ミュンヘンなんて、どこ吹く風

ミュンヘン工科大留学、ロンドンの設計事務所HCLA勤務を経て
群馬で建築設計に携わりつつ、京都で研究に励む日々の記録

じゃがいも

2005-10-25 22:40:44 | ミュンヘン・TUM
今日はホールデンスタジオの実質第一回目のミーティング。

先週出た課題をプレゼンテーションしなければならない。
けっこう早くから資料は集めていたつもりだったのだけど、結局前日は徹夜。一時間半だけ仮眠を取ってから、かいくんと大学へ向かう。九時に大学に着くと、まだあまり人もいなくて、教室のはじっこでホールデンと修士の学生がなにやらミーティングをしていた。「毎週火曜は朝食を食べながらエスキスするのがホールデンスタジオの慣わし」と秘書さんが言っていたけど、これのことか。やがてアシスタントティーチャーの人がやってきて、ドイツ語で指示されて机を並べたりするのを手伝う(なんて言ってるのかはわからないけど、見よう見まねで)。
予定の九時半になると、だいたい生徒も集まってきて、ホールデンが席に着いたところでミーティングスタート。かいくんは前日の夜のうちにアシスタントさんにプレゼンをメールで送っていたらしく、トップバッターに指名される。かいくんのパソコンのデスクトップが藤森先生の高過庵だったため、先生たちは面白がって食いついてきた。「これ、日本の君の家?」「いやいや。これは日本の有名な建築家がつくった家です」「これはツリーハウスだね。僕の去年のスタジオはツリーハウスをやったんだよ。ツリーハウスはいいよね。たとえばさ…」僕らが座った席がホールデンの隣の席だったせいもあって、かいくんとホールデンは樹上住居についてしばし語らいあっていた。かいくんのプレゼンはイームズのケーススタディハウスについて。パワーポイントの製作に時間をかけたというだけあって、とても誠実な印象を受けるプレゼンだった。最後にイームズ夫妻が参考文献を引きづったままフレームアウトして行ってしまうオチはかわいらしくて、学生にも先生にもウケていた。「みんなまだ行ったことがないかもしれないけど、イームズのケーススタディハウスは必見だよ。フォスターもロジャースもそこからインスパイアされているのだから」とホールデン。
その後、つらつらとプレゼンが続く。図面をバリバリ出して重厚なプレゼンをするものもいれば、言葉を選びながらゆっくりと語りかけるようにしゃべる人もいたり、「英語推奨」にもかかわらずどうどうとドイツ語でしゃべりまくる人もいたり。ドイツ語でプレゼンされているときはホールデンも緊張するらしく、メモをする手を止めてじっと耳を澄ませていたり、アシスタントにわからないフレーズを確認したり、疲れたのかぼんやりと関係ないスケッチをメモ紙にさらさら書いたりしていた。

そして僕の番が。
前日の夜に徹夜でカンペをこしらえただけあって、詰まらずに発表できた。パワーポイントとの連係もまずまず。ホールデンが「面白い話だね。いろいろと教訓を得られるね」と言ってくれたのは狙い通りだったのでよかったのだけど、質疑応答はあまりうまくいかなかった。高橋がなり似のアシスタントさんが僕に向かって問う「ところで、この家は四本足で立っているわけですよね?地面との接触部分はどうなっているのですか?どんな敷地でも建てられるという話でしたが、写真を見る限り平らな場所にしか立っていないようです。地面は整地してからでないと建てられないということでしょうか?だとしたらいくらヘリコプターで空輸できるといっても、言ってるほど地面への負荷は少なくはなさそうですよね」質問の意味はすぐにわかったのだけど、その部分については資料不足でわからなかったのだ。仕方がないので「I'm not sure...(僕もよくわからないのです)」と非常用に用意していた言い訳をしつつ、「もともとスキーロッジ用に開発されたものなので、傾いた敷地でも建てられるように“足”に仕掛けがあるはずです」と言いたかったのだが言葉が出てこない。するとアダム・サンドラー似のアシスタントさんが助け舟を出してくれて「これは勉強の一環だから答えられない質問があっても仕方ないよ。それにしても確かにそこは気になるところだね。僕はこれはジャガイモ・スティック問題の一種じゃないかと思うのだけど」。ジャガイモ・スティック問題とは、「ジャガイモにスティックを刺すと(お彼岸の日にナスやキュウリに竹串を刺すように)確かにジャガイモは立つのだけど、ただ刺しただけだとやがてスティックはずぶずぶと柔らかなジャガイモに沈み込んでいってしまうのでジャガイモは崩れてしまう、という問題らしい。つまり、接合部をどうするかが、マッスを細い足で支える場合の最重要問題になるよという話。ホールデンが図に示しながら教えてくれた。「でもジャガイモ・スティック問題を恐れてはいけない」と言いながらホールデンは自らが開発した細い足で自立する住宅(?)の模型を持ってきた。「ジョイントさえきちんと考えればこのような構造体も実現可能なのだよ」。ジェントルマンなアシスタントさんが「自然環境との関係性はプレゼンでも述べられているように課題だと思われますが、みなさんはそれについてどう思いますか?」と話を振る。「なぜこうも閉じてしまうのかがわからない。ゾーベックのように建築は透明性を目指した方がいいのではないか」という学生がいたり、「いや、僕はfuturoが風景を壊しているとは思わないな。この雪の中にたたずむ写真なんて美しいじゃないか」というアシスタントさんがいたり、けっこう話が盛り上がったので、futuroを取り上げてよかったと思った。ホールデンもメモ帳にfuturoのイラストを小さく書いてたし…。

昨日くろさかくんにプリンターを借りて印刷したA3のプレゼンをいっこうに集める気配もなくミーティングが終わってしまったので、かいくんと二人でアシスタントさんに渡しにいく。彼は僕らがドイツ語が判らないことを知っているので、僕らが困った顔をしているとすぐに英語で翻訳してくれる人。「おお、印刷してきてくれたのかい。ありがとう。受け取るよ。いいプレゼンだったよ。ホントだよ」
一緒にミーティングに出ていたうちべさんと昼飯を食いにメンザに行ったら、ばったりトーマスに会ったので一緒に昼食をとる。トーマスはヘルツォークのスタジオを取っているので、かいくんが「僕らもヘルツォークのゼミ(基本的にスタジオ履修者のみ参加できる)に参加したいのだけど」とお願いすると、「わかった。聞いてきてあげるよ」。トーマスはとても親切。

今夜はミュンヘンにいるAUSMIPの歴代メンバーで晩飯を一緒に食べる。
有名なババリアン(バイエルン)・レストランらしいので楽しみ。まあ、きっとソーセージとザウアークラウトに、ジャガイモづくしだろうけど。
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