ゆいもあ亭【非】日常

映画や小説などのフィクション(非・日常)に関するブログ

「ほえる犬は噛まない」なら、「噛む犬は咆えない」のか?

2006-10-01 | 映画
ほえる犬は噛まない」(ボン・ジュノ監督)を鑑賞した。

殺人の追憶」の、「グエムル~漢江(ハンガン)の怪物~」のボン・ジュノ作品だ。なにがなし、事件が生じることを期待したが、日常のわずかなずれに、人間の悲哀が浮かぶような、それでいて、結局は日常の力強さに安心するような、そんなドラマである。

ペット禁止の集合住宅。大学の文科系非常勤職員(結婚したい職業50の、見事最下位で、もっとも結婚したくない職業の栄誉を得た!)であるユンジュ(イ・ソンジェ)は、身重の妻の尻に敷かれつつ、教授の道が開かれるのを待つ生活。最近は妻のわがままに、彼のイライラも募るばかり。それなのに禁止のはずのペット犬の鳴き声がどこからか響いてくる。これと目星をつけたシーズ犬を浚って殺そうとするが、殺しきれず、地下室に放置してきた。その夜、さえない研究室の同僚たちとの飲み会の後、先輩から耳寄りの情報が! 教授の道を約束されてドイツ留学から帰った男が事故死したため、そのポストがひとつ空いた。しかし、教授会の有力者を買収するには、1500万ウォン(150万円)掛かる。それでも教授への道が開けるなら、そんな金は端(はした)金だろう、と。

集合住宅の管理事務所に勤めるヒョンソ(ベ・ドゥナ)は住民の小学1年生の女の子に頼まれて、行方不明のシーズ犬の捜索願ポスターを貼ってまわる。そのポスターには「声帯切除のため咆えません」とあった。

ポスターを見たユンジュは慌てる。夜の地下室に、閉じ込めた犬を探しに来るが、折もおり、初老の警備員(ピョン・ヒボン)がとんでもないことを始める。鍋を用意し、犬鍋を始めようとするのである。(*食犬の習慣がもともとある韓国では、ただ犬を食べるだけでは異常なこととは言えないようだが。)警備主任もやって来て、さすがに、その場で犬鍋は始められなかったが。(この間、壁に埋められらたボイラーマンなどという怪談が語られたりもする)。

ユンジュはほえる犬が別の犬であったことから、今度はそのミニチュア・ピンシャーを浚う。そして、住宅の屋上から投げ棄てる。その光景を目撃したヒョンナムは、そのとんでもない男を捕らえようと追う。しかし、わずかな差で逃げられてしまった。

ユンジャにとっての皮肉は犬の姿で現われる。妻がトイ・プードルを買ってきたのだ。世話を押し付けられ、辟易としていたユンジャの前から、文字通り煙に巻かれた瞬間に、その妻の愛犬は消えてしまう。ユンジャを呆然とさせたのは妻の次の言葉だ。「いつまでも身重の女を雇っておくほど、会社は甘くない。わたしに支給された1600万ウォンほどの退職金。わたしが自分の贅沢なんていままでしたことある? 40万ウォンで買ったのがあの犬。残りはあなたの大学教授の夢を叶える買収費用のつもりだったの!」

捜索願ポスターを挟んで、ユンジャとヒョンソが出会うが……。

*大事件は、起こらない。しかし、中盤で、「退屈な毎日を逃れて山でも登りたいね」を、実現しているヒョンソと、大学教授の夢を叶えたユンジャの姿で、作品は終わる。*

*ベ・ドゥナって、誰かに似ていると思ったら、どことなく遠藤久美子(エンクミ)に似ているのね。*


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