午前中から学校へ。法規の復習をしたあと、施工の未履修講義をDVDで受講する。ゴールデンウィークなので自習室が混雑している。
六時に終了し、奥さんと待ち合わせて豊洲へ。ららぽーとのユナイテッド・シネマでロイヤル・バレエのライブシネマ『冬物語』を観る。シーズンのうちいくつかの演目が映画館でも中継される恒例の催し。日本との時差だとさすがに同時中継は無理らしく、イギリスから一日遅れである。中継はダーシー・バッセルが司会し、幕間にはライブシネマ恒例のメイキングや製作陣のインタビューもある。チケットは普通の映画より高いが、座席はバレエファンと思しき人達でだいぶ埋まっている。トラファルガー広場の空撮映像から始まりコヴェント・ガーデンのオペラハウスの建物を舐めるようにして吹き抜けのバーに至る一連のオープニング映像は、つい最近まで過ごした場所がスクリーンの向こうの遠い場所になってしまったような気がして少し寂しくなった。会場が暗転しおなじみのエチケットアナウンスにつづいて指揮者が登場し幕があがる。
『冬物語(原題The Winter's Tale)』は、シェイクスピアの同名戯曲に題をとったクリストファー・ウィールドンの新作全幕バレエ。『不思議の国のアリス』と同じ製作陣が、ほぼ同じダンサーたちを第一キャストとして製作している。シシリアの王が嫉妬に取り憑かれボヘミア王と自らの妻娘に常軌を逸した行動をとったあとに後悔の念にさいなまれる第一幕と、舞台を16年後のボヘミアに移しシシリア王の苦悩を梅雨ほどにも知らず育った次世代の若者が青春を謳歌する陽気な第二幕の、曲と振り付けのコントラストが鮮やか。第二幕の主人公であるボヘミア王子とシシリア王の娘パーディタが駆け落ち先としてシシリアに辿り着き、二人の愛をきっかけにしてシシリア王とボヘミア王が時を経て和解する第三幕の大団円。心象風景や回想など「その場では起こっていないこと」を表現できないバレエゆえの制限を逆手に取り、ウィールドンは戯曲を幾つかの印象的なシーンに抽象化してうまく全三幕の緩急を構成・作劇している。ウィールドンの振り付けメイキングでは、ダンサーたちのアイデアを積極的に取り入れようとする彼の態度が印象的だった。第一幕の嫉妬を表現する長いシーンでは、エドワード・ワトソン自身が持つ表現力や奇妙な動きの発想力を引き出しつつ一緒に振り付けを考えていったそうだ(以前観たバレエ『メタモルフォーシス(カフカの『変身』)』におけるワトソンの鬼気迫る演技に通じるものがあった)。シシリア王の娘パーディタを踊る可憐なサラ・ラム、シシリア王の妻ハーマイオニーを踊るローレン・カスバートソン、シシリア王宮の家長ポーライナを踊るゼナイダ・ヤノウスキーを始めとして、総勢6人のプリンシパルが登場する豪華な舞台。適度に抽象化された物語や舞台装置は、キラキラとした振り付けを引き立て(物語の筋に沿ってはいるのだが、ウィールドンのアブストラクトな小品に通じるような、ひとつひとつ切り出しても作品として成立しそうなクオリティの場面がつづく)、特に第二幕においては物語はほとんど何も進行していないにもかかわらず、祝祭的な群舞とソロの連続で舞台はずっと賑やいでいた。
ただ、シェイクスピアの原作を読んでいないので断言できないが、登場人物の造形は一部原作と異なるもしくは過度に省略されている部分があったように思える。世継ぎに関する神託のシーンがカットされていたり、ボヘミアとシシリアをまたにかける物語で重要な位置を占めるはずのカミローが物語に絡んでこなかったり(一ダンサーとしては舞台上に登場しているのだが、序盤でボヘミア王がシシリアからボヘミアに逃げるのを助けたり終盤でボヘミア王子とパーディタをシシリアに導いたりといったシーンはない)、なぜボヘミア王子とパーディタの純愛が大団円の引き金となりえたのかを説明するエピソードが欠損していた。そのため第三幕の大団円にいたるストーリー展開は少々唐突に感じたのだが、バレエへの翻案ゆえいたしかたないのかもしれない。観劇直後に違和感が残ったシーンが、帰ってから調べてみるとむしろ原作に準拠しているらしいことがわかったりもしたので、原作との相違については知識不足でなんとも言えないのだが。
ところでメイキングの場面、スティーブン・マックレーは鳥居の絵にデカデカと「宮島」と書かれたTシャツを練習着として着用していた。おそらく来日した際に宮島を訪ねて購入したのだと思われる。「宮島」と大きく画面に映し出された瞬間、座席のそこかしこで驚きと親しみをこめたクスクス笑いとヒソヒソ声が生じていて、このシンクロ感は日本の映画館で見ているからこそだなと思ったりした。
追記 140430
マックレーのツイッターより。今年の3月に来日してたんですね。そのときに宮島も訪れたようである。
https://twitter.com/_stevenmcrae/status/441939629592178688
帰宅後、法規の問題集を解いたあと、明日の講義の宿題にとりかかる。
六時に終了し、奥さんと待ち合わせて豊洲へ。ららぽーとのユナイテッド・シネマでロイヤル・バレエのライブシネマ『冬物語』を観る。シーズンのうちいくつかの演目が映画館でも中継される恒例の催し。日本との時差だとさすがに同時中継は無理らしく、イギリスから一日遅れである。中継はダーシー・バッセルが司会し、幕間にはライブシネマ恒例のメイキングや製作陣のインタビューもある。チケットは普通の映画より高いが、座席はバレエファンと思しき人達でだいぶ埋まっている。トラファルガー広場の空撮映像から始まりコヴェント・ガーデンのオペラハウスの建物を舐めるようにして吹き抜けのバーに至る一連のオープニング映像は、つい最近まで過ごした場所がスクリーンの向こうの遠い場所になってしまったような気がして少し寂しくなった。会場が暗転しおなじみのエチケットアナウンスにつづいて指揮者が登場し幕があがる。
『冬物語(原題The Winter's Tale)』は、シェイクスピアの同名戯曲に題をとったクリストファー・ウィールドンの新作全幕バレエ。『不思議の国のアリス』と同じ製作陣が、ほぼ同じダンサーたちを第一キャストとして製作している。シシリアの王が嫉妬に取り憑かれボヘミア王と自らの妻娘に常軌を逸した行動をとったあとに後悔の念にさいなまれる第一幕と、舞台を16年後のボヘミアに移しシシリア王の苦悩を梅雨ほどにも知らず育った次世代の若者が青春を謳歌する陽気な第二幕の、曲と振り付けのコントラストが鮮やか。第二幕の主人公であるボヘミア王子とシシリア王の娘パーディタが駆け落ち先としてシシリアに辿り着き、二人の愛をきっかけにしてシシリア王とボヘミア王が時を経て和解する第三幕の大団円。心象風景や回想など「その場では起こっていないこと」を表現できないバレエゆえの制限を逆手に取り、ウィールドンは戯曲を幾つかの印象的なシーンに抽象化してうまく全三幕の緩急を構成・作劇している。ウィールドンの振り付けメイキングでは、ダンサーたちのアイデアを積極的に取り入れようとする彼の態度が印象的だった。第一幕の嫉妬を表現する長いシーンでは、エドワード・ワトソン自身が持つ表現力や奇妙な動きの発想力を引き出しつつ一緒に振り付けを考えていったそうだ(以前観たバレエ『メタモルフォーシス(カフカの『変身』)』におけるワトソンの鬼気迫る演技に通じるものがあった)。シシリア王の娘パーディタを踊る可憐なサラ・ラム、シシリア王の妻ハーマイオニーを踊るローレン・カスバートソン、シシリア王宮の家長ポーライナを踊るゼナイダ・ヤノウスキーを始めとして、総勢6人のプリンシパルが登場する豪華な舞台。適度に抽象化された物語や舞台装置は、キラキラとした振り付けを引き立て(物語の筋に沿ってはいるのだが、ウィールドンのアブストラクトな小品に通じるような、ひとつひとつ切り出しても作品として成立しそうなクオリティの場面がつづく)、特に第二幕においては物語はほとんど何も進行していないにもかかわらず、祝祭的な群舞とソロの連続で舞台はずっと賑やいでいた。
ただ、シェイクスピアの原作を読んでいないので断言できないが、登場人物の造形は一部原作と異なるもしくは過度に省略されている部分があったように思える。世継ぎに関する神託のシーンがカットされていたり、ボヘミアとシシリアをまたにかける物語で重要な位置を占めるはずのカミローが物語に絡んでこなかったり(一ダンサーとしては舞台上に登場しているのだが、序盤でボヘミア王がシシリアからボヘミアに逃げるのを助けたり終盤でボヘミア王子とパーディタをシシリアに導いたりといったシーンはない)、なぜボヘミア王子とパーディタの純愛が大団円の引き金となりえたのかを説明するエピソードが欠損していた。そのため第三幕の大団円にいたるストーリー展開は少々唐突に感じたのだが、バレエへの翻案ゆえいたしかたないのかもしれない。観劇直後に違和感が残ったシーンが、帰ってから調べてみるとむしろ原作に準拠しているらしいことがわかったりもしたので、原作との相違については知識不足でなんとも言えないのだが。
ところでメイキングの場面、スティーブン・マックレーは鳥居の絵にデカデカと「宮島」と書かれたTシャツを練習着として着用していた。おそらく来日した際に宮島を訪ねて購入したのだと思われる。「宮島」と大きく画面に映し出された瞬間、座席のそこかしこで驚きと親しみをこめたクスクス笑いとヒソヒソ声が生じていて、このシンクロ感は日本の映画館で見ているからこそだなと思ったりした。
追記 140430
マックレーのツイッターより。今年の3月に来日してたんですね。そのときに宮島も訪れたようである。
https://twitter.com/_stevenmcrae/status/441939629592178688
帰宅後、法規の問題集を解いたあと、明日の講義の宿題にとりかかる。