弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログです。

管理職としての能力が低い社員を解雇する場合の注意点

2014-06-30 | 日記

管理職としての能力が低い社員を解雇する場合の注意点を教えて下さい。

 管理職 としての能力が低いことが原因で部下を管理できない場合であっても直ちに退職勧奨 したり解雇 したりせず,当該社員の能力でも対応できるレベルの管理職に降格させるか,管理職から外して対応するのが原則です。
 ただし,地位を特定して高給で採用された社員に労働契約で予定された能力がなかった場合には,降格ではなく退職勧奨や解雇を検討することになります。地位特定者を解雇するにあたっては,地位を特定して採用された事実を主張立証する必要がありますので,労働契約書等の書面に明示しておくべきです。
 管理職として不適格であることを理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには,何月何日に管理職として不適格であることを示す事実があったのかを,当該事実があった当時の証拠により説明できるようにしておく必要があります。抽象的に「管理職として不適格である。」と言ってみてもあまり意味はありませんし,「彼が管理職として不適格であることは,周りの社員も,取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。
 会社関係者の陳述書や法廷での証言は,証拠価値があまり高くないため,紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと,何月何日にどのような管理職として不適格であることを示す事実があったのかを主張立証するのには困難を伴うことが多いというのが実情です。


就業時間外に社外で飲酒運転・痴漢・傷害事件等の刑事事件を起こした社員を懲戒解雇する際の注意点

2014-06-30 | 日記

就業時間外に社外で飲酒運転・痴漢・傷害事件等の刑事事件を起こした社員を懲戒解雇する際の注意点を教えて下さい。

 そもそも,私生活上の行為を理由として懲戒処分に処することができるかが問題となりますが,「営利を目的とする会社がその名誉,信用その他相当の社会的評価を維持することは,会社の存立ないし事業の運営にとって不可欠であるから,会社の社会的評価に重大な悪影響を与えるような従業員の行為については,それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても,これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められなければならない。」(日本鋼管事件最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決)と考えられています。
 もっとも,就業時間外に社外で社員が刑事事件を起こしただけで直ちに懲戒処分に処することができるわけではなく,
① 社員の言動が懲戒事由に該当すること
② 当該懲戒が,当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当であると認められること(労契法15条)
等が必要となります。
 本人が犯行を否認しており,犯罪が行われたかどうかが明らかではない場合は,犯行があったことを前提に懲戒処分をすることはリスクが高くなります。懲戒処分は証拠から認定できる事実に基づいて行うようにして下さい。
 懲戒解雇 ・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分は紛争になりやすく,その効力は厳格に判断される傾向にあります。会社の社会的評価を若干低下させたというだけでは,懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職のような退職の効果を伴う懲戒処分の理由としては不十分であり,会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価することができるような事実を証拠により認定できる必要があります。
 日本鋼管事件最高裁昭和49年3月15日第二小法廷判決は,「就業時間外に社外で行われた刑事事件が会社の社会的評価に重大な悪影響を与えたこと」を理由とする懲戒解雇・諭旨解雇の可否の判断にあたり,「当該行為の性質,情状のほか,会社の事業の種類・態様・規模,会社の経済界に占める地位,経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して,右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合」に該当するかどうかを検討しています。
 タクシーやバスの運転業務に従事している社員が飲酒運転した場合や,電鉄会社社員等,痴漢を防止すべき立場にある者が痴漢した場合は,一般的には懲戒解雇が有効とされやすい傾向にあります。
 懲戒解雇が無効とされるリスクがある事案については,より軽い懲戒処分にとどめた方が無難なことも多いところです。結果として,社員が自主退職することもあります。
 最初に刑事事件を起こした際に,懲戒解雇を回避してより軽い懲戒処分をする場合は,書面で,次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇する旨の警告をするか,次に痴漢等の刑事事件を起こしたら懲戒解雇されても異存ない旨記載された始末書を取っておくとよいでしょう。これがあれば万全というわけではありませんが,同種事犯を犯した場合の懲戒解雇が有効となりやすくなります。
 懲戒解雇事由に該当する場合を退職金の不支給・減額・返還事由として規定しておけば,懲戒解雇事由がある場合で,当該個別事案において,退職金不支給・減額の合理性がある場合には,退職金を不支給または減額したり,支給した退職金の全部または一部の返還を請求したりすることができます。
 退職金の不支給・減額事由の合理性の有無は,労働者のそれまでの勤続の功を抹消(全額不支給の場合)又は減殺(一部不支給の場合)するほどの著しい背信行為があるかどうかにより判断されます。懲戒解雇が有効な場合であっても,労働者のそれまでの勤続の功を抹消するほどの著しい背信行為がない場合は,本来の退職金の支給額の一部の支払が命じられることがあります。例えば,小田急電鉄(退職金請求)事件東京高裁平成15年12月11日判決は,鉄道会社の従業員が私生活上で行った電車内の痴漢行為を理由とする懲戒解雇は有効と判断されましたが,それまでの勤続の労を抹消するほどの強度の背信性を持つ行為であるとまではいえないとして,本来の退職金の支給額の30%の支払を命じています。


会社に無断でアルバイトした社員を解雇することはできるか

2014-06-30 | 日記

会社に無断でアルバイトした社員を解雇することができますか。

 就業時間外の行動は自由なのが原則のため,社員の兼業を禁止するためには,就業規則に兼業禁止を定めて,兼業禁止を労働契約の内容にしておく必要があります。
 何らかの処分をするためには,兼業により十分な休養が取れないなどして本来の業務遂行に支障を来すとか,会社の名誉信用等を害するとか,競業他社での兼業であるとかいった事情が必要となります。企業秩序を乱すようなアルバイトを辞めるよう注意指導しても辞めようとしない場合は,書面で注意指導し,それでも改善しない場合は懲戒処分を検討することになります。
 解雇 までは難しい事案が多く,紛争になりやすいので,解雇に踏み切る場合は,その有効性について慎重に検討する必要があります。


業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい社員を解雇する際の注意点

2014-06-30 | 日記

業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい社員を解雇する際の注意点を教えて下さい。

 業務上のミスの程度・頻度が甚だしく改善の見込みが乏しい場合には,退職勧奨 と平行して普通解雇 を検討します。普通解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇 が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由に該当するだけでなく,②解雇権濫用に当たらないことも必要となります。②解雇権濫用に当たらないというためには,解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものである必要があります。
 解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには,「裁判官」が,労働契約を終了させなければならないほど当該社員の業務上のミスの程度・頻度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じているため,労働契約で求められている能力が欠如していると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者,上司,同僚,部下,取引先などが,主観的に解雇に値すると考えただけでは足りず,単に思ったよりもミスが多く,見込み違いであったというだけでは,解雇は認められません。
 長期雇用を予定した新卒採用者については,社内教育等により社員の能力を向上させていくことが予定されているため,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたとしても直ちに労働契約で求められている能力が欠如していることにはならず,解雇は例外的な場合でない限り認められません。一般的には,勤続年数が長い社員,賃金が低い社員は,業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が認められにくい傾向にあります。採用募集広告に「経験不問」と記載して採用した場合は,一定の経験がなければ有していないような能力を採用当初から有していることを要求することはできません。
 地位や職種が特定されて採用された社員については,当該地位や職種で要求される能力を欠く場合は,労働契約で求められている能力が欠如しているものとして,普通解雇が認められやすくなります。ただし,解雇が比較的緩やかに認められる前提として,地位や職種が特定されて採用された事実や,当該地位や職種に要求される能力を主張立証する必要がありますので,できる限り労働契約書に明示しておくようにしておいて下さい。
 業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えることを理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを,業務ミスがあった当時の証拠により説明できるようにしておく必要があります。抽象的に「業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えた。」と言ってみてもあまり意味はありませんし,「彼(女)が業務上のミスを繰り返して会社に損害を与えたことは,周りの社員も,取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。会社関係者の陳述書や法廷での証言は,証拠価値があまり高くないため,紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと,何月何日にどのような業務ミスがあり,会社にどのような損害を与えたのかを主張立証するのには困難を伴うことが多くなります。


勤務態度が悪い問題社員を解雇する際に考慮すべきこと

2014-06-30 | 日記

勤務態度が悪い問題社員を解雇する際に考慮すべき点を教えて下さい。

 勤務態度の悪さの程度が甚だしく,十分に注意指導し,懲戒処分に処しても勤務態度の悪さが改まらず,改善の見込みが低い場合には,退職勧奨 と平行して普通解雇 懲戒解雇 を検討することになります。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由,懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇 が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。
 普通解雇や懲戒解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく,②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないことも必要となります。②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないというためには,普通解雇や懲戒解雇に客観的に合理的な理由があり,社会通念上相当なものである必要があります。
 普通解雇や懲戒解雇に「客観的に」合理的な理由があるというためには,「裁判官」が,労働契約を終了させなければならないほど社員の勤務態度の悪さの程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていると判断するに値する「証拠」が必要です。会社経営者,上司,同僚,部下,取引先などが,主観的に普通解雇や懲戒解雇に値すると考えただけでは足りません。
 勤務態度が悪い社員の普通解雇や懲戒解雇が②解雇権濫用や懲戒権濫用に当たらないかを判断するにあたっては,勤務態度の悪さが業務に与える悪影響の程度,態様,頻度,過失によるものか悪意・故意によるものか,勤務態度が悪い理由,謝罪・反省の有無,勤務態度の悪さを是正するために会社が講じていた措置の有無・内容,平素の勤務成績,他の社員に対する処分内容・過去の事例との均衡等が考慮されます。


労働者代理人から解雇の撤回は認められないし,賃金請求権も認められないと言われたら

2014-06-29 | 日記

問題社員を解雇したところ,労働者側から不当解雇との主張がなされたので,解雇を撤回して就労を命じたところ,労働者代理人から,東京高裁平成21年11月16日決定(判タ1323号267頁)を引用の上,解雇の撤回は認められないと主張され,しかも,民法536条2項により賃金請求権も失われないから賃金を払え,とも言われています。この場合の法律関係をどのように考えればよろしいでしょうか?

 問題社員 解雇 したところ,労働者側から不当解雇との主張がなされたので,解雇を撤回して就労を命じた場合に,労働者代理人から,東京高裁平成21年11月16日決定(判タ1323号267頁)を引用の上,解雇の撤回は認められないと主張され,しかも,民法536条2項により賃金請求権も失われないから賃金を払え,といった請求がなされることがあります。
 使用者が職場復帰して仕事して下さいと言っているのに,解雇の撤回は認められないと主張して就労を拒絶した挙げ句,民法536条2項により賃金請求権も失われないなどと主張してくるのですから,開いた口がふさがらない話ですが,この場合の法律関係はどう考えればいいのでしょうか。
 まず,「解雇の撤回は認められない。」という主張は,労働者の職場復帰を要求すべき立場にある労働者代理人の主張すべきことではないと思いますが,純粋に理屈だけで考えれば,間違いとは言えません。
 解雇は使用者による一方的な意思表示ですから,解雇の意思表示が労働者に到達した時点で効力が発生しています。
 効力が既に発生している以上,一方的な「撤回」を行うことはできず,その法的効力を遡及的に失わせるためには労働者の同意が必要となるというのが,論理的帰結です。
 では,民法536条2項により賃金請求権が失われないという主張はどうでしょうか?
 解雇が無効と判断された場合に民法536条2項により賃金請求権が失われないのは,労働者の就労義務が使用者の就労拒絶によって履行不能となっているからです。
 使用者が,解雇は撤回して就労を命じた場合は,使用者による就労拒絶がなく,いわば労働者の都合で欠勤したのと同じ状況にありますから,民法536条2項の適用場面ではありません。
 したがって,使用者が就労を命じているにもかかわらず,労働者がこれを拒絶して就労しない場合には,特段の事情がない限り民法536条2項は適用されず,対応する期間に対する賃金請求権は発生しないことになります。


社員が行方不明の場合に解雇することはできるか

2014-06-29 | 日記

社員が行方不明の場合に解雇することはできますか。

 長期間の無断欠勤は,普通解雇事由及び懲戒解雇事由に該当するのが通常ですので,行方不明のため長期の欠勤が続いている場合には,解雇 を通知することができれば,解雇は有効と判断される可能性が高いところです。
 しかし,いくら捜しても社員が行方不明の場合は,どこ宛に解雇通知書を発送すればいいのかといった解雇を通知する方法が問題となります。
 解雇の意思表示は,解雇通知が相手方に到達して初めてその効力を生じるため(民法97条1項),有効無効以前の問題として,解雇通知が行方不明の社員に到達しなければ解雇の効力を生じる余地はありません。
 社員が自宅で生活しており,単に出社を拒否しているに過ぎないような事案であれば,社員の自宅に解雇通知が届けば社員の支配権内に置かれたことになりますから,実際に社員が解雇通知を読んでいなくても,解雇の意思表示が到達したことになります。
 しかし,会社が把握している自宅が引き払われているなど本当の意味での行方不明でどこに住んでいるのか皆目見当がつかない場合は解雇通知を発送すべき宛先が分かりません。
 会社が把握している社員の自宅が引き払われてはいなくても,長期間にわたり社員が自宅に戻っている形跡が全くないような場合は,社員の自宅に解雇通知が到達したとしても社員の支配権内に置かれたと評価することはできませんので,解雇の意思表示が社員に到達したことにはならず,解雇の意思表示は効力を生じません。
 電子メールによる解雇通知は,行方不明の社員からの返信があれば,通常は解雇の意思表示が当該社員に到達し,解雇の効力が生じていると考えることができるでしょう。
 ただし,電子メールに返信があるような事案の場合,そもそも行方不明と言えるのか問題となる余地がありますので,解雇権を濫用したものとして無効(労契法16条)とされないよう,解雇に先立ち,行方不明の社員と連絡を取る努力を尽くす必要があります。
 他方,行方不明の社員からメール返信がない場合は,解雇の意思表示が到達したと考えることにはリスクが伴いますが,連絡を取る努力を尽くした上で,リスク覚悟で退職処理してしまうということも考えられます。
 行方不明の社員の家族や身元保証人に対し,行方不明の社員を解雇する旨の解雇通知を送付しても,解雇の意思表示が到達したとは評価することができず,解雇の効力は生じないのが原則です。
 兵庫県社土木事務所事件最高裁第一小法廷平成11年7月15日判決では,行方不明の職員と同居していた家族に対し人事発令通知書を交付するとともにその内容を兵庫県公報に掲載するという方法でなされた懲戒免職処分の効力の発生を認めていますが,特殊な事案であり,射程を広く考えることはできません。
 通常,家族に解雇通知書を交付し社内報に掲載したといった程度で,解雇の意思表示が到達したと考えるのは困難です。
 完全に行方不明の社員に対し,解雇を通知する場合は,簡易裁判所において公示による意思表示(民法98条)の手続を取る必要があります。
 公示による意思表示の要件を満たせば,解雇の意思表示が行方不明の社員に到達したものとみなしてもらうことができます。


裁判所で解雇が無効と判断された場合,不就労日などは出勤日数・全労働日に含まれるか

2014-06-29 | 日記

裁判所で解雇が無効と判断された場合の解雇日から復職日までの不就労日などは,労基法39条の出勤日数・全労働日に含まれますか?

 裁判所で解雇 が無効と判断された場合の解雇日から復職日までの不就労日などが労基法39条の出勤日数・全労働日に含まれるかについては,行政通達(平成25年7月10日付け基発0710第3号)が存在します。
 同通達は,八千代交通(年休権)事件最高裁第一小法廷平成25年6月6日判決(労判1075号21頁)を踏まえて出されたものということもあり,今後の裁判実務においても概ね同通達の解釈に沿った判断がなされるものと思われます。
 同通達の概要は以下のとおりです。
1 年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の日数は就業規則その他によって定められた所定休日を除いた日をいい,各労働者の職種が異なること等により異なることもあり得る。
 したがって,所定の休日に労働させた場合には,その日は,全労働日に含まれないものである。
2 労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日は,3に該当する場合を除き,出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものとする。
 例えば,裁判所の判決により解雇が無効と確定した場合や,労働委員会による救済命令を受けて会社が解雇の取消しを行った場合の解雇日から復職日までの不就労日のように,労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日が考えられる。
3 労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日であっても,次に掲げる日のように,当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でないものは,全労働日に含まれないものとする。
(一) 不可抗力による休業日
(二) 使用者側に起因する経営,管理上の障害による休業日
(三) 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日


解雇が無効と判断された場合,就労を拒んでいた所定労働日を出勤日数に参入する必要はあるか

2014-06-29 | 日記

解雇が無効と判断された場合,労基法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たり,解雇により労働契約が終了していることを理由として就労を拒んでいた所定労働日を出勤日数に算入する必要がありますか?

 解雇 が無効と判断された場合,労基法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たり,解雇により労働契約が終了していることを理由として就労を拒んでいた所定労働日を出勤日数に算入する必要があるかどうかについては,最高裁判例が存在します。
 八千代交通(年休権)事件最高裁第一小法廷平成25年6月6日判決(労判1075号21頁)は,以下のように判示し,そのような日は,労基法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきとしています。
 「法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は,法の制定時の状況等を踏まえ,労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと,前年度の総暦日の中で,就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち,労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは,不可抗力や使用者側に起因する経営,管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として,上記出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である。」
 「無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は,労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり,このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから,法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。」


能力不足を理由とした解雇が認められるかどうかは,どのように判断すればいいか

2014-06-29 | 日記

能力不足を理由とした解雇が認められるかどうかは,どのように判断すればよろしいでしょうか?

 能力不足を理由とした解雇 が認められるかどうかは,基本的には労働契約で求められている能力が欠如しているかどうかによります。
 単に思ったほど能力がなく,見込み違いであったというだけでは,解雇は認められません。
 長期雇用を予定した新卒採用者については,社内教育等により社員の能力を向上させていくことが予定されているのですから,能力不足を理由とした解雇は,例外的な場合でない限り,認められません。
 一般的には,勤続年数が長い社員,賃金が低い社員は,能力不足を理由とした解雇が認められにくい傾向にあります。
 採用募集広告に「経験不問」と記載して採用した場合は,一定の経験がなければ有していないような能力を採用当初から有していることを要求することはできません。
 特定の能力を有することが労働契約の条件とされて高給で採用された社員,地位を特定して高給で採用された社員に労働契約で予定された能力がなかった場合には,解雇が認められやすい傾向にあります。
 ただし,解雇が比較的緩やかに認められる前提として,当該契約で求められている能力の内容,地位を特定して採用された事実を主張立証する必要がありますので,労働契約書等の書面に明示しておくべきです。
 労働契約書等に明示されていないと,当該契約で求められている能力の内容,地位を特定して採用された事実の主張立証が困難となることがあります。
 能力不足を理由とした解雇が有効と判断されるようにするためには,能力不足を示す「具体的事実」を立証できるようにしておく必要があります。
 抽象的に「能力不足」と言ってみても,あまり意味はありません。
 何月何日に能力不足を示すどのような具体的事実があったのか,記録に残しておく必要があります。
 「彼(女)の能力が低いことは,周りの社員も,取引先もみんな知っている。」というだけでは足りません。
 会社関係者の陳述書や法廷での証言は,証拠価値があまり高くないため,紛争が表面化する前の書面等の客観的証拠がないと,解雇の有効性を基礎付ける事実を主張立証するのには困難を伴うことが多いというのが実情です。


勝手に何日も休んで周りに迷惑をかけている問題社員を解雇する際の注意点

2014-06-29 | 日記

「仕事を休みます。」とだけ連絡してきて,勝手に何日も休んで周りに迷惑をかけている問題社員を解雇する際の注意点を教えて下さい。

 勝手に何日も休んで周りに迷惑をかけている社員を解雇 する場合は,正当な理由なく欠勤を続けていることを解雇理由とするのが通常です。
 したがって,この解雇の有効性を判断するにあたっては「欠勤」の有無,日数,欠勤の理由等が問題となります。
 ここで最初に問題となるのが,「仕事を休みます。」との連絡が,年次有給休暇の取得申請なのか,欠勤の届出なのかという点です。
 何年も勤務を続けている社員の場合,年次有給休暇(労基法39条)が何日もたまっていることがあります。
 何日も欠勤したことを理由として解雇したところ,年次有給休暇取得の申請をしたのだから欠勤しておらず解雇事由が存在しないとか,欠勤した日はあるにしても年休を取得した日数を差し引けばわずかな欠勤日数なのだからこの程度の欠勤日数で解雇するのは解雇権の濫用(労契法16条)で無効であるといった主張がなされるリスクが残ることになります。
 もちろん,所定の用紙を用いて年次有給休暇取得を申請するルールになっているにもかかわらず,単に「休みます。」と連絡しただけでは年次有給休暇取得を請求したとはいえないと解釈すべきという主張にももっともな理由があるところです。
 しかし,会社の中には,風邪などで欠勤した場合に,年次有給休暇を使ったことにして欠勤扱いせず,欠勤控除しないのが慣行となっている会社も数多くあるところです。
 そのような会社で,年次有給休暇が10日も20日も残っている社員が休むと連絡してきた場合,その連絡には年次有給休暇取得請求の趣旨が含まれていると考えることもできそうです。
 また,社員本人が年休を取得していると考えていたのであれば,それが欠勤と評価されることが後から判明したとしても,会社が当該社員の意思確認をそれなりにしていない限り,何ら理由のない欠勤とは悪質性の程度が大きく異なると言わざるを得ません。
 事前に書面で申請しない限り年次有給休暇の取得は一切認めないというルールを作成し,現実にそのルールを例外なく適用していて,全ての社員がルールをよく理解している会社であれば話は別かもしれませんが,貴社においてそのような運用は現実的でないというのであれば,別の対処方法を考えた方が賢明と思われます。
 私が顧問先企業にお勧めしているアドバイスの中には,「欠勤を理由に何らかの処分をしたいのであれば,まずは年次有給休暇を使い切らせて下さい。」というものがあります。
 年次有給休暇が残っていれば,年休取得なのか,欠勤なのかの問題が残りますが,年次有給休暇を使い切らせてしまえば,年休を取得したという主張を完全に封じることができます。
 また,会社とトラブルになっている社員の中には,退職すること自体はやぶさかではないが,年次有給休暇を使い切らずに退職してしまうのだけが心残りだ,もったいない,と考えている者も多くいます。
 心残りとなっていることを解消してやれば,紛争解決に大きく近づいていくことになりますので,年次有給休暇を使い切らせるというのは,実際上も紛争解決に役に立つことになります。
 くれぐれも,「こんな問題社員に年休取得までさせたら,踏んだり蹴ったりで,会社ばかりが一方的に損をすることになるし,迷惑がかかっている他の社員が納得しないから,年休取得を認めるわけにはいかない。」などと考えて,年休取得を妨げるようなことはないようにして下さい。
 そのような不合理な対処をしたら,労働審判などにおける解決金の相場が無駄に上がってしまう可能性が高くなります。
 具体的なやり方としては,所定の申請用紙を本人宛書留郵便などで郵送し,年次有給休暇の取得なのか,欠勤なのか,明確に記載して返送するよう伝えれば足りますので,難しい手続ではありません。
 年次有給休暇が何日も残っている社員であれば,まず間違いなく,年次有給休暇を取得する旨記載して返送してきます。


問題社員の解雇で苦労しないようにするためのポイント

2014-06-29 | 日記

問題社員の解雇で苦労しないようにするためのポイントを教えて下さい。

 私の印象では,問題社員 解雇 で苦労することになった原因のかなりの部分は,会社経営者が多忙であることなどから,採用活動にかける手間や費用を惜しんだり,人手不足の解消を優先させたりして,問題社員であるかもしれないと感じていながら,採用してしまったことにあります。
 確かに,問題を起こすような応募者だとは全く思わなかったのに,採用してみたら問題ばかり起こして困っているという事案もないわけではありません。
 事業を始めたばかりで経験が足りず,人を見る目がないといった特別の事情があるのであれば,問題社員とは夢にも思わなかったという話にも一定のリアリティがあります。
 しかし,弁護士に相談しなければならないほどの事案は,採用時にあまりいい印象を持たなかった応募者を採用してみたところ,やはり問題社員だったという事案が,かなりの割合を占めています。
 応募者からだまされて採用してしまったというより,問題があることには気づいていたものの,採用の手間や費用を惜しんだり,人手不足の解消を優先させたりして自分を偽り,問題がある人物を採用することを自分で正当化して採用してしまったという表現の方が適切な事案が多いのです。
 あまり深く考えていないと,「実際に使ってみなければ良い社員かどうか分からない。」といった一般論に説得力があるように聞こえるかもしれませんが,実際には「良くない社員だということは採用の時点から分かっていた。」ということが多いのです。
 経験豊富な会社経営者の目をごまかすことは,容易ではありません。
 会社経営者が,会社にとって魅力的な人物だと判断できれば採用する,魅力的だと思わなければ不採用にするといった,当たり前の方針を貫いていただければ,採用で失敗するリスクは相当下がるはずです。
 採用に値する積極的な理由がない場合には,不採用とすることをお勧めします。
 採用することに積極的な理由が必要なのであって,不採用とすることに積極的な理由が必要なわけではないのです。
 「類は友を呼ぶ。」ということわざのとおり,部下に採用を任せた場合,その部下は,仕事に関し,自分と似た価値観,ものの考え方を持った人物を採用する傾向にあります。
 会社経営者を中心とした結束が生命線の中小企業の場合は,会社経営者自らが採用活動に深く係わるべきと考えますが,仮に,部下の誰かに採用を任せることになった場合は,会社経営者の会社経営に協力的で人間性も優れている人物に採用を担当させるべきと考えます。


態度の悪い社員が会社をやめると言い残して退職届も提出せずに出ていってしまったら

2014-06-26 | 日記

社員の態度が悪いため改善するよう指導したところ口論になり,当該社員は会社を辞めると言い残して退職届も提出せずに出て行ってしまいました。どのように対応すればいいでしょうか?

 まずは,本人と連絡を取って,会社を辞めるのであれば退職届を提出するよう促して下さい。
 退職届等の客観的証拠がないと,口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず,解雇 したと認定されたり,解雇もなく合意退職も成立していないからまだ在職中であると認定されたりすることがあります。
 退職届を提出するよう促しても提出しない場合は,電子メールか書面で,会社を辞めるのであれば退職届を提出するよう促すとともに,退職する意思がないのであれば出社するよう促し,解雇していない事実を明確にして下さい。
 最近では,使用者や上司を挑発して解雇の方向に話を誘導して会話を無断録音し,後になってから不当解雇だと主張して多額の解決金を獲得しようとする問題社員 が増加しています。
 自ら進んで退職届を提出したのでは会社からお金を取れませんが,解雇されたことにして争えばある程度の解決金は取れると考える問題社員も中にはいるということです。


労基署に相談してから解雇すれば,裁判にも勝てるのか

2014-06-26 | 日記

労基署に相談してから解雇すれば,裁判にも勝てますよね?

 労基署は労基法違反を取り締まっていますので,労基法20条の解雇予告等をしてから解雇 するよう指導する等,労基法違反にならないようにするためのアドバイスはしてくれるかもしれません。
 労基官によっては,解雇には客観的に合理的な理由が必要であり,社会通念上相当なものである必要もあること(労契法16条)についても教えてくれるかもしれません。
 しかし,解雇の有効性を判断する最終的な権限があるのは裁判所(司法機関)であり,労基署(行政機関)には解雇が民事上有効かどうかを最終的に判断する権限がありませんし,裁判の見通しまで考えて指導してもらえるわけではありません。
 したがって,労基署に相談してから解雇を行ったとしても,直ちに裁判にも勝てることにはなりません。


問題社員に注意指導すると職場の雰囲気が悪くなってしまうので,直ちに解雇したほうがいいのか

2014-06-26 | 日記

問題社員に注意指導や懲戒処分をしたら,気分を害して職場の雰囲気が悪くなりますから,注意指導や懲戒処分なんてせずに直ちに解雇した方がいいのではないですか?

 確かに,問題社員 に注意指導や懲戒処分をした場合,一定の軋轢が生じることは予想されるところです。
 しかし,注意指導や懲戒処分もせずに問題社員の好き勝手にさせていることの方が,職場の雰囲気にとって大きな問題です。
 当然行うべきであった注意指導や懲戒処分をしなかった結果,上司に対する態度もますます悪化したり,新入社員に仕事を教えなかったりいじめたりして何人も辞めさせたりする等の問題行動がエスカレートしてしまうのです。
 問題社員に注意指導や懲戒処分をすることは,会社の秩序や真面目に働いている他の労働者を守るために必要不可欠なことですから,逃げずに注意指導し,それでも改善されない場合には懲戒処分に処するようにして下さい。