芭蕉「野ざらし紀行」より
半紙
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本文は以下の通りです。
千里に旅立ちて、路粮(みちかて)をつゝまず、
「三更月下無何に入(いる)」と云(いひ)けむ、
むかしの人の杖にすがりて、貞享甲子秋八月、
江上(こうしょう)の破屋(はおく)をいづる程、
風の声、そゞろ寒げ也。
野ざらしを心に風のしむ身哉(かな)
【口語訳】(小学館版・「日本古典文学全集」による)
前途千里の遠い旅に出るのに、道中の食糧を用意することもせず、
「夜更けの月光を浴びながら自然のままの理想郷にはいる」と言った、
昔の人の言葉をたよりに、杖にすがって、
貞享元年甲子の年、秋八月、隅田川のほとりのあばら家を出ようとすると、
風の響きも何となく寒々しく感じられる。
道に行き倒れて白骨を野辺にさらしてもと覚悟をきめて、旅立とうとすると、ひとしお秋風が身にしみることよ。
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芭蕉の「野ざらし紀行」の冒頭です。
ちょっと大げさな感じもしますが、昔の人にとって「旅」とは
やはり、なみなみならぬ決意を要するものだったのでしょう。