goo blog サービス終了のお知らせ 

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログです。

普通解雇・懲戒解雇において解雇権濫用の有無を判断する具体的事情

2010-12-30 | 日記
Q2普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情として,どのような事情を立証すればいいのですか?

 普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情としては,実務上,以下の①②が争われることが多いとされています(東京地裁労働部の裁判官によって執筆された『労働事件審理ノート』)。

① 勤務成績,勤務態度等が不良で職務を行う能力や適格性を欠いている場合か
 当該企業の種類,規模,職務内容,労働者の採用理由(職務に要求される能力,勤務態度がどの程度か),勤務成績,勤務態度の不良の程度(企業の業務遂行に支障を生じ,解雇しなければならないほどに高いかどうか),その回数(1回の過誤か,繰り返すものか),改善の余地があるか,会社の指導があったか(注意・警告をしたり,反省の機会を与えたか),他の労働者との取扱いに不均衡はないかなどを総合検討する。
② 規律違反行為があるか
 規律違反行為の態様(業務命令違反,職務専念義務違反,信用保持義務違反等),程度,回数,改善の余地の有無等を同様に総合検討する。懲戒解雇の場合は,普通解雇の場合よりも大きな不利益を労働者に与えるものであるから,規律違反の程度は,制裁として労働関係から排除することを正当化するほどの程度に達していることを要する。

 ここで注意しなければならないのは,漠然と,会社が解雇を有効と判断すべき事情が多いように思えた場合であっても,解雇しても大丈夫だとは直ちにはいえない点です。

 勤務成績,勤務態度等が不良であるというためには,その評価を基礎づける「具体的事実」を立証できなければなりませんが,「仕事ができない。」「勤務態度に問題がある。」「協調性がない。」といった抽象的な説明しかできない事例が散見されます。
 解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実を説明できないようでは,大した理由もないのに,何となく気に入らないから解雇しただけなのではないかとの疑いを払拭することができなくなってしまいますので,最低限,どこがどのように問題なのか,その評価を基礎づける具体的事実を説明できるようにしておく必要があります。
 「彼の勤務成績,勤務態度が悪いことは,本人が一番良く知っているはずだ。このことは社員みんなが知っていて証言してくれるはずだから,裁判にも勝てる。」といった安易な考えに基づいて「問題社員」を解雇する事例が見られますが,訴訟になるような事案では,労働者側はほぼ間違いなく自分の勤務成績,勤務態度には問題がなかったと主張してきますし,社員等の利害関係人の証言は経営者が思っているほど重視されません。
 したがって,解雇に踏み切る前の時点で,解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実を説明することができるのかどうか,その事実を立証できるだけの客観的証拠が準備できているかどうかを確認する必要があります。
 そして,相手の言い分を聞かないことには,解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実があるのかないのかを確認することが難しいのが通常ですから,解雇に踏み切る前に,「問題社員」の言い分を十分に聴取し,使用者側が認識している事実関係と照らし合わせて,客観的にどのような事実が認定できるかを検討すべきと考えます。

 社員を解雇する場合には,労働者に指導,注意,警告しても改善の見込みがないような大きな問題がある場合でない限り,解雇に先立ち,十分な指導,注意,警告をし,反省の機会を与えることが必要となります。
 実際に解雇に踏み切る場合の「警告」としては,原則として,当該社員に対し,具体的問題点を指摘し,それが改善されない場合には解雇する旨警告し,実際に改善されなかった場合に初めて,解雇すべきと考えます。
 このような警告がないままいきなり解雇した場合,労働者にとって不意打ちになりますから,労働者の納得を得にくく,トラブルになりやすいですし,問題社員の解雇であっても,解雇が無効と判断されやすくなります。
 警告の内容としては,「具体的」に問題点を指摘し,具体的にどうすれば解雇されることを回避できるのか,労働者が理解できるようにしておく必要があります。
 具体的に問題点を指摘できない場合は,解雇事由が存在しないわけですから,解雇を回避する必要があるという結論になります。
 また,警告した結果,問題点が改善された場合には,解雇事由が存在しなくなっているわけですから,やはり,解雇すべきではないという結論になります。
 ここで重要なのは,最初に解雇を決定し,それから,どうやって辞めさせるかを検討するのではなく,解雇を回避する方法がないか検討したものの,やはり解雇を回避できない事情があるため,やむなく解雇に踏み切るというスタンスです。
 まずは,十分に指導,注意,警告をした上で,それでも改善されない場合に初めて,解雇に踏み切るべきことになるのが通常ですので,順番を間違えないようにして下さい。

弁護士 藤田 進太郎

正社員の解雇が有効となるための要件

2010-12-30 | 日記
Q1正社員の解雇が有効となるには,どのような要件を満たす必要がありますか?

 民法上の原則では,「当事者が雇用の期間を定めなかったときは,各当事者は,いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において,雇用は,解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する。」(民法627条1項)などと定められており,一見,使用者は,民法627条所定の期間前に解約を申し入れてさえいれば,雇用契約を自由に終了させることができるようにも思えますが,実際には,解雇は厳しく制限されています。

 まず,労働基準法違反の申告を監督機関にしたことを理由とする解雇,性別を理由とする解雇,女性労働者の妊娠,出産,産前産後休業等を理由とする解雇,不当労働行為の不利益取扱いとなる解雇,公益通報をしたことを理由とする解雇等,一定の場合については,法律上解雇が禁止されています。

 また,使用者が労働者を解雇しようとする場合には,原則として,30日以上前に解雇の予告をするか,30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません(労基法20条)。
 解雇予告又は解雇予告手当の支払なしに即時解雇がなされた場合は,即時解雇としての効力は生じませんが,使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り,通知後,30日の期間を経過するか,又は通知の後に所定の解雇予告手当の支払をしたときは,そのいずれかのときから解雇の効力を生じることになります(相対的無効説,細谷服装事件における最高裁昭和35年3月11日判決)。

 さらに,当該解雇が,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,解雇権を濫用したものとして,解雇は無効となります(労働契約法16条)。
 実際の訴訟で解雇の有効性が争われた場合,解雇権濫用の有無が中心的争点となることが多く,原則として解雇は無効で,特別な事情がある場合に限り解雇が有効となるというように,原則と例外が逆転した実務運用がなされていますので,有効な解雇を行うことは極めて難しくなっています。
 実際に有効な解雇を行うことが難しいにもかかわらず,それなりの割合の経営者が,解雇予告又は過去予告手当の支払さえすれば解雇できると誤解していますので,注意が必要です。

 近年,解雇を契機として労使紛争が表面化し,使用者が多額の解決金の支払を余儀なくされることが多くなっています。
 社員の解雇をし,紛争が表面化してから弁護士に相談したのでは,過去の事実は動かせない以上,どれだけ優秀な弁護士に依頼したとしても,それなりの出費は避けられないのが通常です。
 解雇を検討する場合は,解雇に踏み切る前の段階で,弁護士に相談し,弁護士の指導の下,解雇を行うことをお勧めします。

弁護士 藤田 進太郎