以下の資料はPDFでもダウンロード可能です。https://goo.gl/gc6yWD
ご意見・お問い合わせはyosukekomiyama@gmail.comまで。
はじめに
最近、オーストリアのCLTメーカー等において、英国内の学校建設関連の受注が多いという点が報告されており、その理由を調査した。英国では学校建設とCLTを直接結びつけるような法制度は存在しないことがわかったが、学校建築をめぐる状況とCLT/木造建築をめぐる状況が、現在の英国ではいくつかの点で強く結びついていることがわかった。それらが複合的に作用しての受注増加ではないかと考えられるため、それらを本レポートにまとめた。
1 政府系プロジェクトにおける BREEAM アセスメントの義務化と、鍵となる木材資源の認証制度
2002年以来、英国政府の各部署は一定建設費以上の新築および改修の計画の際に、BREEAMのアセスメントあるいはそれに準ずるものを行うことを求められるようになった。また英国政府の建物においてはこのBREEAMの評価で「エクセレント」を取得することが義務付けられている。またDCSF(Department for Children and Families)は、BREEAM SCHOOLで「ベリーグッド」を取得することを、一定建設費以上の新築あるいは改修計画に公的助成する場合の条件として見なしている。
英国政府が推し進める、建設におけるサステイナビリティにおいて、木材は鍵となる資源である。現在のBREEAM基準においては、合法かつサステイナブルな供給元から調達した木材を使用することでクレジットが得られる評価項目がある(ただし、この評価項目自体はBREEAMにおける取得必須項目ではない)。一方で、「UK Government Procurement Policy」においては、英国政府のすべての部署は、木材を合法かつサステイナブルな供給元から調達するよう義務付けている。英国政府建物の計画に参加する施工業者やサプライヤーは、これを意識しなければならないし、逆にこれをBREEAMでクレジットを取得するための重要な機会ととらえるべきであるとされる。多くのCLTはPEFC(Chain of Custody)やFSCの認証を受けているため、この状況に適した建材であるといえる。
参考リンク
- 2010 年 2 月に NBS(National Building Specification 建設の標準仕様などを整備する組織)に掲載された記事
https://www.thenbs.com/topics/environment/articles/ukGovernmentTimberProcurementPolicyBREEAM.asp
- PEFC の公式サイトで紹介された CLT 造の学校建築。BREEAM で「Very Good」を取得している http://www.pefc.org/news-a-media/general-sfm-news/1768-specialist-school-chooses-pefc-certified-timber
2 学校建築の「フラットパック化」と、見直される木造
現首相デイヴィッド・キャメロンは2015年3月の演説において、新たに49のフリースクールを開設する計画を発表した。フリースクールとは、教育機関、チャリティー団体、保護者などによって運営される公募型の学校であり2010年に制度が策定された。保守党は2015年の国政選挙における公約で500の学校を新たに開設するとしている。
2012年10月に英国政府は「Baseline Designs for School」と呼ばれるガイドラインを公開した。これは学校建築を標準化し建設コストを削減しようという試みであり、部屋面積、階数、建物の形状などにおける制約条件などを定めたものである。このレポートに対し、RIBAは懸念を表明し、この学校建築への「フラットパック化」アプローチは、短期的なコスト削減に過度に集中するあまり、柔軟性を欠くものであり、生徒と教員から良好な環境を奪うものだと主張した。一方、『Building Design』誌は、こうしたRIBAの姿勢へ賛成・反対の両意見を紹介している。「フラットパック化」のようなセンセーショナルな言葉で批評を加えるRIBAの姿勢を、「Baseline」に対して建築家が特権的立場にいるように思わせてしまうため建築家自身にも助けにならないと批判しつつ、政府が求めるコスト削減とそれぞれの学校が必要とする個性を両立させる創造的提案のために建築家は必要であり「Baseline」によって建築家たちの学校建築設計への参画が排除されてはならないことを主張している。
Educational Funding Agencyからは2014年3月に「School building design and maintenance」の一部として建築と平面計画の標準化案などを収録した「School Baseline Designs」が公開された。これは「Priority School Building Programme」を含む学校建築のためのベースラインデザインと戦略を示したものである。
「School Baseline Designs」の中には木造に言及している箇所はないが、これらの動きを受けてStructural Timber AssociationはCLTと学校建築を結びつける次のような論考を発表した。現状の学校システムにおいて学校不足が深刻化しつつあり、速く、合理的で、ローコスト化につながる構法が求められている。政府による学校建築の標準化政策は、CLTの持つ利点である部材のプレファブリケーション化と相性が良い。構造体自身による熱環境・音環境・気密性への寄与、工期の短縮・工場生産による生産システムによる合理化、などを考慮すれば、プロジェクト全体を通しての比較ではコストの面でもCLTに利点がある。
たとえば2013年8月にはロンドンで学生数1450人の学校がこのフリースクールプログラムによって生まれた。着工してから一年後に開校という短工期の要求に答えるため、その四階建ての校舎にはCLT造が採用されている。
2014年11月にbuildingconstructiondesign.co.ukに掲載された記事「“What were your results?”: Learning from the first 18 months of cut-price school building」では、この「Baseline Designs」が学校建築に与えた影響を学校建築に関わる様々な建築家へのインタビューを元に考察している。
参考リンク
- キャメロンの演説
http://www.theguardian.com/education/2015/mar/09/david-cameron-faith-schools-academies
- 学校建築の Baseline Designs
https://www.gov.uk/government/publications/baseline-designs-for-schools-guidance
- Baseline Designs に対する RIBA の反応
http://www.dezeen.com/2012/10/03/uk-government-bans-curved-school-buildings/
- Baseline Designs に対する Structural Timber Association の反応
http://www.structuraltimber.co.uk/news/news/members/building-for-education/
- フリースクールプログラムによってロンドン市内に建設された CLT 造の学校
http://fcbstudios.com/latest/news/Largest-cross-laminated-timber-built-structure-in-UK-wins-RIBA-Award
- 「Baseline Designs」が学校建築に与えた影響を学校建築に関わる様々な建築家へのインタビューを元に考察した記事
http://www.buildingconstructiondesign.co.uk/news/what-were-your-results-learning-from-the-first-18-months-of- cut-price-school-building/
3 イギリスにおける CLT 構法の熟成
英国では2010年ころから学校建築を木造化することの利点が各所で主張されてきた。たとえば2010年8月の『Wood Focus magazine』の記事はロンドンのBuilding Centreで学校建築の木造化に関するセミナー「Schools – Meeting the Brief with Wood」が開かれたことを伝えている。セミナーにはFinnforestのテクニカルマネージャーなどが登壇した。
現時点までに英国においてはCLT造建築の経験が蓄積されてきており、施工会社、エンジニアリング事務所、業界組織、設計事務所などがそれぞれCLTに関する経験や意見を公開するようになってきた。
きた。
参考リンク
- 学校建築の木造化に関しては 2010 年ころから機運は高まりつつあった
http://www.iom3.org/wood-focus-magazine/feature/2010/aug/31/schooled-timber-using-wood-construction-schools
- 施工会社 WIllmott Dixon による CLT の特設ページ
http://www.willmottdixon.co.uk/expertise/cross-laminated-timber
- エンジニアリング事務所 Arup による CLT を使用したプロジェクトの紹介ページ
http://www.arup.com/Timber_offices?sc_lang=en-GB
- 構造用木材の団体 X-LAM Allianace による CLT の紹介ページ
http://www.xlam-alliance.com/design
- 構造用木材の団体 X-LAM Allianace が公開する、CLT の学校建築への適用に関する紹介ページ
http://www.xlam-alliance.com/assets/downloads/12ppx-lameducation14jul.pdf
- 設計事務所 Feilden Clegg Bradley Studios による CLT を使用したプロジェクトの紹介ページ
http://fcbstudios.com/explore/view/4
4 ロンドン市ハックニー区の「Timber First Policy」
2015年3月、「世界最大」のCLT建築「Dalston Lane」がロンドンのハックニー区で着工した。全121戸が入居する10階建ての集合住宅であり、設計はMurray Grove(別名Stadthaus。建設当時世界で一番高い木造建築と言われた、ロンドンの中高層CLT建築の草分け)の設計者と同じWaugh Thistleton Architectsである。メルボルンに建設されたCLT建築よりも0.5m高いとされるが、設計者は高さを競ってはいない。それよりも、プロジェクトで使用されるCLTのボリュームが世界最大であることが、それによって使用せずに済んだコンクリートの量との比較=カーボンフットプリントの削減において強調される。
ハックニー区では現在このほかにもいくつかのCLT建築が建設中、計画中である。その背景にあるのは「timber first policy」である。ハックニー区はロンドンでもいち早く中高層CLT建築が実現した区であるが(Stadthaus、Bridport House)、2012年に「timber first policy」を制定した。行政区のPlanning policyとして木造建築を推奨する初めての試みであり、住宅建設セグメントにおけるカーボンフットプリントのインパクトを軽減することの重要性への理解からそれは制定された。木材以外のサステイナブルな建材の仕様を妨げるものではないが、行政区内の建設プロジェクトにおけるカーボンフットプリント削減に対してHackney区は意識的であるという宣言でもある。
参考リンク
- Dalston Lane を伝える記事
http://www.construction-manager.co.uk/news/worlds-largest-clt-building-starts-site-hackney/
- Hackney 区の timber first policy
http://apps.hackney.gov.uk/servapps/newspr/NewsReleaseDetails.aspx?id=2437
まとめ
以上のような英国内における学校建築と木造建築をめぐる状況が複合的に作用した結果、学校建築の木造化への流れが生まれ、オーストリアのCLTメーカー等において英国内の学校建設関連の受注が増えているのではないだろうか。今回わかったのは、イギリスではCLT建築の裾野が確実に広がっているということである。施工会社やエンジニアリング事務所、設計事務所がCLTに関する紹介ページを自分たちのホームページ内に持っていることからも、構法としてのCLT建築が特殊なものから一般的な存在へとなりつつあることがわかる。またtimber first policyを掲げるHackney区では、行政が積極的に推奨することで、多くの中〜大規模CLT建築が実際に建設中である。また、日本の建築家坂茂がWaugh Thistleton Architectsと協力しロンドンのタワー・ブリッジ付近でCLT造の集合住宅開発に携わるとの報道も2015年7月に出ている。
イギリスは世界三位の木材輸入国である。CLT建築の実績数が増す一方で、これまで英国内にCLTの製造拠点は存在していなかった。しかし、2014年12月時点で報道されているように、スコットランドに地場産材によるCLT製造拠点をつくる計画があり、今後の動きが注目される。
参考リンク
- 坂茂による CLT 造集合住宅を伝える『Building Design』誌の記事
http://www.bdonline.co.uk/news/shigeru-ban-picks-up-first-uk-project/5076588.article
- スコットランドに建設予定の CLT 製造拠点
http://www.construction-manager.co.uk/news/scotlands-ho3me-gro4wn-clt-coul7d-roll-production/
ご意見・お問い合わせはyosukekomiyama@gmail.comまで。
はじめに
最近、オーストリアのCLTメーカー等において、英国内の学校建設関連の受注が多いという点が報告されており、その理由を調査した。英国では学校建設とCLTを直接結びつけるような法制度は存在しないことがわかったが、学校建築をめぐる状況とCLT/木造建築をめぐる状況が、現在の英国ではいくつかの点で強く結びついていることがわかった。それらが複合的に作用しての受注増加ではないかと考えられるため、それらを本レポートにまとめた。
1 政府系プロジェクトにおける BREEAM アセスメントの義務化と、鍵となる木材資源の認証制度
2002年以来、英国政府の各部署は一定建設費以上の新築および改修の計画の際に、BREEAMのアセスメントあるいはそれに準ずるものを行うことを求められるようになった。また英国政府の建物においてはこのBREEAMの評価で「エクセレント」を取得することが義務付けられている。またDCSF(Department for Children and Families)は、BREEAM SCHOOLで「ベリーグッド」を取得することを、一定建設費以上の新築あるいは改修計画に公的助成する場合の条件として見なしている。
英国政府が推し進める、建設におけるサステイナビリティにおいて、木材は鍵となる資源である。現在のBREEAM基準においては、合法かつサステイナブルな供給元から調達した木材を使用することでクレジットが得られる評価項目がある(ただし、この評価項目自体はBREEAMにおける取得必須項目ではない)。一方で、「UK Government Procurement Policy」においては、英国政府のすべての部署は、木材を合法かつサステイナブルな供給元から調達するよう義務付けている。英国政府建物の計画に参加する施工業者やサプライヤーは、これを意識しなければならないし、逆にこれをBREEAMでクレジットを取得するための重要な機会ととらえるべきであるとされる。多くのCLTはPEFC(Chain of Custody)やFSCの認証を受けているため、この状況に適した建材であるといえる。
参考リンク
- 2010 年 2 月に NBS(National Building Specification 建設の標準仕様などを整備する組織)に掲載された記事
https://www.thenbs.com/topics/environment/articles/ukGovernmentTimberProcurementPolicyBREEAM.asp
- PEFC の公式サイトで紹介された CLT 造の学校建築。BREEAM で「Very Good」を取得している http://www.pefc.org/news-a-media/general-sfm-news/1768-specialist-school-chooses-pefc-certified-timber
2 学校建築の「フラットパック化」と、見直される木造
現首相デイヴィッド・キャメロンは2015年3月の演説において、新たに49のフリースクールを開設する計画を発表した。フリースクールとは、教育機関、チャリティー団体、保護者などによって運営される公募型の学校であり2010年に制度が策定された。保守党は2015年の国政選挙における公約で500の学校を新たに開設するとしている。
2012年10月に英国政府は「Baseline Designs for School」と呼ばれるガイドラインを公開した。これは学校建築を標準化し建設コストを削減しようという試みであり、部屋面積、階数、建物の形状などにおける制約条件などを定めたものである。このレポートに対し、RIBAは懸念を表明し、この学校建築への「フラットパック化」アプローチは、短期的なコスト削減に過度に集中するあまり、柔軟性を欠くものであり、生徒と教員から良好な環境を奪うものだと主張した。一方、『Building Design』誌は、こうしたRIBAの姿勢へ賛成・反対の両意見を紹介している。「フラットパック化」のようなセンセーショナルな言葉で批評を加えるRIBAの姿勢を、「Baseline」に対して建築家が特権的立場にいるように思わせてしまうため建築家自身にも助けにならないと批判しつつ、政府が求めるコスト削減とそれぞれの学校が必要とする個性を両立させる創造的提案のために建築家は必要であり「Baseline」によって建築家たちの学校建築設計への参画が排除されてはならないことを主張している。
Educational Funding Agencyからは2014年3月に「School building design and maintenance」の一部として建築と平面計画の標準化案などを収録した「School Baseline Designs」が公開された。これは「Priority School Building Programme」を含む学校建築のためのベースラインデザインと戦略を示したものである。
「School Baseline Designs」の中には木造に言及している箇所はないが、これらの動きを受けてStructural Timber AssociationはCLTと学校建築を結びつける次のような論考を発表した。現状の学校システムにおいて学校不足が深刻化しつつあり、速く、合理的で、ローコスト化につながる構法が求められている。政府による学校建築の標準化政策は、CLTの持つ利点である部材のプレファブリケーション化と相性が良い。構造体自身による熱環境・音環境・気密性への寄与、工期の短縮・工場生産による生産システムによる合理化、などを考慮すれば、プロジェクト全体を通しての比較ではコストの面でもCLTに利点がある。
たとえば2013年8月にはロンドンで学生数1450人の学校がこのフリースクールプログラムによって生まれた。着工してから一年後に開校という短工期の要求に答えるため、その四階建ての校舎にはCLT造が採用されている。
2014年11月にbuildingconstructiondesign.co.ukに掲載された記事「“What were your results?”: Learning from the first 18 months of cut-price school building」では、この「Baseline Designs」が学校建築に与えた影響を学校建築に関わる様々な建築家へのインタビューを元に考察している。
参考リンク
- キャメロンの演説
http://www.theguardian.com/education/2015/mar/09/david-cameron-faith-schools-academies
- 学校建築の Baseline Designs
https://www.gov.uk/government/publications/baseline-designs-for-schools-guidance
- Baseline Designs に対する RIBA の反応
http://www.dezeen.com/2012/10/03/uk-government-bans-curved-school-buildings/
- Baseline Designs に対する Structural Timber Association の反応
http://www.structuraltimber.co.uk/news/news/members/building-for-education/
- フリースクールプログラムによってロンドン市内に建設された CLT 造の学校
http://fcbstudios.com/latest/news/Largest-cross-laminated-timber-built-structure-in-UK-wins-RIBA-Award
- 「Baseline Designs」が学校建築に与えた影響を学校建築に関わる様々な建築家へのインタビューを元に考察した記事
http://www.buildingconstructiondesign.co.uk/news/what-were-your-results-learning-from-the-first-18-months-of- cut-price-school-building/
3 イギリスにおける CLT 構法の熟成
英国では2010年ころから学校建築を木造化することの利点が各所で主張されてきた。たとえば2010年8月の『Wood Focus magazine』の記事はロンドンのBuilding Centreで学校建築の木造化に関するセミナー「Schools – Meeting the Brief with Wood」が開かれたことを伝えている。セミナーにはFinnforestのテクニカルマネージャーなどが登壇した。
現時点までに英国においてはCLT造建築の経験が蓄積されてきており、施工会社、エンジニアリング事務所、業界組織、設計事務所などがそれぞれCLTに関する経験や意見を公開するようになってきた。
きた。
参考リンク
- 学校建築の木造化に関しては 2010 年ころから機運は高まりつつあった
http://www.iom3.org/wood-focus-magazine/feature/2010/aug/31/schooled-timber-using-wood-construction-schools
- 施工会社 WIllmott Dixon による CLT の特設ページ
http://www.willmottdixon.co.uk/expertise/cross-laminated-timber
- エンジニアリング事務所 Arup による CLT を使用したプロジェクトの紹介ページ
http://www.arup.com/Timber_offices?sc_lang=en-GB
- 構造用木材の団体 X-LAM Allianace による CLT の紹介ページ
http://www.xlam-alliance.com/design
- 構造用木材の団体 X-LAM Allianace が公開する、CLT の学校建築への適用に関する紹介ページ
http://www.xlam-alliance.com/assets/downloads/12ppx-lameducation14jul.pdf
- 設計事務所 Feilden Clegg Bradley Studios による CLT を使用したプロジェクトの紹介ページ
http://fcbstudios.com/explore/view/4
4 ロンドン市ハックニー区の「Timber First Policy」
2015年3月、「世界最大」のCLT建築「Dalston Lane」がロンドンのハックニー区で着工した。全121戸が入居する10階建ての集合住宅であり、設計はMurray Grove(別名Stadthaus。建設当時世界で一番高い木造建築と言われた、ロンドンの中高層CLT建築の草分け)の設計者と同じWaugh Thistleton Architectsである。メルボルンに建設されたCLT建築よりも0.5m高いとされるが、設計者は高さを競ってはいない。それよりも、プロジェクトで使用されるCLTのボリュームが世界最大であることが、それによって使用せずに済んだコンクリートの量との比較=カーボンフットプリントの削減において強調される。
ハックニー区では現在このほかにもいくつかのCLT建築が建設中、計画中である。その背景にあるのは「timber first policy」である。ハックニー区はロンドンでもいち早く中高層CLT建築が実現した区であるが(Stadthaus、Bridport House)、2012年に「timber first policy」を制定した。行政区のPlanning policyとして木造建築を推奨する初めての試みであり、住宅建設セグメントにおけるカーボンフットプリントのインパクトを軽減することの重要性への理解からそれは制定された。木材以外のサステイナブルな建材の仕様を妨げるものではないが、行政区内の建設プロジェクトにおけるカーボンフットプリント削減に対してHackney区は意識的であるという宣言でもある。
参考リンク
- Dalston Lane を伝える記事
http://www.construction-manager.co.uk/news/worlds-largest-clt-building-starts-site-hackney/
- Hackney 区の timber first policy
http://apps.hackney.gov.uk/servapps/newspr/NewsReleaseDetails.aspx?id=2437
まとめ
以上のような英国内における学校建築と木造建築をめぐる状況が複合的に作用した結果、学校建築の木造化への流れが生まれ、オーストリアのCLTメーカー等において英国内の学校建設関連の受注が増えているのではないだろうか。今回わかったのは、イギリスではCLT建築の裾野が確実に広がっているということである。施工会社やエンジニアリング事務所、設計事務所がCLTに関する紹介ページを自分たちのホームページ内に持っていることからも、構法としてのCLT建築が特殊なものから一般的な存在へとなりつつあることがわかる。またtimber first policyを掲げるHackney区では、行政が積極的に推奨することで、多くの中〜大規模CLT建築が実際に建設中である。また、日本の建築家坂茂がWaugh Thistleton Architectsと協力しロンドンのタワー・ブリッジ付近でCLT造の集合住宅開発に携わるとの報道も2015年7月に出ている。
イギリスは世界三位の木材輸入国である。CLT建築の実績数が増す一方で、これまで英国内にCLTの製造拠点は存在していなかった。しかし、2014年12月時点で報道されているように、スコットランドに地場産材によるCLT製造拠点をつくる計画があり、今後の動きが注目される。
参考リンク
- 坂茂による CLT 造集合住宅を伝える『Building Design』誌の記事
http://www.bdonline.co.uk/news/shigeru-ban-picks-up-first-uk-project/5076588.article
- スコットランドに建設予定の CLT 製造拠点
http://www.construction-manager.co.uk/news/scotlands-ho3me-gro4wn-clt-coul7d-roll-production/