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ミュンヘンなんて、どこ吹く風

ミュンヘン工科大留学、ロンドンの設計事務所HCLA勤務を経て
群馬で建築設計に携わりつつ、京都で研究に励む日々の記録

半年が過ぎて思うこと

2006-03-30 06:37:00 | パリ・EAPLV
「こみやまくん、今回の留学で一番の収穫は何やってん?」
「自分は建築を好きだ、ってことへ自信を持てたことかな」

明日の便で日本に帰ります。日本に帰ったらやりたいことがいっぱいです。
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センソウ・ワカモノ・カクメイ

2006-03-28 02:08:44 | パリ・EAPLV
今回の攻防をナポレオン崇拝者のドビルパン首相は「戦争」と呼び始めたらしい。

フランスは就業人口の増加に社会体制が追いつかず失業率が増加し、若年層の就職難にしわ寄せになって現れているのだという。その改善を目指して提出されたはずの“若年層雇用促進策”が、皮肉にも今回の「若者の反乱」を呼び起こした。デモは暴徒化し、警官に踏みつけられた一人の参加者が意識不明の重態になり、先週設けられた政府との話し合いも決裂し、明日フランス全土でストが決行される。「お試し期間は解雇自由という権利を与えることで、企業に若者を積極的に雇用してもらうよう政府が斡旋する」という法案は、確かに雇用を促進するだろうが、そんなことまで政府に口出しされること自体に若者たちは怒っているのだと思う。政府はそのような社会状態そのものを直すべきであって、俺たちの手をとって会社の入り口まで送り迎えしなくてもよい!というのが若者の主張ではないか。

パリで、談笑しながら並んで通りをいく、二人の若い女性を見た。一人は車椅子に乗っていたのだが、二人は楽しそうに“並んで”歩いていた。通りには時々段差があるが、車椅子の女性はそのときだけ「フンっ」と力を入れて、慣れた様子で段差を乗り越えた。どうしても越えられない段差があるときだけ、「こんな段差があるなんて、パリもまだまだダメだねえ」といった感じでもう一人がそっと手を貸す。そしてまた二人は並んで歩きだす。二人はレストランに入ったが、「はいどうぞ」そう言って車椅子の女性は後に続く僕にドアを開けてくれた。「あら、このレストラン二階もあるのね」そう言ってその女性は奥にある狭い螺旋階段を見て笑った。

フランスの若者は誰しも、社会の中では自分は常に一人であることを自覚し、一人で生きていく術を知っている。押し付けの“庇護”など、唾棄すべきものなのだ。

寺山修司か、三島由紀夫か、最近読んでいた本に書いてあった。「肉体的主導権、それのみが若者の優越性を保ちうるのであり、老人を脅かす力になるのだ」。

フランスではここ二十年間若者による抗議活動が恒常化していて、「若者を敵に回せば統治はできない」が歴代フランス政権与党の合言葉だそうである。

明日は若者と老人の全面戦争の行く末を、パリで見届けることになりそうだ。
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三月の最終日曜日

2006-03-27 09:50:13 | パリ・EAPLV
寮で昼飯を食ってから、ふくはらくんとバスティーユにコンペのお手伝いへ。

コンペに参加している方の下宿がスタジオである。お二人がキッチンで詳細図面を書き、僕らは寝室で模型をつくる。時々進行状況のチェックを受けながら、ふくはらくんと話しながら。ラジオからは聞きなれない音楽、でも差し入れはおにぎり。あっと言う間に時間が過ぎ、いつの間にか夜。今日はここで作業を終わりにし、近くのビストロで晩御飯をご馳走になる。フランス生活の作法を教えてもらいながら、東京と九州の話をしながら、ペロー事務所のことなども。前菜・メイン・食後のエスプレッソ。あれ、もう十二時か…、十二時!?三月の最終日曜日、つまり今日からヨーロッパはサマータイムなのである。慌てて時計の時刻を一時間早め、来週の予定を決めてから、お礼を言って、地下鉄に飛び乗り、終電の一本前で寮まで戻る。

明日月曜日は一日休みをもらい、パリ市内を最後の観光。火曜日は朝にかいくんをパリに迎え、そのあと二人でモンサンミシェルに行くつもり。夜パリに戻ってきて三人でコンペのお手伝いを再開。それから徹夜で仕上げて、水曜日のお昼は軽く打ち上げ。そのままペロー事務所に連れて行ってもらい、中を見学させてもらう(ふくはらくんはそこで就活だ!)。家に帰ったらすぐに荷造りし、木曜日の昼にはパリを出発。香港を経由して、金曜日のお昼過ぎには成田空港である。ただいま!

と思っていたら、こんな情報が…。

初回雇用契約CPEの撤回を要求して、労組と学生組合が来週火曜日28日に「決起」することが決まった。昨日の夕方、労組と大学生、高校生の12団体が集まって二時間にわたる会合を開き、全国でストとデモを決行することに全会一致で合意した。(以下略)

火曜日から水曜日にかけて、フランス全土で国鉄が動かなくなってしまうらしい。帰国日は大丈夫そうだけど、モンサンミシェル行けないかも…。バスなら行ける?

そういえば先週、サンミシェル通りを歩いていてたまたまデモに遭遇した。機動隊とデモ隊がにらみ合いを続けていて、ノートルダム寺院とリュクサンブール宮の間で一進一退の攻防をしていたらしい。通りの向こうからもくもくと催涙弾のガスが押し寄せてきて、それから逃れるようにデモ隊の集団が蜘蛛の子を散らすように逃げ帰ってくる。しばらくすると催涙ガスは晴れ、再びデモ隊は突撃して行ったのだが、その直後にリュクサンブール宮方面から警察の応援部隊が到着。デモ隊はその間で挟み撃ちにされてしまったのだった。その後どうなったのか、僕は知らない。
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パリ オペラ座

2006-03-26 04:31:45 | パリ・EAPLV
いざ行ってみてわかったのは、パリのオペラ座とは「スーツを着て行くところ」ではなく、「おしゃれをして行くところ」または「身なりを一切気にしないで行くところ」であるらしい。そのどちらでもない僕はさながら迷い込んだビジネスマンのようだったかもしれないが、それでも幕間にロビーに出てグラスワインなど傾けながら内部の意匠をチェックして回っていると、いい感じに酔ってくる。荘厳な大聖堂は意志の力が強くないとキリスト教に感化されてしまいそうだったが、オペラ座には飾り立てられたオモチャ箱的な無邪気さ無害さを感じる。劇場の天井画はシャガールだった。

バレエの演目は三本立てで、まず美しい衣装と優雅なダンスの演目があり、次に破れかけたかのような衣装による鬼気迫る演目があり、最後にシンプルな衣装による思索的な演目で締められた。二番目の演目では不覚にも何度かウトウトしたが、伴奏のピアニストの鍵盤を叩き壊さんばかりの演奏もまた舞踏の一部であったように思う。最後の演目はなかなか緊張感があって、すっかり目が覚めた僕は一挙手一投足まで見逃すまいと踊り手たちに釘付けになった。おそらく人間の本能的な支配願望、そして滑稽さを表現したのであろうと勝手に推測。気持ちのよい振付の背後に得も言われぬ気持ち悪さが見えて、それが気持ちいい。ちなみに最後の演目を振付けたのがキリアン氏であったらしい(当初の順番と入れ替わってたので後でそれを知った)。綿毛のようにくるくると舞う踊り手たちは一切の重量感覚を僕らから奪い、時たま響くタンタンという着地音と激しい息づかいだけが、彼女らも同じ生身の人間であるとかろうじて僕に思い出させた。

ちなみに休憩中ロビーでよく見かけたのは、おそらくバレエを習っているのであろう小さな娘さんを連れて二人で観に来ている普段着のお父さんたちであった。
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夜食のおにぎり、うま!

2006-03-25 15:47:03 | パリ・EAPLV
コンペお手伝いより、つい今しがた帰寮。
日本語で議論し考えながら作業することが楽しい!久しく忘れていたこの感覚。スチレンボードを切り出しながら、僕も時々意見を求められる。年齢的にもお兄さんお姉さんくらいの近しい年代の方々なので、先輩を手伝ってる感覚。経歴を聞くと、どの方もハングリー精神に溢れている方ばかり。ペロー事務所で一日働いた後だというのに、ここのところ毎日朝までコンペの作業に費やしているとのこと。事務所の業務とは関係ない私的な挑戦なのだ。思いついたアイデアから、どう仕上げていくのかが力の見せ所なのだと思う。そこのところ、しっかり盗みたい。みなさんのコンペにかける意気込みに打たれてしまい、結局来週もまるまるお手伝いさせてもらうことになりそう。「こみやまくんは木曜日の何時の飛行機で帰るんだっけ?」「…確認しときます」できることならば搭乗直前まで手伝わしていただきたいくらいです。みんな心に余裕のある人で、そこが社会人なんだなと心の中で思う。でも締め切りが近づけば誰しも余裕はなくなり少しは苛立ってくるもの。そこからがヘルパーの踏ん張りどころと心得ております。来週はかいくんがパリに来るんだよなあ。かいくんも一緒にいかが?(もちろん、モンサンミシェル休暇はもらおう☆)

とかいいつつ、今日の午後はバレエ観に行くのでさっそくお休みをもらう。スーツまで着こんで居眠りは洒落にならんので、とりあえず今から寝る。おやすみなさい。
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ひろうかみあり

2006-03-24 14:40:29 | パリ・EAPLV
オペラガルニエのチケットボックスに行って土曜日のバレエ公演のチケットを確保。バスティーユに新しいオペラ座ができてから、ガルニエの方はバレエ公演主体の劇場になったらしい。帰り際、オペラ通り近くのジュンク堂書店に寄ってみる。この半年間読書を怠りすぎたという自覚から読みたい本ばかりで迷ったが、頭の中を整理する助けになればと思い、『家出のすすめ』『幸福論』(寺山修司)『不道徳的教育講座』(三島由紀夫)を買った。裏通りの汚いラーメン屋に入って読書。肉野菜炒めとチャンポンラーメンを頼んだら、肉野菜炒めと“肉野菜炒めがのった”ラーメンが出てきてガックリ。通勤時間にぶつかったらしく帰りのバスは大混雑。押し合い圧し合いされながら、薄暗がりの中、夢中で本を読む。

ふくはらくんの紹介で、ペロー事務所でやっているコンペを僕も手伝わせてもらえることになった。就業時間後にやっている私的なコンペらしく、スタジオを一室借り切ってそこで作業するらしい。もうすぐ帰国するのでどれだけ参加できるかはわからないけれど、ともかく明日の夜、そのスタジオで待ち合わせということになった。
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午後のまどろみの時間

2006-03-15 10:39:37 | パリ・EAPLV
最近LAN回線の調子が悪い。ネットに安定してつながらず、いろいろ不便。

インターナショナル棟のカフェを出て南側の大きなガラスドアを開けると、ウッドデッキのテラスの向こうには広大な庭が広がっている。ジョギングをする人は朝から晩まで途切れることはない。犬の散歩をする人はもちろん放し飼いだ。ラグビーボールでキャッチボールする人たちはサッカーをする人よりも多い気がする。芝生に寝転がっている人たちは、カップルばかりではない。ウッドテラスの上では、並んで話しながらそんな光景をボーっと見ている。まぶしい光に目を細めながら、ノートに書いた文字列を追っている学生。なかには暖かい日の光なんてお構い無しに溶け合ってしまっている人たちもいる。芝生の向こうにはスイス学生会館やメキシコ学生会館のように国の名前が付いた学生寮が点々と立ち並ぶ。それらをひとつひとつ巡礼していくとちょうどよい散歩コースになる。食堂で昼飯を食ってから掃除のおばちゃんが掃除を終えるまでの間、僕はビートルズの青盤の一枚目を聴きながら、そんなシテ・ユニヴェルシテ=「学生都市」をぐるぐると歩き回るのである。

AUSMIP本のフォーマットができたので全参加者にメールで送信する。
パリとリスボンをネットでつなぎ、東京千葉九州三大学の学生で協働できてよかった。デザインを担当したチームのみなさん、旅行先からメールで参加してくれたみなさん、おつかれさまでした!しばらく個人作業になる。最後の編集も頑張ろね。
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今年のAUSMIP本

2006-03-12 07:02:50 | パリ・EAPLV
今年度のAUSMIP本の総編集を担当させていただいている。

三年目の今年は日本人が編集を受け持つ順番らしい。担当者に立候補したときから、今年の本は後輩たちにも役立つような本にしようと考えていた。去年の本はとてもきれいな装丁だったのだけれど、留学先まで持ってこようとは思わなかったからだ。ヨーロッパの大学ではこの本に値段をつけて「販売」している。今年の本は関係者向けの本にとどまらず、来年のAUSMIP生や、海外に出ようと考えている後輩たちが持って行こうと思えるような本にしたい。そこで今までどおりの研究報告に加え、私家版『建築案内』のような新企画を考えた。自分たちがこの留学で出会った、後輩たちにもぜひ観てほしい建築・景観を紹介するのだ。これは留学先のミュンヘンで元AUSMIP生のアネグレットに見せてもらった手製の日本写真集や、同じくミュンヘンで見せてもらった留学生が撮影した日本の記録映像作品からもヒントを得ている。『案内』と称するには自分たちが持ち合わせている知識が足りないというのなら、「俺的ベスト10」でも僕はいいと思っている。意識的にせよ無意識的にせよそれぞれ目的・興味があってプログラムに参加している僕らが、どんなものを観て感動したのかということは、スタジオの成果報告と同等に記録として紹介していいと思う。初めは国ごとに担当者を決めてまとめようかと思ったが、個人のテーマに基づいてまとめた方がかえってわかりやすいかもしれない。いずれにせよ、今週末中に方針を決めて仕事を割り振ろうと思っている。みんなでよいものつくろうね!

それと同時並行で、イギリス旅行に向けて自分のポートフォリオもつくっています。

画面の見すぎで目がシバシバしてきたので、夕方、気分転換に街へ出た。
今にも雨が降り出しそうなうす曇の天気の中、シテ島の近くにある文房具屋兼古本屋さんジベール・ジュンヌに行く。地下の文房具コーナーでポケットに入るサイズのノートとペンを買って、カフェでスケッチ。夜、ミュンヘンのダニエルからメールが届く。ドイツは30年ぶりの大雪で、ミュンヘンは1メートル近く積もったらしい。「こんなクレージーな国にまた戻ってきたいなんて、お前はホントにクレージーだ」。
成果本に残るものが留学のすべてではない。それはもちろんわかっている。
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もう、いいかい?

2006-03-10 07:00:52 | パリ・EAPLV
ノックの音で目が覚める。

いつもの掃除のおばちゃんがドアを少し開けて僕を覗き、「今日の午後は大掃除するわよ」みたいなことを言って去っていった。シテ寮は毎日掃除のおばちゃんが部屋の中に入り、週一回は大掃除がある。今日はその日らしい。このおばちゃん、部屋の中のものを勝手に置き場所を変えてしまう癖がある。部屋を留守にして戻ってみると、棚の上に置いておいた歯ブラシが洗面台の中に移動していたり、干しておいたタオルがたたんで机の上に置いてあったりする。おばちゃんの考える正しいポジションに移動しているのである。まるでリアルな間違い探しかかくれんぼ。くろさかくんたちがいた頃、このシステムを利用しておばちゃんにイタズラをしたこともある(にょろにょろに僕のパジャマを着せておいたらどうなるか、など)。

寮内の食堂で昼飯を食って部屋でパソコン作業をしていると、おばちゃんが再び部屋をノックしてきた。「今部屋を使っているので今週は結構です」と言いたかったのだが、おばちゃんは「じゃあ、先に隣の部屋を片付けるからあんたはその次ね!」と。ノートと本だけ持って出て、カフェで旅行の計画でも立てることにした。僕の部屋があるシテ寮のインターナショナル棟には、一階にカフェがある。カフェオレを注文し、『地球の歩き方』と『建築案内』を片手に絶対観たい建築をリストアップしていく。いくら時間があっても足りないなあと気づいた頃、空になったコーヒーカップも片付けられてしまったので、そろそろ掃除も終わっただろうと思い部屋に戻る。廊下は洗剤の甘い匂いでいっぱい。ベッドの脇に揃えて脱いでおいたサンダルが机の下に移動していた他は目立った変化無し。おばちゃん好みの部屋になってきたのかな?
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胡蝶の夢

2006-03-09 02:40:29 | パリ・EAPLV
月曜日
まつむらせんせいらAUSMIP担当の先生をパリに迎える。
まずホテルに集合し半年間の留学生活を振り返る。先生方からは差し入れに日本茶の缶をもらった。初対面の先生から唐突に「こみやまくんは将来何がやりたいの?」と質問される。禅問答のようなやり取りになってしまい、自分が将来について具体的には何も思い描けていないことを思い知る。その後みんなでエッフェル塔へ行く。急に雨が降り出したが防ぐ場所がない。エッフェル塔は物質的には巨大な透明だ。先生方は会議があるので大学で一旦解散し、僕は近くのラヴィレット公園で時間を潰す。無用の赤いフォリーをただ巡りながら歩くには、その間の障害物が多すぎて邪魔だと思った。とはいえ、今では目立たなくなってしまったこの造形物自身が、そうして周りに障害物の発生を喚起しているようにも見えるのだけれど。ポンピドゥーセンターの屋上階にあるレストランでお茶をしてから、オペラ大通りのひぐまラーメンで宴会。一緒に参加してくれたジョージアテックからラヴィレットに留学しているアメリカ育ちの若い学生さんは、日本に帰ったら鳶に弟子入りして修行を積みたいと言う。あっけらかんとした彼のその物言いに、軽い衝撃を受ける。建築はかくも奥深いものなのか。つい飲みすぎる。

火曜日
まつむらせんせいと僕らAUSMIP生三人で、フランス北部のランスに小旅行。
電車の中はさながら就職相談会。先生が知っている現実をたくさん教えてもらう。自分という植物はどの土なら一番よく育つでしょうか?というような相談に来る学生が最近多いという。でもそのように企業を計りにかけて就職先を選んだ人は、その先も自社と他社を比べ続けてしまうので不幸だという。僕は最近友達から聞いた幸せな就職体験談を話す(ある人から又聞きしたどこかの大学の人の話、として)。出会いと直感を信じ、覚悟を決めて選ぶしかない。自分がどう育つかは自分次第。電車が駅に着き、歩いて大聖堂に向かう。旅行者は見当たらない。「三大聖堂」の一つ、ランスの大聖堂。シャガールの寄進したステンドグラスは、シャガールブルー。何度もカメラを向けたが、見えたままの色では写真に写らないことを実感する。街のビストロで昼食をとる。午後はトー宮殿へ。修復された大聖堂の遺物が収められている。最後に本場のシャンパン工場を見学(試飲)してからパリに帰る。金太郎で今日も先生に晩飯をおごっていただく。お国自慢も含めた地方の食文化の話題から始まり、希望も何も失われてしまった土地で必死に働いている人たちの話になる。南アフリカではアパルトヘイト解放以降かえって人種差別が悪化し、エイズの流行と共に風説や迷信を信じる人たちが治癒のためとして見境なく性犯罪に走っているという。そんな土地で自らと妻子の生命を賭けながら、教育にわずかな希望を見出して学校をつくっている人たちの話。アメリカのデトロイトではダウンタウンが無法地帯になっているという。そこではホテルのフロントが防弾ガラスに囲まれていて、部屋から廊下に一歩出るのも不安になるような一夜を過ごしたという話。コロンビアではいくつかの暴力団体が抗争を続けていて、左右前後に警官の護衛がついた状態でしか街を移動できないという。そんな土地に、「スペイン語を習うため」と言って留学している大阪の学生の話。どれも先生が現地に行って実際に体験した話であり、生々しい。僕らはそのたびにアフリカやアメリカの危険地帯の中をさまよい、「そろそろお勘定しようか」をいう先生の一声で気が付くと、元のパリのラーメン屋にいた。世の中にはわずかな希望さえ持てないような場所で働いている人たちもいる。自分たちはこの希望に満ちた環境の中にいて、いったい何を悩んでいるというのだ?

水曜日
カフェでオムレツを食べてから、くろさかくんすがおさんを東駅まで送る。一週間僕の部屋で寝泊りしていた彼らも今日でドイツに帰る。毎晩三人で繰り広げられるパリの文化人類学風考察の時間がとても楽しかった。二人はパリを満喫したようだが、僕はもっと観せてあげたい場所があったので心残りもある。卒業設計のとき、9枚目のプレゼンボードが印刷終わらず「くやしいです」と言って泣いてくれたヘルパーさんを思い出した。二人を見送ったあと駅の周りをぶらぶらしてから映画館に入り、なるべく非道徳的で救いのなさそうな映画を選んで観る。なぜだか、カットがかかったときの役者さんの安心した笑顔ばかりが頭に浮かんでならなかった。

あと一週間パリを回ったらイギリスへ行こうと思っている。胡蝶の夢はまだ続く。
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