弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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所長ご挨拶ページ改訂

2011-03-30 | 日記
 所長ご挨拶ページを,改訂しました。

 あなたは労使紛争の当事者になったことがありますか?
 労使紛争の当事者になったことがあるとすれば,それがいかに大きな苦痛となり得るかが実感を持って理解できることと思います。

 会社の売上が急激に下がった場合に社長が一生懸命頑張って社員の給料を支払うためのお金を確保しても,その大変さを理解できる社員は多くありません。
 会社はお金を持っていて,働きさえしていれば,会社の業績がどうあれ,給料日には給料が自分の預金口座に振り込まれて預金が増えるのが当然という感覚の社員が多いのではないでしょうか。
 私自身,勤務弁護士の時は給料日には必ず給料が私の預金口座に振り込まれて預金残高が増えていたものが,自分で事務所を開業してみると,給料日には社員に給料を支払わなければならず,私の事業用預金口座の残高が減るのを見て,経営者にとって給料日はお金が減る日なのだということを,初めて実感を持って理解することができました。
 また,個人事業主や中小企業のオーナー社長は,事業にかかる経費と比較して売上が不足すれば,何百時間働いても,事実上,1円の収入にもならないということになりかねず,それどころか,経営者の個人財産からお金を出して,不足する金額を穴埋めしなければならないこともあるのですから,会社の業績が悪化した結果,収入が減ることはあっても,個人資産を事業継続のために持ち出すことのない一般社員とでは,随分,負担の重さが違うのだということも,よく理解できました。
 このような話は,理屈は簡単で,当たり前のことなのですが,誰でも実感を持って理解できるかというと,なかなか難しいものがあります。
 会社勤めをしている友達に,給料日には会社の預金残高が減るという話をしてみたところ,「そのとおりかもしれないけど,その分,会社はお客さんからお金が入ってきて儲かっているんだから。」という答えが返ってきたことがあります。
 確かに,彼の言うとおり「お金が入ってきて儲かっている」分にはいいのですが,経営者にとっては,実際にお金が入ってくるかどうかが問題なわけです。
 今,売上が上がっていても,将来,どうなるかは誰にも分かりませんし,下手をすると個人資産を事業につぎ込まなければならなくなることもあるのですから,経営者はいつまで経っても気を緩めることはできません。
 実は,私も,勤務弁護士のときは,理屈では雇う側の大変さを理解していても,その理解には共感が伴っていませんでした。
 所長は実際に仕事をこなしている自分よりたくさんの収入があってうらやましいというくらいの感覚だったというのが正直なところで,雇われている人たちのために頑張ってくれてありがとうございます,などと本気で思ったことがあるかというと,一度もありませんでした。
 自分が経営者の立場になってみて初めて,経営者の大変さを,実感を持って理解することができるようになったのです。

 立場が違えば,感じ方・考え方も違ってきます。
 労使紛争でお互いが感情的になりがちなのは,自分の大変さを相手が理解してくれないことに対する苛立ちのようなものが根底にあるからではないでしょうか。
 労使とも,自分ばかりが不当に我慢させられている,譲歩させられていると感じているわけです。
 このような苛立ちを緩和し,冷静に話し合うことができるようにするためには,労使双方,相手のことを思いやる想像力が必要だと思います。
 社員の置かれた状況を鮮明に想像することができ,社員を思いやることのできる優れた会社であれば,会社を思いやる想像力を持った優れた社員との間で労使紛争が生じるリスクは極めて低くなることでしょう。
 仮に,一部の問題社員との間で労使紛争が生じたとしても,大部分の優れた社員は会社の味方になってくれるでしょうし,裁判に勝てる可能性も高くなります。

 私は,あなたの会社に,労使双方が相手の立場に対して思いやりの気持ちを持ち,強い信頼関係で結ばれている会社になって欲しいと考えています。
 そのためのお手伝いをさせていただけるのであれば,あなたの会社のために全力を尽くすことをお約束します。

四谷麹町法律事務所
所長弁護士 藤田 進太郎

経歴・所属等
•東京大学 法学部 卒業
•日本弁護士連合会 労働法制委員会 委員・事務局員・労働審判PTメンバー
•第一東京弁護士会 労働法制委員会 委員・労働契約法制部会副部会長
•経営法曹会議 会員
•全国倒産処理弁護士ネットワーク 会員

四谷麹町法律事務所ウェブサイトトップページ改訂

2011-03-25 | 日記
四谷麹町法律事務所ウェブサイトのトップページを改訂しました。

弁護士 藤田 進太郎

 四谷麹町法律事務所所長弁護士藤田進太郎(東京)は,健全な労使関係こそが経済活動・社会生活の核心であると考えており,使用者側専門の立場から,労働審判・団体交渉・問題社員対応等,労働問題の予防・解決に力を入れています。
 労働審判・団体交渉・問題社員の対応等,労働問題でお悩みでしたら,弁護士藤田進太郎東京)にご相談下さい。

 近年,問題社員による身勝手な振る舞い,解雇・退職に関する紛争,割増賃金(残業代)の請求,うつ病への罹患・アスベスト(石綿)吸引による死亡等を理由とする損害賠償請求等の労働問題が急増し,弁護士に対する相談件数が増えています。
 ところが,労務リスクが高い状態となっていることを会社経営者が軽視し,採用時における社員の選考に十分な手間をかけず,問題社員を採用段階で排除せずに安易に採用したり,問題社員に注意指導しないまま放置したり,必要な手順を踏まずに社員を解雇したり,残業代を基本給と区別して支払っていなかったり,長時間労働を放置したりしているなど,労働問題に関するリスク管理が不十分な会社がまだまだ多く,無防備な状態のまま,労働者から訴訟を提起されるなどして多額の解決金の支払を余儀なくされて初めて,対策を検討し始める会社経営者が多いというのが実情です。
 会社経営者が,自社が深刻な労働問題のリスクにさらされているという認識が希薄なまま,何らの対策も取らないでいた結果,問題社員等との間で労働問題が発生し,多額の解決金を支払うことを余儀なくされてから,社員に裏切られたとか,詐欺にあったようなものだとか,社員にも裁判官にも経営者の苦労を分かってもらえないだとか,法律が社会の実情に合っていないだとか嘆いてがっかりしている姿を見ていると,本当に残念な気持ちになります。
 せっかく一生懸命育ててきた会社なのですから,問題社員の身勝手な振る舞いや,コンプライアンス上問題のある労務管理により生じた労働問題で大きなダメージを被って取り返しがつかない結果になる前に対処しておかなければなりません。

 四谷麹町法律事務所所長弁護士藤田進太郎東京)は,健全な労使関係の構築を望んでいる会社経営者のお手伝いをしたいという強い思いを持っています。
 労働審判,団体交渉,問題社員対応等の労働問題でお悩みでしたら,四谷麹町法律事務所所長弁護士藤田進太郎東京)にご相談下さい。

四谷麹町法律事務所
所長弁護士 藤田 進太郎

|所長弁護士藤田進太郎 経歴・所属等
東京大学 法学部 卒業
•日本弁護士連合会 労働法制委員会 委員・事務局員・労働審判PTメンバー
•第一東京弁護士労働法制委員会 委員・労働契約法制部会副部会長
•経営法曹会議 会員
•全国倒産処理弁護士ネットワーク 会員

『問題社員対応の実務』会場変更

2011-03-24 | 日記
問題社員対応の実務』の会場として予定されていた九段会館が,先日の大震災の影響で使えなくなったことから,アイビーホール(東京:表参道)に会場が変更されました。
震災の影響もあり,開催できるかどうか心配していたのですが,既に申込みが寄せられており,開催予定とのことです。
出席していただいた方々に満足していただけるようなセミナーにしたいと考えています。

弁護士 藤田 進太郎


事業コード 111073
対 象 人事部門,労務部門,総務部門,法務部門などにおいて,関連する業務を担当される皆様
開催日時 2011年4月14日(木)13:30-17:00

プログラム ■ 講 師 ■

四谷麹町法律事務所    弁護士    藤田 進太郎 氏

             
■ プログラム ■


   以下の、近時,よくある具体的事例を取り上げ,実務的な対応策を検討・解説いたします。
       ※ セミナー終了後、可能な範囲で個別のご質問もお受けいたします。

 (1)協調性がない。

 (2)遅刻や無断欠勤が多い。

 (3)注意するとパワハラだなどと言って,上司の指導を聞こうとしない。

 (4)会社に無断でアルバイトをする。

 (5)虚偽の出張旅費,交通費等を申告していた疑いが強い。

 (6)転勤を拒否する。

 (7)お金にだらしない。

 (8)会社外で飲酒運転,痴漢,傷害事件等を起こして逮捕された。

 (9)仕事の能力が低い。

(10)行方不明になってしまい,社宅に本人の家財道具等を残したまま,長期間連絡が取れない。

(11)精神疾患を発症して欠勤が多くなり,出社しても仕事がまともにできない。

(12)休職中の社員が復職可能と記載されている主治医の診断書を提出してきたので復職させた
    ところ,すぐに欠勤を繰り返すようになった。

(13)精神疾患を発症したのは会社のせいだと主張して,損害賠償請求をしてくる。

(14)試用期間中の本採用拒否(解雇)なのに,解雇は無効だと主張して,職場復帰を求めてきた。

(15)退職勧奨したところ,解雇してくれと言い出す。

(16)退職届提出日から退職日までの間,年休を取得してしまい,引継ぎをしない。

(17)退職届を提出した後になって,退職の撤回を求めてくる。

(18)期間雇用者を契約期間満了で雇止めしたところ,雇止めは無効だと主張してくる。

(19)賃金が残業代込みの金額である旨,納得して入社したにもかかわらず,割増賃金の請求を
    してくる。

(20)勝手に朝早く出社したり,夜遅くまで残業したりして,割増賃金の請求をしてくる。

(21)管理職なのに割増賃金の請求をしてくる。

(22)賞与支給日前に退職しているにもかかわらず,賞与を請求してくる。

(23)高額の留学費用,研修費用等を会社が負担した社員が,留学等終了後,すぐに退職して
    しまった。

(24)トラブルの多い社員が定年退職後の再雇用を求めてくる。

(25)定年後,再雇用したところ,賃金が下がったのは不当だなどと主張して,差額賃金の支払を
    求めてくる。

(26)合同労組に加入して団体交渉を求めてきたり,会社オフィスの前でビラ配りしたりする。


 ※当日は、本テーマに関する最新情報を盛り込むため、上記に例示した事例を変更、追加する場合がございます。

会 場 アイビーホール(東京:表参道)にて、開催します。
  *九段会館(東京:九段下)より、会場変更となりました。

受 講 料

会員:31,500 円(本体 30,000円)/一般:34,650 円(本体 33,000円)

※公開セミナーに関するお問い合わせやご質問は、前頁の「よくあるご質問(FAQ)」をご参照下さい。

担 当 公開セミナー事業グループ(TEL.03-5215-3514)




労働審判手続において調停が成立しなかった場合

2011-03-22 | 日記
Q25 労働審判手続において調停が成立しなかった場合は,どうなるのですか?

労働審判委員会から示された調停案を当事者のいずれかが最後まで受け入れなかった場合は,審理の終結が宣言され,概ね調停案に沿った内容の労働審判が当事者双方に告知されるか,審判書が送達されることになります。
労働審判に対しては,告知・送達から2週間以内に異議を申し立てることができますが,当事者いずれも異議を申し立てなかった場合は,労働審判は裁判上の和解と同一の効力(既判力,執行力等)が生じます。
他方,当事者いずれかから異議が申し立てられた場合は,異議を申し立てた当事者に有利な内容の部分を含めた労働審判の効力そのものが失われ,訴訟手続に移行します。

労働審判手続で解決しておくべきか,訴訟で戦うべきかの判断についてですが,私の個人的な感覚としては,他の労働者への波及効果等の理由から,会社経営上争う必要が高いものを除き,できるだけ労働審判手続において解決すべき事案が多いのではないかと考えています。
代理人の弁護士が異議を申し立てるべきだという意見の場合は,異議を申し立てて訴訟で争う価値があるのかもしれません。
しかし,代理人の弁護士労働審判手続で調停をまとめるべきだとか,労働審判に対し異議を申し立てずにそのまま解決した方がいいという意見を述べている場合は,異議を申し立てていい結果に終わることは極めて稀ではないかと思います。
感情的な判断は差し控え,依頼した弁護士の意見に耳を傾ける経営姿勢が重要と思われます。

訴訟手続に移行した場合,労働審判の代理人が引き続き訴訟を受任する場合であっても,新たに訴訟委任状を追完する必要があります。
原告(労働審判手続における申立人)に対しては,異議申立てから2~3週間程度の間に,労働審判手続を踏まえた,「訴状に代わる準備書面」及び書証の提出,提訴手数料の追納及び郵便切手の予納が指示されることになります。
これに対し,被告(労働審判手続における相手方)は,「訴状に代わる準備書面」に対する「答弁書」等を提出し,第1回訴訟期日に臨むことになります。
労働審判手続において既に争点の整理ができているケースが多いことから,和解交渉のため期日を重ねたというような事案でない限り,異議申立て後,判決までの期間は短くなっており,労働審判を経ずに訴訟が提起された場合と比較して,解決までの時間が長くなってしまうということは多くないようです。
ただし,「訴状に代わる準備書面」の記載内容が労働審判手続を踏まえた内容になっていないような場合は,答弁書も労働審判における答弁書と同じような内容のものが提出されることになりがちであり,同じような主張・反論が繰り返された結果,解決までの時間が無駄に長くなってしまう可能性がありますので,訴訟に移行した後の主張書面には,労働審判の経緯を踏まえた主張・反論をしっかり記載する必要があります。

弁護士 藤田 進太郎

労働審判を申し立てられた使用者の主な注意事項

2011-03-22 | 日記
Q24 「労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」や「労働審判手続申立書」などが裁判所から会社に届きました。労働審判を申し立てられた使用者の主な注意事項はどのようなものですか?

労働審判手続においては,申立書及び答弁書の記載内容から一応の心証が形成され,第1回期日でその確認作業が行われて最終的な心証が形成された後は,その心証に基づいて調停が試みられ,調停が成立しない場合は労働審判が出されることになります。
原則として第1回期日終了時までに最終的な心証が形成されてしまい,その後の修正は困難であることから,私は,充実した答弁書の作成が最も重要であり,次に,第1回期日で十分な説明ができることが重要であると考えています。

労働審判手続においては,当事者双方及び裁判所の都合のみならず,忙しい労働審判員2名のスケジュール調整が必要なこともあり,第1回期日の変更は原則として認められないことに十分な注意が必要です。
準備不足のまま第1回期日が間近に迫っているような場合や,依頼した代理人弁護士の都合がつかない場合であっても,第1回期日の変更は原則として認めてもらえません。
第1回期日の変更が例外的に認められるのは,労働審判員の選任が完了していない時期に日程調整したような場合です。
労働審判員の選任は,一般に,裁判所が申立書を相手方(主に使用者側)に発送してから1週間から10日程度で行われていると言われていますから,第1回期日の変更が必要な場合は,申立書が会社に届いてから1週間程度のうちに日程調整の連絡を裁判所に入れる必要があることになります。

第1回期日は,原則として申立てから40日以内の日に指定されます(労働審判規則13条)。
相手方(主に使用者側)としては,答弁書作成の準備をする時間が足りないから第1回期日を変更したい,あるいは,主張立証を第2回期日までさせて欲しいということになりがちですが,上記のとおり,労働審判は第1回期日までが勝負であり,第1回期日の変更は原則として認められませんから,たとえ不十分であっても,第1回期日までに全力を尽くして準備していく必要があります。
事情をよく知る担当者が,第1回期日には出頭できないが,第2回期日なら何とか出頭できそうだという場合は,その旨,答弁書に記載するなどして,労働審判委員会と進行の調整をする必要があり,漫然と放置してしまうと,事情をよく知る担当者不出頭のまま,手続が終了するリスクが生じることになります。

弁護士は随分先までスケジュールが入りますから,答弁書が会社に届いてからのんびりしていると,第1回期日の日時に別の予定が入ってしまいます。
依頼したい弁護士がいるのであれば,申立書が会社に届いたら直ちにその弁護士に電話し,第1回期日の予定を空けておいてもらうなどの対応が必要となります。
会社担当者が私の事務所に労働審判の相談に来た時期が第1回期日まで1週間を切った時期(答弁書提出期限経過後)だったため,即日,急いで作成した答弁書を提出せざるを得ず,第1回期日が指定された日時は私のスケジュールが既に埋まっていたため,第1回期日に私が出頭できなかった事案もありましたが,このような事態が会社にとって望ましくないことは,言うまでもありません。
         
労働審判手続の当事者は,裁判所(労働審判委員会)に対し,主張書面だけでなく,自己の主張を基礎づける証拠の写しも提出するのが通常ですが,東京地裁の運用では,労働審判委員には,申立書,答弁書等の主張書面のみが事前に送付され,証拠の写しについては送付されない扱いとなっています。
労働審判員は,他の担当事件のために裁判所に来た際などに,証拠を閲覧し,詳細な手控えを取ったりして対応しているようですが,自宅で証拠と照らし合わせながら主張書面を検討することはできません。
また,労働審判官(裁判官)も大量の事件を処理していますので,答弁書を読んだだけで言いたいことが明確に伝わるようにしておかないと,真意が伝わらない恐れがあります。
答弁書作成に当たっては,答弁書が労働審判委員会を「説得」する手段であり,労働審判委員会に会社の主張を理解してもらえずに不当な結論が出てしまった場合は,労働審判委員会が悪いのではなく,労働審判委員会を説得できなかった自分たちに問題があったと受け止めるスタンスが重要となります。
労働審判委員会は,申立書,答弁書の記載内容から,事前に暫定的な心証を形成して第1回期日に臨んでいます。
また,第1回期日は,時間が限られている上,緊張して言いたいことが思ったほど言えないことが多いというのが実情です。
したがって,労働審判手続において相手方とされた使用者側としては,重要な証拠内容は答弁書に引用するなどして,答弁書の記載のみからでも,主張内容が明確に伝わるようにしておくべきことになります。
陳述書を答弁書と別途提出するのは当事者の自由ですが,重要ポイントについては,答弁書に盛り込んでおくことが必要となります。
答弁書の記述で言いたいことが伝わるのであれば,答弁書と同じような内容の陳述書を別途提出する必要はありません。

第1回期日おける審理では,事情をよく知る担当者が事実関係を説明しないことにはリアリティーがありませんから,会社担当者が事実説明をしていくことになります。
解雇した際の言葉のやり取り等の重要な事実関係を,解雇の場にいたわけでもない代理人弁護士が説明したのでは,説得力がありません。
したがって,期日には代理人弁護士が出頭するだけでは足りず,紛争の実情を把握している会社担当者が2名程度,出頭する必要があります。
しかし,会社担当者は裁判所の手続に不慣れなことが多いため,緊張して事実を正確に伝えることができなくなりがちです。
言いたいことが言えないまま終わってしまうことがないようにするためには,事前に提出する答弁書に言いたいことをしっかり盛り込んでおいて当日話さなければならないことをできるだけ減らしておくべきでしょう。
なお,どうしても代理人弁護士だけしか出席できない場合は,代理人弁護士が,労働審判委員会からの質問に答えざるを得ませんが,解雇等の場にいたわけでもない代理人弁護士が質問に対して十分な回答をすることは困難です。
事前の打合せの負担が重くなるのみならず,事情をよく知る担当者が出頭した場合と比較して,会社にとって不利な結果となることを覚悟する必要があります。

労働審判の第1回期日にかかる時間についてですが,2時間程度はかかるものと考えておく必要があります。
私がこれまでに経験した労働審判事件の第1回期日は,1時間20分~2時間30分程度かかっています。
事案の複雑さの程度にもよりますが,同程度の事件であれば,申立書,答弁書において,充実した主張反論がなされているケースの方が,所要時間が短くなる傾向にあります。

第2回以降の期日は,第1回期日で実質的な審理が終了し,労働審判委員会から調停案が示されていたような場合には,解決金の金額を中心とした調停内容についての調整がなされることになり,当事者双方が調停案を直ちに受け入れたような場合は,期日は30分足らずで終了することになります。
ただし,第2回以降の期日であっても,当事者双方が調停案を直ちに受け入れなかったものの,もう少しで調停が成立しそうな状況だったため,その日のうちに調停を成立させるために交渉が継続され,約2時間30分かかったことがありました。
また,当事者から新たな主張がなされ,それが審理されることになったような場合も,時間がかかる可能性があります。
第2回期日以降についても,2~3時間程度は時間が取られても支障が生じないよう,スケジュールを空けておくべきでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

労働審判制度の主な特徴

2011-03-21 | 日記
Q23 労働審判制度の主な特徴はどのようなものですか?

労働審判法は,
① 労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)に関し,
② 裁判所において,裁判官(労働審判官)及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者(労使双方から1名ずつ選任される労働審判員合計2名)で組織する委員会が,当事者の申立てにより事件を審理し,
③ 調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み,
④ その解決に至らない場合には,労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利義務関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判)を行う手続(労働審判手続)を設けることにより,
⑤ 紛争の実情に即した迅速,適正かつ実効的な解決を図ること
を目的とするものです(労働審判法1条)。

労働審判手続の特徴はどれも重要なものですが,私が特に注目しているのは,
① 迅速な解決が予定されていることと
② 裁判官(労働審判官)が直接関与して権利義務関係を踏まえた調停が試みられ,調停がまとまらない場合には労働審判が行われ,労働審判に対して異議を申し立てた場合には,訴訟に移行すること
の2点です。

まず,①迅速な解決という点ですが,労働者の大部分は,解雇されたことなどを不満に思ったとしても,自分を解雇するような会社に本気で戻りたいとは思わないことが多く,転職活動や転職後の仕事の支障になりかねないことなどを懸念して,余程の事情がなければ,時間のかかる訴訟手続を利用してまで解雇の効力を争うようなことは多くありませんでした。
しかし,労働審判手続は,原則として3回以内の期日で審理を終結させることが予定されており(労働審判法15条2項),申立てから3か月もかからないうちにかなりの割合の事件が調停成立で終了しますので,退職後,次の就職先を見つけるまでのわずかな期間を利用して労働審判を申し立て,それなりの金額の解決金を獲得してから転職することも十分に可能となっています(ただし,調停が成立せず,労働審判に対して異議が出された場合は,自動的に訴訟に移行することに注意。)。
使用者側にも,労使紛争を早期に解決できるというメリットがありますが,従来であれば表面化しなかった紛争が表面化する可能性が高くなるという側面を有していますので,労使紛争の予防を意識した労務管理がますます重要となっています。

次に,②裁判官(労働審判官)が直接関与して権利義務関係を踏まえた調停が試みられ,調停がまとまらない場合には労働審判が行われ,労働審判に対して異議を申し立てた場合には,自動的に訴訟に移行する(労働審判法22条)という点も重要です。
通常の民事調停を利用した場合,裁判官は,調停期日のほとんどの時間は調停の場に同席せず,調停が成立することになったとき等,わずかな時間しか調停の場に現れませんし,必ずしも労働問題の専門的な知識経験を有するとはいえない調停委員が,調停をまとめることばかりに熱心になってしまい,権利義務関係を十分に踏まえずに,歩み寄りに難色を示している当事者の説得にかかることがありますが,労働審判手続では,裁判官(労働審判官)1名が,常時,期日に同席しており,労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名とともに,権利義務関係を踏まえた調停を行うため,調停内容は合理的なもの(社内で説明がつきやすいもの,労働者が納得しやすいもの)となりやすくなります。
また,民事調停であれば,調停不成立の場合には何らの判断もなされないまま調停手続が終了してしまい,そのまま紛争が立ち消えになる可能性もありますが,労働審判手続で調停がまとまらなければ,たいていは調停案とほぼ同内容の労働審判が出され,労働審判に対して当事者いずれかが異議を申し立てれば自動的に訴訟に移行することになりますので,うやむやなまま紛争が立ち消えになることは期待できません。
さらに,異議を出した後の訴訟で争っても,裁判官(労働審判官)が直接関与し,権利義務関係を踏まえて出された労働審判の内容よりも自分に有利に解決する見込みが大きい事案はそれほど多くはありませんし,訴訟が長引けば労力・金銭等での負担が重くなり,コストパフォーマンスが悪くなってしまいます。
これらの点が相まって,ある程度は譲歩してでも調停をまとめる大きなモチベーションとなり,労働審判制度の紛争解決機能を飛躍的に高めているものといえるでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

「あっせん開始通知書」が届いた場合の対応

2011-03-19 | 日記
Q22 紛争調整委員会から,「あっせん開始通知書」が会社に届きました。どのように対応すればいいでしょうか?

 紛争調整委員会が労働局長の委任を受けて行う「あっせん」とは,当事者の間に弁護士等の学識経験者である第三者が入り,双方の主張の要点を確かめ,紛争当事者間の調整を行い,話し合いを促進することにより,紛争の円満な解決を図る制度です。
 両当事者が希望した場合は,両者が採るべき具体的なあっせん案を提示することもあります。

 東京労働局によると,あっせんには,以下のような特徴があるとされています。
① 労働問題に関するあらゆる分野の紛争(募集・採用に関するものを除く。)がその対象となります。
(例)解雇,雇止め,配置転換・出向,降格,労働条件の不利益変更等労働条件に関する紛争,いじめ・嫌がらせ等,職場の環境に関する紛争,労働契約の承継,同業他社への就業禁止等の労働契約に関する紛争,その他,退職に伴う研修費用の返還,営業車等会社所有物の破損に係る損害賠償をめぐる紛争など。
② 多くの時間と費用を要する裁判に比べ,手続が迅速かつ簡便です。
③ 弁護士,大学教授等の労働問題の専門家である紛争調整委員会の委員が担当します。
④ あっせんを受けるのに費用はかかりません。
⑤ 紛争当事者間であっせん案に合意した場合には,受諾されたあっせん案は民法上の和解契約の効力を持つことになります。
⑥ あっせんの手続は非公開であり,紛争当事者のプライバシーを保護します。
⑦ 労働者があっせんの申請をしたことを理由として,事業主が労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをすることは法律で禁止されています。

 次に,弁護士である私の目から見たあっせんの主な特徴は,以下のとおりです。
① あっせんに参加するかどうか,あっせん案に応じるかどうかは,当事者の全くの自由であり,強制力が全くない。
② 原則として1回の期日で終了してしまうため,あっせん案に応じるかどうか十分に検討することができない。
③ あっせんの費用が無料ということもあり,事件のスクリーニングが十分になされず,訴訟であれば到底認められないような請求を受けることも多い。
 ①強制力がないという特徴があるため,裁判外の和解交渉と同様,当事者双方が納得しないことには合意が成立せず,紛争が解決しないため,紛争解決機能は必ずしも高くありません。
 ②1回のあっせん実施日で終了するという特徴があるため,たった1回のあっせん実施日で落としどころが判断でき,話し合いがまとまるような比較的軽微な労使紛争でない限り,合意成立による紛争解決が難しいというのが実情です。
 ③事件のスクリーニングが不十分という特徴があるため,わざわざ時間を取ってあっせん実施日に出頭するだけの価値のない事案も散見されます。

 あっせんには以上のような特徴があるため,会社側の採るべき対応としては,概ね,以下のとおりとなります。
 ① 労働者の請求に全く理由がないため,会社側は1円も解決金を支払う意思がないなど,全く譲歩の余地がない場合は,あっせんに参加しない旨記載した連絡票を紛争調整委員会宛,郵送又はFAXすることになります。
 あっせんに参加しない理由が客観的にもっともな内容で,労働者の納得を得ることができる可能性がある場合は,その理由を会社意見欄に記入した上で,「会社意見等について申請人(労働者)に知らせることについて」欄の「可」を○で囲んで提出してもいいとは思いますが,万が一にも後日の訴訟等で不利な結果になることがないよう,弁護士に相談した上で記載すべきでしょう。
② 労働者の請求にそれなりの理由があり,あっせんで解決しておかないと,後日,労働審判を申し立てられたり,訴訟を提起されたりするリスクがあるため,ある程度の解決金を支払ってでも早期解決するメリットがあるような場合は,あっせんへの参加を検討すべきでしょう。
 その場合,あっせんに参加する旨記載した連絡票を紛争調整委員会宛,郵送又はFAXすることになりますが,会社の主張を事前に提出する必要があります。
 労働者の請求にそれなりの理由がある事案は,後日,訴訟等になる可能性が比較的高いので,主張内容,証拠の収集選定について,弁護士と協議して決めることがより重要となります。
 しっかりとした書面さえ提出できれば,あっせん実施日当日は,代理人弁護士が同行する必要はないケースも多いものと思われますが,不安なようでしたら,弁護士に代理人として同行するよう相談してもいいかもしれません。
 ただ,弁護士費用を支払ってでも代理人弁護士に同行してもらわなければならないような事案は,そもそも,簡易迅速な紛争解決手続であるあっせん手続にはなじまない可能性もあると思います。
 落としどころが微妙な事案については,一定金額以上の解決金は支払わないことを弁護士に相談して事前に決めてからあっせん実施日に臨み,その金額以下であれば合意を成立させ,その金額を超えなければ合意が成立しないようであれば合意不成立のまま,あっせん手続を打ち切ってもらえばいいのではないでしょうか。

弁護士 藤田 進太郎

民事事件における裁判事務の優先順位及び対応について

2011-03-18 | 日記
 東北地方太平洋沖地震に関し,平成23年3月14日,最高裁判所事務総局民事局長・行政局長から,高等裁判所長官に対し,各庁の当面の執務上の対応の参考にするために通知された「民事事件における裁判事務の優先順位及び対応について」と題するメモの内容は,以下のとおりです。


民事事件における裁判事務の優先順位及び対応について


 本書面は,被災地における各庁が業務を再開し又は継続するに当たっての参考として作成したものである。既に各庁において業務の優先順位等の取扱いを策定している場合には,これを変更する必要はない。

第1類型
 職員が庁舎に立ち入れないなど, 執務を行うことができない場合
(対応)
 ・当該庁に所属する裁判官が一括して期日変更を行う(原則として追って指定とする。決定書の作成や当事者への告知は執務が可能となった後に行う)。
 ・地方裁判所支部又は簡易裁判所で当該庁に所属する裁判官が期日変更を行えない場合
   ① 地方裁判所支部については,本庁所属の裁判官が期日変更を行う(転補と整理)。
   ② 簡易裁判所については,裁判所法36条に基づき職務を代行する裁判官が期日変更を行う。

第2類型
 執務を行うことは可能であるが,登庁できる職員が限られるなど,執務能力が限定される場合
(対応)
 ・インフルエンザ対応の際の対応(平成22年11月11日付け最高裁総一第001419号総務局長通知「新型インフルエンザ(H5N1等)対応業務継続計画について」)を参考に,以下の優先順位に従って業務を行う。ただし,立入りに危険を伴う地域への立入りが必要な業務(執行官が行う業務等)については行わない。
   ① 事件受付及び保全事件(特に緊急性の高いもの),DV事件,人身保護事件
   ② 保全事件(①以外),執行事件(特に緊急性のあるもの),倒産事件(特に緊急性のあるもの)
   ③ 上記以外

第3類型
 通常どおり執務を行うことが一応可能な場合
(対応)
 ・当事者において期日への出頭や訴訟行為が困難であることに配慮し,担当裁判官において,期日変更や延期の措置を執るなど,柔軟な訴訟指揮を行う。

弁護士 藤田 進太郎

法定期間の遵守等に関して配慮を要する事項(民事事件及び行政事件)

2011-03-18 | 日記
 東北地方太平洋沖地震に関し,平成23年3月14日,最高裁判所事務総局民事局長・行政局長から,高等裁判所長官に対し,各庁の執務の参考にするために通知された「法定期間の遵守等に関して配慮を要する事項」と題するメモの内容は,以下のとおりです。

法定期間の遵守等に関して配慮を要する事項


 期間の遵守に関する典型的な規定を掲げた。
 なお,被災地に居住する者が被告の場合や,交通の状況等により期日への出頭が困難な場合などには,欠席判決については慎重に対応をする必要があることに留意されたい。
 おって,これらはあくまで例示であるから,実際の執務に当たっては,具体的事案に応じ,適用可能な規定の有無等を必ず確認するよう注意されたい。
1 民事訴訟手続
 (1) 期間一般
   期間の伸長等(民事訴訟法第9 6 条)
   訴訟行為の追完( 同法第97 条)
    ※ 民事訴訟法上の期間の種類とその効果( 民事訴訟法講義案・再訂補訂版107頁以下参照)
      法定期間
        法律がその長さを定めているもの。
        形式的画一性を重視するのが法定期間である。
      裁定期間
        裁判所等が裁量によってその長さを定めるもの(例えば,同法第34条第1項,民事訴訟規則第25条,同法第79条第3項,第137条,第162条など)。
        期間設定に当たり裁判所が地域的特性や事件の特殊性を考慮にいれる余地を残す趣旨に基づくものが裁定期間である。
      不変期間
        法定期間のうちで,特に法律が不変期間と明定するものを不変期間という。
        不変期間はその遵守が強く求められ,裁判所が伸張することができない反面(同法第96条第1項ただし書),当事者の責めに帰することができない事由による徒過については一定期間に限り追完が認められる(同法第97条)点で,通常期間と異なる。
      期間の伸縮等
        不変期間を除き,法定期間は裁判所が,裁定期間はこれを定めた裁判機関が,その裁量により伸縮できるのが原則である( 同法第9 6 条第1項,同規則第38条)。
        しかし,性質上伸縮が許されない場合がある。通常期間の伸縮についての裁量は訴訟指揮権に基づくから,その期間の経過によって,訴訟指揮とは無関係に直接法律効果が発生するような関係にある期間は,訴訟指揮によって伸縮することはできない(例えば,同法第263条,第387条,第392条など)。
        また,期間をおくことが当事者の利益でもある場合,伸張はできても短縮することはできない(例えば,同法第315条)。
        明文で伸縮を禁ずるものもある(同法第112条第3項,第97条第2項)。
        不変期間につき,裁判所は,遠隔の地に住所又は居所を有する者のために付加期間を定めることができる(同法第96条第2項)。これにより付加期間分だけ長い一つの不変期間となる。
 (2) 法定期間(不変期間を含む。)
   控訴期間(同法第285条)
   上告期間(同法第313条)
   上告理由書提出期間(同法第315条第1項,同規則第194条)
   即時抗告期間(同法第332条)
   訴えの取下げに対する同意の擬制期間(同法第261条第5項) など
 (3) 裁定期間
   訴状の補正期間(同法第137条第1項)
2 行政事件訴訟手続
 (1) 期間一般
   民事訴訟手続の例による(行政事件訴訟法第7条,民事訴訟法第96条,第97条)。
 (2) 法定期間(不変期間を含む。)
   取消訴訟(行政事件訴訟法第14条),出訴期間の定めがある当事者訴訟(同法第40条1項)及び民衆訴訟又は機関訴訟で処分又は裁決の取消しを求めるもの(同法第43条第1項,第14条)については,出訴期間内に提起しなければならないが,出訴期間内に訴えを提起することができなかったことに正当な理由があるときは,出訴期間経過後も提起することができる(ただし,公職選挙法第203条第1項,第204条,独占禁止法第77条第1項,特許法第178条第3項,地方自治法第242条の2第2項等に行政事件訴訟法第14条の特例を定める例がある。)。
   第三者の再審の訴え(行政事件訴訟法第34条)に係る出訴期間は,不変期間である(同条第3項)から,これを伸張することはできない(民事訴訟法第96条第1項ただし書)が,一定の要件を備える場合には,訴訟行為の追完(同法第97条)を認めることができる。
3 少額訴訟手続
  法定期間( 不変期間を含む。)
   少額訴訟判決に対する異議申立期間(同法378条第1項)など
4 支払督促
  法定期間( 不変期間を含む。)
   仮執行宣言前の異議申立期間(同法第387条,第391条第1項)
   支払督促の失効期間(同法第392条)
   仮執行宣言後の異議申立期間(同法第393条)など
5 民事保全手続
 (1) 期間一般
   民事保全手続に関しては,特別の定めがある場合を除いて,民事訴訟法の規定が準用される(民事保全法第7条)ことから,民事保全手続に関する期間の規定についても,期間の伸長等(民事訴訟法第9 6 条),訴訟行為の追完( 同法第9 7 条)の
規定が準用される場合がある。
 (2) 法定期間( 不変期間を含む。)
   保全命令申立てを却下する裁判に対する即時抗告期間(民事保全法第19条第1項)
   保全抗告期間(同法第41条第1項)など
 (3) 裁定期間
   保全命令の担保を立てるべき期間(同法第14条第1項)
   保全異議の申立てにおいて決定をするための担保を立てるべき期間(同法第32条第2項)
   担保権利者に対して権利行使をすべき旨の催告期間(民事訴訟法第79条第3項)など
6 保護命令(DV)手続
 (1) 法定期間(不変期間を含む。)
   即時抗告期間(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律第21条による民事訴訟法第332条の準用)
 (2) 裁定期間
   主張書面提出期間(配偶者暴力に関する保護命令手続規則第4条第1項)など
7 労働審判手続
  法定期間(不変期間を含む。)
  労働審判に対する異議申立て期間(労働審判法第21条)
  即時抗告期間(同法第28条)
8 民事調停手続
 (1) 期間一般
   民事調停手続に関しては,特別の定めがある場合を除いて,非訟事件手続法第一編の規定が準用され(民事調停法第22条),非訟事件手続法においては,期間について民事訴訟法の規定が準用される(非訟事件手続法第10条)ことから,民事調停手続に関する期間の規定についても,期間の伸長等(民事訴訟法第96条),訴訟行為の追完(同法第97条)の規定が準用される場合がある。
 (2) 法定期間(不変期間を含む。)
   調停に代わる決定に対する異議申立期間(民事調停法第18条第1項),即時抗告期間(同法第21条)など
9 非訟手続
 (1) 期間一般
   非訟事件の手続の期間に関しては,民事訴訟法の規定が準用される(非訟事件手続法第10条)ことから,期間の伸長等(民事訴訟法第96条),訴訟行為の追完(同法第97条)の規定が準用される場合がある。
   抗告期間経過後の追完の規定もある(非訟事件手続法第22条)。
 (2) 法定期間(不変期間を含む。)
   即時抗告期間(同法第25条による民事訴訟法第332条の準用,借地借家法第48条第1項)など
10 執行手続
 (1) 期間一般
   民事執行手続に関しては,特別の定めがある場合を除いて,民事訴訟法の規定が準用される(民事執行法第20条)ことから,民事執行手続に関する期間の規定についても,期間の伸長等(民事訴訟法第96条),訴訟行為の追完(同法第97条)の規定が準用される場合がある。
 (2) 法定期間(不変期間を含む。)
   執行抗告期間(民事執行法第10条第2項)
   剰余を生ずる見込み又は優先債権を有する者の同意の有無の証明期間(同法第63条第2項)
   売却の見込みがない場合の売却実施申出期間(同法第68条の3第2項)
   引渡命令申立期間(同法第83条第2項)
   配当異議の訴え等を提起したことの証明書等の提出期間(同法第90条第6項)など
 (3) 裁定期間
   配当要求終期(同法第49条第1項)
   代金納付期限(同法第78条第1項,民事執行規則第56条第1項)
   入札期間(同規則第46条)
   特別売却期間(同規則第51条第1項)など
11 破産手続
 (1) 期間一般
   破産手続に関しては,特別の定めがある場合を除き,民事訴訟法が準用される(破産法第13条)ことから,破産手続に関する期間の規定についても,期間の伸張等(民事訴訟法第9 6条),訴訟行為の追完(同法第97条)の規定が準用される場合がある。
 (2) 法定期間(不変期間を含む。)
   即時抗告期間(破産法第9条,民事訴訟法第332条)など
 (3) 裁定期間
   債権届出期間(破産法第31条)など
12 民事再生手続
 (1) 期間一般
   民事再生手続に関しては,特別の定めがある場合を除き,民事訴訟法が準用される(民事再生法第18条)ことから,民事再生手続に関する期間の規定についても,期間の伸張等(民事訴訟法第96条),訴訟行為の追完(同法第97条)の規定が準用される場合がある。
   再生債権者がその責に帰することのできない事由によって裁判所の定めた届出期間内に届出をすることができなかった場合の届出の追完に関する規定(民事再生法第95第条1項)もある。
 (2) 法定期間(不変期間を含む。)
   即時抗告期間(同法第9条,民事訴訟法第332条)など
13 会社更生手続
 (1) 期間一般
   会社更生手続に関しては,特別の定めがある場合を除き,民事訴訟法が準用される(会社更生法第13条)ことから,会社更生手続に関する期間の規定についても,期間の伸張等(民事訴訟法第96条),訴訟行為の追完(同法第97条)の規定が準用される場合がある。
   更生債権者等がその責に帰することのできない事由によって裁判所の定めた届出期間内に届出をすることができなかった場合の届出の追完に関する規定(会社更生法第139条)もある。
 (2) 法定期間(不変期間を含む。)
   即時抗告期間(同法第9条,民事訴訟法第332条)など
14 民事実体法
 (1) 民事法
   民法第161条に,天災その他避けることができない事変のため時効を中断することができないときは,その障害が消滅した時から2週間を経過するまでの間は時効は完成しないという規定がある。
 (2) 商事法
   不可抗力による手形呈示期間の伸長(手形法第54 条,小切手法第47条等)など

弁護士 藤田 進太郎

労働問題FAQ Q22~25改訂

2011-03-18 | 日記
労働問題FAQのQ22~25を改訂しました。


Q22紛争調整委員会から,「あっせん開始通知書」が会社に届きました。どのように対応すればいいでしょうか?

Q23労働審判制度の主な特徴はどのようなものですか?

Q24「労働審判手続期日呼出状及び答弁書催告状」や「労働審判手続申立書」などが裁判所から会社に届きました。労働審判を申し立てられた使用者の主な注意事項はどのようなものですか?

Q25労働審判手続において調停が成立しなかった場合は,どうなるのですか?


弁護士 藤田 進太郎

電離放射線障害防止規則の特例に関する省令の施行に関する通達

2011-03-17 | 日記
 平成二十三年東北地方太平洋沖地震に起因して生じた事態に対応するための電離放射線障害防止規則の特例に関する省令の施行について,以下のような通達(平成23年3月15日付け基発0315第7号)が発出されました。
 一定の要件の下,電離放射線障害防止規則第7条第2項に示す緊急作業に従事する労働者の線量の上限が,100ミリシーベルトから250ミリシーベルトに引き上げられることになります。

 弁護士 藤田 進太郎


 平成二十三年東北地方太平洋沖地震に起因して生じた事態に対応するための電離放射線障害防止規則の特例に関する省令(平成23年厚生労働省令第23号。以下「本省令」という。)が、平成23年3月14日に施行されることとして本日公布されたところである。
 本省令は、東北地方太平洋沖地震に起因して生じた東京電力福島第一原子力発電所の事象に対し、原子力災害の拡大の防止を図るための応急の対策を迅速に実施するためのものであることから、下記に示す趣旨を十分に理解し、その運用に遺漏なきを期されたい。
 なお、本省令の適用に関し、追加で指示をすることがありうるので、留意されたい。



第1 省令の概要
 平成23年東北地方太平洋沖地震に起因して原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)第15条第2項の規定による原子力緊急事態宣言がなされた日から同条第4項の原子力緊急事態解除宣言がなされた日までの間の同法第17条第8項に規定する緊急事態応急対策実施区域において、特にやむを得ない緊急の場合は、電離放射線障害防止規則(昭和47年労働省令第41号。以下「電離則」という。)第7条第2項に示す緊急作業に従事する労働者の線量の上限を、100ミリシーベルトから250ミリシーベルトとすることとしたこと。

第2 細部事項
 1 本省令の適用対象となる区域は、現時点においては緊急事態応急対策実施区域に指定された東京電力福島第一原子力発電所から半径30km圏内であること。
 2 本省令の施行日は平成23年3月14日であるが、本省令の適用に当たっては、原子力緊急事態宣言がなされた日から原子力緊急事態解除宣言がなされた日までの間における緊急作業で被ばくした線量について通算すること。
 3 本省令の「特にやむを得ない緊急の場合」とは、事故の制御と即時かつ緊急の救済作業を行うことがやむを得ない場合をいうこと。
 4 その他、平成13年3月30日付け基発253号「労働安全衛生規則及び電離放射線障害防止規則の一部を改正する省令の施行等について」第3の8「第7条関係」に留意すること。
 5 被ばくした労働者への事後的な健康管理については、労働安全衛生法第66条第4項に基づき臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示すること、及び事業者に電離則第44条に基づく緊急作業に従事する労働者に対する医師の診察又は処置を速やかに受けさせることについて、確実に実施されたい。

激甚災害の指定に伴う雇用保険の特例について(平成23年3月13日付け職発0313第1号)

2011-03-16 | 日記
平成二十三年東北地方太平洋沖地震による災害についての激甚災害及びこれに対し適用すべき措置の指定に関する政令(平成23年政令第18号)が公布され,「激甚災害の指定に伴う雇用保険の特例について」(平成23年3月13日付け職発0313第1号)と題する通達が出されました。
被災地では,以下のとおり,雇用保険の特例が適用されることになったため,実際には離職していなくても失業手当を受給できる可能性があります。

1 激甚災害の指定に伴う雇用保険の特例について
  平成二十三年東北地方太平洋沖地震による災害が激甚災害に指定され、激甚災害に対処するための特別の財政援助等に関する法律(昭和37年法律第150号。以下「法」という。)第25条による雇用保険法による求職者給付の支給に関する特例が適用される。具体的には、政令で定める地域にある適用事業所が災害を受けたため、やむを得ず、事業を休止し又は廃止したことにより休業するに至り、就労することができず、かつ、賃金を受けることができない状態にあるときは、実際に離職していなくとも失業しているものとして失業の認定を行い、雇用保険の失業手当を支給できる特例措置を実施すること。

2 政令で定める地域
  政令で定める地域は、全国の区域とする。ただし、今般の平成二十三年東北地方太平洋沖地震(長野県北部の地震など、東北地方太平洋沖地震に係る一連の地震を含む)による災害を受けた適用事業所に雇用される労働者が対象となるものである。

3 特例の期限
  法第25条で定める特例の期限は、平成24年3月10日であること。

4 その他
  平成23年3月12日職発0312第3号「東北地方太平洋沖地震に係る当面の緊急雇用対策の実施について」により通知した、被災者である受給資格者に係る失業給付については、原則として、受給者の住居地を管轄する公共職業安定所以外の安定所においても受給できることとする特例は、激甚災害の指定地域においても、当然に適用されるので念のため申し添える。その他、昭和39年7月11日職発第535号「激甚災害時における失業保険金の支給の特例措置について」により、この取扱いを実施すること。


弁護士 藤田 進太郎

計画停電が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて(基監発0315第1号)

2011-03-15 | 日記
現在,計画停電が行われていることから,「計画停電が実施される場合の労働基準法第26条の取扱いについて(平成23年3月15日付け基監発0315第1号)」が発せられました。
主な内容は以下のとおりです。

1 計画停電の時間帯における事業場に電力が供給されないことを理由とする休業については,原則として法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないこと。

2 計画停電の時間帯以外の休業は,原則として法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業に該当すること。
  ただし,計画停電が実施される日において,計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて休業とする場合であって,他の手段の可能性,使用者としての休業回避のための具体的努力等を総合的に勘案し,計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当と認められるときには,計画停電の時間帯以外の時間帯を含めて原則として法第26条の使用者の責に帰すべき事由による休業には該当しないこと。

3 計画停電が予定されていたため休業としたが,実際には計画停電が実施されなかった場合については,計画停電の予定,その変更の内容やそれが公表された時期を踏まえ,上記1及び2に基づき判断すること。

弁護士 藤田 進太郎

東北地方太平洋沖地震

2011-03-15 | 日記
東北地方太平洋沖地震では,私の実家のある気仙沼も大打撃を受け,街の中心部が壊滅状態になってしまいました。
津波の被害,津波により惹き起こされた気仙沼の火災は,テレビで繰り返し放映されました。
家族の無事は確認できましたが,現在も何とか食をつないで生き延びている状態ですし,今後の生活は苦難が予想されます。

東北地方太平洋沖地震により被災された皆様の安全を祈願するとともに,被災地の皆様には心よりお見舞い申し上げ,一刻も早い復旧を願っています。

弁護士 藤田 進太郎

有期雇用労働者との労働契約を有効に終了させることができるようにするための注意点

2011-03-04 | 日記
Q8  契約社員,パートタイマー,アルバイト等の有期雇用労働者との労働契約を有効に終了させることができるようにするためには,どのようなことに注意する必要がありますか?

契約社員,パートタイマー,アルバイト等,有期労働契約が締結されている労働者について,契約期間中に解雇することは,「やむを得ない事由」がある場合でないと認められません(労働契約法17条1項,民法628条)。
「やむを得ない事由がある」というための要件は,期間の定めのない正社員の解雇の要件よりも厳格なものと考えられていますので,有期労働者については,契約期間中は原則として解雇できないことを前提に,採用活動を行うべきでしょう。
パート,アルバイトであればいつでも解雇できるものと誤解されていることがありますが,全くの誤りです。
将来の売上げの見通しが立たない場合は,漫然と長期の労働契約を締結するのではなく,採用を控えるか,ごく短期の労働契約を締結するにとどめておく必要があります。

有期労働契約期間が満了した場合は,契約終了となるのが原則です。
ただし,3回以上契約を更新された場合,又は,1年を超えて継続勤務している場合には,期間満了日の30日前までに雇止めの予告をしなければならず,労働者が更新しない理由,又は,更新しなかった理由についての証明書の交付を求めたときは,遅滞なく交付しなければなりません(平成15年10月22日厚生労働省告示357号)。

有期労働契約期間が満了した場合であっても,期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態で存在している場合(東芝柳町工場事件における最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決,労判206-27),又は,労働者においてその期間満了後も雇用関係が継続されるものと期待することに合理性が認められる場合(日立メディコ事件における最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決,労判486-6)には,解雇権濫用法理(労働契約法16条)が類推適用され,当該労働契約の雇止め(更新拒絶)は,客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当であると認められないときには許されず,期間満了後における使用者と労働者間の法律関係は従前の労働契約が更新されたのと同様の法律関係になります。

訴訟における主張立証の分担としては,
① 期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならないこと又は雇用継続期待に合理性があること(解雇権濫用法理が類推適用される事案であること)の評価根拠事実,解雇の場合であれば解雇権濫用に当たることの評価根拠事実を労働者が主張立証し,
② それらの評価障害事実を使用者が主張立証していく
ことになります。
期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならないこと又は雇用継続期待に合理性があること(解雇権濫用法理が類推適用される事案であること)の評価根拠(障害)事実の主張立証については,労働者側の負担が比較的重くなりやすい箇所ですので,使用者側としては,しっかり防御すべきポイントとなります。
期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならないケースについては,雇用保護の要請が比較的強いため,解雇権濫用と判断されやすい傾向にあります。
雇用継続期待に合理性があるとされたケースについては,日立メディコ事件最高裁判決が,「しかし,右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上,雇止めの効力を判断すべき基準は,いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである」と判示していることもあり,「合理的差異論」により,比較的,解雇権濫用とは判断されにくい傾向にありますが,ケースバイケースです。
裁判所に雇止めを有効と判断してもらうためには,最低限,「期間の定めのある労働契約があたかも期間の定めのない契約と実質的に異ならない」と判断されないように契約更新手続を書面で厳格に行うようにしておくべきこととなります。
その上で,期間雇用労働者が契約更新に合理的期待を抱くことがないよう,正社員と期間雇用労働者とを明確に区別した労務管理を行うべきこととなります。

解雇権濫用法理が類推適用されるような事案かどうかについては,通常,以下のような要素を考慮して判断することになります。
   ① 業務内容の恒常性・臨時性,業務内容についての通常の労働者との同一性の有無等労働者の従事する業務の客観的内容
   ② 地位の基幹性・臨時性等労働者の契約上の地位の性格
   ③ 継続雇用を期待させる事業主の言動等当事者の主観的態様
   ④ 更新の有無・回数,更新の手続の厳格性の程度,更新の手続・実態
   ⑤ 同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等他の労働者の更新状況

正社員について,試用期間を設けたとしても,本採用拒否(留保解約権の行使)が,解雇権濫用法理(労働契約法16条)により無効とされることも多いことから,最初から正社員として雇用するのではなく,まずは有期労働契約を締結して正社員と同様の職務に従事させ,労働者に問題があれば雇止めし,問題がない場合には正社員として登用することがあります。
労働者の適性を評価・判断するための有期契約期間は,契約期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,試用期間として取り扱われることになり,有期労働契約期間中の労働者が正社員と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段変わったところはなく,また,正社員登用時に労働契約書作成の手続が採られていないような場合には,原則として解約権留保付労働契約と評価され,本採用拒否(留保解約権の行使)が許される場合でない限り,労働契約を契約期間満了で終了させることができません(神戸弘陵学園事件における最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決,労判564-7)。
したがって,労働者の適性を評価・判断することを目的とした有期労働契約を締結した場合に,契約期間満了時に問題社員との労働契約を終了させることができるようにするためには,契約期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意を書面でしておくとともに,正社員に登用する労働者については正社員登用時に労働契約書作成の手続を確実に採っておくべきことになります。

神戸弘陵学園事件最高裁判決は,この点に関し,以下のとおり判示しています。
「ところで,使用者が労働者を新規に採用するに当たり,その雇用契約に期間を設けた場合において,その設けた趣旨・目的が労働者の適性を評価・判断するためのものであるときは,右期間の満了により右雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き,右期間は契約の存続期間ではなく,試用期間であると解するのが相当である。そして,試用期間付雇用契約の法的性質については,試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らしてこれを判断するほかないところ,試用期間中の労働者が試用期間の付いていない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し,使用者の取扱いにも格段変わったところはなく,また,試用期間満了時に再雇用(すなわち本採用)に関する契約書作成の手続が採られていないような場合には,他に特段の事情が認められない限り,これを解約権留保付雇用契約であると解するのが相当である。そして,解約権留保付雇用契約における解約権の行使は,解約権留保の趣旨・目的に照らして,客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合に許されるものであって,通常の雇用契約における解雇の場合よりもより広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきであるが,試用期間付雇用契約が試用期間の満了により終了するためには,本採用の拒否すなわち留保解約権の行使が許される場合でなければならない。」

弁護士 藤田 進太郎