8月24日に14次五カ年計画(2021~2025年の中期経済政策)に関する座談会が、習近平の主催で開催されたのだそうです。
そこには、9人の重量級エコノミストと、政治局常務委の王滬寧、韓正と経済担当の副首相の劉鶴が座談会に参加したが、李克強は出席しなかった。
このことから、秋の五中全会で制定される「14次五カ年計画」と「2035年遠景計画」という2つの中国の中長期経済政策については、李克強を外して習近平が主導で策定していくつもりではないか、と受け止められたと福島さん。
中国共産党政権では、首相が経済政策を全面的に主導し、外交などを主に担う国家主席と役割が分担されていた。
しかし、習近平は経済、外交、軍事、思想・宣伝、庶民の生活ルールに至るまですべてを自分が主導で行おうとして、集団指導体制から独裁への転換をもくろんだ。
ところが、習近平は、これまでのところ外交政策も経済政策もおよそ失敗していると福島さん。
習近平体制が行き詰まりつつある一方で、昨年(2019年)あたりから李克強が経済政策の面で存在感を強め始めていた。
だが、ここにきて、習近平は再度、経済の主導権を李克強から奪おうとしているのではないだろうかと。
2人の経済政策の方向性がかみ合っていないことは、諸兄がご承知の通りです。
中国経済の今日までの発展の基となる改革開放経済を始めた鄧小平の流れを継ぐ、共青団派の李克強は、民営経済重視。
毛沢東の専制政治時代への回帰を目指す習近平は、福島さんが、「公有経済主体の体制を揺るがさないと強調」と指摘されている様に、国公営企業主体派。
秋の五中全会で制定される「14次五カ年計画」と「2035年遠景計画」という2つの中長期経済政策の方針は、「双循環」がキーワードになるとみられている。この座談会でも「双循環」が強調されたと福島さん。
「双循環」とは簡単に言えば、「国内と国際の2つの経済を回す」こと。当初、メディアは、中国がそれまでの世界の工場としてのグローバルサプライチェーンの中での発展モデルから、国内市場で需要と供給を完結させる鎖国経済モデルに転換していくのではないかという見方をしていたと。
だがこの座談会では、改めて双循環が閉鎖的な国内循環を意味するものではないことが強調されたのだそうです。
いわく「スムーズな国民経済循環を主体として新たな新発展フレームワークを構築する。国内大循環を主体に、国内・国際の双循環を相互に促進し、新たな発展フレームワークを促進することは、わが国の発展段階、環境、条件変化に基づいて提案されたことであり、わが国の国際協力と競争の新たな優勢を形作る戦略的選択である」と。
中華経済圏というブロック内での内循環であり、それが外循環という国際経済における中国の分業の最適化につながる、という考えだと福島さん。
アメリカを主とする西側大国ではグローバルサプライチェーンの組み直しが起きており、たとえば華為(ファーウェイ)がグローバルサプライチェーンからデカップリングされたため9月から自社製造のハイエンドプロセッサ「kirin」が製造できないといった問題に直面している。
こうした、ハイテク分野の死命を制するイノベーションの創出、国内製造業を支える新たなサプライチェーンの開拓、形成などが、大「内循環」を意味していると思われる。14次五カ年計画のカギは、国内需要の拡大と技術革新だと。
李克強は本当にこのまま蔑ろにされてしまうのか。
習近平が打ち出してきた政策のほとんどがうまくいっておらず、李克強としても今さらその尻ぬぐいをさせられるのは勘弁してほしいところだろう。
今の中国経済の混迷は習近平自身に責任があるのだから、優秀なブレーンたちに助けてもらって自ら指揮をとって中国の難局を打開してもらうのがいいだろうと、福島さん。
習近平が、専門家の多様な意見に耳を傾け、自らの誤った行動を修正していけるだけの指導者の器であれば、中国は今のひどい状況に陥っていなかったのではないだろうか。
問題は、習近平がブレーンたちの意見を素直に聞くかどうかだと。
世界経済が、新型コロナウイルス感染拡大で、リーマンショック時以上の打撃を受けると言われるなか、中国はいち早く回復の兆しを示しているとの情報が散見されます。
中国経済、コロナ禍からの回復で世界リード-個人消費が今後の鍵 - Bloomberg
「之江新軍」と呼ばれる浙江省時代に習近平に仕えた子飼いの部下たちを擁し、9人の重量級エコノミストを召集した習近平の経済政策が功を奏するのか、鄧小平以来の実績をあげた、民間企業の活力を伸ばす改革開放経済を唱える共青団派の李克強の経済政策が経済成長を支えるのか。
世界が、米国等を主軸にした自由主義陣営と、中国を主軸にした独裁政治体制陣営とに分かれているのと似た構図が、中国の中でも生じています。
新型コロナ感染が蔓延する今日。どちらが耐えて、回復できるのでしょうか。あるいは、新しい仕組みが産まれるのでしょうか。
# 冒頭の画像は、習近平と李克強 ( 20190305 全人代)
この花の名前は、カンナ
↓よろしかったら、お願いします。
そこには、9人の重量級エコノミストと、政治局常務委の王滬寧、韓正と経済担当の副首相の劉鶴が座談会に参加したが、李克強は出席しなかった。
このことから、秋の五中全会で制定される「14次五カ年計画」と「2035年遠景計画」という2つの中国の中長期経済政策については、李克強を外して習近平が主導で策定していくつもりではないか、と受け止められたと福島さん。
習近平と9人の経済ブレーン、李克強を“のけ者”に 第14次五カ年計画策定に李克強はノータッチ? | JBpress(Japan Business Press) 2020.8.27(木) 福島 香織:ジャーナリスト
習近平が李克強から経済政策の主導権を奪い返しに動いているようだ。8月24日に14次五カ年計画(2021~2025年の中期経済政策)に関する経済・社会学者たちとの座談会が北京で開催されたのだが、国務院による開催ではなく、習近平が個人的に召集した座談会であり、本来経済を主管するはずの首相の李克強は参加していなかった。
中国では習近平政権以前は、首相が経済政策を全面的に主導し、外交などを主に担う国家主席と役割が分担されていた。だが、習近平は経済、外交、軍事、思想・宣伝、庶民の生活ルールに至るまですべてを自分が主導で行おうとして、集団指導体制から独裁への転換をもくろんでいた。
ところが、これまでのところ外交政策も経済政策もおよそ失敗している。習近平体制が行き詰まりつつある一方で、昨年(2019年)あたりから李克強が経済政策の面で存在感を強め始めていた。一部のチャイナウォッチャーの中には、李克強を、毛沢東の大躍進政策で悪化した経済を立て直した劉少奇にたとえる見方もあった。
だが、ここにきて、習近平は再度、経済の主導権を李克強から奪おうとしているのではないだろうか。
ちなみに、2人の経済政策の方向性がかみ合っていないことは、さまざまな局面で明らかだ。たとえば武漢肺炎(新型コロナウイルス感染症)の影響で中国経済の落ち込みが激しくなって以降、李克強は個人経営の中小を含む民営経済の活性化を打ち出しているが、習近平におもねる地方政府がこれに反対を表明したり、李克強が失業者の増加に対応して「臨時工」就業に関する指示を国務院常務委員会議で出しても、中央紙がすべて無視したりしていることからもうかがえる。また、李克強が民営経済重視を訴えるのに反抗するように、習近平が「公有経済主体の体制を揺るがさない」と強調し、民営企業いじめともいえるような、「財務リスク」を建前とした資産接収などを行ったりもしている。
トップクラスの学者たちが集結
さて8月24日の座談会では、9人の重量級エコノミストが召集され、彼らがおそらく習近平の今後の経済ブレーンであろうとみられている。その顔触れは次のとおりである。
北京大学国家発展研究院名誉教授:林毅夫
中国経済体制改革研究会副会長:樊綱
清華大学公共管理学院:江小涓
中国社会科学院副院長:蔡昉
国家発展改革委員会マクロ経済研究院長:王昌林
清華大学国家金融研究院長:朱民
上海交通大学安泰経済管理学院特任教授:陸銘
中国社会科学院世界経済政治研究所長:張宇燕
香港中文大学(深セン)グローバル当代中国高等研究院長:鄭永年
この中で注目されるのは林毅夫だ。『中国を動かす経済学者たち』(関志雄著、東洋経済新報社)を参照すると、林毅夫は台湾出身で、現役エリート国民党軍将校時代の1979年に駐屯地の金門島から台湾海峡を泳いで中国に亡命。その後、改革開放後最初に米国留学した中国人留学生組の1人だ。2008年に世界銀行のチーフエコノミストに就任。このときは最初の途上国出身のチーフエコノミストと注目された。
林毅夫はこれまでも、第11次五カ年計画(2006~2011年)に組み入れられた新農村運動など、重要な政策を立案してきた経済ブレーンであるが、実は彼が経済学者としての基礎を築いたのは30歳代以降であり、純粋な意味での学者というよりは権力志向が強い。経済学を学んだ目的は「祖国富強」であり、中国が世界経済の中心となる夢を語ってきた愛国者でもあった。その経済政策の方向性は、中国共産党による開発独裁的政策支持であり、憲政体制に移行することが経済の長期的な発展と成功にとって十分かつ必要な条件であるかどうかは疑問である、という立場だ。
典型的な「御用学者」ではあるが、国際的視野をもち経済理論武装に長けており、これまでも西側社会はずいぶん彼の理論に説得されてきた。
もう1人、注目されるのは、鄭永年。台湾の評論家の曾志超がラジオ・フリー・アジア(アメリカの政府系ラジオ放送局)で解説していたところによると、鄭永年は北京大学在籍中に、1989年の民主化運動を体験し、その後、米プリンストン大学に留学、博士号をとった人物だが、なぜか近年の発言をみると新左派的人物になっている。西側の普遍的価値観について「侵略性スローガン」と批判し、「中国は今後30年のうちに、共産党の市場混合制経済を検証し、政治上の一党制の内部に多様な混合制を採用することで、過去100年の世界二大(東西)陣営の長所を融合し改善する」と著書『未来30年』の中で主張している。
さらに、昨年の香港の反送中デモ期間中、鄭永年は人民日報の取材に対し「香港に対して断水するぞと威嚇すれば、デモの乱は終結する」などと発言し、大いに香港世論の反発を招いた。鄭永年は党のすることのほとんどすべてを正当化している。
共産党と市場経済制度を混合するなど、理論は基本的に西側の発展の模倣を肯定しているが、政策的管理、統制を重視しており、実際のところ習近平の考えとほぼ一致しているという。林毅夫と鄭永年の2人は、いかにも習近平が気に入りそうだ。
中国経済体制改革研究会の副会長、樊綱は、昨年(2019年)習近平政権から嫌われて閉鎖に追い込まれた独立系シンクタンク「天則経済研究所」の設立メンバーでもある。私も北京特派員時代に何度かインタビューしたことがあり、改革派経済学者というイメージをもっている。当時は政府主導の経済改革ではなく、政府、企業、労働者の利益集団バランスを反映した公共選択による改革を唱えていた。国有企業の民営化や民営企業の発展の重要性も、かなり早期に、まだそういう考え方がタブー視されてきたころから提唱していた。だが、彼がもともと主張してきた国有企業改革の方向性は、習近平が今まで推し進めてきたものとはちょっと違う。樊綱が変わったのか、あるいは習近平がこれから変わるのか。
このほかアジア経済統合論者の張宇燕、IMF副主任も務めた朱民、人口動態と経済発展の関係の研究で知られる蔡昉、戸籍改革を含む都市と農村の発展戦略についての研究で知られる陸銘・・・といずれも日本でも名の知られるトップクラスの学者たちだ。
「内循環」を主体とする発展のフレームワーク
この9人のブレーンに加えて、政治局常務委の王滬寧、韓正と経済担当の副首相の劉鶴が座談会に参加したが、李克強は出席しなかった。こうしたことから、秋の五中全会で制定される「14次五カ年計画」と「2035年遠景計画」という2つの中国の中長期経済政策については、李克強を外して習近平が主導で策定していくつもりではないか、と受け止められた。
この2つの中長期経済政策の柱となる方針は、すでに7月から頻繁に言及されている「双循環」がキーワードになるとみられている。この座談会でも「双循環」が強調された。
双循環とは簡単に言えば、「国内と国際の2つの経済を回す」ことだ。ただ、この言葉が打ち出された当初、メディアは、中国がそれまでの世界の工場としてのグローバルサプライチェーンの中での発展モデルから、国内市場で需要と供給を完結させる鎖国経済モデルに転換していくのではないかという見方をしていた。なぜなら習近平が、「国内・国際の双循環によって新たなフレームワークを促進する」としながらも「“国内大循環”を主体とする」と語っていたからだ。米中関係の悪化を受けて、習近平が経済に関して「自力更生」という言葉を繰り返し始めたこと、その政策に計画経済時代への回帰の兆候がみられること、米国が着々とグローバル経済からのデカップリングを進めていることなども背景にある。
だがこの座談会では、改めて双循環が閉鎖的な国内循環を意味するものではないことが強調された。
いわく「スムーズな国民経済循環を主体として新たな新発展フレームワークを構築する。国内大循環を主体に、国内・国際の双循環を相互に促進し、新たな発展フレームワークを促進することは、わが国の発展段階、環境、条件変化に基づいて提案されたことであり、わが国の国際協力と競争の新たな優勢を形作る戦略的選択である」
「新しい発展のフレームワークは決して閉鎖された国内循環ではなく、開放的な国内・国際の双循環である。我が国は世界経済における地位をさらに上昇させ、同時に世界経済と連携を密にし、他国家に市場チャンスを提供するために、さらに広く、魅力的な国際商品と資源をひきつける重力場となる」・・・。
9人のブレーンたちが具体的にどのような提言をしたのかはわからないが、おそらく「内循環」がアジア経済の一体化を推進し、中国を中心とした新たなグローバル経済体系を想定しているのではないか、と思われる。つまり、中華経済圏というブロック内での内循環であり、それが外循環という国際経済における中国の分業の最適化につながる、という考えだ。
アメリカを主とする西側大国ではグローバルサプライチェーンの組み直しが起きており、たとえば華為(ファーウェイ)がグローバルサプライチェーンからデカップリングされたため9月から自社製造のハイエンドプロセッサ「kirin」が製造できないといった問題に直面している。こうした、ハイテク分野の死命を制するイノベーションの創出、国内製造業を支える新たなサプライチェーンの開拓、形成などが、大「内循環」を意味していると思われる。14次五カ年計画のカギは、国内需要の拡大と技術革新だ。
おりしも劉鶴と、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表、ムニューシン米財務長官が電話会談し、米中通商協議の第1段階合意が“生きて”いることを確認したのだが、この双循環が促進する新しいフレームワークに米国がどう関わるのか、関わらないのか。
ブレーンの意見を素直に聞けるか?
しかし、李克強は本当にこのまま蔑ろにされてしまうのだろうか。もっとも、習近平が打ち出してきた政策のほとんどがうまくいっておらず、李克強としても今さらその尻ぬぐいをさせられるのは勘弁してほしいところだろう。失敗すれば責任を問われるし、成功すれば妬まれ、下手をすれば劉少奇が毛沢東に粛清されたように、習近平から狙い打ちされるやもしれない。
今の中国経済の混迷は習近平自身に責任があるのだから、優秀なブレーンたちに助けてもらって自ら指揮をとって中国の難局を打開してもらうのがいいだろう。問題は、習近平がブレーンたちの意見を素直に聞くかどうか。
専門家の多様な意見に耳を傾け、自らの誤った行動を修正していけるだけの指導者の器であれば、中国は今のひどい状況に陥っていなかったのではないだろうか。
習近平が李克強から経済政策の主導権を奪い返しに動いているようだ。8月24日に14次五カ年計画(2021~2025年の中期経済政策)に関する経済・社会学者たちとの座談会が北京で開催されたのだが、国務院による開催ではなく、習近平が個人的に召集した座談会であり、本来経済を主管するはずの首相の李克強は参加していなかった。
中国では習近平政権以前は、首相が経済政策を全面的に主導し、外交などを主に担う国家主席と役割が分担されていた。だが、習近平は経済、外交、軍事、思想・宣伝、庶民の生活ルールに至るまですべてを自分が主導で行おうとして、集団指導体制から独裁への転換をもくろんでいた。
ところが、これまでのところ外交政策も経済政策もおよそ失敗している。習近平体制が行き詰まりつつある一方で、昨年(2019年)あたりから李克強が経済政策の面で存在感を強め始めていた。一部のチャイナウォッチャーの中には、李克強を、毛沢東の大躍進政策で悪化した経済を立て直した劉少奇にたとえる見方もあった。
だが、ここにきて、習近平は再度、経済の主導権を李克強から奪おうとしているのではないだろうか。
ちなみに、2人の経済政策の方向性がかみ合っていないことは、さまざまな局面で明らかだ。たとえば武漢肺炎(新型コロナウイルス感染症)の影響で中国経済の落ち込みが激しくなって以降、李克強は個人経営の中小を含む民営経済の活性化を打ち出しているが、習近平におもねる地方政府がこれに反対を表明したり、李克強が失業者の増加に対応して「臨時工」就業に関する指示を国務院常務委員会議で出しても、中央紙がすべて無視したりしていることからもうかがえる。また、李克強が民営経済重視を訴えるのに反抗するように、習近平が「公有経済主体の体制を揺るがさない」と強調し、民営企業いじめともいえるような、「財務リスク」を建前とした資産接収などを行ったりもしている。
トップクラスの学者たちが集結
さて8月24日の座談会では、9人の重量級エコノミストが召集され、彼らがおそらく習近平の今後の経済ブレーンであろうとみられている。その顔触れは次のとおりである。
北京大学国家発展研究院名誉教授:林毅夫
中国経済体制改革研究会副会長:樊綱
清華大学公共管理学院:江小涓
中国社会科学院副院長:蔡昉
国家発展改革委員会マクロ経済研究院長:王昌林
清華大学国家金融研究院長:朱民
上海交通大学安泰経済管理学院特任教授:陸銘
中国社会科学院世界経済政治研究所長:張宇燕
香港中文大学(深セン)グローバル当代中国高等研究院長:鄭永年
この中で注目されるのは林毅夫だ。『中国を動かす経済学者たち』(関志雄著、東洋経済新報社)を参照すると、林毅夫は台湾出身で、現役エリート国民党軍将校時代の1979年に駐屯地の金門島から台湾海峡を泳いで中国に亡命。その後、改革開放後最初に米国留学した中国人留学生組の1人だ。2008年に世界銀行のチーフエコノミストに就任。このときは最初の途上国出身のチーフエコノミストと注目された。
林毅夫はこれまでも、第11次五カ年計画(2006~2011年)に組み入れられた新農村運動など、重要な政策を立案してきた経済ブレーンであるが、実は彼が経済学者としての基礎を築いたのは30歳代以降であり、純粋な意味での学者というよりは権力志向が強い。経済学を学んだ目的は「祖国富強」であり、中国が世界経済の中心となる夢を語ってきた愛国者でもあった。その経済政策の方向性は、中国共産党による開発独裁的政策支持であり、憲政体制に移行することが経済の長期的な発展と成功にとって十分かつ必要な条件であるかどうかは疑問である、という立場だ。
典型的な「御用学者」ではあるが、国際的視野をもち経済理論武装に長けており、これまでも西側社会はずいぶん彼の理論に説得されてきた。
もう1人、注目されるのは、鄭永年。台湾の評論家の曾志超がラジオ・フリー・アジア(アメリカの政府系ラジオ放送局)で解説していたところによると、鄭永年は北京大学在籍中に、1989年の民主化運動を体験し、その後、米プリンストン大学に留学、博士号をとった人物だが、なぜか近年の発言をみると新左派的人物になっている。西側の普遍的価値観について「侵略性スローガン」と批判し、「中国は今後30年のうちに、共産党の市場混合制経済を検証し、政治上の一党制の内部に多様な混合制を採用することで、過去100年の世界二大(東西)陣営の長所を融合し改善する」と著書『未来30年』の中で主張している。
さらに、昨年の香港の反送中デモ期間中、鄭永年は人民日報の取材に対し「香港に対して断水するぞと威嚇すれば、デモの乱は終結する」などと発言し、大いに香港世論の反発を招いた。鄭永年は党のすることのほとんどすべてを正当化している。
共産党と市場経済制度を混合するなど、理論は基本的に西側の発展の模倣を肯定しているが、政策的管理、統制を重視しており、実際のところ習近平の考えとほぼ一致しているという。林毅夫と鄭永年の2人は、いかにも習近平が気に入りそうだ。
中国経済体制改革研究会の副会長、樊綱は、昨年(2019年)習近平政権から嫌われて閉鎖に追い込まれた独立系シンクタンク「天則経済研究所」の設立メンバーでもある。私も北京特派員時代に何度かインタビューしたことがあり、改革派経済学者というイメージをもっている。当時は政府主導の経済改革ではなく、政府、企業、労働者の利益集団バランスを反映した公共選択による改革を唱えていた。国有企業の民営化や民営企業の発展の重要性も、かなり早期に、まだそういう考え方がタブー視されてきたころから提唱していた。だが、彼がもともと主張してきた国有企業改革の方向性は、習近平が今まで推し進めてきたものとはちょっと違う。樊綱が変わったのか、あるいは習近平がこれから変わるのか。
このほかアジア経済統合論者の張宇燕、IMF副主任も務めた朱民、人口動態と経済発展の関係の研究で知られる蔡昉、戸籍改革を含む都市と農村の発展戦略についての研究で知られる陸銘・・・といずれも日本でも名の知られるトップクラスの学者たちだ。
「内循環」を主体とする発展のフレームワーク
この9人のブレーンに加えて、政治局常務委の王滬寧、韓正と経済担当の副首相の劉鶴が座談会に参加したが、李克強は出席しなかった。こうしたことから、秋の五中全会で制定される「14次五カ年計画」と「2035年遠景計画」という2つの中国の中長期経済政策については、李克強を外して習近平が主導で策定していくつもりではないか、と受け止められた。
この2つの中長期経済政策の柱となる方針は、すでに7月から頻繁に言及されている「双循環」がキーワードになるとみられている。この座談会でも「双循環」が強調された。
双循環とは簡単に言えば、「国内と国際の2つの経済を回す」ことだ。ただ、この言葉が打ち出された当初、メディアは、中国がそれまでの世界の工場としてのグローバルサプライチェーンの中での発展モデルから、国内市場で需要と供給を完結させる鎖国経済モデルに転換していくのではないかという見方をしていた。なぜなら習近平が、「国内・国際の双循環によって新たなフレームワークを促進する」としながらも「“国内大循環”を主体とする」と語っていたからだ。米中関係の悪化を受けて、習近平が経済に関して「自力更生」という言葉を繰り返し始めたこと、その政策に計画経済時代への回帰の兆候がみられること、米国が着々とグローバル経済からのデカップリングを進めていることなども背景にある。
だがこの座談会では、改めて双循環が閉鎖的な国内循環を意味するものではないことが強調された。
いわく「スムーズな国民経済循環を主体として新たな新発展フレームワークを構築する。国内大循環を主体に、国内・国際の双循環を相互に促進し、新たな発展フレームワークを促進することは、わが国の発展段階、環境、条件変化に基づいて提案されたことであり、わが国の国際協力と競争の新たな優勢を形作る戦略的選択である」
「新しい発展のフレームワークは決して閉鎖された国内循環ではなく、開放的な国内・国際の双循環である。我が国は世界経済における地位をさらに上昇させ、同時に世界経済と連携を密にし、他国家に市場チャンスを提供するために、さらに広く、魅力的な国際商品と資源をひきつける重力場となる」・・・。
9人のブレーンたちが具体的にどのような提言をしたのかはわからないが、おそらく「内循環」がアジア経済の一体化を推進し、中国を中心とした新たなグローバル経済体系を想定しているのではないか、と思われる。つまり、中華経済圏というブロック内での内循環であり、それが外循環という国際経済における中国の分業の最適化につながる、という考えだ。
アメリカを主とする西側大国ではグローバルサプライチェーンの組み直しが起きており、たとえば華為(ファーウェイ)がグローバルサプライチェーンからデカップリングされたため9月から自社製造のハイエンドプロセッサ「kirin」が製造できないといった問題に直面している。こうした、ハイテク分野の死命を制するイノベーションの創出、国内製造業を支える新たなサプライチェーンの開拓、形成などが、大「内循環」を意味していると思われる。14次五カ年計画のカギは、国内需要の拡大と技術革新だ。
おりしも劉鶴と、米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表、ムニューシン米財務長官が電話会談し、米中通商協議の第1段階合意が“生きて”いることを確認したのだが、この双循環が促進する新しいフレームワークに米国がどう関わるのか、関わらないのか。
ブレーンの意見を素直に聞けるか?
しかし、李克強は本当にこのまま蔑ろにされてしまうのだろうか。もっとも、習近平が打ち出してきた政策のほとんどがうまくいっておらず、李克強としても今さらその尻ぬぐいをさせられるのは勘弁してほしいところだろう。失敗すれば責任を問われるし、成功すれば妬まれ、下手をすれば劉少奇が毛沢東に粛清されたように、習近平から狙い打ちされるやもしれない。
今の中国経済の混迷は習近平自身に責任があるのだから、優秀なブレーンたちに助けてもらって自ら指揮をとって中国の難局を打開してもらうのがいいだろう。問題は、習近平がブレーンたちの意見を素直に聞くかどうか。
専門家の多様な意見に耳を傾け、自らの誤った行動を修正していけるだけの指導者の器であれば、中国は今のひどい状況に陥っていなかったのではないだろうか。
中国共産党政権では、首相が経済政策を全面的に主導し、外交などを主に担う国家主席と役割が分担されていた。
しかし、習近平は経済、外交、軍事、思想・宣伝、庶民の生活ルールに至るまですべてを自分が主導で行おうとして、集団指導体制から独裁への転換をもくろんだ。
ところが、習近平は、これまでのところ外交政策も経済政策もおよそ失敗していると福島さん。
習近平体制が行き詰まりつつある一方で、昨年(2019年)あたりから李克強が経済政策の面で存在感を強め始めていた。
だが、ここにきて、習近平は再度、経済の主導権を李克強から奪おうとしているのではないだろうかと。
2人の経済政策の方向性がかみ合っていないことは、諸兄がご承知の通りです。
中国経済の今日までの発展の基となる改革開放経済を始めた鄧小平の流れを継ぐ、共青団派の李克強は、民営経済重視。
毛沢東の専制政治時代への回帰を目指す習近平は、福島さんが、「公有経済主体の体制を揺るがさないと強調」と指摘されている様に、国公営企業主体派。
秋の五中全会で制定される「14次五カ年計画」と「2035年遠景計画」という2つの中長期経済政策の方針は、「双循環」がキーワードになるとみられている。この座談会でも「双循環」が強調されたと福島さん。
「双循環」とは簡単に言えば、「国内と国際の2つの経済を回す」こと。当初、メディアは、中国がそれまでの世界の工場としてのグローバルサプライチェーンの中での発展モデルから、国内市場で需要と供給を完結させる鎖国経済モデルに転換していくのではないかという見方をしていたと。
だがこの座談会では、改めて双循環が閉鎖的な国内循環を意味するものではないことが強調されたのだそうです。
いわく「スムーズな国民経済循環を主体として新たな新発展フレームワークを構築する。国内大循環を主体に、国内・国際の双循環を相互に促進し、新たな発展フレームワークを促進することは、わが国の発展段階、環境、条件変化に基づいて提案されたことであり、わが国の国際協力と競争の新たな優勢を形作る戦略的選択である」と。
中華経済圏というブロック内での内循環であり、それが外循環という国際経済における中国の分業の最適化につながる、という考えだと福島さん。
アメリカを主とする西側大国ではグローバルサプライチェーンの組み直しが起きており、たとえば華為(ファーウェイ)がグローバルサプライチェーンからデカップリングされたため9月から自社製造のハイエンドプロセッサ「kirin」が製造できないといった問題に直面している。
こうした、ハイテク分野の死命を制するイノベーションの創出、国内製造業を支える新たなサプライチェーンの開拓、形成などが、大「内循環」を意味していると思われる。14次五カ年計画のカギは、国内需要の拡大と技術革新だと。
李克強は本当にこのまま蔑ろにされてしまうのか。
習近平が打ち出してきた政策のほとんどがうまくいっておらず、李克強としても今さらその尻ぬぐいをさせられるのは勘弁してほしいところだろう。
今の中国経済の混迷は習近平自身に責任があるのだから、優秀なブレーンたちに助けてもらって自ら指揮をとって中国の難局を打開してもらうのがいいだろうと、福島さん。
習近平が、専門家の多様な意見に耳を傾け、自らの誤った行動を修正していけるだけの指導者の器であれば、中国は今のひどい状況に陥っていなかったのではないだろうか。
問題は、習近平がブレーンたちの意見を素直に聞くかどうかだと。
世界経済が、新型コロナウイルス感染拡大で、リーマンショック時以上の打撃を受けると言われるなか、中国はいち早く回復の兆しを示しているとの情報が散見されます。
中国経済、コロナ禍からの回復で世界リード-個人消費が今後の鍵 - Bloomberg
「之江新軍」と呼ばれる浙江省時代に習近平に仕えた子飼いの部下たちを擁し、9人の重量級エコノミストを召集した習近平の経済政策が功を奏するのか、鄧小平以来の実績をあげた、民間企業の活力を伸ばす改革開放経済を唱える共青団派の李克強の経済政策が経済成長を支えるのか。
世界が、米国等を主軸にした自由主義陣営と、中国を主軸にした独裁政治体制陣営とに分かれているのと似た構図が、中国の中でも生じています。
新型コロナ感染が蔓延する今日。どちらが耐えて、回復できるのでしょうか。あるいは、新しい仕組みが産まれるのでしょうか。
# 冒頭の画像は、習近平と李克強 ( 20190305 全人代)
この花の名前は、カンナ
↓よろしかったら、お願いします。