弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログです。

労基法上,使用者が割増賃金(残業代等)の支払義務を負う場合

2010-12-04 | 日記
Q11労基法上,使用者が割増賃金(残業代等)の支払義務を負うのはどのような場合ですか?

 使用者が労働者に対し,1週間につき40時間,1日につき8時間を超えて労働をさせた場合,法定休日に労働をさせた場合,午後10時から午前5時までの間(深夜)に労働をさせた場合には,労基法37条に基づき,原則として,割増賃金(及び通常の賃金,昭和23年3月17日付け基発461号)の支払義務を負うことになります。
 ただし,①物品の販売,配給,保管若しくは賃貸又は理容の事業,②映画の映写,演劇その他興行の事業,③病者又は虚弱者の治療,看護その他保健衛生の事業,④旅館,料理店,飲食店,接客業又は娯楽場の事業のうち,常時10人未満の労働者を使用する使用者については,労基法施行規則25条の2第1項により,労基法32条の規定にかかわらず,1週間につき44時間,1日につき8時間まで労働させることができるとされていますので,1週間については44時間を超えて労働させて初めて,労基法に基づく時間外割増賃金の支払が必要となります。

 所定労働時間が7時間の事業場において,1日8時間までの時間帯(1時間分)の法内残業については,労基法37条の規制外ですので,労基法37条に基づく割増賃金の請求は認められず,法内残業分の残業代を支給する義務が使用者にあるかどうかは,労働契約の解釈の問題となります。
 例えば,1日の所定労働時間が7時間の会社において,最初の1時間残業した部分(法内残業)については労基法37条に基づく割増賃金の請求は認められず,就業規則や個別合意に基づく残業代請求が認められるかどうかが検討されることになります。
 やり方次第では法内残業については残業代を支給しない扱いにすることもできるのですが,所定労働時間を超えて働いたのに上乗せ賃金が支給されないというのはトラブルの元ですから,やめた方がいいと思います。
 1日の所定労働時間が7時間の会社において,1時間残業させようとしたところ,どうせ残業代が出ないなら残業はしないと言って帰ってしまった社員がいた場合,残業命令違反を理由に懲戒処分を検討することになるのでしょうか?
 業務命令違反の問題と法内残業に関する賃金支払の問題は直接にはリンクしませんので,理屈では懲戒処分することができる場合もあるのかもしれませんが,私には無用のトラブルを招いているだけのように思えます。
 社員の納得を得るためにも,法内残業については,通常の時間単価に基づき計算された金額以上の賃金を支給する扱いとすべきと考えます。
 なお,1日7時間の労働時間では仕事が終わらないのが通常の会社であれば,1日の所定労働時間を8時間に変更することを検討してもいいかもしれませんが,その場合は,就業規則の不利益変更等の問題となります。

 では,労基法37条所定の割増賃金算定の基礎となる労基法32条の労働時間とはどの範囲を指すのでしょうか?
 一般的には,労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるかどうかにより客観的に定められ,当該労働を行うことを使用者から義務付けられ,またはこれを余儀なくされたときには,当該行為は特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められる限り,労基法上の労働時間に該当するものと考えられています(三菱重工業長崎造船所事件における最高裁第一小法廷平成12年3月9日判決,労判778-11)。
 労働時間性について最高裁判例があるとはいえ,その判断基準が抽象的なため,割増賃金請求がなされた場合には,労使間で労働時間性についての認識に食い違いが生じることが多くなっています。
 私の個人的印象としては,終業時刻後退社までの在社時間,出社後始業時刻までの時間,休憩時間,出社後作業現場までの移動時間や作業現場から会社に戻るまでの移動時間,スキルアップのための修業時間などの労働時間性について,労使の認識に齟齬が生じやすいという印象です。

弁護士 藤田 進太郎

辞めさせたい正社員がいる場合の対処法

2010-12-04 | 日記
Q10辞めさせたい正社員がいる場合,どのように対処すればいいのでしょうか?

 解雇は原則として自由であり(民法627条),客観的に合理的な理由を欠き,社会通念上相当であると認められない場合は,解雇権を濫用したものとして無効となる(労働契約法16条)というのが法の建前ですが,現実には,原則として解雇は無効で,特別な事情がある場合に限り解雇が有効となるというように,原則と例外が逆転した運用がなされていますので,正社員を有効に解雇することは極めて難しくなっています。
 また,勤続年数が長い正社員や幹部社員の解雇事案では,毎月支払われる賃金額が高額になる結果,仮に解雇が無効であった場合に発生しているバックペイの金額が高額となることなどから,解決金の相場も高額になりがちです。
 さらに,未払の割増賃金(残業代)の請求は,在職中ではなく,退職後になされることが多く,労基法所定の割増賃金の支払がなされていない会社において無理な解雇が強行された場合には,より割増賃金(残業代)の請求を受けるリスクが高まる印象です。
 したがって,一般論としては最後の最後まで解雇は行わず,社員から任意に退職届を提出してもらえるよう努力すべきです。
 退職届の提出があった場合であっても,退職勧奨の違法を根拠に,損害賠償請求を受けたり,退職の無効を主張されたりするリスクはゼロではありませんが,退職届も取らずに,一方的に解雇した場合と比べると,格段にリスクが低下することは疑いありません。
 やむを得ず解雇を行う場合は,弁護士の指導の下,慎重に行う必要があります。

 退職の問題は社員の生活に重大な影響を及ぼすのが通常で,非常にデリケートな問題ですから,社員の生活に対する十分な配慮が必要となります。
 例えば,離職票の交付を速やかに行う等,失業手当の受給手続が円滑に行えるよう配慮することは,最低限必要です。
 感情的になりそうな何らかの事情があったとしても,離職票の交付を遅らせてはいけません。
 失業手当に関し,自分から退職届を出して退職すると自己都合退職として扱われ,失業手当を受給する上で不利な取扱を受けるのではないかと懸念し,退職自体はやむを得ないと考えていても,退職届の提出を拒絶する社員がいます。
 しかし,「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」(雇用保険法施行規則36条9号)は,「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当しますので(雇用保険法23条2項2号),会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり,労働者が失業手当を受給する上で不利益を受けることはありません。
 社員が失業手当の受給条件について心配しているようでしたら,丁寧に説明して懸念を払拭する必要があります。

 退職勧奨を行うにあたっては,担当者の選定が極めて重要となります。
 退職勧奨が紛争の契機となることが多いので,相手の気持ちを理解する能力を持っている,コミュニケーション能力の高い社員が退職勧奨を担当する必要があります。
 最悪なのは,退職勧奨を受ける社員と仲の悪い上司が退職勧奨を行うようなケースで,非常にトラブルが多くなっていますので,そうならないよう配慮することが必要です。
 同じようなケースであっても,退職勧奨の担当者が誰かにより,紛争が全く起きなかったり,紛争が多発したりします。
 退職勧奨を検討する際,通常は,「どのように退職勧奨すべきか?」という発想で考えることになりますが,現実の紛争予防のためには,「誰が退職勧奨を担当するのか?」という点が極めて重要であるということを覚えておいて下さい。

弁護士 藤田 進太郎

解雇・雇止めをした場合に使用者が受けることが多い請求

2010-12-04 | 日記
Q9解雇・雇止めをした場合,労働審判・訴訟などにおいて,使用者はどのような請求を受けることが多いのでしょうか?

 解雇・雇止めが無効の場合において,労働者が就労の意思があり,労務の提供をしているにもかかわらず,使用者が正当な理由なく就労を拒絶しているような場合には,就労不能の帰責事由が使用者にあると評価されるのが通常でしょうから,使用者は賃金支払義務を免れず(民法536条2項),労働者が実際には働いていない期間についての賃金についても,支払わなければならなくなります。
 したがって,労働者側が解雇・雇止めの効力を争っている場合,雇用契約上の地位にあることの確認とともに,解雇・雇止め後の毎月の賃金(判決等確定までの将来分も含む。)の支払を求めてくるのが通常です。
 単純化して説明しますと,このような労働審判・訴訟において,月給30万円の従業員について,解雇・雇止めの1年後に解雇・雇止めが無効と判断された場合,既に発生している過去の賃金だけで,30万円×12か月=360万円の支払義務を使用者が負担するリスクを負っており,その後も毎月30万円ずつ支払額が増額されていくリスクがあることになります。

 労働者が他社に正社員として就職するなどして労務提供の意思が完全に喪失し労務の提供がなくなったと評価できる場合や,使用者が解雇・雇止めを撤回して労働者に出社するよう命じたにもかかわらず労働者が出社しなかったような場合は,当初の解雇・雇止めが無効であったとしても,以後の賃金支払義務を使用者は免れることになります。
 しかし,労働者が転職せずに職場復帰を求め続けた場合や,労務提供の意思を失わないまま一時的に別の職場で仕事をしたに過ぎないような場合で,使用者が職場復帰を認めなかったような場合は,実際には全く働いていない期間について高額の賃金の支払を命じられるリスクがあります。
 このため,解雇・雇止めが無効と判断されるリスクが高いケースでは,解雇・雇止めから解決までの時間が経てば立つほど,解決金の金額が高くなりがちですので,労働審判や訴訟の初期の段階で,早期に話をまとめるべきこととなります。

 なお,従業員が突然出社しなくなり,会社から解雇されたと主張して,解雇予告手当(労基法20条1項)の支払を請求してくることがありますが,解雇予告手当というものの性質上,請求金額は30日分の平均賃金の金額にとどまりますので,訴訟対応の煩わしさ,解雇予告手当と同額(以下)の付加金の支払(労基法114条)を命じられるリスク,刑事罰(労基法119条1号,6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金)に関連する労基署(検察庁)対応の煩わしさはあっても,解雇・雇止めの無効が主張されたケースと比べて,金額面でのリスクは遙かに小さくなります。

弁護士 藤田 進太郎