Q15管理職には残業代を支払わなくてもいいのでしょうか?
管理職も労基法上の労働者ですから,原則として労基法37条の適用があり,1日8時間を超えて労働させたような場合は,法定時間外労働時間等に応じた残業代(割増賃金)を支払わなければならないのが原則です。
当該管理職が労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に該当すれば,労働時間,休憩,時間外・休日割増賃金,休日,賃金台帳に関する規定は適用除外となりますので,その結果,労基法上,使用者は時間外・休日割増賃金の支払義務を免れることになりますが,裁判所の考えている管理監督者の要件を充足するのは,本社の幹部社員など,ごく一部と考えられます。
後から労基法37条に基づく時間外・休日割増賃金の請求を受けるリスクを負いたくない場合は,管理職であっても,最初から管理監督者としては取り扱わずに割増賃金を満額支給し,基本給や賞与等の金額を抑えることで,総支給額を調整したほうが無難かもしれません。
なお,管理監督者であっても,深夜労働,年次有給休暇に関する規定は適用されますので,使用者は深夜割増賃金の支払義務は免れません(最高裁第二小法廷平成21年12月18日判決)。
管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,①職務の内容,権限及び責任の程度,②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度,③待遇の内容,程度,などの要素を総合的に考慮して,判断されるのが通常です。
この点,日本マクドナルド事件東京地裁平成20年1月28日判決は,①の要件に関し,「職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか」という基準を用いています。
私見では,同判決が「企業全体の事業経営」に関する重要事項への関与まで要求している点は疑問であると考えていますが,そのように判断されても問題が生じないよう社内体制を整備しておく必要があると考えます。
上記判断基準とは違う判断基準を用いて管理監督者を判断した裁判例としては,ゲートウェイ21事件における東京地裁平成20年9月30日判決,プレゼンス事件における東京地裁平成21年2月9日判決,東和システム事件における東京地裁平成21年3月9日判決などがあります(いずれも管理監督者該当性を否定)。
3件とも東京地裁民事11部の村越啓悦裁判官(当時)1人の書いた判決です。
これらの判決は,「管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理につき,経営者と一体的な立場にあるものをいい,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきであると解される(昭和22年9月13日発基第17号等)。」とした上で,具体的には,以下の①②③④の要件を満たすことが必要であると判断しています。
① 職務内容が,少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
② 部下に対する労務管理上の決定権等につき,一定の裁量権を有しており,部下に対する人事考課,機密事項に接していること
③ 管理職手当等の特別手当が支給され,待遇において,時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
④ 自己の出退勤について,自ら決定し得る権限があること
従来の裁判例の判断基準に対する評価としては,『労働法 第九版』(菅野和夫著)284頁~285頁における以下の記述が参考となるものと思われます。
「近年の裁判例をみると,管理監督者の定義に関する上記の行政解釈のうち,『経営者と一体の立場にある者』,『事業主の経営に関する決定に参画し』については,これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ,それらを連携統合しているのであって,担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが『経営者と一体の立場』であると考えるべきである。そして,当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば,その管理を通して経営に参画することが『経営に関する決定に参画し』にあたるとみるべきである。」
弁護士 藤田 進太郎
管理職も労基法上の労働者ですから,原則として労基法37条の適用があり,1日8時間を超えて労働させたような場合は,法定時間外労働時間等に応じた残業代(割増賃金)を支払わなければならないのが原則です。
当該管理職が労基法41条2号にいう「監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者)に該当すれば,労働時間,休憩,時間外・休日割増賃金,休日,賃金台帳に関する規定は適用除外となりますので,その結果,労基法上,使用者は時間外・休日割増賃金の支払義務を免れることになりますが,裁判所の考えている管理監督者の要件を充足するのは,本社の幹部社員など,ごく一部と考えられます。
後から労基法37条に基づく時間外・休日割増賃金の請求を受けるリスクを負いたくない場合は,管理職であっても,最初から管理監督者としては取り扱わずに割増賃金を満額支給し,基本給や賞与等の金額を抑えることで,総支給額を調整したほうが無難かもしれません。
なお,管理監督者であっても,深夜労働,年次有給休暇に関する規定は適用されますので,使用者は深夜割増賃金の支払義務は免れません(最高裁第二小法廷平成21年12月18日判決)。
管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,①職務の内容,権限及び責任の程度,②実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度,③待遇の内容,程度,などの要素を総合的に考慮して,判断されるのが通常です。
この点,日本マクドナルド事件東京地裁平成20年1月28日判決は,①の要件に関し,「職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか」という基準を用いています。
私見では,同判決が「企業全体の事業経営」に関する重要事項への関与まで要求している点は疑問であると考えていますが,そのように判断されても問題が生じないよう社内体制を整備しておく必要があると考えます。
上記判断基準とは違う判断基準を用いて管理監督者を判断した裁判例としては,ゲートウェイ21事件における東京地裁平成20年9月30日判決,プレゼンス事件における東京地裁平成21年2月9日判決,東和システム事件における東京地裁平成21年3月9日判決などがあります(いずれも管理監督者該当性を否定)。
3件とも東京地裁民事11部の村越啓悦裁判官(当時)1人の書いた判決です。
これらの判決は,「管理監督者とは,労働条件の決定その他労務管理につき,経営者と一体的な立場にあるものをいい,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきであると解される(昭和22年9月13日発基第17号等)。」とした上で,具体的には,以下の①②③④の要件を満たすことが必要であると判断しています。
① 職務内容が,少なくともある部門全体の統括的な立場にあること
② 部下に対する労務管理上の決定権等につき,一定の裁量権を有しており,部下に対する人事考課,機密事項に接していること
③ 管理職手当等の特別手当が支給され,待遇において,時間外手当が支給されないことを十分に補っていること
④ 自己の出退勤について,自ら決定し得る権限があること
従来の裁判例の判断基準に対する評価としては,『労働法 第九版』(菅野和夫著)284頁~285頁における以下の記述が参考となるものと思われます。
「近年の裁判例をみると,管理監督者の定義に関する上記の行政解釈のうち,『経営者と一体の立場にある者』,『事業主の経営に関する決定に参画し』については,これを企業全体の運営への関与を要すると誤解しているきらいがあった。企業の経営者は管理職者に企業組織の部分ごとの管理を分担させつつ,それらを連携統合しているのであって,担当する組織部分について経営者の分身として経営者に代わって管理を行う立場にあることが『経営者と一体の立場』であると考えるべきである。そして,当該組織部分が企業にとって重要な組織単位であれば,その管理を通して経営に参画することが『経営に関する決定に参画し』にあたるとみるべきである。」
弁護士 藤田 進太郎