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月給制の正社員に関する労基法上の割増賃金の計算方法

2010-12-06 | 日記
Q12労基法上,月給制の正社員に関する割増賃金の金額は,どのように計算することになるのですか?

 労基法上,月給制の正社員の通常の労働時間の賃金は,「(月給額-除外賃金)÷一年間における一月平均所定労働時間数」で算定されることになるのが通常です(労基則19条1項4号)。
 例えば,月給24万円で除外賃金がなく,一年間における一月平均所定労働時間数が160時間であれば,24万円÷160時間=1500円/時が通常の労働時間の賃金となります。
 労基法上の割増率は,法定時間外労働については通常の労働時間の賃金の25%増し(中小企業を除き60時間超の場合は50%増し),法定休日労働については通常の労働時間の賃金の35%増し,深夜労働については通常の労働時間の賃金の25%増しですので,上記の例では,法定時間外労働については原則として1500円/時×1.25=1875円/時,法定休日労働については1500円/時×1.35=2025円/時,法定時間外の深夜労働については1500円/時×1.5=2250円/時で計算した割増賃金を支払わなければならないことになります。

 上記の例では単純に「(月給額-除外賃金)」と記載した部分についてですが,現実の紛争の場面では,この金額がいくらなのかが問題となります。
 というのは,月給といっても,基本給,家族手当,通勤手当,住宅手当等,様々な名目で支給されていることが多く,そのうちのどれが除外賃金で,どこまでの金額を基礎に通常の労働時間の賃金,割増賃金を算定すればいいのか,必ずしも明らかではないからです。
 労基法は,原則として全ての賃金を割増賃金算定の基礎となる賃金とした上で,労基法37条5項及び労基則21条において,割増賃金の基礎に算入しない賃金(除外賃金)を制限列挙するという態度を取っています。
 したがって,手当等が除外賃金に該当することを使用者側が立証できるようにしておかないと,基本給だけを基礎として割増賃金を計算していた場合,賃金の不払いとして労基法違反となって労基署から指導を受けたり,後から割増賃金の請求を受けたりするリスクが生じることになります。

 除外賃金とされているのは,①家族手当,②通勤手当,③別居手当,④子女教育手当,⑤住宅手当,⑥臨時に支払われた賃金,⑦一か月を超える期間ごとに支払われる賃金です(労基法37条5項,労基則21条)。
 除外賃金に該当するかどうかは,名称にかかわらず実質によって判断されますので(昭和22年9月13日発基17号),名称が「家族手当」や「住宅手当」であったとしても,除外賃金ではないと判断されることも珍しくありません。
 「家族手当」は,扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出した手当のことをいいますので,独身社員についてまで支払われていたり,扶養家族数に関係なく一律に支給されていたりする場合は,「家族手当」とは認められず,割増賃金の基礎に入れるべきこととなります(昭和22年11月5日基発231号)。
 また,「住宅手当」は,住宅に要する費用に応じて算定される手当をいいますので,全社員に一律に定額で支給することとされているようなものは「住宅手当」には該当せず,割増賃金の基礎に入れるべきこととなります(平成11年3月31日基発170号)。

 割増賃金請求の時効は2年のため(労基法115条),通常は直近2年分の割増賃金について請求がなされることになります。
 また,割増賃金の請求は退職後になされることが多いのですが,退職後の期間の遅延利息は,原則として年14.6%という高い利率になることにも注意が必要です(賃金の支払の確保等に関する法律6条・同施行令1条)。

 割増賃金の金額そのものについての話ではありませんが,割増賃金の支払を命じる判決が出された場合に,未払割増賃金の金額と同額(以下)の付加金の支払が命じられることがあります(労基法114条)。
 例えば,未払の割増賃金の額が300万円の場合,さらに最大300万円の付加金の支払(合計600万円の支払)が判決で命じられる可能性があるということです。
 訴訟で割増賃金の請求を受けた場合は,付加金の支払を命じられるリスクについても配慮した上,対応を検討していく必要があります。

弁護士 藤田 進太郎