弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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管理職なのに残業代を請求してくる。

2012-07-26 | 日記
Q21 管理職なのに残業代を請求してくる。

 管理職であっても,労基法上の労働者である以上,原則として労基法37条の適用があり,週40時間,1日8時間を超えて労働させた場合,法定休日に労働させた場合,深夜に労働させた場合は,時間外労働時間,休日労働,深夜労働に応じた残業代(割増賃金)を支払わなければならないのが原則です。
 当該管理職が,労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に該当すれば,労働時間,休憩,時間外・休日割増賃金,休日,賃金台帳に関する規定は適用除外となりますので,その結果,労基法上,使用者は時間外・休日割増賃金の支払義務を免れることになりますが,裁判所の考えている管理監督者の要件を充足するのは,本社の幹部社員など,ごく一部と考えられますので,通常は,管理監督者扱いとすることで残業代の支払義務を免れることができると考えるべきではありません。

 なお,管理監督者であっても,深夜労働に関する規定は適用されますので,管理職が管理監督者であるかどうかにかかわらず,深夜割増賃金(労基法37条3項)を支払う必要があることに変わりはありません(ことぶき事件最高裁第二小法廷平成21年12月18日判決)。
 また,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は無効となり,無効となった部分については労基法で定める基準が適用されますので(労基法13条),就業規則等で管理職には残業代を支給しない旨規定したり,個別労働契約で管理職であることを理由として残業代を支給しない旨規定し労働者に署名押印させるなどしてその同意を得ていたとしても,深夜割増賃金の支払義務は免れませんし,当該管理職が労基法上の管理監督者に該当しない限りは,深夜割増賃金以外の残業代(時間外・休日割増賃金)についても,支払義務を免れないことになります。

 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,
① 職務の内容,権限及び責任の程度
② 実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度
③ 待遇の内容,程度
等の要素を総合的に考慮して,判断されることになります。
 この点,日本マクドナルド事件東京地裁平成20年1月28日判決は,①の要件に関し,「職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか」という基準を用いています。
 私見では,同判決が「企業全体の事業経営」に関する重要事項への関与まで要求している点は疑問であると考えていますが,そのように判断されても問題が生じないよう社内体制を整備しておく必要があると考えます。

弁護士 藤田 進太郎

能力の高い定年退職者に通常の高年齢者よりも高い給料で仕事をしてもらいたい場合の対応

2012-07-25 | 日記
Q172 能力の高い定年退職者に重要な職務に従事してもらうため,通常の高年齢者よりも高い給料で仕事をしてもらいたい場合はどうすればいいでしょうか?

 能力が高く,定年退職後も通常の高年齢者よりも高い給料を支払ってでも重要な職務に従事して欲しい高年齢者については,
① 定年退職者全員に適用される継続雇用制度(高年齢者雇用安定法9条)とは別枠の嘱託社員として雇用するか,
② 取締役に選任して経営に参加してもらう
ことをお勧めします。
 ①に関しては,通常の継続雇用制度で再雇用し,賃金額を調整することでも対応できなくはありませんが,少なくとも労働条件が大幅に異なる再雇用者については,別枠の制度を設けてそれを適用するのが望ましいところです。

弁護士 藤田 進太郎

高年齢者の再雇用基準

2012-07-20 | 日記
Q168 高年齢者を再雇用するかどうかは,どのような基準で決めればいいでしょうか?

 「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」(高年齢者雇用安定法9条2項)を設けるのであれば,まずは高年齢者の健康状態,次に懲戒歴等の客観的な事情を重視すべきと考えます。
 ただ,「雇用と年金の接続」という高年齢者雇用安定法9条の立法趣旨,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」に基づく制度が段階的に廃止されていく見込みであること等からすれば,健康に問題がなく,指定された事業場に自分で出勤して通常の業務に従事できるのであれば,普通に定年を迎えた再雇用希望者全員が再雇用されるような基準であることが望ましいと思います。

 私が重視しているのは,むしろ,賃金額,勤務日数等の労働条件による調整です。
 賃金額,勤務日数等については,最低賃金法,労働基準法等の一般的な規制を除き,特別の規制はありませんので,会社の実情に応じた賃金額,勤務日数等を高年齢者に対して提案することができます。
 例えば,定年までは月給50万円もらっていた方であっても,定年退職後の再雇用では,時給1000円,1日8時間,週3日勤務ということでも構わないわけです。
 結果として,当該定年退職者が,こちらの提示した労働条件での再雇用を拒絶してきた場合は,再雇用しないという結論でもやむを得ません。
 会社の実態,再雇用を希望する定年退職者の能力等に応じた賃金額等の労働条件を提示し,それで折り合いがつくかどうかを交渉するというのが,穏当なのではないでしょうか。

弁護士 藤田 進太郎

高年齢者雇用確保措置(高年齢者雇用安定法9条1項)

2012-07-19 | 日記
Q167 高年齢者雇用確保措置(高年齢者雇用安定法9条1項)としては,どれがお勧めですか?

 当面は,継続雇用制度(高年齢者雇用安定法9条1項2号)を採用し,高年齢者に係る基準制度(高年齢者雇用安定法9条2項)を設けるのが無理がないのではないかと考えています。

 ただ,老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢は平成25(2013)年度に65歳への引上げが完了し,同年度に老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢が61歳に引き上げられ,平成37(2025)年度までに65歳へ段階的に引き上げられることとなっていること(女性は5年遅れ)もありますので,継続雇用されない高年齢者が年金も支給されないという事態を防止する(「雇用と年金の接続」)必要性が高くなっています。
 平成24年3月9日に国会に提出された『高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律案』では,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」に基づく制度の廃止が規定されており,平成25年4月1日施行予定です。
 もっとも,改正法施行の際,既にこの基準に基づく制度を設けている会社の選定基準については,平成37年3月31日までの間は,段階的に基準の対象となる年齢が以下のとおり引き上げられるものの,なお効力を有するとされていますが,猶予期間が与えられているというに過ぎません。
① 平成25年4月1日~平成28年3月31日 61歳以上が対象
② 平成28年4月1日~平成31年3月31日 62歳以上が対象
③ 平成31年4月1日~平成34年3月31日 63歳以上が対象
④ 平成34年4月1日~平成37年3月31日 64歳以上が対象
 平成24年7月19日現在,同法案は国会で審議中で成立していませんが,同改正法が成立した場合,既にこの基準に基づく制度を設けている会社についても,段階的に,「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準」によって継続雇用する高年齢者を選別することができなくなります。

 なお,平成25年4月1日施行予定の改正法案では,その他,
① 継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲をグループ企業まで拡大すること
② 高年齢者雇用確保措置義務に関する勧告に企業が従わない場合,企業名を公表することができるとすること
③ 従来,65歳未満の高年齢者の雇用機会増大を目標としてきたところであるが,雇用機会増大の対象を65歳以上の高年齢者にも拡大すること
等についても規定されています。
 ③に着目すれば,将来,65歳を超える年齢(例えば,67歳や70歳)までの雇用確保措置や,定年を65歳以上とすること等を義務付けられることも十分に考えられます。
 将来の法改正を見据えて,今のうちから60歳以前の社員の賃金制度を見直すなどして,さらなる法改正があっても支障が生じないよう備えておくべきと考えています。

弁護士 藤田 進太郎

サービス内容 平成24年7月17日(火)

2012-07-17 | 日記
サービス内容

1 労働問題の予防解決(経営者側専門)
 四谷麹町法律事務所所長弁護士藤田進太郎東京)は,健全な労使関係の構築を望んでいる会社経営者のお手伝いをしたいという強い思いを持っており,様々な業種の企業の顧問弁護士として,
① 解雇に関する紛争の予防・解決
② 残業代に関する紛争の予防・解決
③ 問題社員の対応
④ 労働審判・労働訴訟の対応
⑤ 労働組合との団体交渉・労働委員会における不当労働行為救済申立事件の対応
⑥ 長時間労働,うつ病,セクハラ,パワハラ,石綿吸引,じん肺等に関する損害賠償請求の対応
等の労働問題の予防解決に力を入れています。
 労働問題は弁護士藤田進太郎(東京)にお任せ下さい。

2 企業法務・訴訟対応等
 様々な業種の企業の顧問弁護士として,企業法務全般・訴訟対応等を行っています。

3 企業向けの一般労働相談
 企業向けの一般労働相談を行っていますので,従業員とのトラブル等,労働問題
でお悩みでしたら,お気軽にご相談下さい。   

4 倒産処理・破産管財業務
 企業の代理人として破産を申し立てたり,東京地裁から破産管財人に選任されて破産管財業務を行ったりしています。

5 その他
 経営者・人事労務担当者向けに,労働問題に関するセミナー講師等(所長ご挨拶ページ「主な講師担当セミナー・講演・著作等」参照)を行っています。
 顧問弁護士を務めている企業の関係者からの様々な相談に応じています。

問題社員への法的対応の実務

2012-07-02 | 日記
平成24年8月28日(火)午後2時00分~午後5時00分,金融財務研究会本社 グリンヒルビル セミナールーム(東京都中央区日本橋茅場町1-10-8) において,『問題社員への法的対応の実務』を開催します。

弁護士 藤田 進太郎



問題社員への法的対応の実務

~典型的な事例の解説と具体的相談事例の検討~

日時: 平成24年8月28日(火)午後2時00分~午後5時00分
会場: 金融財務研究会本社 グリンヒルビル セミナールーム
(東京都中央区日本橋茅場町1-10-8)
受講費: 34,500円(お二人目から29,000円)
(消費税、参考資料を含む)

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講師 藤田進太郎(ふじたしんたろう)氏
四谷麹町法律事務所 所長弁護士

 厳しい経済情勢の中で、問題社員の対応に悩まされている企業が多く、訴訟にまで持ち込まれる事例も少なくありません。
 そこで、本セミナーでは、経営者・人事労務担当者のお力になりたいと考え、労働問題(使用者側専門)を中心業務とし、多くの事例に立ち会ってきた講師が、典型的な問題社員への法的対応方法についての解説を行うとともに、受講者からの具体的な相談事例について検討を加えていきます。



1.典型的な問題社員への法的対応
(1)勤務態度が悪い。

(2)仕事の能力が低い。

(3)上司が注意するとパワハラだと言って、指導に従わない。

(4)金銭を着服・横領したり、出張旅費や通勤手当を
不正取得したりして、会社に損害を与える。

(5)転勤を拒否する。

(6)就業時間外に社外で飲酒運転、痴漢、傷害事件等の
刑事事件を起こして逮捕された。

(7)精神疾患を発症して欠勤や休職を繰り返す。

(8)行方不明になってしまい、社宅に本人の家財道具等を
残したまま、長期間連絡が取れない。

(9)退職届提出と同時に年休取得を申請し、引継ぎをしない。

(10)勝手に残業して、残業代を請求してくる。 など


2.具体的相談事例の検討
セミナー開催日前及びセミナー当日に、受講(予定)者から具体的な問題社員対応に関する質問を受け付け、具体的相談事例について検討を加えていきます。


【講師紹介】
東京大学法学部卒業。四谷麹町法律事務所所長弁護士。日本弁護士連合会労働法制委員会委員・事務局員・労働審判PTメンバー。第一東京弁護士会労働法制委員会委員・労働契約法部会副部会長。東京三会労働訴訟等協議会委員。経営法曹会議会員。労働問題が中心業務(使用者側専門)。問題社員対応に関する講師経験多数。
近時の著書に『高年齢者雇用安定法と企業の対応』(共著、第一東京弁護士労働法制委員会編、労働調査会)、『改訂版 最新実務労働災害』(共著、三協法規出版)など。