弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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試用期間中の正社員を本採用拒否(解雇)する場合の注意点

2010-11-30 | 日記
Q6試用期間中の正社員の本採用拒否(解雇)をする場合,どのような点に注意する必要がありますか?

 使用者と試用期間中の正社員との間では,既に留保解約権の付いた労働契約が成立していると考えられる事案がほとんどですから,本採用拒否の法的性質は,留保された解約権の行使であり,解雇の一種ということになるのが通常です。
 三菱樹脂事件における最高裁大法廷昭和48年12月12日判決でも,「被上告人に対する本件本採用の拒否は,留保解約権の行使,すなわち雇入れ後における解雇にあたり,これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない。」と判示されています。
 したがって,試用者の本採用拒否の場面でも,解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用されることになります。

 ただし,試用者の本採用拒否は,本採用後の解雇と比べて,使用者が持つ裁量の範囲は広いと考えられており,上記最高裁大法廷判決も,試用期間における留保解約権に基づく解雇は,通常の解雇と全く同一に論じることはできず,留保解約権に基づく解雇は,通常の解雇の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものと判示しています。
 具体的には,試用者の本採用拒否は,「解約権留保の趣旨,目的に照らして,客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許される」(三菱樹脂事件における最高裁大法廷昭和48年12月12日判決)ということになります。


 「解約権留保の趣旨,目的」と言われても,直ちにはイメージをつかみにくいかもしれませんが,上記大法廷判決は,次のように説明しています。
 「換言すれば,企業者が,採用決定後における調査の結果により,または試用中の勤務状態等により,当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において,そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが,上記解約権留保の趣旨,目的に徴して,客観的に相当であると認められる場合には,さきに留保した解約権を行使することができるが,その程度に至らない場合には,これを行使することはできないと解すべきである。」
 試用期間中の解雇は緩やかに認められるというイメージがありますが,それは,「当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実」に基づく本採用拒否について言えることであって,採用当初から知り得た事実を理由とした場合は,緩やかな基準で解雇することはできないということを理解しておく必要があります。

 例えば,就労開始から1か月程度で本採用拒否(解雇)したところ,「たった1か月程度働いただけでは,本採用拒否の理由となるような事情が分かるはずがない。」といった趣旨の指摘がなされたことに対する反論として,「たった1か月では本採用拒否の理由となるような事情が分からないようなことを言っているが,そんなことはない。採用面接の時から,あいつがダメなやつだということは分かっていた。」というようなものは,通用しないことになります。
 採用時の時点でもともと分かっていた事情を理由に本採用拒否(解雇)することがおかしいことは,常識で考えても分かりますよね。
 「ダメなのは分かっていたけど,彼も就職できなくて困っているようだし,もしかしたら会社に貢献できる点も見つかるかもしれないから,チャンスを与えるために仮に採用してあげたんだ。」という発想は,雇用主の責任の重さを考えると,危険な考え方です。
 個人的には,魅力を感じない相手だけど,もしかしたらいいところが見つかるかもしれないから,とりあえず付き合ってみて,ダメだったら別れればいい,という乱暴な発想に似ているとさえ思います。
 使用者は,その応募者に魅力があって雇いたいと考える場合に初めて,雇うべきなのです。
 「雇ってあげる。」という発想はトラブルの元ですから,そのような発想は持たないよう,十分に注意する必要があります。
 採用を決める時点で,本採用拒否(解雇)したくなるような事情のある応募者がいた場合は,初めから不採用としなければならないと思います。
 採用時にかかる広告費用,手間等のコストを惜しんだばかりに,後で後悔することのないようにして下さい。

 なお,私の印象では,問題社員の対応に苦労することになった原因のかなりの部分は,社長の多忙などのため,採用活動にかける手間を惜しんだことにあります。
 問題を起こすような応募者だとは全く思わなかったのに,採用してみたら問題ばかり起こして困っているという事案もありますが,採用時にあまりいい印象を持たなかった応募者を採用してみたところ,やっぱり問題社員だったという事案が,かなりの割合を占めています。
 残念ながら,悪い方の直感は,的中してしまうことが多いようです。
 また,「類は友を呼ぶ。」ということわざのとおり,部下に採用を任せた場合,その部下は,仕事に関し,自分と似た価値観,ものの考え方を持った人物を採用する傾向にあります。
 社長を中心とした結束が生命線の中小零細企業の場合は,社長自らが採用活動に深く係わるべきと考えますが,仮に,部下の誰かに採用を任せることになった場合は,社長の会社経営に協力的で人間性も優れている人物に採用を担当させるべきと考えます。

 本採用拒否(留保された解約権の行使)は,原則として試用期間中にしなければならず,試用期間満了により解約権は消滅することになりますので,使用者は,本採用の可否については,試用期間満了前に余裕を持って判断し,当該試用者に対して通知する必要があります。
 30日の解雇予告期間を設ける場合は,試用期間満了の30日以上前に解雇予告をしておく必要がありますから,3か月の試用期間の場合,実質2か月で本採用の可否を判断することになります。
 4月1日採用の正社員の場合,4月末から5月上旬にかけて日本はゴールデンウィークで休みですから,本採用の可否を5月末までに判断することは困難かもしれません。
 本採用拒否(解雇)の理由となる事情は,「当初知ることができず,また知ることが期待できないような事実」に限られるわけですから,そう簡単には見つからないはずです。
 すぐに見つかるような事情でしたら,採用の時点で知ることが期待できた事実と評価されることが多いですから,その事情を根拠に本採用拒否(解雇)をすることはできません。
 試用期間は,原則として6か月間とすることをお勧めします。

弁護士 藤田 進太郎


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普通解雇事由に該当するものの,懲戒解雇事由に該当するかどうかが微妙な事案における解雇の有効性

2010-11-29 | 日記
Q5普通解雇事由に該当することは明らかなものの,懲戒解雇事由に該当するかどうかが微妙な事案において,解雇の有効性を判断するにあたり問題となりやすい論点には,どのようなものがありますか?

 まず,懲戒解雇事由に該当し得る場合であっても普通解雇できるかどうかという問題ですが,高知放送事件における最高裁昭和52年1月31日判決は,「就業規則所定の懲戒事由にあたる事実がある場合において,本人の再就職など将来を考慮して懲戒解雇に処することなく,普通解雇に処することは,それがたとえ懲戒の目的を有するとしても,必ずしも許されないわけではない。」と判断しており,懲戒解雇事由がある場合であっても,就業規則の普通解雇事由に該当するのであれば,普通解雇できることに争いはありません。
 この場合の普通解雇の有効性は,普通解雇の要件を具備しているかどうかにより判断されます。
 就業規則の普通解雇事由のいずれにも該当しない場合に普通解雇できるかについては争いがありますので,就業規則の普通解雇事由に包括条項を入れておくなどして,懲戒解雇事由が普通解雇事由にも該当することを明示しておくべきでしょう。

 次に,懲戒解雇が無効と判断された場合に,当該懲戒解雇の意思表示は普通解雇の意思表示として有効であると主張できるかという問題ですが,懲戒解雇のみを行ったことが明らかな場合は,普通解雇であれば有効な事案であっても,懲戒解雇を普通解雇に転換し,普通解雇の有効性を主張することは認められず,当該解雇は無効となるのが通常です。
 裁判例の中には「使用者が,懲戒解雇の要件は満たさないとしても,当該労働者との雇用関係を解消したいとの意思を有しており,懲戒解雇に至る経過に照らして,使用者が懲戒解雇の意思表示に,予備的に普通解雇の意思表示をしたものと認定できる場合には,懲戒解雇の意思表示に予備的に普通解雇の意思表示が内包されていると認めることができる」とするもの(岡田運送事件における東京地裁平成14年4月24日判決)もありますが,全ての場合に当てはまると考えることはできません。
 したがって,普通解雇としては有効であることが明らかではあるが,懲戒解雇として有効かどうかは微妙な事案では,使用者としては,懲戒解雇と合わせて普通解雇の意思表示も明示的にしておくべきでしょう。
 当初,懲戒解雇のみを行ってしまったが,訴訟の審理が進むにつれ,懲戒解雇としては無効となる可能性が高いことが判明したような場合も,事後的に普通解雇の意思表示をしておくべきです。

弁護士 藤田 進太郎

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ビクターサービスエンジニアリング事件東京高裁平成22年8月26日判決(労経速2083-23)

2010-11-27 | 日記
被控訴人との業務委託契約に基づいて日本ビクター株式会社の音響製品等の修理等業務に従事する個人営業のビクターサービス代行店により労働組合として結成されたとする補助参加人分会,補助参加人大阪地本及び全日本金属情報機器労働組合ビクターサービス支部は代行店の待遇改善について被控訴人に対し団体交渉を申し入れたが,被控訴人が補助参加人分会が出席する交渉及び代行店に関する事項についての交渉に応じなかったので,補助参加人ら及び組合支部は上記団交拒否が不当労働行為に当たるとして大阪府労働委員会に救済申立てをしました。
本件は,被控訴人が,府労委から,組合支部に対するものを除き,労働組合法7条2号に当たる不当労働行為とされ,団体交渉に応ずべきことなどを命じられたため,これを不服として中央労働委員会に再審査を申し立てたところ,中労委により再審査申立てを棄却する旨の命令がされたことから,個人代行店は労組法上の労働者に当たらないなどと主張して,同命令の取消しを求めた事案です。
原判決は,被控訴人の請求を認容したため,控訴人がこれを不服として控訴しました。

本判決は,諸点を総合考慮し,本件委託契約に基づく被控訴人と個人代行店との関係には拘束,指揮監督とみられる部分があるが,全体として見れば,個人代行店は,一定の制約はあるものの基本的には被控訴人からの業務の依頼に対し許諾の自由を有し,業務に関し,時間的・場所的な拘束を受けず,業務の遂行について被控訴人から個々に具体的な指揮監督を受けることがなく,また,報酬は行った業務内容に応じた出来高で支払われているということができ,同代行店は,自己の計算と危険の下に業務に従事する独立の自営業者の実態を備えた者として,被控訴人から業務を受注する外注先と認めるのが相当であると判断し,控訴を棄却しました。

この判決については,以前,より詳しいコメントをしてますので,そちらもご参照下さい。

弁護士 藤田 進太郎


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大庄事件京都地裁平成22年5月25日判決(労経速2083-3)

2010-11-27 | 日記
本件は,原告らの子であるGが平成19年4月1日に被告会社に入社し,被告会社が運営する店舗で勤務していたところ,同年8月11日,急性左心機能不全により死亡したことにつき,Gの死亡の原因は被告会社での長時間労働にあると主張して,Gの相続人である原告らが,被告会社に対しては不法行為又は債務不履行(安全配慮義務違反)に基づき,被告会社の取締役である被告C,被告D,被告E及び被告Fに対しては不法行為又は会社法429条1項に基づき,損害賠償を請求した事案です。

本判決は,Gに恒常的な長時間労働をさせていたことなどを理由として,被告会社の安全配慮義務違反等とGの死亡との間の相当因果関係を認定しました。
判決の認定した時間外労働時間は,以下のとおりとなります。

死亡前1か月間 103時間
死亡前2か月目 116時間
死亡前3か月目 141時間
死亡前4か月目  88時間

さすがに,時間外労働時間が100時間を超えると,訴訟で会社が防御するのはきついです。
できれば,1月当たり45時間以内,多くても80時間未満には抑えておきたいところです。

会社の責任が免れないのは仕方ないとしても,本判決の特徴は,取締役にも,会社法429条1項(旧商法266条の3第1項)責任を負わせていることです。
これが一般化された場合,それなりの割合の企業の役員も,会社法429条1項の責任を負う危険にさらされていることになるものと思われます。
また,不法行為責任と会社法429条1項の責任とで,取締役らの負う義務内容を異なるものとしている店についても,分析が必要です。

本判決は,まず,以下のような規範を定立します。

会社法429条1項は,被告会社内の取締役の地位の重要性にかんがみ,取締役の職務懈怠によって当該株式会社が第三者に損害を与えた場合には,第三者を保護するために,法律上特別に取締役に課した責任であるところ,労使関係は企業経営について不可欠なものであり,取締役は,会社に対する善管注意義務として,会社の使用者としての立場から労働者の安全に配慮すべき義務を負い,それを懈怠して労働者に損害を与えた場合には同条項の責任を負うと解するのが相当である。
被告会社においては,前記認定の被告会社の組織体制からすると,勤務時間を管理すべき部署は,管理本部の人事管理部及び店舗本部であったということができ,I店については,そのほか,店舗本部の第一支社及びその下部の組織もそれにあたるといえる。
したがって,人事管理部の上部組織である管理本部長であった被告Fや,店舗本部長であった被告D,店舗本部の下部組織である第一支社長であった被告Eも,労働者の生命・健康を損なうことがないような大勢を構築すべき義務を負っていたといえる。
また,被告Cは,被告会社の代表取締役であり,経営者として,労働者の生命・健康を損なうことがないような体制を構築すべき義務を負っていたということができる。

その上で,以下のようなあてはめを行っています。

しかるに,被告会社では,時間外労働として1か月100時間,それを6か月にわたって許容する三六協定を締結しているところ,1か月100時間というのは,前記1(6)のとおり,厚生労働省の基準で定める業務と発症の関連性が強いと評価できるほどの長時間労働であることなどからすると,労働者の労働状態について配慮していたものとは全く認められない。
また,被告会社の給与体系として,前記1(3)アのとおりの定めをしており,基本給の中に,時間外労働80時間分が組み込まれているなど,到底,被告会社において,労働者の生命・健康に配慮し,労働時間が長くならないよう適切な措置をとる体制をとっていたものとはいえない。
確かに,被告会社のような大企業においては,被告取締役らが個別具体的な店舗労働者の勤務時間を逐一把握することは不可能であるが,被告会社として,前記のような三六協定を締結し,給与体系を取っており,これらの協定や給与体系は被告会社の基本的な決定事項であるから,被告取締役らにおいて承認していることは明らかであるといえる。
そして,このような三六協定や給与体系の下では,当然に,Gのように,恒常的に長時間労働をする者が多数出現することを前提としていたものといわざるを得ない。
そうすると,被告取締役らにおいて,労働時間が過重にならないよう適切な体制をとらなかっただけでなく,前記1(6)の基準からして,一見して不合理であることが明らかな体制をとっていたのであり,それに基づいて労働者が就労していることを十分に認識し得たのであるから,被告取締役らは,悪意又は重大な過失により,そのような体制をとっていたということができ,任務懈怠があったことは明らかである。
そして,その結果,Gの死という結果を招いたのであるから,会社法429条1項に基づき,被告取締役らは責任を負う。
なお,被告取締役らは,被告会社の規模や体制等からして,直接,Gの労働時間を把握・管理する立場ではなく,日ごろの長時間労働から判断して休憩,休日を取らせるなど具体的な措置をとる義務があったとは認められないため,民法709条の不法行為上の責任を負うとはいえない。

弁護士 藤田 進太郎
 

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労働問題FAQ 改訂

2010-11-24 | 日記
労働問題FAQを改訂しました。

労働問題FAQ 
労働問題の弁護士相談(使用者側)においてよくある質問に関し,回答集を作成しました。
 労働問題の予防解決のために役に立つ回答内容になるよう心がけたつもりですが,FAQというものの性質上,回答内容が個別の事案にそのまま当てはまるとは限らないという点についてご留意いただきますようお願いします。
 労働問題について弁護士の踏み込んだアドバイスが必要な場合は,四谷麹町法律事務所(東京)労働相談(使用者側限定)を電話予約していただきますようお願いします。

四谷麹町法律事務所
弁護士 藤田 進太郎

Q1正社員の解雇が有効となるには,どのような要件を満たす必要がありますか?

Q2普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情として,どのような事情を立証すればいいのですか?

Q3整理解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情としては,どのようなものが考えられますか?

Q4懲戒解雇を行うにあたり,特に注意すべき点はどのようなものですか?

Q5普通解雇事由に該当することは明らかなものの,懲戒解雇事由に該当するかどうかが微妙な事案において,解雇の有効性を判断するにあたり問題となりやすい論点には,どのようなものがありますか?

Q6試用期間中の正社員の本採用拒否(解雇)をする場合,どのような点に注意する必要がありますか?

Q7配転命令を拒否した正社員を解雇することはできますか?

Q8有期雇用労働者との間の雇用契約を終了させる際には,どのようなことに注意する必要がありますか?

Q9解雇・雇止めをした場合,労働審判・訴訟などにおいて,使用者はどのような請求を受けることが多いのでしょうか?

Q10辞めさせたい正社員がいる場合,どのように対処すればいいのでしょうか?

Q11労基法上,使用者が割増賃金(残業代等)の支払義務を負うのはどのような場合ですか?

Q12労基法上,月給制の正社員に関する割増賃金の金額は,どのように計算することになるのですか?

Q13終業時刻を過ぎても退社しないままダラダラと会社に残っている社員がいる場合,会社としてはどのような対応をすべきですか?

Q14使用者と社員が合意することにより,以下のような定めをすることはできますか?
① 1日の所定労働時間を12時間として,基本給を1日12時間×所定労働日数勤務したことに対する対価とすること
② 週40時間,1日8時間を超えて労働した場合でも残業代を支給しないとすること
③ 残業代込みで月給30万円とすること
④ 一定額の残業手当を支給するとすること


Q15管理職には残業代を支払わなくてもいいのでしょうか?

Q16労災保険給付がなされれば,使用者は,労働者から損害賠償請求を受けずに済むのでしょうか?

Q17業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷に関し,使用者が負う注意義務の具体的内容はどのようなものですか?

Q18身体に対する加害行為を原因とする被害者の損害賠償請求において賠償額を決定するに当たり,損害の発生又は拡大に寄与した被害者の性格等の心因的要因は考慮されますか?

Q19アスベスト(石綿)に関する過去の知見,規制は,どのようなものだったのですか?

Q20アスベスト(石綿)の危険性に対する予見可能性,使用者の安全配慮義務の程度は,どのようなものですか?

Q21アスベスト(石綿)に関する安全配慮義務違反の具体的事実としては,どのような事項が検討されるのですか?

Q22労働審判制度の主な特徴はどのようなものですか?

Q23労働審判の申立て件数,審理期間,紛争解決実績はどうなっていますか

Q24労働審判を申し立てられた場合における,使用者側の主な注意事項はどのようなものですか?

Q25労働審判手続において調停が成立しなかった場合は,どうなるのですか?

Q26「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なくて拒むこと。」(労働組合法7条2号)は,不当労働行為の一つとして禁止されていますが,「使用者」とは雇用主のみを指すのですか?

Q27「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由なくて拒むこと。」(労働組合法7条2号)は,不当労働行為の一つとして禁止されていますが,「労働者」とはどの範囲の者を指すのですか?

Q28使用者が団体交渉に応じているにもかかわらず,団体交渉拒否と評価され,不当労働行為となることもあるのですか?

Q29団体交渉が行き詰まった場合は,団体交渉を打ち切ることができますか?

Q30労働組合による街宣活動が違法と評価されるのは,どのような場合ですか?

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懲戒解雇を行うにあたり特に注意すべき点

2010-11-19 | 日記

Q4懲戒解雇を行うにあたり,特に注意すべき点はどのようなものですか

 普通解雇が労働契約の解約権の行使であるのに対し,懲戒解雇は企業秩序違反を理由に労働者を懲戒する目的でなされる解雇であることから,普通解雇とは異なる配慮が必要となります。

 フジ興産事件における平成15年10月10日最高裁判決が「使用者が労働者を懲戒するには,あらかじめ就業規則において懲戒の種類及び事由を定めておくことを要する」と判示していますので,懲戒解雇を行おうとする場合には,その前提として,就業規則に懲戒解雇事由を明確に規定した上で,就業規則を周知(従業員が就業規則の存在や内容を知ろうと思えばいつでも知ることができるようにしておくこと。)させておく必要があります。
 就業規則等において懲戒解雇の定めがなされていない場合には,労働者が重大な企業秩序違反行為を行った場合であっても,懲戒解雇することはできません。

 山口観光事件における最高裁平成8年9月26日判決が,具体的な懲戒の適否は,その理由とされた非違行為との関係において判断されるべきものであり,懲戒当時に使用者が認識していなかった非違行為は,特段の事情ない限り,当該懲戒の理由とされたものでないことが明らかであるから,その存在をもって当該懲戒の有効性を根拠付けることはできないと判示していますので,懲戒事由は,特段の事情がない限り,後日,追加することはできず,懲戒解雇する場合に懲戒事由を労働者に告知する場合は,懲戒事由をもれなく告知しておく必要があります。

弁護士 藤田 進太郎


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修習生給費制,1年継続へ 今国会で法改正―民自公が一致

2010-11-18 | 日記

司法修習生の給費制が,1年,継続されることになりそうです。

これまでと流れが大きく変わりそうですね。

民主党の言い出したことが実現する見込みが高くなっているのは,驚きです。

よく,自公が同意したものだと思います。

給費制の維持は,民主党にはどうせ無理だといった趣旨の発言を私はしたことがありますが,侮辱でしたね。

撤回します。

 

さて,この記事に関し,一番多いヤフーのコメントは以下のとおりです。

もっともな話です。

給費制はお金がかかって困るというのであれば,まずは,就職の決まらない司法修習生が出てこない程度に,合格者数を絞るのが先でしょう。

不必要に乱立したロースクールには,大学関係者の利権が絡んでいて,方向転換には抵抗が予想されますが,何よりも,何が国民のためになるのか?を考えて,行動して欲しいものです。

 

弁護士 藤田 進太郎


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佐川急便ほか事件仙台地裁平成22年4月20日判決(労経速2982-18)

2010-11-17 | 日記

本件は,派遣社員が派遣先の会社で恒常的に長時間の深夜労働を余儀なくされ,うつ病に罹患したために,自殺するに至ったとして,上記派遣社員の母(原告)が派遣先の会社及び派遣元の会社に対し,安全配慮義務違反による債務不履行又は不法行為に基づき上記派遣社員及び母の被った損害の賠償を求めた事案です。

本判決は,原告の主張する諸事情は,うつ病発症の契機となる具体的なエピソードとしては十分な内容ということはできず,これらのエピソードのみをもって,ICD-10に記載されている典型的症状の「抑うつ気分」や「活力の減退による易疲労感の増大や活動性の減少」,一般的症状の「自己評価と自信の低下」,「罪責感と無価値感」等があったとはたやすく認めがたいなどとして,原告の請求を棄却しました。

原告は,長時間労働,深夜労働などによりうつ病に罹患したと主張していますが,本件程度の時間外労働により直ちにうつ病を発症させるものとまでは断定しがたく,恒常的な深夜労働によっても慢性疲労が生じていたとは認められないとしています。

本件結論としてはこれで妥当なのかもしれませんが,個人的には,時間外労働時間が長すぎるという印象はあります。

年明けから自殺した3月27日まではそれほどでもありませんが,

前年10月 91時間15分

前年11月 81時間02分

前年12月 103時間09分

の時間外労働時間が認定されています。

仮に,年末年始に自殺していたら,どういう結論になっていたのでしょう?

うつ病に業務起因性がないとしても,若くて体力のある人でないと,なかなか続けることはできない仕事かもしれませんね。

弁護士 藤田 進太郎

 

 

 


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TOTOほか事件大津地裁平成22年6月22日判決(労経速2082-3)

2010-11-17 | 日記

本件は,被告TOTO株式会社の工場内で稼働していたHが製造機械に挟まれる事故により死亡したことに関して,

(1) Hの父母である原告A及び原告Bが,Hの属する組の組長であった被告Fには作業員の安全に配慮すべき義務等があるにもかかわらず,これを怠った,又は,被告TOTOが所有する上記工場には瑕疵があったとして,被告Fに対しては民法709条に基づき,被告TOTOに対しては同法715条又は717条に基づき,被告滋賀設備株式会社に対しては同法715条に基づき,損害賠償金及びこれに対する不法行為の日である平成19年5月14日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め,

(2) 原告A,原告B及びHの兄である原告Cが,被告Fには被害者の遺族に対して事故情報を提供すべき義務があるにもかかわらず,これを怠ったとして,被告Fに対しては民法709条に基づき,被告TOTO及び被告滋賀設備にチアしては民法715条にもとづき,損害賠償金及びこれに対する前同様の遅延損害金の連帯支払を求め,

(3) 原告らが,被告TOTOには事故後被害者の遺族に対して誠実に対応すべき義務があるにもかかわらず,これを怠ったとして,被告TOTOに対し民法709条に基づき,損害賠償金及びこれに対する不法行為の日以後である平成19年12月4日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め

た事案です。

本判決は,下請会社の従業員,下請会社の責任のみならず,発注企業と下請会社の従業員との間に実質的な指揮監督関係が存在していたとして,発注企業の使用者責任も認められています。

発注企業は,請負の適正化を行うなどの努力をしていたようですが,まずは,労働者の安全を確保することを第一に考える必要があったということでしょう。

 

弁護士 藤田 進太郎


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整理解雇において解雇権濫用の有無を判断する具体的事情

2010-11-17 | 日記

Q3整理解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情としては,どのようなものが考えられますか?

 業績不振による事業場閉鎖,企業経営の合理化等,会社の存続を前提としつつ経営上の理由から人員削減を行う整理解雇は,労働者には必ずしも責任がないにもかかわらず行われるものであることもあり,有効な整理解雇を行うことは通常の解雇以上に難しくなっています。
 整理解雇については,一般に,①人員削減の必要性,②人員削減の手段として整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性,③被解雇者選定の妥当性,④手続の妥当性,の4要素を考慮して,証拠上,客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合に該当するかどうかが検討され,その有効性が判断されることになります(労働契約法16条)。
 ①②③の要素は解雇権濫用の有無を判断する際の評価障害事実,④の要素は評価根拠事実と考えられますので,①②③について使用者側が主張立証し,④については労働者側が主張立証する必要があることになります。

 ①人員削減の必要性は,整理解雇が有効とされる上で必要不可欠の要素であり,他の要素の要求水準を設定する役割も有しています。
 裁判所は,人員削減の必要性の有無について詳細に検討しますが,使用者の経営判断を尊重する傾向にあり,明白に人員削減の必要性がない場合を除けば,人員削減の必要性自体は肯定されるのが通常です。
 ただし,人員削減の必要性がそれ程高くないにもかかわらず実施された整理解雇は,人員削減の手段として整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性を欠くなどの理由から解雇権の濫用と判断されることが多いため,人員削減の必要性の程度についても慎重に検討した上で,整理解雇に踏み切るかどうかを判断する必要があります。

 ②人員削減の手段として整理解雇(指名解雇)を選択することの必要性に関してですが,使用者は,整理解雇を行うに先立ち,配転,出向,一時帰休,希望退職の募集などの他の手段によって整理解雇回避の努力をする信義則上の義務(解雇回避努力義務)を負うと考えられており,他の手段を十分に検討せずにいきなり整理解雇を行った場合,適切な手順を踏めば整理解雇が有効となり得たような事案であっても,解雇権の濫用と判断されるリスクが極めて高くなります。
 この要素が否定された事案では,そもそも解雇回避措置の検討すらされていない事案が多いので,使用者としては,たとえ人員削減の必要性がそれなりに高い事案であっても,一定の手順を踏んだ上で整理解雇に踏み切る努力をする必要があるのだということを十分に認識すべきです。

 ③被解雇者選定の妥当性に関しては,人選基準そのものの合理性と実際のあてはめの合理性を検討する必要があり,その基準は使用者の恣意が入らない客観的なものであることが必要です。
 人選基準を設けなかった場合や客観性・合理性を欠く人選基準に基づいて整理解雇がなされた場合は,被解雇者選定の妥当性を欠くと判断されるリスクが高くなります。
 したがって,まずは客観的で合理的な人選基準の設定を行ってから整理解雇の対象となる労働者を選定し,後日,訴訟になった場合には,客観的で合理的な人選基準に基づいて整理解雇を行ったことを説明できるようにしておく必要があります。

 ④手続の妥当性についてですが,裁判所は,使用者は労働者に対して整理解雇の必要性と時期・規模・方法について説明を行った上で,誠意を持って協議すべき信義則上の義務を負うと考える傾向にあります。
 要するに,使用者が労働者の理解を得るための努力をどれだけしたのかが問題となるわけですが,説明に十分な時間をかけず,資料の提示を行わず,抽象的な説明に終始したような場合には,この要素を満たさないと判断されることになります。
 会社の財務状況が極めて悪く,整理解雇自体は不可避であったとしても,労働者に対して人員削減が必要な理由の説明をすることはできるはずです。
 労働者にとって,失業するということは,労働者本人及びその家族にとって極めて重大な問題ですから,労働者の納得を得られる見込みであるかどうかにかかわらず,よく説明を行うべきと考えます。
 なお,使用者が労働者に対して人員削減の必要性を丁寧に説明し,退職の条件についてそれなりに配慮したような場合は,労働者が合意退職に応じてくれることも多く,整理解雇する必要性がある人数が大幅に減ることも珍しくありません。
 私としては,丁寧な説明・退職条件の提示により,労働者の同意を得た上で退職してもらうことを中心に考えるべきであり,整理解雇は,使用者が誠意を持って丁寧に説明・交渉しても話の通じない労働者に限定して,例外的に行うべきものであると考えています。

弁護士 藤田 進太郎


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来春卒業予定の大学生の就職内定率

2010-11-16 | 日記

来春卒業予定の大学生の就職内定率が,10月1日の時点で,就職氷河期と言われた2003年の60.2%を下回り,わずか57.6%となっているようです。

将来,事業が拡大して,人手がますます必要になると思えなければ,採用は難しいですよね。

将来性のある産業を育成できなければ,今後,ますます,就職できない若者が日本中に溢れることになってしまうことでしょう。

産業育成の国家戦略は,どうなっているのでしょうか?

産業を育成せずに,補助金を出しても,焼け石に水です。

本筋の対策ではありません。

今の日本は,先のことを余り深く考えていないように思えるのが,残念です。

 

弁護士 藤田 進太郎

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普通解雇・懲戒解雇において解雇権濫用の有無を判断する具体的事情

2010-11-16 | 日記

Q2普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情として,どのような事情を立証すればいいのですか?

 普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情としては,実務上,以下の①②が争われることが多いとされています(東京地裁労働部の裁判官によって執筆された『労働事件審理ノート』)。

① 勤務成績,勤務態度等が不良で職務を行う能力や適格性を欠いている場合か
  当該企業の種類,規模,職務内容,労働者の採用理由(職務に要求される能力,勤務態度がどの程度か),勤務成績,勤務態度の不良の程度(企業の業務遂行に支障を生じ,解雇しなければならないほどに高いかどうか),その回数(1回の過誤か,繰り返すものか),改善の余地があるか,会社の指導があったか(注意・警告をしたり,反省の機会を与えたか),他の労働者との取扱いに不均衡はないかなどを総合検討する。 
② 規律違反行為があるか
  規律違反行為の態様(業務命令違反,職務専念義務違反,信用保持義務違反等),程度,回数,改善の余地の有無等を同様に総合検討する。懲戒解雇の場合は,普通解雇の場合よりも大きな不利益を労働者に与えるものであるから,規律違反の程度は,制裁として労働関係から排除することを正当化するほどの程度に達していることを要する。 

 ここで注意しなければならないのは,会社が①②の具体的事情を検討してみたところ,解雇を有効と判断すべき事情が多いように思えた場合であっても,解雇しても大丈夫だとは直ちには言えない点です。
 実際には勤務成績,勤務態度等が不良であったとしても,それを訴訟で立証できるようにしておかないと,解雇が無効と判断されることが多くなります。
 「彼の勤務成績,勤務態度が悪いことは,本人が一番良く知っているはずだ。このことは社員みんなが知っていて証言してくれるはずだから,裁判にも勝てる。」といった安易な考えに基づいて問題社員を解雇する事例が見られますが,訴訟になれば,労働者側はほぼ間違いなく自分の勤務成績,勤務態度には問題がなかったと主張してくるのが通常です。
 当事者双方の主張に争いがある場合,立証活動が必要となりますが,社員等の利害関係人の証言は経営者が思っているほど重視されません。
 客観的な証拠がほとんどないまま解雇した場合,解雇が無効と判断されるリスクが極めて高くなりますので,ご注意下さい。
 弁護士の目から見ていると,「解雇を有効と判断すべき事情があるか?」という点についてはそれなりに検討されているのですが,「解雇を有効と判断すべき事情を立証できるだけの客観的資料がそろっているか?」という点については,検討が不十分な事例が多い印象です。
 問題社員を解雇するにあたっては,立証を意識した下準備が必要であることをよく覚えておいて下さい。

弁護士 藤田 進太郎


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正社員の解雇が有効となるための要件

2010-11-16 | 日記

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S市事件大阪高裁平成22年7月7日判決(労経速2081-28)

2010-11-15 | 日記

本件は,S市職員であった控訴人が,S市長から①自動車を酒気帯び運転し,進行方向道路脇に駐車していた車両と,反対車線路肩に駐車していた車両の合計2台と接触事故を起こし,②その報告を怠ったとして,平成20年4月30日付けで懲戒免職処分を受けたため,同処分には事実誤認(上記②の事実)があり,また控訴人に認められる情状を踏まえると重きに過ぎるとして,被控訴人に対し,その取消しを求めた事案です。

原審は,控訴人には上記②の報告義務の懈怠が認められるが,その事実をもって控訴人の責任が大きいとまでいうことはできないとしたものの,上記①の非違行為の状況等を踏まえると,上記懲戒免職処分には裁量権の逸脱濫用はないとして,控訴人の請求を棄却したところ,控訴人が控訴しました。

控訴審は,原審判決で示された理由を基本的に肯定し,控訴審でなされた主張についても排斥して,控訴を棄却しました。

妥当な結論だと思います。

この判決を読んで私が思ったのは,同じことを民間企業の社員がした場合,懲戒解雇して有効となるかどうかという問題です。

果たして,民間企業の解雇についても,これと同じ程度の「裁量権」を認めていると言えるでしょうか?

弁護士 藤田 進太郎

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テレビ朝日ほか事件東京地裁平成22年5月14日判決(労経速2081-23)

2010-11-15 | 日記

本件は,原告らの子であるFが,被告らの関与していたテレビ番組についての制作業務を請け負ったところ,被告らの安全配慮義務違反により,過重な労働に従事させられた結果,くも膜下出血により死亡するに至ったとして,原告それぞれが,被告らに対し,債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求として,連帯して5531万2799円及びこれに対する訴状送達日の翌日(不法行為との関係では不法行為日の後の日)である平成20年1月18日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案です。

本判決は,まず,被告らが安全配慮義務を負っていたかについて検討し,「被告らについては,Fを雇用していたとも,実質的に使用従属させていたとも認められないから,Fの業務に対する従事状況を積極的に把握するなどして,これらが過重にならないように配慮すべき義務を負っていたものとは認められない。」として,これを否定しています。

これだけでも結論が出ているわけですが,「念のため」,本件業務とFの死亡との因果関係についても検討し,「Fが,高血圧であったとしても,本件業務が,これを増悪させ,さらには脳の動脈瘤を破裂させ,くも膜下出血を引き起こしてFを死に至らしめるほど,精神的・肉体的に過重なものであったとは認めるに足りないから,その死亡が,本件業務により惹き起こされたとはみとめられない。」として,因果関係を否定しています。

この事案を読んでいると,日本が訴訟社会になりつつあるのが感じられます。今後,司法試験合格者増大と相まって,ますます訴訟が増えていくことでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

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