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弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログです。

「返済猶予法」1年延長

2010-12-14 | 日記
「返済猶予法」が1年,延長されることになりました。
借りる側から見ればいいことのように思えるかもしれませんが,当然,新規貸し出しの際は,返済猶予があり得ることを前提に審査しますから,審査が厳しくなります。
その結果,業績の悪い会社は貸付を受けることがさらに難しくなり,業績のいい会社に貸付勧誘が集中して,金利競争が激化することになるでしょう。
この法律は,所詮,その場しのぎの対症療法に過ぎません。

弁護士 藤田 進太郎

労働審判手続において調停が成立しなかった場合

2010-12-14 | 日記
Q25労働審判手続において調停が成立しなかった場合は,どうなるのですか?

 労働審判委員会から示された調停案を当事者のいずれかが最後まで受け入れなかった場合は,審理の終結が宣言され,概ね調停案に沿った内容の労働審判が当事者双方に告知されるか,審判書が送達されることになります。
 労働審判に対しては,告知・送達から2週間以内に異議を申し立てることができますが,当事者いずれも異議を申し立てなかった場合は,労働審判は裁判上の和解と同一の効力(既判力,執行力等)が生じます。
 他方,当事者いずれかから異議が申し立てられた場合は,異議を申し立てた当事者に有利な内容の部分を含めた労働審判の効力そのものが失われ,訴訟手続に移行します。

 労働審判で解決しておくべきか,訴訟で戦うべきかの判断についてですが,私の個人的な感覚としては,他の労働者への波及効果等の理由から,会社経営上争う必要が高いものを除き,できるだけ労働審判手続において解決すべき事案が多いのではないかと考えています。
 代理人の弁護士が異議を申し立てるべきだという意見の場合は,異議を申し立てて訴訟で争う価値があるのかもしれません。
 しかし,代理人の弁護士が労働審判手続で調停をまとめるべきだとか,労働審判に対し異議を申し立てずにそのまま解決した方がいいという意見を述べている場合は,異議を申し立てていい結果に終わることは稀ではないかという感覚です。
 感情的な判断は差し控え,依頼した弁護士の意見に耳を傾ける経営姿勢が重要と思われます。

 訴訟手続に移行した場合,労働審判の代理人が引き続き訴訟を受任する場合であっても,新たに訴訟委任状を追完する必要があります。
 原告(労働審判手続における申立人)に対しては,異議申立てから2~3週間程度の間に,労働審判手続を踏まえた,「訴状に代わる準備書面」及び書証の提出,提訴手数料の追納及び郵便切手の予納が指示されることになります。
 これに対し,被告(労働審判手続における相手方)は,「訴状に代わる準備書面」に対する「答弁書」等を提出し,第1回訴訟期日に臨むことになります。
 労働審判手続において既に争点の整理ができているケースが多いことから,異議申立て後,判決までの期間は短くなっており,労働審判を経ずに訴訟が提起された場合と比較して,解決までの時間が長くなってしまうということは多くないようです。
 ただし,「訴状に代わる準備書面」の記載内容が労働審判手続を踏まえた内容になっていないような場合は,答弁書も労働審判における答弁書と同じような内容のものが提出されることになりがちであり,同じような主張・反論が繰り返された結果,解決までの時間が無駄に長くなってしまう可能性があります。
 したがって,訴訟に移行した後の主張書面には,労働審判の経緯を踏まえた主張・反論をしっかり記載すべきことになるでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

労働審判を申し立てられた場合における使用者側の主な注意事項

2010-12-14 | 日記
Q24労働審判を申し立てられた場合における,使用者側の主な注意事項はどのようなものですか?

 労働審判は,第1回期日まで(答弁書の記載内容等,第1回期日での説明)が勝負です。
 裁判官からも同様の発言を聞いたことが,何度もあります。
 第1回期日終了時までに形成された心証に基づいて調停が試みられ,労働審判が出されるのが通常です。
 訴訟を提起された場合は,差し当たり,請求棄却を求め,請求の原因については「追って認否する。」とだけ記載した答弁書を提出し,第2回期日までに認否反論を準備すれば足りることも多いですが,労働審判ではそれは許されません。

 また,第1回期日の変更は原則として認められません。
 少なくとも,準備不足を理由とした第1回期日の変更は認めてもらえません。
 労働審判手続では,当事者双方及び裁判所の都合のみならず,忙しい労働審判員2名のスケジュール調整が必要なため,期日の変更が通常の訴訟よりも難しくなっているようです。
 第1回期日の変更が例外的に認められた事案の大部分は,申立書が裁判所から届いて1週間から10日程度までの時期,労働審判員の選任が完了していない時点に,裁判所に連絡して日程調整した事案のようです。

 第1回期日は,原則として申立てから40日以内の日に指定されますから(労働審判規則13条),相手方(主に使用者側)としては,準備する時間が足りないから第1回期日を変更したい,あるいは,主張立証を第2回期日までさせて欲しいということになりがちですが,いずれについても実際は難しいということになります。
 したがって,たとえ不十分であっても,第1回期日までに全力を尽くして準備していく必要があります。

 なお,弁護士は随分先までスケジュールが入りますから,のんびりしていると第1回期日の日時に別の予定が入ってしまいます。
 依頼したい弁護士がいるのであれば,申立書が会社に届いたら直ちにその弁護士に電話し,第1回期日の予定を空けておいてもらうなどの対応が必要となります。
 私のところに労働審判の相談に来た時期が第1回期日まで1週間を切った時期(答弁書提出期限経過後)だったため,即日,急いで作成した答弁書を提出せざるを得ず,第1回期日が指定された日時は私のスケジュールが既に埋まっていたため,第1回期日に私が出頭できなかった事案もありました。

 当事者は,裁判所(労働審判委員会)に対し,主張書面だけでなく,自己の主張を基礎づける証拠の写しも提出するのが通常ですが,東京地裁の運用では,労働審判委員には,申立書,答弁書等の主張書面のみが事前に送付され,証拠の写しについては送付されない扱いとなっています。
 労働審判員は,他の担当事件のために裁判所に来た際などに,証拠を閲覧し,手控えを取ったりしているようですが,自宅で証拠と照らし合わせながら主張書面を検討することはできません。
 また,労働審判官(裁判官)も大量の事件を処理していますので,答弁書を読んだだけで言いたいことが明確に伝わるようにしておかないと,真意が伝わらない恐れがあります。
 労働審判委員会は,申立書,答弁書の記載内容から,事前にそれなりの心証を形成して第1回期日に臨んでいます。
 第1回期日は,時間が限られており,その場で言いたいことを言う機会が十分に与えられるとは限りません。
 したがって,労働審判手続において相手方とされた使用者側としては,重要な証拠内容は答弁書に引用するなどして,答弁書の記載のみからでも,主張内容が明確に伝わるようにしておくべきことになります。
 陳述書を答弁書と別途提出するかどうかは当事者の自由ですが(答弁書の記述で足りるのであれば,陳述書を出す必要はありません。),重要ポイントについては,答弁書に盛り込んでおくことが必要となります。

 第1回期日おける審理では,代理人弁護士の発言はほとんど認められず,代理人が発言すると制止されることが多いので,会社担当者が事実説明をしていくことになります。
 したがって,期日には代理人弁護士が出頭するだけでは足りず,紛争の実情を把握している会社担当者が2名程度,出頭する必要があります。
 しかし,会社担当者は裁判所の手続に不慣れなことが多いため,緊張して事実を正確に伝えることができなくなりがちです。
 言いたいことが言えないまま終わってしまうことがないようにするためには,事前に提出する答弁書に言いたいことをしっかり盛り込んでおいて当日話さなければならないことをできるだけ減らしておくべきでしょう。

 労働審判の第1回期日にかかる時間についてですが,2時間程度はかかるものと考えておく必要があります。
 私がこれまでに経験した労働審判事件の第1回期日は,1時間20分~2時間30分程度かかっています。
 事案の難易度にもよりますが,同程度の事件であれば,申立書,答弁書において,充実した主張反論がなされているケースの方が,所要時間が短くなる傾向にあります。

 第2回以降の期日は,第1回期日で実質的な審理が終了し,労働審判委員会から調停案が示されていたような場合には,解決金の金額を中心とした調停内容についての調整がなされることになり,当事者双方が調停案を直ちに受け入れたような場合は,期日は30分足らずで終了することになります。
 ただし,第2回以降の期日であっても,当事者双方が調停案を直ちに受け入れなかったものの,もう少しで調停が成立しそうな状況だったため,その日のうちに調停を成立させるために交渉が継続され,約2時間30分かかったことがありました。
 念のため,長めにスケジュールを空けておいた方が無難かもしれません。

弁護士 藤田 進太郎

労働審判の申立て件数,審理期間,紛争解決実績

2010-12-14 | 日記
Q23労働審判の申立て件数,審理期間,紛争解決実績はどうなっていますか?

 全国で申し立てられた労働審判の数は,
平成18年は労働審判制度が開始した4月~12月の9か月間で877件(一月平均97.44件)
平成19年は年間で1494件(一月平均124.5件)
平成20年は2052件(一月平均171件)
平成21年は3468件(一月平均約289件)
と急増しており,平成21年は3000件を突破しました。

 同じ期間に東京地裁に申し立てられた労働審判事件数は,

平成18年4月~12月の9か月間で258件(一月平均28.67件)
平成19年は年間で485件(一月平均40.42件)
平成20年は711件(一月平均59.25件)
平成21年は1140件(一月平均約95件)
と,やはり,急速に申立件数が伸びており,平成21年は1000件を超える申立てがなされています。
 労働審判手続では,原則として3回以内の期日で結論を出すことになっており,第2回期日までに終了した事件は,全体の約61.6%にも上っています。
 また,平成21年12月末までの時点で,労働審判既済事件の平均審理期間は申立てから74.6日とされており,全体の約36.1%は申立てから2か月以内,全体の約72.8%は申立てから3か月以内で終了しています。

 終局事由の内訳は,労働審判が18.9%,調停成立が68.8%,24条終了が3.2%,取下げが8.4%,却下・移送等が0.6%となっています。
 調停成立が68.8%であること,労働審判(全体の18.9%)に対して異議申立てがなされた事案の割合が63.3%であり異議申立てがなされなかった36.7%(全体の約6.9%)は解決されたと考えられること,取り下げられた事件(8.4%)の一定割合は手続外での和解等により解決に至っていると推測されることから,労働審判申立てがなされた事案のうち約80%程度は,訴訟に至らずに紛争が解決されているものと推測されます。

弁護士 藤田 進太郎

労働審判制度の主な特徴

2010-12-14 | 日記
Q22労働審判制度の主な特徴はどのようなものですか?

 労働審判法は,
① 労働契約の存否その他の労働関係に関する事項について個々の労働者と事業主との間に生じた民事に関する紛争(個別労働関係民事紛争)に関し,
② 裁判所において,裁判官(労働審判官)及び労働関係に関する専門的な知識経験を有する者(労使双方から1名ずつ選任される労働審判員合計2名)で組織する委員会が,当事者の申立てにより事件を審理し,
③ 調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み,
④ その解決に至らない場合には,労働審判(個別労働関係民事紛争について当事者間の権利義務関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判)を行う手続(労働審判手続)を設けることにより,
⑤ 紛争の実情に即した迅速,適正かつ実効的な解決を図ること
を目的とするものです(労働審判法1条)。

 労働審判手続の特徴はどれも重要なものですが,私が特に注目しているのは,①迅速な解決が予定されていることと,②裁判官(労働審判官)が直接関与して権利義務関係を踏まえた調停が試みられ,調停がまとまらない場合には労働審判が行われ,労働審判に対して異議を申し立てた場合には,訴訟に移行することの2点です。

 まず,①迅速な解決という点ですが,労働者の大部分は,使用者に対して不満を持ったとしても,余程の事情がなければ,1年も2年も長期間の裁判を続けることは望まないことが多く,裁判手続を取ることを躊躇することが多かったのではないかと私は考えています。
 しかし,労働審判手続は,原則として3回以内の期日で審理を終結させることが予定されており(労働審判法15条2項),申立てから3か月もかからないうちにかなりの割合の事件が調停成立で終了しますので,労働者としては,利用しやすい制度と評価することができるでしょう。
 これを使用者側から見れば,従来であれば表面化しなかった紛争が表面化しやすくなるということになります。

 次に,②裁判官(労働審判官)が直接関与して権利義務関係を踏まえた調停が試みられ,調停がまとまらない場合には労働審判が行われ,労働審判に対して異議を申し立てた場合には,自動的に訴訟に移行する(労働審判法22条)という点も重要と考えています。
 裁判官(労働審判官)と労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名によって権利義務関係を踏まえた調停がなされるため,調停内容は合理的なもの(社内で説明がつきやすいもの,労働者が納得しやすいもの)となりやすくなります。
 調停がまとまらなければ,たいていは調停案とほぼ同内容の労働審判が出され,労働審判に対して当事者いずれかが異議を申し立てれば自動的に訴訟での解決が行われることになりますが,訴訟で争っても,裁判官(労働審判官)が関与し,権利義務関係を踏まえて出された労働審判の内容よりも自分に有利に解決する見込みが大きい事案はそれほど多くはありません。
 労働審判に対して異議を申し立てれば,直ちに訴訟に移行しますので,うやむやなまま紛争が立ち消えになることは期待できません。
 訴訟が長引けば労力・金銭等での負担が重くなり,コストパフォーマンスが悪くなってしまいます。
 これらの点が相まって,ある程度は譲歩してでも調停をまとめる大きなモチベーションとなり,労働審判制度の紛争解決機能を飛躍的に高めているものと考えています。

弁護士 藤田 進太郎

アスベスト(石綿)に関する安全配慮義務違反の具体的事実

2010-12-14 | 日記
Q21アスベスト(石綿)に関する安全配慮義務違反の具体的事実としては,どのような事項が検討されるのですか?

 大阪地方裁判所平成22年4月21日判決が,作業環境管理義務違反,作業条件管理義務違反,健康等管理義務違反の有無について検討した上で,「被告は,原告Aに対し,粉じん作業に常時従事する労働者に対して行うべき作業環境管理,作業条件管理ないし健康等管理の義務を怠ったものであるから,安全配慮義務等に違反したものといわなければならない。また,被告によるこれら義務違反が原告Bに対する関係で不法行為に該当することも明らかである。」と判示しているのが,参考となると思います。

ア 作業環境管理義務違反
(ア) 前記認定のとおり,旧労基法,旧安衛則及び昭和33年通達により,粉じんが発散する屋内作業場における局所排気装置の設置が指導され,じん肺法では,粉じんの発生の抑制,保護具の使用その他について適切な措置を講ずることが定められた。また,前記昭和46年1月5日付け通達,旧特化則及びその後の法規制においても,粉じんの発散源を密閉する措置,局所排気装置の設置等の措置,ないしは,粉じんの飛散を防止する措置を講ずるよう,法規制が行われてきたものである。
(イ) ところが,原告Aが従事した第2又は第5工場におけるクラッチ組立作業は,作業時に粉じんの飛散する状態であったこと,少なくとも昭和54年ころまでは,第2又は第5工場内でブレーキライニングの研磨作業が行われた部分と組立作業が行われた部分との間仕切り等もなかったことなどは,前述のとおりである。
 しかも,被告は,クラッチ組立作業については,これを粉じん作業として取り扱っていなかったことから,これらの作業が粉じん作業であることを前提にして,粉じんが発生する場所において,被告が粉じんの飛散を防止するような局所排気装置,全体換気装置等の設置又は湿潤化等が行われた事実は認められない。
(ウ) 被告は,本件工場のうち,粉じんが発散する屋内作業場の発散源には,サイクロン付き集じん機等局所排気装置を設置してきたものであり,遅くとも昭和35年4月1日以降実施してきた粉じんの測定結果も,基準値の10分の1程度に止まっていた旨主張する。そして,なるほど,第4工場にサイクロン付き集じん装置が設置されたこと並びに第4及び第5工場に設置された研磨機等の周辺において,昭和51年及び昭和53年ないし55年に実施された環境測定結果が,法規制の基準値を明らかに下回るものであったことは,前述のとおりである。
 しかしながら,上記測定値は,被告が年1回民間業者に委託した際の測定結果にとどまるから,必ずしも当時の本件工場内の空気環境が常時問題のなかったことを認めるに足りるものであるとはいえない。このことに,被告による局所排気装置等の設置状態やその変遷も明らかではないこと,昭和50年以前については環境測定結果等がないため,空気環境に問題のなかったことを直接認めるに足りる証拠はないこと,同年以降は,そもそも被告における石綿の全体的な取扱量が減少したことがうかがわれること及び原告Aが,現に石綿の高濃度ばく露によって生ずるとされる石綿肺に罹患していることなどの前記認定事実をも勘案すれば,被告の上記主張は採用できない。
(エ) 以上によれば,被告において,適切な局所排気装置等の設置による粉じん発生の抑制等の措置をとる義務等の履行がされたものと認めることはできず,同義務の懈怠があったものというべきである。

イ 作業条件管理義務違反
(ア) 以上のとおり,被告において,局所排気装置の設置等による粉じん発生の抑制等の措置をとる義務の懈怠があったことに加え,原告Aらクラッチ組立班の従業員らに適切なマスク等の保護具の着用が指示された事実も認められないことは,前記認定のとおりである。
 なお,被告は,労働基準監督署の担当者の指導に従って,各従業員に対し,マスク,手袋を交付して着用を義務付けていた旨主張する。そして,被告が昭和46年に粉じん発散のおそれのある作業場における作業用に保護マスク等を購入したことは,前記認定のとおりである。しかしながら,原告Aがマスクを着用せず,また着用するよう被告から指導されたこともなかったことは,前記認定のとおりである。そして,本件全証拠によっても,原告Aが当該マスク着用の対象者とされていたことを認めることはできない。
(イ) また,原告らは,新特化則38条に定められた洗顔,洗身又はうがいの設備,更衣設備及び洗濯のための設備の設置及びこれを労働者に実施させるよう指導する義務,石綿を含む金属粉じんばく露時間の短縮措置をとる義務を履行しなかったから,この点について安全配慮義務等違反がある旨主張する。
 この点については,本件全証拠によっても,被告が粉じんの発生を抑制するために,本件工場にいかなる設備を設置したのかどうかや,原告Aら従業員に対し,いかなる指導をしたのかどうかを認めるに足りる証拠はないから,その実態は,明らかでないというより他ない。
 もっとも,前記認定事実によれば,被告には,じん肺法,特化則等に照らし,そもそも,事業所における粉じん作業及び同作業に従事する労働者を把握すべき義務があったにもかかわらず,原告Aが従事するクラッチ組立作業において粉じんの飛散を生じる実情があったこと,原告Aが粉じん作業であるクラッチフェーシングの研磨作業に従事していることを把握しておらず,これに応じた労務管理や粉じん作業従事者であることを前提とした指導を怠ったことが推認されるものであり,これを覆すに足りる証拠はない。
(ウ) 以上によれば,被告について,安全配慮義務等違反のあったことは明らかである。

ウ 健康等管理義務違反
(ア) 前記認定のとおり,昭和31年通達は,特殊健康診断の受診を勧奨し,昭和35年に制定されたじん肺法3条,7条は,じん肺健康診断及び一定の場合には,結核精密検査や心肺機能検査の実施を,同法6条は,常時粉じん作業に従事する労働者に対するじん肺に関する予防及び健康管理のために必要な教育の実施を定めている。また,改正特化則39条は,定期的な特殊健康診断の実施を定めている。
 そして,原告Aが,本件工場内の石綿を取り扱う作業場において,粉じんの飛散を伴う組立作業に常時従事し,昭和44年ころ以降は,10日に1度,2時間程度ほぼ継続的に従事していたクラッチフェーシングの研磨作業において,継続的に相当量の石綿粉じんにばく露していたものと認められることは,前記認定のとおりである。
(イ) ところが,前記のとおり,原告Aは,被告が,粉じん作業に従事する労働者と取り扱わなかったことから,じん肺健康診断及び改正特化則による特殊健康診断を受けたことがなかったものである。また,被告が石綿粉じんに関するじん肺予防及び健康管理に必要な教育をした事実も認めることができない。
(ウ) したがって,被告には,安全配慮義務等違反があったものと認められる。

弁護士 藤田 進太郎