ミュンヘンなんて、どこ吹く風

ミュンヘン工科大留学、ロンドンの設計事務所HCLA勤務を経て
群馬で建築設計に携わりつつ、京都で研究に励む日々の記録

Populousによるロンドン五輪メインスタジアムの話

2012-08-09 00:18:41 | ロンドン・hcla
夕方、今週から再開したArchitecture Wednesdayの会。アソシエイトのデイヴィッドから、彼の近所でもあるオリンピック公園の建築に関する話。Channel 5で放送されたドキュメンタリー『Megastructures: London's Olympic Stadium』(英国外からはたぶんリンク先は再生できません)をみなで観ながら話をする。前所属のPopulous時代にシニアアーキテクトとしてメインスタジアム設計に携わっていた元同僚もゲストで参加。

蛇行するLea川の存在や、第二次世界大戦の爆撃による地盤の不安定などによって、オリンピック公園として選定されたエリアには従来の規模で設計するとスタジアムを建てられる敷地が見つからない。また当初から五輪後の規模縮小(80,000席から25,000席へ)が計画されていたため、コンパクトなスタジアムが志向された。通常はスタジアム内に設けられる売店や飲食などのホスピタリティ機能をスタジアム外に仮設のパヴィリオンとして設けることで、スタジアムを観客席とグラウンドに特化させてスリム化している。限られた時間内でデザインと建設を同時並行で行わなければならなかったため、Planning Applicationは常設部分(基礎、フィールド、下部の観客席)と仮設部分(トラスの足を含んだ屋根の構造、上部の観客席、膜屋根、照明)とパーツごとに分けて時間差で提出するという異例の措置がとられた。


BBC News UK - A different kind of Olympic stadium より

仮設部分は解体が可能なように、現場での溶接は一切なし、ボルト止めだけで構成されている。外周の構造はプレファブリケートされたものが円周に沿って順番に現場で組み合わされたが、最後の1ピースを取り付ける段階で寸法が合わないことが発覚。ボルトを締め直して弧の長さを調節し、ことなきを得た。この外周の構造から内側のリングをケーブルで吊り、そこに膜屋根を張っている。照明の塔はこのケーブルで吊られた浮遊するリングの上に立っている。印象的なこの照明の塔は、本来あるべき高さに照明をおくためのものだが、スタジアムがいかに通常に比べてコンパクトにつくられているかをいみじくも示している。BBCのサイトでは、北京オリンピックのメインスタジアムとの断面図比較が示されていて興味深い。北京オリンピックのスタジアムは仮設の席も合わせて91,000人で、仮設の席が取り外された現在は収容人数80,000人で今回と同じである。いわば、ロンドンのオリンピックスタジアムは軽い建築、マイクロアーキテクチュアなスタジアム、と言えないことも無い。


BBC News UK - A different kind of Olympic stadium より

2008年秋以降に起こった不況の影響によって、側面のファサード「wrap」は当初計画されていた映像を360度映し出す全周スクリーンから、よりシンプルな小さなエレメントの集積へと変更を余儀なくされた。発明的な仕掛けではないかもしれないが、エレメントの隙間からかいま見れるスタジアムの仮設構造は結果的に英国ハイテックのような正直さを表現しているのかもしれない。




『Megastructures: London's Olympic Stadium』(Channel 5) より

Populousは、HOKのスポーツ施設部門が独立してできた設計事務所。リチャード•ロジャース設計のミレニアムドームを、イベント施設O2アリーナに改修したのは彼らである。

『Megastructures: London's Olympic Stadium』(Channel 5) より

派手さは無いが、明快さはある。結果的にイギリスらしいスタジアムができたと言えるのかもしれない、と番組を観て思った。大会期間中にはオリンピック公園には行けなかったが、機会を見つけてぜひ訪れたい。
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