◆ふえ・のおと◆フルーティストYoriko KASAI 葛西賀子 officialblog

~ヨーロッパ仕込みの音楽作り、研究を重ねたフルート基礎奏法・・最近は太極拳を通して体幹づくり研究も進んでいます!!

◆ロングトーンはなぜ・何が大切か?

2010-10-26 10:36:02 | 大切なこと
ロングトーン

曲を吹く前に、体を「フルートモード」にもっていき、
運指に神経を邪魔されることなく音をつくり、整えるための
必須の基礎練であることは疑いの余地もありません。

(楽曲を吹くときには、すでに体と音は整った状態で、
その楽曲の表現のほうの練習に、集中力を費やす必要があります。)

問題はその内容(汗)


以前ドイツで、オーレル・ニコレ氏のマスタークラスで、とあるドイツのフルートの学生が
(もともと美しい音にも関わらず)ロングトーンにほとんどそのレッスンが終始し、

その、ニコレ氏の耳の厳しさと、受講生に対しても決して妥協を許さない姿勢に、
強烈な印象を覚えています。(しかしあの妥協しない、あきらめない演奏家魂・・あれは本当に、
フルートを吹く者の心がけとして、その後の私にとても良い転機となりました)


モイーズの「ソノリテについて」の、あの、始まりのロングトーン。それだけで。

何度も何度も、シ~#ラ~の一課題を、

「響きが上に行ってない」 に始まり、
「音の方向性がわからない」
「その音には、どんな感情をこめて吹いているのだ?」
「響きの最高に美しいmf」「次はff!」「pp!!」「ff>ppへ!」

それはもう、様々な課題・・いえ、目標ですね、目標をもって、次々とロングトーンをさせます。
しかし、あぁ、ギャラリーを目の前に追い込まれて、憐れな受講生・・(涙)焦りますよ、あんな状況・・

(さらにその後、やっと、曲にいったか・・と思いきや、ヘンデルのソナタのハ長調1楽章の冒頭、
ド・ミ・ソ・シ・ド・・の、最初のドからミに移るその二音間で、音にひずみがある!とさらに数分・・(泣))


ロングトーンは、音を美しく整えるために必要不可欠な練習とされていますが、
音をルーチン的に(”こういう響き”という目標なしに)ただ伸ばしているだけでは、
吹いているうちに音が自動的に美しく成長するなどありえない、

すべての音に、自分の心と頭からしっかりとした”Meinung(意見・考え・・意味?)”
をもって音を出すことに臨まなければ、「音楽たる音」は出しえない、と・・。

(これには色々な意味があります。曲のキャラクター的な角度、それから調性、そしてハーモニー・・

 少し掘り下げて説明すると、例えば同じ「ド」を吹くにも、
 ド・ミ・ソのハ長調の明るいドなのか、あるいはラ・ド・ミの暗い響きの中のドなのか、

 はたまた和音の中でその音が根音なのか、第3音目なのか、一番上の第5音目なのか・・
 それによっても、響き(実際的には音程の高さや倍音)が微妙に違います。)

 ・・ここまで細かく考えるのは、本当に究極の理想ではありますが
(しかしバロックや古典の曲を本当に理解して吹くには、やはり避けて通れないことでしょう)

◆◇◆
ちょっと深く掘り下げたマニアックな話になってしまいました
違う角度からもう少し具体的な話に話題を戻して・・(汗)


ロングトーンにしろ、
そしてそれからこれは、さらに音階や分散和音などのテクニック練習の時にもですが、


基礎練習とは、
「適切な条件で、各音に対し、適切な息運びできちんと楽器に息を送れているか」
を、自らの耳で、本当によく一音一音に集中を払いながら、チェックしながら、吹くことです。

「適切な条件」とは、
上半身・肩まわりや腕・下半身の姿勢が、どこの筋肉も特別に固く縮んでいることなく、
常にしなやかでニュートラルであること、

また、豊かで深い呼吸のために、体(胸郭)の中は広く、
そして横隔膜が柔軟に動けるよう”お腹を固めすぎない”弾力性の備わった状態が整っていること、

口・唇の形が、引っ張ったりしめつけすぎたりせずに、下顎がほどよく脱力、
そして口の中はほどよく空間があき(上下の歯の間が狭くない、舌の位置が浮いていない・・など)、
両の唇ではきれいな適切な大きさの口の穴(息の出口)が作られていること、


それらの、音を出すための条件下で、後は一音一音が美しく響いているか…
自身に厳しく、良い音を出したい貪欲さで、一音一音出すことです。

・・・もちろん今上に簡単に書いた「条件」の一つ一つを満たすことの、
どれも一筋縄にいかない経験者の筆頭は自分です・・


最初はなかなか前に進まず、辛い時もあるかもしれませんが、集中力!
そして慣れも肝心で、そういった「細心の注意」と「飽くなき音への欲求」は、
紆余曲折を経ても、良い結果に結び付いていくでしょう。


ロングトーンなど基礎練習時間の、ひとつの大きな指標・・の今日のこのお話でした
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◆「マルセル・モイーズとの対話」

2010-10-09 18:59:10 | 大切なこと
なんと一か月(近く)ぶりの更新!
・・・このたび自分のレッスン教室で初発表会を催すことと相成りまして
そろそろ本番も近付いてきたので・・
レッスン毎時間が、集中力勝負!プラス けっこうたくさんの雑事!(泣)

なのでなかなかこちらの更新に時間がとれず・・・

でも生徒さんそれぞれと、舞台のためも視野にいれながらの音楽をつくる共同作業は、
いつにも増して充実度アップ

この貴重な舞台経験が、生徒の皆さんにとって、
緊張しつつも!?有意義で楽しい経験となりますように・・

◆◇◆

さてさて、今日は土曜にしてはめずらしく早くレッスン終了☆

外は激しい雨
こんな寒い日は、出かけずに、家でゆったりと体と心の保養をしますか

ということで、
現在行われているショパンコンクールのライヴをネット上で聴きながら
(便利な世の中になったものですね

「モイーズとの対話」という本をご縁あって読んでいます。



フルートの巨匠、マルセル・モイーズ。

日本では特に、「神様」と言われ、私も昔は「ソノリテ」を筆頭に、彼の膨大な著書を、
いったい何冊がむしゃらに勉強したか・・

しかしその後渡ったドイツでは、本当に不思議なくらいにモイーズの存在はきかず
どころかむしろ大学時代にたくさん勉強したはずのフランス音楽もだんだん縁遠く・・!?
だんだんドイツ色にそまり・・

そして日本に帰国して、しばらくドイツ音楽を主なレパートリーに過ごしてきたわけですが、

ここ最近になって、あらためてもう一度、
あの若い20代の頃とはまた違った感覚で、モイーズについて向き合い、
彼の音楽感、フルートイズム(!?)、きちんと対峙したくなったのです。


本を開き、その序章部分を読んだだけで・・・
彼の、フルートという範疇にとどまらない「音楽家」としての言葉に、
非常に強い感銘を受けてしまったので、ここに少しだけご紹介したく思います。


  「・・・フルートにおけるテクニックなど”無”にひとしいものです。・・
  テクニックにおける効果についていえば、最良のフルーティストでさえ、
  最良のヴァイオリニストにくらべたら”無”にひとしい

  真のフルーティストになるための唯一の道は、音楽を愛し、表現する方法を会得し、
  フルートの特別な、独特の性格を発展させることにあります。

  ドビュッシーやラヴェルのように、フルーティストには彼らと同等に
  名をかかげられる者がいません。私がいつも深く心にとめているのは、

  作曲家と音楽に対する深い尊敬と称賛であります。
  しかしこのためには、その神のような創造者に対する深い愛と、
  崇拝と献身とが必要です。・・・」


私もずっとフルートという楽器に取り組みながら、苦しい部分を持ち続けています。
だから、この文の言わんとすること・・巨匠には到底かなわない、
けど、何かとても理解・共感できるのです・・

その苦しい部分、とは、
フルートは、その音色などの特色から、実のところ
ヴァイオリンなどには到底かなわない限られた役が強いられていて・・

特に昔の楽器は今ほど機能性に優れておらず、音程などもあまり良くなかったので、

だから、ベートーヴェンやモーツァルト、シューベルト、シューマン、ブラームス・・
音楽的に充実した天才的な作曲家が、なかなか(というかほとんど)フルートの曲を
書いてくれなかったのではと想像しています。

(システムが進んだ今のフルートなら、もっと書いていてくれていたか・・などは
不毛な想像でしょうか・・。)


また、フルートなど単旋律楽器は非常に危険な落とし穴があって、
しかもフルートという楽器は、運動機能にとても優れているため、
特に近年の曲は旋律だけで(テクニック的に)難しい箇所が多く・・

旋律を(技術的に)吹き遂げるだけに練習の労力を使い果たしてしまい、
ピアノなどと一緒になって初めての、”音楽そのもの”に向き合う時間が実は結構少ない。


  「・・テクニック、それはないよりはあるほうがよい。
  音楽における音楽性、スタイル、美しさ、表現というものはもっと意味があります。・・・」

中には、音楽の流れ(抑揚)の基本である、和声の「T-S-D-T」を知らない
職業的フルーティストも残念ながら時々見受けられます・・。

(あえて懺悔すれば私も、ドイツに行ってあるすばらしい指導者と出会って初めて、厳しく指導を受けました。
もちろんこのことは、生徒側にも指導者側にも、根気と労力がいることですが、
これは音楽表現の基礎、美しい音楽を奏でるためには、
もっと、このことをきちんと教えるフルート指導者が増えることを願ってやみません・・。)



さて今このモイーズの本も、「演奏論」に読み入ったところですが、
これがまたもう・・!

読めば読むほどに、
モイーズ氏の、フルートを通じて音楽を奏でることの苦悩と葛藤と、しかし精神的充実と、・・
とても深い言葉が書き並べられています。

また、読み込んで咀嚼して、ブログに熱く語るかもしれません。


今、非常に慌ただしい時間の流れに、ただただ流されやすく過ぎ去る毎日ですが・・
この秋の夜長(?)に、久々にドイツでのゆったりとした時間を思い出しました。

こうやって、静かに本を読んで、「教養」という名の栄養を得、音楽に思いを巡らし、
時間に制約なしにゆったりした心持で存分に練習し、
とことんその天才たちの書いた音楽の、音楽表現追求に向き合う・・

こんな風に、私はドイツでの5年間を過ごせてきた。

(本当に自由になるお金がもてず貧乏だったけど・
宝のような時間だったな、と今更ながらの感謝と、そして今に対する反省と・・

そんな、ふと秋の冷たい雨の夕べでした
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