コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

一世一代の大会議

2010-05-29 | Weblog
今週に入って、アビジャンの市内が、たいへん賑やかで華やかになってきた。コートジボワール政府にとって、一世一代の大事業、「アフリカ開発銀行」のアビジャン年次総会がいよいよ開催(5月27-28日)されるのである。なぜ一世一代かというと、この会議が成功するか否かに、「アフリカ開発銀行」本部のアビジャンへの復帰がかかっているからである。

もともと、1964年に「アフリカ開発銀行」が設立されて以来、その本部はアビジャンにあった。しかし、2002年にコートジボワールで軍事紛争が起こり、国が南北に分裂する事態を前に、「アフリカ開発銀行」は、2003年9月から、「暫定的」に本部をチュニジアの首都チュニスに待避させた。だから、現時点では「アフリカ開発銀行」の本部業務は、チュニスで行われている。それを、コートジボワールの政情も落ち着いてきたので、何とかアビジャンに戻したい。コートジボワール政府の切なる願いである。アビジャンの中心部には、「アフリカ開発銀行」の立派な本部ビルが、誰にも使われないまま、7年間そのままで主人の帰りを待っている。

もちろん、コートジボワールが大統領選挙を行い、政治を正常化しさえすれば、文句無しに本部はアビジャンに復帰する。昨年11月末には大統領選挙が行われる予定になっていた。だから、今頃には大統領選挙は終わっているはずだった。それを見込んで、「アフリカ開発銀行」の今年の年次総会をアビジャンで行い、アビジャン復帰を正式決定する、という筋書きだったのである。ところが、残念ながら、大統領選挙は延期され、未だに実施のめどさえない。だから、アビジャン復帰を、今回の総会で決定することはできない。それでも、コートジボワール政府としては、この国が経済も社会も正常化を果たしている、だからアビジャン復帰への条件はほぼ満たされているということを、この総会の機会に、「アフリカ開発銀行」の関係者に、しっかり示したいと考えた。

それで、まずアビジャンの町の大掃除である。道路の穴を埋めたり、空港からの道筋に花壇を作ったり、綺麗な記念碑を立てたりした。目抜き通りには、「アフリカ開発銀行」加盟国各国の旗が飾られ、色とりどりで鮮やかだ。とばっちりを食ったのが、貧しい人々である。街角のあちこちにバラック造りの家々を建てて住んでいたところが、いきなりブルドーザーがやってきて、皆壊されてしまった。このような家々は、各国から来るお客さんには見苦しいというわけである。ここで、貧しい人々の生活や財産や人権は、と首を傾げる人は誰もいない。「アフリカ開発銀行」のアビジャン総会の成功は、すべてのコートジボワール人の願いなのだ。

そして、年次総会の会場となる、「ホテル・イボワール」の大改装、つまり国際会議場の整備と、客室の新装開店である。アビジャンの市街を見下ろす30階建ての高層ビルを擁する「ホテル・イボワール」は、塀に囲まれて閉鎖され、突貫工事が行われてきた。でも、この国の突貫工事である。いつまでたっても、完成する目処が立たない。誰もがやきもきする。本当に、5月待つのアビジャン総会までに準備が完了するのだろうか。会合が開かれる傍らで、まだ工事が進んでいるというような事態になるのではないか。まあ、そういうこともありうる、と思わせてしまうところが、この国にはまだある。

誰よりも「アフリカ開発銀行」のカベルカ総裁が、大いに心配した。それで、3月にアビジャンに視察に来た。カベルカ総裁は、大使館に私を訪ねてきた。
「5月の年次総会を、予定通りアビジャンで開催できるのかどうか。この国が大統領選挙を実施できないまま、開催直前にまた社会が不安になるようだと、いけないのです。日本大使にも、率直なところをお伺いしたい。」
そう私に言った。私は、すぐに答えた。総裁、予定通りに進めて大丈夫ですよ。

私がそう答えたのは、ひとつにはボウン・ブアブレ開発相への信頼がある。ボウン・ブアブレ開発相は、「アフリカ開発銀行」のコートジボワール代表理事であり、そして次回年次総会を引き受けているので、理事会議長でもある。彼こそが、アビジャン年次総会開催の総責任者なのだ。私は、ボウン・ブアブレ開発相とは、仕事の上でも行き来があって、彼の熱意と実力を知っている。もちろん、彼の手柄を手伝ってやりたいと考えるし、コートジボワールの名誉がかかった年次総会の成功に向けて、彼が全力を尽くせば、不可能も可能になるだろう。

カベルカ総裁は、それでも不安と懸念を述べた。
「私たちの内部では、コートジボワールが大統領選挙を行わないままでいるのに、アビジャンで年次総会を行うというのは、良くないのではないかという議論もあるのです。昨年の年次総会で、次回はアビジャン総会だと決めたのは、昨年のうちに大統領選挙を実施するという前提があったからじゃないか。その約束が反故にされたのに、年次総会だけ予定通り行ってしまうのは、アフリカ開発銀行として屈したことにならないか、と。」

私は、総裁それは発想を逆転して下さい、と述べた。アビジャン総会が開かれるからこそ、大統領選挙への勢いが付くのです。アビジャン総会が開かれれば、人々の心に、ああ早く大統領選挙を行って、「アフリカ開発銀行」の本部を戻さなければいけないなあ、という気持ちを起こすのです。もし、アビジャンでの年次総会を止めることにしたら、こちらの人々は単に落胆するだけです。そういう責任感を呼び覚ますことにはならない。カベルカ総裁は、ああ、そういう考え方もあるか、と言って帰っていった。

その後、ボウン・ブアブレ開発相に会ったときに、私は、カベルカ総裁から意見を求められたので、アビジャン開催は大丈夫だとしっかり答えておいたですよ、と伝えた。開発相は、それはたいへん恩に着る、感謝したいと言った。カベルカ総裁は、私の他にもいろいろな人から意見を聞いて、予定通りアビジャン開催を進めることに決めた。

そして今日の年次総会開催を迎えている。心配された工事はちゃんと間に合って、「ホテル・イボワール」に建った白亜の美しい国際会議場が、何千人という出席者を迎えている。年次総会が実現したことは、コートジボワール政府だけでなく、大使としての私にとっても、たいへん嬉しい話なのだ。つまり、日本は、「アフリカ開発銀行」への出資比率5.5%で、ナイジェリア、米国に次いで、第三位の胴元である。だから、日本からも、当然ながら代表団が出席する。財務省の林信光国際担当審議官を団長に、財務省、外務省、国際協力銀行(JBIC)、国際協力機構(JICA)から、総勢16人の大代表団である。

今週初めから、皆さん順次到着し、大使館の館員は皆張り切って、一行のお世話に取り組んでいる。私も公邸に、連日のように皆さんをご招待して、いろいろ東京のお話などを聞いている。もともと、こんなアフリカの西の国まで、日本からお客さんが来ることは珍しい。まして、コートジボワールでは紛争が片づいていないので、日本との関係も本格的に再開せず、政府関係者が出張で来ることは殆ど無いのである。正直なところ、私が着任以降初めての、本格的に政府代表団を迎える仕事なのだ。

総会の初日夜に、ボウン・ブアブレ開発相と、カベルカ総裁とが合同で主催する、歓迎レセプションがあった。私は、いの一番に会場に到着した。案の定二人が、入り口でお客さんを迎えるために立っている。私は、開催おめでとうと言って二人と固く握手した。そしたら、カベルカ総裁はボウン・ブアブレ開発相に聞かせるように、こう言った。
「やあ、日本大使、お久しぶり。大使が、あの時強く一押ししてくれたので、今回の年次総会が実現したようなものですよ。」
カベルカ総裁は、さすがだ。私の顔を立ててくれた。ありがたい。私は、ボウン・ブアブレ開発相に、ほらね、と得意顔で目配せした。

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1 コメント

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Unknown (まかべ)
2010-05-29 21:10:20
コートジボワールの政情をいち早く知ることができ、大変有難く拝読しています。大統領選挙が実施され、日本との交流も活発化する日が近いとよいのですが。益々のご活躍を祈念しております。
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