コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

気の長い種族

2010-04-03 | Weblog

「私のところでは、直径60センチ以下の材木は扱いません。」
ジーエ社長はそう言う。
「直径は大きければ大きいほどいい。断面積のうちで使える部分の割合が高まりますからね。昔は径3メートルに及ぶ原木がたくさんあって、採材率は80%を越えていました。ところが、今はもう、そういう大きな原木が少なくなり、だいたい50%前後です。それだけ、利益率も下がります。」
なんと、木の半分近くの部分が、捨てられているのである。

一緒に来てくれた森林公社の人が、私に言う。
「製材業者は、直径の大きな木を欲しがります。手間に比べて、効率良く製品が出来ますから。また、使っている製材の機械も、巨木の加工しか扱えない構造です。径の小さい木の処理加工には、それ専用の機械がちゃんと開発されているのですけれど、そうした機械をわざわざ導入しようというような企業は、ありません。」

森林公社が植林を行い、何十年か経ってある程度の太さの木に育ったとしても、こちらでは需要つまり商品価値がない。欧州などでのように、植林で育てた木を扱う製材業者が出てきてくれなければ、林業の見通しは立たない。こちらでは、製材業者は相変わらず、深い森から切り出された巨木ばかりを求める。

もう一つ気になったのは、板材などとして切り取られた材木も、そこからかなりの部分が屑材と見なされて、廃棄されていることである。ジーエ社長の工場では、木材の品質の均質性にこだわっていた。だから、巨木といっても、表面から近い部分は色むらが出来るので、捨てることになる。傷や節などで、少しでも品質基準を外れた木材は、屑材となっていた。屑材は薪として、乾燥庫の燃焼室に送り込まれる運命にある。どうにも勿体なく思える。

と思う人は、私の他にもいるようで、そうした屑材を活用して、製品加工を行う企業もあるという。私は、そうした企業の一つ、カシアロさんの家具工場に出かけた。カシアロさんは、イタリア人。イタリアの木材加工技術を手に、サンペドロにやって来たのが20年前。それ以来、この工場で家具や建具の製造を続けている。

カシアロさんの製法は、魔法のようである。大きな製材工場から出た屑材を、下取りして持ってくる。屑材は、原木の端部なので規格の大きさが取れなかったり、木目が途中で変わっていたり、一部にひびが入ったりしているため、製品にできなかった部分である。それをよく見ると、品質が良くて、まだまだ使える部分が相当ある。

その使える部分を、正確な大きさに切り取って行く。ちょうど拍子木のように、形を揃えた木材を、たくさん作る。それらをきっちり一面に並べ、特別の接着剤で張り合わせて一枚の板にする。機械でかんなを掛け、表面を研磨すると、見事に美しい材木に仕上がる。カシアロさんの工房では、この材木を使って、机、椅子、寝台、書棚などの家具や、部屋の扉などを作っている。工場の脇に展示場があって、そうした製品が並んでいる。熱帯木材には年輪などの縞目がないので、上手に張り合わせてあれば、一枚板とまるで区別がつかない。

輸出するのですか、と聞く。
「イタリアなど、欧州諸国から注文が来ることもあります。でも、今はコートジボワール国内からの引き合いで、手が一杯ですよ。アビジャンから、業者が買い付けに来ます。こうして作る家具や建具は、かなり安く出来ますからね。」
それでも、新たに投資をしていくだけの体力はない。張り合わせの技法は、イタリアから機械とともに持ち込んだ。その20年前の機械を、今も使っている。

森林公社の人が、私に説明する。
「森林公社は、この工場と契約を結んでいましてね。森林公社が指定林で育てた、比較的直径の小さな材木の、商品化を頼んでいるのです。こうした工場が、もっとたくさん、あちこちの場所にあれば、各地の指定林での植林による木材生産にも、商品化の見通しが立つのですが。残念ながら、殆どの工場は効率を追求するので、嵩の大きい原木しか相手にしてくれないのです。」

だから、森林公社が管理している指定林でも、巨木を伐り出していくことを、ある程度は認めざるを得ない。そのために、GPSなどを使って、巨木の位置と数を調査し、この指定林では年間何本まで許可する、というふうに業者との間で乱伐を防止する取り決めを行う。そういう形でしか、森林の保護が出来ていない。GPSなど森林管理に必要な機材も、森林公社にはまだまだ不十分である。

森林公社のヌゲティア総裁は、このような貴重な木の伐採に頼らなくても、林業が成立していくような体制を、早く作らなければと言う。
「私の夢は、持続可能な森林経営です。植林した木がやがて成長し、商品価値が付いて、売れるようになる。その利益が、きちんと地元の村の人々に還流するようになれば、村の人々は真剣に森林保護に取り組むようになるでしょう。それは、何年先でしょうか。20年先、30年先。私たちは、私たちの子供、孫の世代を考えて今の対策に取り組む、気の長い種族なのですよ。」

森林保護だけでなく、環境問題というのは、ぜんたいに気の長い視点を必要とする。今日、明日の利益に縛られる経済活動との折り合いがなかなか付かないことが、環境問題の難しさの底にある。

 カシアロさん経営の工場内部

 屑材の小片を合わせて張り合わせる
説明をするカシアロさん

 たくさん並べて大きな一枚にする

 電気かんなで研磨する

 美しい合板が出来た

 この板で扉を製作する

 事務机を製作する

 戸棚・本棚を製作する


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