ミュンヘンなんて、どこ吹く風

ミュンヘン工科大留学、ロンドンの設計事務所HCLA勤務を経て
群馬で建築設計に携わりつつ、京都で研究に励む日々の記録

モジュラーコーディネーション

2014-01-19 00:55:30 | ロンドン・hcla
9時起床。予定通りRIBA図書館へ。コンラッド・ワックスマン(Konrad Wachsmann)の『The Turning Point of Building: Structure and Design』を読み進める。今日はPart2の始めから。閉館後、SOHOのCay Treで昼ごはんを食べたあと、Camperで靴を買う。今はいている靴よりもずっと足にフィットしたものを見つけることができてよかった。一旦家に帰ってからもう一度出かけて、近くのCostaで『The Turning Point...』のモデュラーコーディネーションに関する一章を全訳してみる。帰宅して夕食のあと、敷地写真を見つつ、父とのコンペTの資料を読み始める。


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Part 2は本書の核心に向かう章。工業化・機械・大量生産に関するワックスマンの総括に続いて、モジュラーコーディネーションとモジュールの精査が始まる。ワックスマンは、技術者でありながら原理主義的/神秘主義的な一面を持った人物であり、オーバースペックなまでに汎用性を高めたユニバーサルジョイントとスペースフレームの開発に一生を捧げた。以下、『10+1』から引用。

ところで、組み合せの自由度をどのような範囲で考えたとしてもひとつの技術的課題が浮上することに変わりはない。それは部品の互換性という問題である。もちろん、これは部品ジョイントのディテールの問題にほかならない。そして、ジョイントの互換性を突き詰めていけばある理念型に行き着くことになる。「ユニヴァーサル・ジョイント」というアイデアである。例えば、建物の構造部材を考えてみよう。最も複雑な加工作業はジョイント部分に集中するが、それが一種類で済むならば生産性は飛躍的に向上しよう。その一方で、部材同士を自由な角度で接合できるとすれば、建築物の形を思いのままに操作することもできる。部分の量産と全体の個別性の両立。ユニヴァバーサル・ジョイントという考え方はこの問題の解答としては模範的とさえ思えてくる。おそらく、こうしたアイデアを最も追求した人物がコンラッド・ワックスマンである。彼はスペース・フレームを最初に開発した建築家として知られるが、じつにさまざまなユニヴァーサル・ジョイントを考案している。一見するとそれらは建築物の一部とは思えないほどの精妙な装置であり、そこにはさまざまな建物に適用可能な高い汎用性が盛り込まれていた。しかし、それらが普及することはない。建築物のほとんどの部初が直角に接合される以上、彼のジョイントは明らかにオーバースペックなのである。ワックスマンのディテールは普遍性を目指したがゆえに極めて特殊性を帯び、かえって技術的には閉じてしまったのであった。
建築部品に宿るもの | 佐藤考一 『10+1』 No.16 (ディテールの思考──テクトニクス/ミニマリズム/装飾主義)

コンラッド・ワックスマンというユダヤ系の技術者がスペースフレームの開発に一生を捧げるのですが、永遠に延びていく、どこまでも地球的スケールで延びていく数学の原理を追求します。ユダヤ人特有の原理主義みたいなものがあると思うんですけれど、無限に延びていくストラクチャーはないのか。でも結局使われたのは写真にある飛行機の格納庫です。日本においては丹下健三先生の一九七〇年の大阪万博の大屋根で、完全にワツクスマンの原理が実現されました。コンラッドウックスマンはちょっと変なところがある人で、無限に延びていく単位のための接合部、Aという物質とBという物質をつなぎ合わせる接合部の探求に一点集約型に集約していく人です。そういう原理を求めていき、神秘主義的な錬金術師みたいな手つきがディテールなどに出てくる。コンラッド・ワックスマンの接合部に関するスケッチ、トライアルです。非常に錬金術師的です。
開放系技術について | 石山修武 『10+1』 No.42 (グラウンディング──地図を描く身体)


さて、ここから『The Turning Point of Building』要約。(しばらくは不定期でブログ上に記録していくが、もう少し進んだらブログ外の場所にアーカイブしようと思っている。)


14. The influence of industrialization」 要約
これまで建築で考慮されてきたform・order・planningに加えて、工業化が建築にもたらす科学的・技術的・経済的・社会的影響も無視できない。新しい社会に生まれた新しい要求と姿勢に対して、本来持つポテンシャルを活かしきれていない。工業化がもたらした技術的な精密さ・品質・正確さと、その可能性とは。

15. Machines and massproduction」 要約
機械・機械の連なり・自動化された工場が、大量の資本とエネルギーを消費する、大量につくってこそ経済的な大量生産方式。それは手仕事が単に巨大化もしくは機械化されたものではない。道具(tool)は職人(Artisan)を引き継いだ。tool maker・machine builder&mechanics が現代の重要なクラフトマンたちである。そして道具製作者(tool maker)はユニバーサルクラフトマンである。道具をつくることによって、実際には製品をつくることなく、実質的には製品をつくっている。道具がつくられることによって、それまでの様々な分野にわかれていたクラフトマンは道具製作者に置き換えられた。
オリジナルな制作物としての道具。道具がネガとなり、ポジとしての複製品がつくられる。それは写真になぞらえられる。工業化は、生産と製品がネガポジとして一体であることを前提としている。そして、道具は自動化されてマシンの一部分としても働く。道具製作者は、匿名に、そして実際の製品に触れること無く、道具をつくることによって、クラフトマンの象徴だった偉大なる制作行為を達成するのである。
偉大なるクラフトマンによって発展し使用されてきた道具によって人類の歴史は決定されてきた 今もまたそうした道具の進化によって文明化の歴史に貢献できるのである。複雑であるか単純であるかの差異は改めて評価され直す必要がある。機械にとってはそれらに対する対応はニュートラルであるから。「simplicity through complexity」はもはや過去の遺物ではなく、工業化の前進における最も大きな可能性のひとつである。
現場では、マテリアルにかかわらず(それまではマテリアルごとに違うクラフトマンがいたが)、ユニバーサルツールメーカーのように、ユニバーサルエレクターが必要とされる。伝統的な測量道具も必要もない、部品そのものが正確にコントロールされて生産され、そのコントロールされた部材の寸法によって現場もコントロールされるのだから。ユニバーサルエレクターに求められるスキルは、比較的大きく壊れやすいプレファブ部材を運び・動かし・立ち上げることである。

16. Modular coordination」 全訳
同一の部品の大量生産に由来するその秩序あるシステムは、表面、物体、空間を決定する。それらは有機的にお互いが関係しあっているべきであり、またその建物に直接属さない部品に対しても有機的に関係しているべきである。
これらの前提はモデュラーコーディネーションのアイデアを生じさせる。それは、寸法、測量方法、比率の決定、極小の構成要素から建物全体まですべての寸法を測ること、への厳密な理論的/実質的研究の成果を採用したものである。
モデュラーコーディネーションシステムは長方形や平坦な面にだけ関係しているわけではなく、一般的な空間、体積、点、線、面、物体にも関係している。それらが平面に投影されていようが空間に投影されていようが、複合的な曲線で特徴付けられていようが、構わない。そのモデュラーコーディネーションシステムは、取り付け(インストール)、接合部の配置、機器や可動部分の寸法をも規定する。いくつかの点で、抽象的な意味においては、時間や動きをも決定する。
モデュラーコーディネーションの重要な側面は、許容誤差(tolerance)の決定である。技術の進展がより大きな厳密性を可能にし、許容誤差のコントロールは工業化の重大な課題のひとつとなっている。
問題はモルタルジョイントの大まかな寸法ではもはやないのだから、部品間の容認できる「あそび」は継続的に小さくなっているところだ。完成した同一の部品が大量に組み合わせられた時、そこには、製造誤差によるたいへん小さな寸法上のズレや、温度や湿度の変化または応力による反りや変形の結果としての材料の寸法変化、が集積している。科学技術、たとえば確率係数解析、材料膨張の調査、実験室での試験、は寸法や形状の変化を許容するために必要な許容誤差の決定のために利用されている。とりわけ、これらの研究は、工場で組み立てられる個々の構成要素(コンポーネント)、すべての完成した建物の構成要素(エレメント)、現場における組み立てに関係している。
しかしながら、許容誤差の研究を、竣工後の建物において荷重や風・振動・温度などによって自然に引き起こされる、竣工後の変形・たわみ・ずれまで拡張することはとても重要である。それゆえ、モデュラーコーディネーションシステムは許容誤差のスケールを想定する。それは、モデュールを開発する際に、寸法上の極小/極大値を決定するために利用できる。

17. Modules」 要約
モデュールは抽象的で原理的な寸法単位である。四則演算によって、与えられたモデュール則における幾何学的システムを数字として決定する。垂直と水平など、ある方向に関するモデュールが、別の方向に対しては成立しない/無関係に存在することはありうる。しかし、あらゆる方向に対して成立する三次元的なユニバーサルモデュールを考案することが理想である。モデュールの決定には、様々な領域の調査を必要とするが、ユニバーサルモデュールは次のようなカテゴリーのモデュールのいくつかあるいはすべてをつなぎ合わせるような相互関係から開発されなければならない。

The material module
The performance module
The geometry module
The handling module
The structural module
The element module
The joint module
The component module
The tolerance module
The installation module
The fixture module
The planning module

ここで、章の最後に3つの例示が置かれる。人体の比例関係、古代の神殿にみられる黄金比、ゴシックのスケールを表した中世の神秘的なダイアグラム。

次章以降、ワックスマンは上で挙げられたそれぞれのモジュールについて1つずつ検討していく。

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