弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログです。

マイルストーン事件東京地裁平成22年8月27日判決(労経速2085-25)

2010-12-18 | 日記
本件は,原告が,労働者派遣業務等を営む株式会社である被告との間で締結した登録型有期雇用契約が被告の違法・不当な雇止めによって終了し,少なくとも3年間分の賃金等の支払を受ける権利等を侵害されたとして,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権として上記3年間分の賃金相当損害金等の支払を求めた事案です。

本判決は,本件「事情によると雇止めとなった平成21年3月当時,原告は,本件財団幹部らの発言から,将来本件財団の正社員に登用される可能性が十分にあるものと考え,本件雇用契約が更新継続されることに,かなり強い期待を抱いていたことが認められる。」と認定しつつ,下記のように判断して,原告の主張を採用せず,請求を棄却しました。
やはり,常用代替防止といった観点からすると,登録派遣の雇止めの効力を争ったり,損害賠償請求したりするのは厳しいです。
地位確認ではなく,損害賠償請求の形を取っているのも,地位確認が難しいと考えたからでしょう。
そもそも,原告側のストーリーに無理があったような気がします。

余談ですが,
正社員として雇ってもらいたければ,その「前提」として,それだけの魅力のある人物にならなければならないというのが,本来の話です。
「正社員にしてくれたら,いい仕事をする。」とか,「給料を上げてくれたら,もっといい仕事をする。」ではダメです。発想が逆です。選ぶのは相手なのです。
「いい仕事をしていたら,他社からスカウトされたり,勤務先から給料を上げるから正社員としてずっと働いて欲しいと頼まれた。」というのが,順番です。
そこそこ仕事ができる派遣社員の場合,むしろ,派遣先が正社員にならないかと熱心に勧誘し,派遣元と派遣先に争いが生じるといったケースの相談が多くなっています。

弁護士 藤田 進太郎


しかし,登録型有期労働契約の場合,派遣期間と雇用契約期間が直結しているため,労働者派遣が終了すれば雇用契約も当然に終了する。
そうすると本件雇用契約は,本件財団との本件派遣契約を前提としていることになり,本件財団幹部らの発言のとおり原告が本件財団の正社員(正職員)に登用されると,本件派遣契約は終了し,その結果として本件雇用契約も当然終了することになるのであるから,原告の上記期待は自己矛盾を含むものといわざるを得ない。
そもそも労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律(以下「労働者派遣法」という。)は,派遣労働者の雇用の安定だけでなく,常用代替防止,すなわち派遣先の常用労働者の雇用の安定をも目的としているものと解されるのであるから,この解釈の下では同一労働者の同一事業所への派遣を長期間継続することによって派遣労働者の雇用の安定を図ることは,常用代替防止の観点から労働者派遣法の予定するところではないものというべきである(この点を指摘する文献として土田道夫「労働契約法」705頁。同旨の説示を含む裁判例として松山地裁平成15年5月22日判決・労働判例856号45頁及びその控訴審である高松高裁平成18年5月18日判決・労働判例921号33頁参照)。
そうすると原告の上記期待は,労働者派遣法の趣旨に照らしても合理的なものであるとはいい難く,民法709条にいう「法律上保護される利益」には当たらないと解すべきである。
なお原告は,本件雇用契約は事実上期間の定めのないものと化していたと主張するが,上記(1),(二)で認定した事実のほか,原告には各更新時において自己の評価を気にする様子が見られたこと(証人C)などを考慮すると,原告の上記主張は採用の限りではない。
以上によると,その余の点を検討するまでもなく,原告の上記主張は理由がないことに帰着する。

なお付言するに,本件雇用契約のような派遣型有期雇用契約は,上記のとおり,労働者派遣契約を前提としているのであるから,その派遣契約が終了した以上,派遣元使用者において上記雇用契約の更新を拒絶しこれを終了させたとしても,それ自体はやむを得ない行為であって何ら不合理な点はない。
そうなると仮に原告の上記期待利益が合理的なものであったとしても,被告による本件雇用契約の更新拒絶は,民法709条所定の不法行為を構成するような筋合いのものではない。
この点に関して原告は,「本件雇用契約の上記業務内容では間もなく原告を正社員として登用しなければならない時期を迎えていたことから,本件財団は,これを回避するため,人事刷新,体制の再編強化などといった,ありもしない事実を理由に原告との派遣契約の終了を画策し,被告もこれに荷担したものである」旨主張するが,上記のとおり原告本人の供述等によると本件財団の専務理事等は原告の正社員登用をおのめかすことがあったというのであるから,原告の上記主張にあるような画策をしてまで原告との派遣契約を終了させるはずもなく,ましてや被告までこれに荷担することなど通常ではあり得ないことである。
いずれにしても,かかる原告の主張を裏付けるに足る的確な証拠はなく,憶測の域を出るものではない。
よって,原告の上記主張は採用の限りではない。

以上の次第であるから,原告の本件請求は理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

京濱交通事件横浜地裁川崎支部平成22年2月25日判決(労経速2085-11)

2010-12-18 | 日記
本件は,被告に雇用されていた原告が,被告の作成した就業規則29条に定める満60歳定年後の再雇用基準を満たしていないことを理由とする再雇用拒否が無効であるなどと主張して,被告に対する労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに定年の日の翌日からの賃金及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた事案です。

本判決は,本件継続雇用制度の導入を定める本件就業規則29条は,手続要件として高年齢者雇用安定法附則5条1項の要件を満たしておらず,手続要件を欠いていて無効であることを理由として,原告が,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあると判断しています。

私が本判決をざっと読んでみて疑問に思ったのは,就業規則29条の継続雇用制度を定める部分が無効であったとしても,60歳を定年とする部分については有効なのではないか,そうでないというならば何らかの判断が必要なのではないか,という点です。
この点については,裁判所の判断中では触れられていないように思えます。
私の読み落としか,勘違いがあるのでしょうか?
まさか,無効と判断した直後の「これに対する被告の再抗弁等の主張はないから」(弁論主義)というのが理由なのでしょうか?
現段階ではあまり深く検討していないので,もう少し,検討してみようと思います。

弁護士 藤田 進太郎

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする