古代の日本人にとって、一日の始まりは、朝ではなくて、日没だったという。始まりという感覚も、また違ったものかもしれない。今の我々とは、まったく違った感覚で暮らしていたのだろうけれど、それでも、僕たちは、その頃から変わらぬ、日本人の持っている、独特の感じ方を、体のどこかが、覚えているような気がするのである。個人的な趣味であるが、僕はそういうものを、とても愛おしく感じるのである。死者は、山奥深くにある、別の世界に、暮らしていると信じられていて、死んだ人を探して、山の中へ入っていく、というような話や歌も、多いのである。万葉集の巻七に挽歌が、いくつか収められている。どれも良くて、じーんとするのである。一四〇九「秋山の 黄葉(もみち)あはれと うらぶれて 入りにし妹(いも)は 待てど来まさず」 じーんとする、ぐらいしか言えないのであるが。
洋司
洋司