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「本当は懲戒解雇だが退職願を提出すれば自主退職として処理する」と対応する場合の注意点

2016-02-17 | 日記

ある労働者に懲戒解雇事由があると思っていたので,「本当であれば懲戒解雇であるところ,退職願を提出してもらえれば自主退職として処理する」と言い,退職願を提出し退職してもらいました。このような方法に問題はありますか?


 実際に懲戒解雇 に相当する事由が存在し,裁判で立証できれば退職の意思表示は有効で問題はないのですが,そうでない場合には,当該退職の意思表示は錯誤無効になるという問題があります。

 また,無効と判断された場合,労働者の地位確認とともに賃金請求も請求されていた場合には,その間の賃金も支払わなければならなくなる可能性があるのでより注意が必要です。

 裁判例は,(懲戒)解雇 の告知(その可能性)を伴う場合には,当該解雇が有効にできるかを検討し,これが否定される場合には退職の意思表示に瑕疵(取消または無効)を認める傾向にあります。

 つまり,解雇が有効かどうかは退職勧奨 等から判決までのプロセスを経て初めて確定するものである以上,解雇をちらつかせた退職処理はリスクがあるということです。

 そこで,退職の意思表示が無効になるリスクを回避するためには,労働者に解雇が確実なものではないことを十分に理解してもらったうえで,真摯な退職意思の表明であることを書面などで確認しておく位の周到さが必要と言われています。

 なお,錯誤以外にも,詐欺,強迫,心裡留保(本当は退職するつもりもないのに退職すると言い,その真意につき使用者も知っていた場合)に基づいて労働者が退職の意思表示をした場合にも取消事由または無効事由となりますので注意が必要です。


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遅刻や無断欠勤が多い。

2016-02-16 | 日記

遅刻や無断欠勤が多い。


1 注意指導
 遅刻や無断欠勤が多い社員は,注意指導して遅刻や無断欠勤をしてはいけないのだということを理解させることが重要です。当たり前の話のように聞こえるかもしれませんが,訴訟や労働審判 になって弁護士に相談するような事例では,当然行うべき注意指導がなされていないことが多いという印象です。
 ルーズな勤怠管理をしていた職場の場合,従来であれば容認されていた程度の遅刻や無断欠勤をしたからといって,直ちに処分することは困難ですので,今後は遅刻や無断欠勤には厳しく対処する旨伝え,それでも改善しない場合に懲戒処分等を検討していくことになります。
 口頭で注意指導しても遅刻や無断欠勤を続ける場合は,書面で注意指導することになります。書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことになりますし,訴訟になった場合,遅刻や無断欠勤を注意指導した証拠を確保することもできます。訴訟では,労働者側から,十分な注意指導を受けていないから解雇は無効であるといった主張がなされることが多いです。口頭で注意指導しただけで,書面等の客観的な証拠が残っていない場合,十分な注意指導をしたことを立証するのが困難となってしまいます。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラであるなどと反発を受けることも珍しくありません。

2 懲戒処分
 書面で注意指導しても遅刻や無断欠勤を続ける場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合には,出勤停止,降格処分と次第に重い処分をしていくことになります。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って,懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者もいますが,懲戒処分もせずにいきなり解雇 したのでは社員にとって不意打ちになりトラブルになりやすいですし,よほど悪質な事情がある場合でない限り,解雇は無効となってしまうリスクが高いところです。そもそも,遅刻や無断欠勤の多い問題社員に対して注意指導や懲戒処分等ができないようでは,会社経営者や上司として当然行うべき仕事ができていないと言わざるを得ません。必要な注意指導や懲戒処分を行い,職場の秩序を維持するのは,会社経営者や上司の責任です。

3 解雇の検討項目
 注意指導し,懲戒処分等に処しても遅刻や無断欠勤が改善せず,改善の見込みが極めて低い場合には,解雇や退職勧奨を検討することになります。解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由,懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権の濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか 等を検討する必要があります。

4 解雇権濫用・懲戒権濫用
 解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇 事由や懲戒解雇 事由に該当するだけでなく,②客観的に合理的な理由が必要であり,社会通念上相当なものである必要もあります。解雇に客観的に合理的な理由がない場合は,②解雇権又は懲戒権を濫用したものとして無効となってしまいますし,そもそも①解雇事由に該当しない可能性もあります。
 解雇に客観的に合理的な理由があるというためには,労働契約を終了させなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていることが必要です。解雇が社会通念上相当であるというためには,労働者の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等),他の労働者の処分との均衡,使用者側の対応・落ち度等に照らして,解雇がやむを得ないと評価できることが必要です。
 遅刻や無断欠勤が多い社員の解雇の有効性を判断するにあたっては,遅刻や欠勤が業務に与える悪影響の程度,態様,頻度,過失によるものか悪意・故意によるものか,遅刻や欠勤の理由,謝罪・反省の有無,遅刻欠勤を防止するために会社が講じていた措置の有無・内容,平素の勤務成績,他の社員に対する処分内容・過去の事例との均衡等が考慮されることになります。
 注意指導,懲戒処分等で遅刻や無断欠勤をしなくなるのであれば,注意指導等により是正すれば足りるのですから,解雇権濫用・懲戒権濫用の有無を判断するにあたっても,注意指導,懲戒処分等では遅刻や無断欠勤の頻度が改善されないかどうかが問題となります。
 客観的な証拠がないのに,注意指導や懲戒処分をしても遅刻や無断欠勤は改善されないと思い込んで解雇するケースが散見されますが,客観的証拠から改善の見込みがないことを立証できる場合でない限り,実際に注意指導や懲戒処分を行って改善の機会を与えた上で,職場から排除しなければならないほど遅刻や無断欠勤の程度が甚だしく,注意指導や懲戒処分では改善される見込みがないことを確かめてから,解雇に踏み切るべきでしょう。


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年休の時季変更権が行使できるのは,どのような場合ですか?

2016-02-16 | 日記

どのような場合に,労働者による年休の時季指定に対して,時季変更権を行使して,その日に働いてもらうことができるのでしょうか?


 まず注意すべきことは,年休は労働者が時季指定をすることで発生するものですから,使用者が時季変更権を行使できるのは,「事業の正常な運営を妨げる」という例外的な場合に限られるということです。使用者には労働者が時季指定をした日に有給休暇を取得できるよう配慮することが求められています。

 なお,時季変更権を行使する際には,代替日を指定する必要はありません。

 では,どのような場合に「事業の正常な運営を妨げる」場合に該当するかですが,具体的には,その労働者の従事する業務組織の運営上,その労働者が年休日に不可欠な要員であり,他に代替要員の手配が容易にできない場合を言います。

 もっとも,この要件にあたるかどうかは,結局は,諸般の事情を総合考慮して個別的に行うとしか言えないのですが,一般的な考慮要素としては以下のものが挙げられます。

・会社の事業規模,業務内容

・その労働者の担当業務の内容,性質

・業務の繁閑

・代替要員確保の難易

・他の労働者との調整の有無

・指定された有給休暇の日数

・休暇取得に関するこれまでの慣例など

 判例には,労働者による24日間連続での時季指定に対して,その内の12日間の時季変更権を認めた事案があります。ただし,この事案は,労働者が事前の調整もなく時季指定をしてきたこと,労働者の担当業務は専門的知識が必要なもので代替要員の確保が難しかったという事情などを総合考慮した上で,時季変更権を認めたものでした。


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労働委員会や労働局のあっせんや仲裁とはどういうものなのか教えてください。

2016-02-16 | 日記

労働委員会や労働局のあっせんや仲裁など,行政による紛争解決機関について教えてください。


 行政による紛争解決機関としては以下のものがあります。

・労働委員会

① 不当労働行為の審査・救済

② 労働争議(争議行為が発生またはそのおそれがある状態)の調整

③ 個別労働紛争の相談・あっせん

 労働委員会は,労働組合と使用者間の労働条件や組合活動のルールを巡る争いの解決や,使用者による不当労働行為があった場合における労働組合や組合員の救済など,集団的労使関係を安定,正常化することを主な目的として設置された行政委員会です。労働委員会には,都道府県ごとに設置されている都道府県労働委員会と,国に設置されている中央労働委員会があります。

 

・労働局

① 総合労働相談

② 都道府県労働局長による助言・指導

③ 紛争調整委員会によるあっせん

 紛争調整委員会によるあっせんは,当事者の間に弁護士等の学識経験者である第三者が入り,双方の主張の要点を確かめ、紛争当事者間の調整を行い,話合いを促進することにより,紛争の円満な解決を図る制度です。なお,両当事者が希望した場合は,両者が採るべき具体的なあっせん案を提示することもできます。

 

・仲裁

 第一東京弁護士会をはじめ多くの弁護士会には仲裁センターが設けられています。仲裁センターは,当事者間の話し合いで解決できない紛争について,仲裁人等を交えて解決する手続を行う,裁判外の紛争解決機関(ADR)です。

 メリットとして,裁判と違って非公開で手続を進め,裁判よりも迅速に,柔軟で納得のできる解決をもたらすことが可能であると掲げられています。


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会社を休んだ社員が,後日,欠勤を年休扱にして欲しいと言ってきた場合,応じなければならなりませんか

2016-02-16 | 日記

当日になって社員から休むという連絡があり,後日,その社員が欠勤日を年休扱いにして欲しいと言ってきました(いわゆる年次有給休暇の事後請求)。この場合は,年休としなければならないのでしょうか?


 欠勤日を後日,年休として取り扱うかどうかは使用者の裁量に委ねられています。

 したがって,使用者には,労働者から後日年休として処理するよう請求(いわゆる年次有給休暇の事後請求)されたとしても,年休とする義務はありません。

 年休について説明を加えますと,「年休権」は,労基法上の要件(39条1項)が充足されることによって法律上当然に発生するものであり,労働者が年休を取得する時季を指定することを「時季指定(権)」と言います。

 労働者の時季指定に対して,使用者は当該時季に有給休暇を与えることが「事業の正常な運営を妨げる場合」には,時季変更権を行使できます。

 このように,時季指定は,使用者において事前に時季変更の要否を検討し,その結果を労働者に告知するに足りる相当の時間をおいてされなければならないものと解されるため,事後請求は本来成り立たないものです。

 そのため,例えば,就業規則に,有給休暇の申請は前日(または2,3日前)までに所定の休暇申請書(書面)にて届け出るよう定める会社もあります。

 この点,書面にて届け出るよう定めておくことは,年休の管理上および使用者の時季変更権行使の判断をする上で,有効な手段と言えます。


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協調性がない。

2016-02-15 | 日記

協調性がない。

 

1 協調性のなさの程度
 協調性がないといっても程度問題であり,通常許される個性の範囲内に収まっている程度の問題なのか,それとも,社員としての適格性が問われ,又は企業秩序を阻害するものなのかを見極める必要があります。よく検討しないまま主観的に協調性がないと決めつけてしまうのは危険です。周囲の社員に問題があることもあるので,客観的に判断するためにも,本人の言い分もよく聴取して事実確認をする必要があります。

2 注意指導
 協調性のない社員の対処法としては,注意指導して,周囲と協調性を保つことの重要性を理解させることが何よりも重要です。
 口頭で注意指導しても改善しない場合は,書面で注意指導する必要がある場合もあります。書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことになりますし,訴訟になった場合,協調性のなさを注意指導した証拠を確保することもできます。訴訟では,労働者側から,十分な注意指導を受けていないから解雇は無効であるといった主張がなされることが多くなっています。口頭で注意指導しただけで,書面等の客観的な証拠が残っていない場合,十分な注意指導をしたことを立証するのが困難となってしまいます。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラであるなどと反発を受けることも珍しくありません。

3 配置転換
 配転の余地があるのであれば,協調性がないとされている社員を別の部署に配転させ,配転先でもやはり協調性がないのか確かめてみた方が無難です。周囲の社員に問題があることもあり,配転先では協調性がないとは評価されない可能性があります。他方,配転先でも協調性がないために周囲との軋轢が生じるようであれば,本人に問題がある可能性が高いと言わざるを得ません。

4 懲戒処分
 書面で注意指導しても改善しない場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合には,出勤停止,降格処分と次第に重い処分をしていくことになります。
 懲戒処分に処すると職場の雰囲気が悪くなるなどと言って,懲戒処分を行わずに辞めてもらおうとする会社経営者は珍しくありませんが,懲戒処分もせずにいきなり解雇したのでは社員にとって不意打ちになりトラブルになりやすいですし,悪質な事情がない限り,解雇は無効となってしまうリスクが高くなります。
 そもそも,協調性のない問題社員に対して注意指導や懲戒処分等ができないようでは,かえって周囲の社員が迷惑を被って職場の雰囲気が悪くなってしまい,場合によっては退職者が続出することになりかねません。問題点があるのに十分な注意指導もできず,懲戒処分にもできず,いきなり解雇するほかないというのでは,コミュニケーション不足の職場と言うほかありません。必要な注意指導や懲戒処分を行うとともに,職場の雰囲気を良くするためにリーダーシップを発揮するのは,会社経営者の責任です。

5 解雇の検討項目
 注意指導し,懲戒処分等に処しても著しい協調性のなさが改善せず,改善の見込みが極めて低い場合には,解雇や退職勧奨を検討することになります。解雇が有効となるかどうかを判断するにあたっては,
 ① 就業規則の普通解雇事由,懲戒解雇事由に該当するか
 ② 解雇権濫用(労契法16条)や懲戒権の濫用(労契法15条)に当たらないか
 ③ 解雇予告義務(労基法20条)を遵守しているか
 ④ 解雇が法律上制限されている場合に該当しないか
等を検討する必要があります。

6 解雇権濫用・懲戒権濫用
 解雇が有効となるためには,単に①就業規則の普通解雇事由や懲戒解雇事由に該当するだけでなく,②客観的に合理的な理由が必要ですし,社会通念上相当なものである必要もあります。解雇に客観的に合理的な理由がない場合は,そもそも①解雇事由に該当しないだとか,②解雇権又は懲戒権を濫用したとして,無効となってしまいます。
 解雇に客観的に合理的な理由があるというためには,労働契約を終了させなければならないほど協調性のなさの程度が甚だしく,業務の遂行や企業秩序の維持に重大な支障が生じていることが必要です。解雇が社会通念上相当であるというためには,労働者の情状(反省の態度,過去の勤務態度・処分歴,年齢・家族構成等),他の労働者の処分との均衡,使用者側の対応・落ち度等に照らして,解雇がやむを得ないと評価できることが必要です。
 協調性を欠くことを理由とする解雇が客観的に合理的なものであるかどうかを判断するにあたっては,協調性が特に必要とされる業務内容,職場環境かどうかという点を考慮する必要があり,チームワークが重視される共同作業が多い業務内容なのか,少人数の職場なのか等を検討する必要があります。
 注意指導,懲戒処分等で協調性のなさが改善されるのであれば,注意指導や懲戒処分で改善させればいいのですから,解雇権濫用・懲戒権濫用の有無を判断するにあたっても,注意指導,懲戒処分等では著しい協調性のなさの改善が期待できないかどうかが問題となります。客観的な証拠がないのに,注意指導や懲戒処分等をしても改善の見込みがないと思い込んで解雇するケースが散見されますが,客観的証拠から改善の見込みがないことを立証できる場合でない限り,実際に注意指導や懲戒処分等を行って改善の機会を与えた上で,職場から排除しなければならないほど協調性のなさの程度が甚だしく,注意指導や懲戒処分では改善される見込みがないことを確かめてから,解雇に踏み切るべきでしょう。


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就業規則には,懲戒処分として行う出勤停止の日数としてどれくらいの日数を定めておくのがお勧めですか

2016-02-15 | 日記

就業規則には,懲戒処分として行う出勤停止の日数として,どれくらいの日数を定めておくのがお勧めですか。


 国家公務員の懲戒について規定している「人事院規則一二―〇(職員の懲戒)」は,第2条において,「停職の期間は、一日以上一年以下とする。」と定めています。
 これを参考に考えると,出勤停止の日数としては,「1日以上1年以下」が穏当と思われます。

 出勤停止の日数として,最長7日程度までの規定となっている就業規則をよく見かけます。
 しかし,それでは,出勤停止よりも重い懲戒処分として規定されているのは,降格,諭旨解雇(退職),懲戒解雇 くらいのことが多く,7日間の出勤停止処分を受けてもなお,非違行為が改善されない場合,あっという間に退職の効果を伴う重大な懲戒処分に踏み切らざるを得ないことになりかねません。
 7日間の出勤停止処分と諭旨解雇(退職),懲戒解雇との間には,懲戒処分の重さとして,大きなギャップがあるように思います。
 事案に応じた適切な重さの懲戒処分を行えるようにするためには,出勤停止の日数で懲戒処分の重さを調整できる幅を十分に取っておいた方が良いのではないでしょうか。
 出勤停止の日数を最長1年としたのではいくら何でも長過ぎるとお考えの場合であっても,6か月程度は無給の出勤停止とすることができるよう,就業規則に規定しておくことをお勧めします。


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年休を消化することが困難なため,年休の買い上げをしようと思っているのですが,問題はありますか?

2016-02-15 | 日記

年休(有給休暇)について,当社は従業員が少ないこともあって,なかなか年休を消化してもらうことが困難なため,実際にはその年の年休を消化しない代わりに,その日数分を支払っています(年休の買い上げ)。この方法になにか問題はありますか?


 使用者が未消化の年休を買い上げることはできず,そのような扱いは労基法違反になります。

 なぜ労基法違反になるかと言いますと,年休制度の目的は労働者を休ませ心身のリフレッシュを図り,また,自己啓発の機会をもつことを可能にすることにあるところ,年休の買い上げは,この目的に反するからです。

 ただし,既に時効消滅した年休,法定外の年休,退職時に未消化の年休を買い上げることは労基法違反にはなりません。

 なお,年休権は2年の消滅時効にかかり,1年に限り繰り越しが認められる(発生から2年で消滅する)ものと解されています。


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36協定を締結するにあたり,延長できる労働時間に限度はありますか?

2016-02-15 | 日記

時間外労働及び休日の労働をさせるために36協定を締結したいのですが,延長できる労働時間の限度はあるのですか?もしこれに違反した場合にはどうなりますか?


 労使協定で定めた延長可能な労働時間または以下の厚生労働省が定めている延長時間の限度を超えた場合には,労基法違反となり,6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金となります。

 また,この罰則には両罰規定が定められています。つまり,法律違反をした者(例えば,支配人や法人の代表者など)だけではなく,個人企業の場合は個人事業主,法人の場合はその法人そのものも処罰の対象となる可能性があります。

 なお,違法な時間外労働であっても,その時間の割増賃金を支払う必要があります。

 平成27年4月に厚生労働省が、東京労働局と大阪労働局に「過重労働撲滅特別対策班(通称,かとく)」を設置しました。

 これにより,過重労働による健康被害の防止を目的として、違法な長時間労働を行う事業所に対して監督指導が行われていくことが予想されます。

 延長時間の限度について

① 一般の労働者の場合

期間     限度時間

1週間    15時間

2週間    27時間

4週間    43時間

1か月    45時間

2か月    81時間

3か月   120時間

1年間   360時間

 

② 対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制の対象者の場合

期間     限度時間

1週間    14時間

2週間    25時間

4週間    40時間

1か月    42時間

2か月    75時間

3か月   110時間

1年間   320時間


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勝手に残業して,遊んだりしていたとしても,労働者の請求どおり残業代を支払わなければなりませんか?

2016-02-09 | 日記

残業代支払請求をしてきました。タイムカードの打刻時間に基づいて午前9時から午後8時まで働いていると主張しています。しかし,当社の①始業時刻は9時30分ですし,また,②残業するよう命じていたわけでもありません。③実際には午後8時までは働いておらず社内に残ってインターネットなどをして遊んでいたはずです。このような場合でも,労働者の請求通り支払わなければなりませんか?


 貴社がどのような資料(証拠)を有しているかにもよりますが,労働者の請求通り支払わなければならない可能性があります。

 多くの裁判例は,タイムカード等の客観的な記録に基づいて時間管理がされている場合には,特段の事情のない限り,その打刻時間等をもって実労働時間と事実上推定しています。

 そのため,使用者としては,タイムカード通りには仕事をしていないという特段の事情を立証できるかがポイントになります。

① 始業時刻前の出社(早出出勤)について

 実労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,その判断は客観的に定まります。

 この点については,義務づけ(強制)の程度,業務性の有無,時間的場所的拘束性の有無などを考慮して検討することになります。

 例えば,業務命令として始業時刻前に朝礼や交代引継をしていたのであれば労働時間と認定されることとなります。これに対して,電車の遅延等で遅刻しないために毎朝余裕をもって出社していたにすぎないような場合には,使用者の指揮命令下に置かれているとはいえないので,労働時間と認定されないこととなるでしょう。

 以上より,検討の際には,なぜ当該労働者が始業時刻前に出社していたのかを見極める必要があります。

② 残業の命令をしていない(勝手に残業していた)との主張について

 単に,残業を命じていなかっただけでは,黙示の残業命令があったと認定されてしまう可能性が高いです。

 裁判所は,黙示の残業命令の有無について,所定労働時間内に終了できる業務量だったか,残業が恒常的なものとなっていたか,使用者が残業の中止を命じていたかなどの要素から判断しています。

 このことからすると,もし形式上は残業を禁止していたとしても,実情として残業が恒常的であり,上司がこれを認識ながら黙認していた場合には,労働時間として認められる可能性が高いと言えるでしょう。

③ 遊んでいたとの主張について

 単に,遊んでいたはずだと抽象的に主張するだけでは裁判所がこの主張を採用する可能性は低く,個別具体的に特定した主張をする必要があります。

 裁判所がこのような傾向をとるのは,使用者には労働時間管理義務があること,タイムカードの打刻時間の範囲内は仕事をしていたものと事実上推定されることにあるためのようです。

 したがって,仮に遊んでいたのであれば,毎日の残業状況をチェックし,記録化等をし,個別具体的な主張ができるようにしておく必要があります(もっとも,このような状況を見つけた場合には,まずは注意等し,改善するよう促すことが筋だとは思います。)。


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「課長」職の残業代について

2016-02-09 | 日記

労働者が「時間外労働」や「深夜労働」に対する割増賃金を請求してきました。しかし,その労働者は当社における「課長」職についています。そのため,管理監督者に該当するため,残業代などを支払う必要はないですよね?


 管理監督者に該当しない可能性があり,その場合には,残業代 等を支払わなければならなくなります。

 なお,前提として仮に管理監督者に該当したとしても,「深夜労働」に対する割増賃金の支払義務は免除されず,支払義務があるので注意してください。

 この点,管理監督者に対する支払い義務が免除されるのは,「時間外労働」,「休日労働」に対する割増賃金です。

 まず,注意すべき点は,いわゆる「管理職 」が当然には管理監督者には当たらないということです。

 管理監督者の趣旨は,「職制上の役付者のうち,労働時間,休憩,休日等に関する規制の枠を超えて活動することが要請されざるを得ない,重要な職務と責任を有し,現実の勤務態様も,労働時間等の規制になじまないような立場にある者に限って管理監督者として法41条による運用の除外が認められる」(昭22.9.13基発17号)とされています。

 では,どのような者が管理監督者といえるかについてですが,行政通達によると,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者を言い,名称にとらわれず,実態に即して判断すべきとされています。

 裁判所では,管理監督者該当性について比較的厳格にとらえているようですが,具体的には以下の基準をもって判断しています。

① 職務内容,権限および責任の重要性

② 勤務態様(労働時間(出退勤)について自由裁量があるか)

③ 賃金等の待遇

 以上を踏まえて,貴社の「課長」職が管理監督者に該当するかを検討することになるのですが,その際には,この3つの基準について,以下の資料(証拠)等に基づいて検討していくことが有益です。

①に関して

 雇用契約書,企業全体および勤務部門の組織表,職務の範囲権限を定めた文書

②に関して

 雇用契約書,就業規則,タイムカード,出勤簿,シフト表

③に関して

 雇用契約書,賃金規程,賃金台帳

 ですので,労働相談の際には,以上の関連資料をお持ち頂くとスムーズに検討することができます。


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基本給の中に割増賃金を組み込んで定額残業代を支払う場合の注意点

2016-02-09 | 日記

当社は,基本給の中に割増賃金を組み込んで定額残業代を支払っています。労働者から残業代請求がされた場合,残業代を支払わなければならないのでしょうか?


 支払わなければならない可能性があります。

 定額残業代 には,手当型(割増賃金の支払に代えて一定額の手当を支給)と組込型(基本給の中に割増賃金を組み込んで支給)があります。

 組込型の場合には,一見すると賃金額が高くみえるため,労働者を募集しやすくなる反面,トラブルになるケースが増えていると言われています(基本給部分を低く抑えようとするあまり,これが最低賃金を下回らないように注意)。

 定額残業代として有効かどうかは,一般的には,割増賃金を基本給に組み込んで支払う場合は,割増賃金部分が他の部分と明確に区分されているかどうか(明確区分性)及び手当型の場合にはその手当が実質的に時間外手当に当たるといえるかにあると言われています。

 明確区分性の有無は,就業規則(給与規定),雇用契約書,賃金台帳,給与明細,実際の運用などから総合的に判断されます。

 例えば「基本給30万円(残業代込み)」という記載だけでは不十分であり,これでは定額残業代としては認められません。

 そこで,事前の対策としては,支払われる給与のうち,割増賃金部分に相当する手当ないし部分を明確にし,それが何時間分の割増賃金に当たるのかを就業規則(給与規定),雇用契約書等に明示し(当然のことではあるが,定額残業代でカバーされている時間外労働等を超える労働があった場合には,その分の割増賃金は別途支払われる旨も明示しておくとベター),賃金台帳に定額残業代として計算された金額を明確に記載しておくこと等が考えられます。

 まとめると,以下のようになります。

① 定額残業代と認められた場合

(1) 割増賃金の基礎賃金

 算入されない

(2) 残業代について

 (一部又は全部)弁済済み

② 定額残業代と認められない場合

(1) 割増賃金の基礎賃金

 算入される

(2) 残業代について

 弁済済みとならない


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月給と歩合給を組み合わせる方法で給料を支払う場合の残業代の計算方法

2016-02-09 | 日記

当社は月給と歩合給を組み合わせる方法で給料を支払っています。割増賃金計算の基礎となる賃金および残業代はどのように算出されるのですか?


 割増賃金計算の基礎となる賃金の算出方法(時間賃金もしくは時間単価)は,労働基準法施行規則19条に定めがあります。

 月給と歩合給を組み合わせて支給している場合(貴社の場合)だと,各計算方法で算出した金額の合計が割増賃金計算の基礎となる賃金になります。

 各計算方法は,

(1) 月給の場合は,1か月の所定労働時間(不定の場合は1年での1か月平均)で割った金額

(2) 出来高払の場合は,賃金算定期間の賃金総額をその間の総労働時間で割った金額

となります。

 そして,残業代 =①割増賃金計算の基礎となる賃金×②残業時間数×③割増率という計算式で算出されます。

 そこで,次の例で具体的な算出方法をみてみます。

・月給20万円,歩合給5万円

・月平均所定労働時間数170時間

・当該月の総労働時間数200時間

・当該月の時間外労働時間数30時間

 なお,実労働時間数について争いのないことを前提にしています。

        ↓

・月給部分 (①20万円÷170時間)×②30時間×③1.25=4万4100円

・歩合給部分 (①5万円÷200時間)×②30時間×③0.25=1875円

 したがって,4万4100円+1875円=4万5975円が残業代になります。


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私傷病休職の休職事由が消滅しているため復職の要件を満たすと評価することができるというためには

2016-02-09 | 日記

私傷病休職の休職事由が消滅しているため復職の要件を満たすと評価することができるというためには,具体的にどのような場合であることが必要ですか。


 私傷病休職制度は一般に解雇を猶予する制度ですから,休職事由の消滅は,どのような場合であれば普通解雇することができるかを念頭に置いて考える必要があり,私傷病休職の休職事由が消滅しているため復職の要件を満たすと評価することができるというためには,労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合(労働契約で予定された労務の提供がある場合)であることが必要です。

 具体的に,どのような場合に労働契約における債務の本旨に従った履行の提供があると評価できるかについては,日本電気事件東京地裁平成27年7月29日判決(労経速2259号3頁)が以下のようにの判示しているのが参考になると思います。
 「就業規則において復職の要件とされている『休職の事由が消滅』とは,原告と被告の労働契約における債務の本旨に従った履行の提供がある場合をいい,原則として,従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合,又は当該軽易業務に就かせればほどなく従前の職務を通常の程度に行える健康状態になった場合をいうと解される。」
 「また,労働者が職種が業務内容を特定せずに労働契約を締結した場合においては,現に就業を命じられた特定の業務について労務の提供が十全にはできないとしても,当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ,かつ,その提供を申し出ているならば,なお債務の本旨に従った労務の提供があると解するのが相当である(片山組事件最高裁判決参照)。」
 「本件では,原告と被告の労働契約は,職種は総合職で,給与は月給23万6600円で,本件休職命令時の職位はA職群3級(総合職の最下位)であったから,『休職の事由が消滅』といえるには,被告の総合職の3級として債務の本旨に従った労務の提供といえることが必要であり,従前の職務である予算管理業務が通常の程度に行える健康状態となっていること,又は当初軽易作業に就かせればほどなく上記業務を通常の程度に行える健康状態になっていること,これが十全にできないというときには,被告においてA職群(総合職)3級の者が配置される現実的可能性があると認められる他の業務について労務を提供することができ,かつ,原告がその提供を申し出ていることが必要である。」


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割増賃金計算の基礎となる賃金を教えてください。

2016-02-09 | 日記

割増賃金計算の基礎となる賃金を教えてください。


 割増賃金計算の基礎となる賃金とは,以下の除外賃金を除いた賃金のことを言います。除外賃金は,限定列挙であり,これらにあたらない限りは,全て割増賃金の基礎となる賃金に算入する必要があります。

・家族手当

・通勤手当

・別居手当

・子女教育手当

・住宅手当

・臨時に支払われた賃金

・1か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 しかし,注意が必要なのは,上記の名目でありさえすれば除外賃金に該当し基礎となる賃金に含めなくて良いというわけではなく,割増賃金計算の基礎とすべき賃金に含まれるかどうかは,当該手当の実質に着目して判断されるということです。言い換えると,これは,仮に手当にこれらの名称が付されていなくても,除外賃金と実質的に同様の内容であるのであれば,除外賃金として取り扱うことが可能な場合もあることを意味します。

 例えば,住宅手当という名目であっても,住宅に関する費用に関わらず一律に定額で支給されるものは,除外賃金とはいえず,割増賃金計算の基礎となる賃金に含まれます。他方で,生活手当のような名称であったとしても,実質は扶養家族の有無・数によって算定される手当であれば,除外賃金としての家族手当に該当します。


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