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運送業を営む会社において,残業代(割増賃金)の趣旨を有する手当をトラック運転手に支給する際の注意点を教えて下さい。

2022-01-28 | 日記

Q.運送業を営む会社において,残業代(割増賃金)の趣旨を有する手当をトラック運転手に支給する際の注意点を教えて下さい。

 

 運送業を営む会社において、残業代(割増賃金)の趣旨を有する手当をトラック運転手に支給する際の注意点は、大きく分けて
 ① 残業代(割増賃金)の趣旨を有する手当であることを明確にすること
 ② 残業代(割増賃金)とそれ以外の賃金とを明確に判別できるようにすること
の2つです。
 まず、①についてですが、当該手当が残業代(割増賃金)の趣旨を有することが明確でない名目となっている場合、当該手当の支払が残業代(割増賃金)の支払として認められない可能性が高くなります。残業代(割増賃金)には見えないような名目の手当を支給しながら、残業代(割増賃金)請求を受けたとたんそれは残業代(割増賃金)だと主張しても、なかなか認められません。
 「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった一見して残業代(割増賃金)であることが明らかな名目の手当を支給している場合には、それが残業代(割増賃金)ではないといった主張は滅多に出てきません。問題となるのは、「業務手当」「特別手当」「配送手当」「長距離手当」といった残業代(割増賃金)であるとは読み取れない名目の手当を支給している場合です。当該手当の全額が残業代(割増賃金)の趣旨を有することが労働条件通知書に明記してあったり、賃金規程に明記されて周知されていたりすれば、労働審判等になってもそれなりに戦えますが、そうでない限り、苦しい戦いを余儀なくされることになります。
 「業務手当」「特別手当」「配送手当」「長距離手当」といった名称の手当を残業代(割増賃金)の趣旨で支払う旨の規定があったとしても、裁判では、実質的には残業代(割増賃金)の支払として認められないと判断されるリスクが残ることは否めません。「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった名称であれば、実質的にも残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当と認めてもらいやすくなりますので、残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当は、できる限り「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」といった一見して残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨で支払われる手当であることが分かる名目で支給すべきと考えます。
 次に、②についてですが、通常の労働時間・労働日の賃金と残業代(割増賃金)に当たる賃金を判別できるようにしておかないと、残業代(割増賃金)の支払があったとは認められません。例えば、単に、残業代(割増賃金)込みの賃金である旨合意しただけでは、残業代(割増賃金)の支払があったとは認められません。
 「業務手当には30時間分の時間外手当を含む。」といった定めも、通常の労働時間・労働日の賃金と残業代(時間外割増賃金)に当たる賃金を判別するためには方程式を使って計算する必要がありますので、リスクが高いものと思われます。残業代(割増賃金)の趣旨を有する手当は、基本給や何らかの手当に含むという形で支給するのではなく、項目を明確に分けて金額を明示して定めるとともに、給料日には給与明細書に金額を分けて明示して給与を支給すべきと考えます。
 まずは、残業代(割増賃金)に相当する金額が何円なのか、残業代(割増賃金)の金額についてははっきりさせて下さい。その上で、当該手当が実質的にも残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の趣旨を有する手当であることを明確にするために、その金額が何時間分の時間外割増賃金、深夜割増賃金、休日割増賃金なのかを追加で明記するのであれば、より望ましいと考えられます。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

__________________

https://www.y-klaw.com/faq1/360.html

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運送業を営む会社が残業代(割増賃金)請求を受けるリスクが特に高いのはどうしてだと思いますか。

2022-01-27 | 日記

Q.運送業を営む会社が残業代(割増賃金)請求を受けるリスクが特に高いのはどうしてだと思いますか。

 

 運送業のトラック運転手は従来、自営業者意識が濃厚な傾向があり、トラック運転手のそういった傾向に対応して、運送業の会社経営者は残業代(割増賃金)を支払わなければならないという意識が希薄な傾向にありました。運送業では、トラック運転手の給料が「1日現場に行って来たら1万○○○○円」といった形で定められている会社が多く、労働者というよりは個人事業主に近い形で労務管理がなされている傾向にあります。昔からそのやり方で問題なくやってきたわけですから、トラック運転手から多額の残業代請求を受けて大きな損失を被らない限り、なかなか制度を変更しようとはしません。簡単に言えば、脇が甘いわけです。トラック運転手から残業代(割増賃金)請求を受けると強い被害者意識を持つ会社経営者が多い傾向にあるのも運送業の特徴です。
 他方で、最近では残業代(割増賃金)に関するトラック運転手の意識が急速に変わってきています。おそらく、「○○さんは,弁護士に頼んで○○○万円も残業代を払ってもらったらしい。」などと,トラック運転手同士で情報交換しているうちに、自分も残業代(割増賃金)が欲しくなるトラック運転手が増えてきたものと思われます。運送業では、長距離運転があったり、手待時間が長くなったりしていることが多いことなどから、労働時間が長くなりがちで、残業代(割増賃金)も多額になる傾向にあります。少額の残業代(割増賃金)しか取れないのであれば会社と争っても仕方ありませんが,何百万円といった多額の金銭を取得できるのであれば、会社経営者との関係が悪化したとしても残業代(割増賃金)を取得できた方がいいと考えるトラック運転手が増えるのもやむを得ないところがあります。何しろ労基法で認められた正当な権利を行使しているだけなのですから、「残業代を払わないできた会社が悪い。」と自分を納得させることができますので,良心の呵責も大きくはありません。
 運送業でトラック運転手から残業代(割増賃金)請求を受けるリスクが特に高い一番の理由は、運送業の会社経営者が残業代(割増賃金)を支払わなければならないという意識が希薄な傾向にあるのに対し、残業代(割増賃金)を請求すれば多額の残業代(割増賃金)を取得できることを知って残業代(割増賃金)を請求する意欲が高まっているトラック運転手の意識のギャップにあると考えています。実態と形式にギャップがある状態は、残業代(割増賃金)請求の格好のターゲットとなります。残業代(割増賃金)を請求するトラック運転手の立場からすれば、ガードを固めた会社と戦うのは大変ですが、脇が甘い会社であれば、大して難しいことをしなくても簡単に残業代(割増賃金)を取得できてしまいます。
 トラック運転手が個人事業主に近い実態があるにもかかわらず、形式的には労基法上の労働者に該当することが多いことから、そのギャップを突かれて多額の残業代(割増賃金)の支払を余儀なくされているというのが実情に合致していると思います。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

__________________

https://www.y-klaw.com/faq1/359.html

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