コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

四月の魚

2010-04-05 | Weblog
選挙管理委員長の更迭やら、内閣の改造やら、政治の足下がぐらぐらして、また徒に月日が過ぎた。昨年11月29日に行われるはずであった大統領選挙は実施できず、翌12月に「3月末から4月初め」と決定された。その4月がもう来てしまっているのに、何も進んでいない。本年2月には、これは少し延期するしかないと「4月末から5月初め」にする、などという見通しがあった。けれども、その後それを正式決定したわけでもなく、新しい選挙日程のないまま日々が過ぎている。

バグボ大統領の政党「人民党(FPI)」は、マンベ選挙管理委員長の「詐欺事件」以来、選挙管理委員会の活動に疑問を呈してきている。中央の選挙管理委員会は改組、マンベ委員長が更迭され、バカヨコ新委員長に代わった。「人民党」は引き続き、全国に451ヶ所置かれている、地方の選挙管理委員会も、抜本的な改組をするべきだ、などと言い出している。そんなことを始めれば、全国規模でさらに混乱が広がるだろう。

そのうち、「人民党」は、もと「新勢力」軍だった兵士たちの武装解除と、未だに「新勢力」の司令官たちが実質的に支配している北部地域の、中央政府への統合がなければ、大統領選挙には行けないという議論を蒸し返してきている。この議論は、確かに一昨年からあった。しかし、一昨年12月にコンパオレ大統領の裁定のもと、「ワガドゥグ合意」の第4合意書に双方が合意して、決着を見ていたのではないのか。とにかく、「人民党」としては、大統領選挙に行くには、まだまだ障害が多々あるので、駄目だというわけである。

こんなにあれこれ、選挙に行けない口実が出てくるようでは、新しい選挙日程などは、とても決まりそうにはない。そういう見通しでいたら、4月1日付の「友愛朝報」に、見出しが踊った。
「大統領選挙の日程は、6月末から7月初めと決定。」

バカヨコ選挙管理委員長の写真とともに、掲載された記事は、次の通り伝えている。
「バグボ大統領とソロ首相は、バカヨコ委員長の提案に従い、6月末から7月初めに大統領選挙を実施することを、ほぼ決定した。決定は、本日、ブルキナファソのボボ=デュラソ市で行われる、バグボ大統領とコンパオレ大統領との会談で、コンパオレ大統領の了承を得た上で、発表される段取りである。」

そんな日程に決まる方向とは、全く予想外であった。その時期は、コートジボワールは雨季に入って、全国で交通が寸断されるので、選挙は出来ないと言う常識だったのに。それに今年は、6月にサッカーのワールド・カップがあって、国民はもう南アフリカからのテレビ中継に夢中になる。とても選挙運動には集中できない、と言われていた。だから、もう大統領選挙は、今となっては秋口に延期せざるを得ないだろう。それが巷間もっぱらの議論であった。

しかし記事では、この時期に大統領選挙を行わざるを得ない理由を挙げる。第一に、「3月末から4月初め」という目処が立っていた選挙日程を、そんなに後に遅らせるわけにはいかない。3ヶ月の延期が、全ての政治当事者や、国際社会にとって、許容できる最大限である。第二に、「確定版の選挙人名簿」を完成するまでに、まだ異議申し立て期間として21日間が必要であること、選挙日の2ヶ月前には「新勢力」軍の旧兵士の武装解除が済んでいなければならないという制約があること、からある程度時間が必要である。でも、6月末まで延期するならば、それらの作業の余裕が取れること。

そして、第三に、5月末(5月27-28日)に、アビジャンでアフリカ開発銀行の総会が予定されていること、を挙げる。選挙活動は、この重要な会議開催の時期を、避けなければならない。アフリカ開発銀行は、アビジャンに本部があったのが、コートジボワールの紛争が起こったために、2002年、チュニジアの首都チュニスに、暫定的に本部を移動し、避難した。その本部を、アビジャンに戻すかどうかという、大事な検討が、この総会で行われる。コートジボワール政府も、アビジャン総会実現とその成功にむけて、全精力を注いできている。大統領選挙が、この会議の邪魔をしてはいけない。

さらに第四に、8月7日に行われる「コートジボワール独立50周年記念式典」までに、新しい大統領をきちんと選んでおかなければならないこと。まったくもって、その通りである。こうして理由をあげれば、確かに6月から7月の間に大統領選挙を実現できれば、いろいろな点で、うまく事が運ぶことが分かる。しかし、それでも、雨季に入ってからの選挙というのは、困難を伴うだろう。あるいは、相当投票率が落ちることを覚悟してでも、いよいよ大統領選挙に向かうことを決断したというのだろうか。

記事では、正式の決定は、本日のボボ=デュラソでの、両大統領の会談の結果発表される予定であるとなっている。それで、私は翌日の新聞を待った。

翌日の「友愛朝報」を開く。ボボ=デュラソでの、バグボ、コンパオレ両大統領の会談が行われたことが、一面で報じられている。バグボ大統領は、
「選挙人名簿の完成と、南北行政の統一は、同時並行で行われるべきだ。」
などと述べている。南北行政の統一は、「新勢力」側の既得権益放棄を求めるものだから、簡単には実現しない。つまり、バグボ大統領は、選挙人名簿の完成も、簡単には実現しないと言っているようなものである。あまり、選挙実施に前向きな発言とは思えない。

記事を良く良く読んでも、新しい選挙日程が決まった、というような内容は出ていない。さらによく見ると、下の方に小さな囲み記事が載っている。
「昨日(4月1日)のバカヨコ委員長の記事は、「四月の魚」でした。」
やられた。フランス語で「四月の魚(poisson d'avril)」というのは、エイプリル・フールのことである。つまり、でっち上げの嘘記事であったのだ。

とはいえ、記事が挙げたいくつかの理由は、まったくもってその通りである。このまま秋口までずれこんで、誰もが納得できるのだろうか。独立50周年という節目を、国として一番肝心な問題を解決できないまま迎えるつもりなのだろうか。そういう意味では、「四月の魚」の嘘記事とはいえ、「友愛朝報」のこの記事は、少しばかりの本当をも伝えている。

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