TUTAYAで、2005年のアメリカ映画「ロスト・キングダム スルタンの暦」というDVDを見つけて早速観た。ペルシア・ゴールデン・ライオネス賞監督賞などの受賞作ということだが、
ハリウッド映画に慣れた我々には、ストーリーや映像展開のスピードが合わなくて、ピンとこないことが多々あるし、何よりもこの映画の歴史背景をきちんと理解しようとすると、相当の労力を要する。
映画の原題は「The Keeper:The Legend of Omar Khayyam」ということで、主人公はウマル・ハイヤーム なる天文学者・詩人で「ルバイヤート」なる詩集があるという。
そもそもこの時代はイスラム王朝でいえば、アラビアンナイトで隆盛を誇ったアッバース朝の崩壊期。
1038年、イラン東北部のホラーサーン地方を征服したトルコ系セルジューク族の「トゥグリル・ベク」が、1055年、バクダートに入城。シーア派のブワイフ朝を駆逐し、スンナ派アッバース朝の後継としてブワイフ朝を駆逐し「セルジューク朝」を開く。
この王朝は、トルコ人マムルーク(奴隷)を採用して軍制を整える一方、映画にも出てくる名宰相「ニーザム・アルムルク」が、各地に「ニザーミーヤ」と呼ばれる学校(マドラサ)を建て学術の振興を図ったという。
この時代最大の問題は、1096-99年、西からの十字軍の到来。このきっかけはキリスト教サイドからは、セルジューク朝の「エルサレム支配」ということだが、実際は「ビザンチン国境侵害」程度であったという。
いずれにしてもセルジューク朝は対十字軍戦争で消耗激しく、スルタン「マリク・シャー」以降次第に衰え、王朝は各地の地方政権に分裂した。かくしてイスラム世界は、混沌のうちに1258年、モンゴル帝国に制覇される。
以上を踏まえて、映画を見ればそれなりに楽しい映画。
さらに言えば、イランのホーラサーン地方はイスラム教の中でもいろんな神秘主義(スーフィズム)が蔓延る地域。神秘主義とは、荒っぽくいえば理屈を排除するということであり、魔術や呪術と結びつきやすく、自殺、暗殺肯定の思想にも走りやすい。
映画の中に出てくる主人公オマル・ハイヤームの恋仇「ハッサン」が、その後消息を絶ち、山にこもったまま・・・。映画の最後に、やがて時を経て「アサシネーション(英語で暗殺)」の語源になったというテロップが流れるのが興味深い。
考えてみれば、かってはホーラサーン地方というのは、今よりもっと広くアフガニスタンなども含んで認識されていたという。ハサンの子孫がアルカイダの一味だなんで、悪い「かもしれない話」は無しにして下さい。
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