンパオレ大統領の仲裁で、彼の面前でそう決まったはずなのです。ところが、結局、今日になっても撤回されない。それで、街には不穏な空気が充満しています。各地の選挙管理委員は、こんな安全に問題があるという雰囲気の中で、どうして数人だけで建物に残って作業を続けられますか。開票結果を手に携えて、大勢の人々が押し掛けるかもしれないのです。恐ろしくて仕事はできません。だから、自分の安全を守るために、開票所を閉じてしまった。」

しかし、全国の開票状況を統括するべき中央選挙管理委員会で、野党出身の副委員長たちが率先して帰宅したというではないですか。これは職務放棄ですよね。そう問いかけると、ウワタラ候補はそれは違うはずだ、と言って、その副委員長の一人にその場で電話した。
「もしもし、私だが、どこにいるのですか。ええ、まだ委員会の建物の中にいる。それで、どうして作業が続けられないのですか。ああ、そうですか、選挙管理委員会の幹部たちは皆残って、作業を続けようとしているのに、コンピューターに入力したり、事務作業を手伝ってたりする係官たちが、みな怖がって帰ってしまったというわけですね。それで、何もできなくなっていると。そうですか、もう少ししたら帰りますか。仕方ないですね。まあ、船長が最後まで船に残るようなものですね。」

そして、私たちに言った。
「お分りのとおり、これは安全確保の問題なのです。もともと、選挙管理委員には安全の不安があったところに、夜間外出禁止令が出されたので、仕事ができなくなったのです。そういうことになるから、夜間外出禁止令に反対したのに、バグボ大統領は言うことをきかなかった。私だって、開票調書が危険にさらされている今の状態を、何とかするべきだと考えています。だから、ソロ首相に働きかけてください。ソロ首相が、中立の立場から采配をふるう責任があります。選挙管理委員会に指示をする立場にあります。それに、国連にも、選挙管理委員と開票調書の安全確保に手段を講じるように、強く要請してください。」
逆に頼まれてしまった。

米国大使は、すぐにチョイ代表に電話して、国連によって一層の安全確保を求める、ウワタラ候補の要請を伝えた。そして、そういうことなら、ソロ首相にも働きかけなければならない。そこで、私たち大使連中は、そのままソロ首相に会いに出かけることになった。大使の車を連ねて、ウワタラ候補の自宅を出たのは、もう午前零時近くになっている。

(続く)

 各政党代表の立会いのもとで、これから投票箱を作る。
(以下、朝7時:アビジャンの投票所で)

 投票箱は、このとおり空です。

 封印をする。

 最初の投票者が来た。

 これが投票用紙。今回は決選投票なので、2人しか並んでいない。

 投票をする。

 投票した印に、指に紫のインクをつける。

 次は開票。投票箱を開ける。
(以下、夕方5時:コロゴの投票所で)

 投票の枚数を数えて、きちんと整理する。

 投票を読み上げるとともに、広げて示す。

 各党代表の証人たちの後ろで、枡形を書いて数をつけていく。

 隣の投票所では、棒を並べて数をつけていた。
数え方は、それぞれの投票所に任される。


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