弁護士法人四谷麹町法律事務所のブログ

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東京大学出版会事件東京地裁平成22年8月26日判決(労経速2085-3)

2010-12-16 | 日記
本件は,被告を定年退職した原告が,被告に対し,再雇用を希望する旨の意思表示をしたところ,被告がこれを拒否したが,同拒否の意思表示は正当な理由を欠き無効であるから,被告との間で平成21年4月1日付けで再雇用契約が締結されていると主張して,労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めた事案です。

本判決は,
「以上のとおり検討した法の趣旨,再雇用就業規則制定の経過及びその運用状況等にかんがみれば,同規則3条所定の要件を満たす定年退職者は,被告との間で,同規則所定の取扱い及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり,同規則3条所定の要件を満たす定年退職者が再雇用を希望したにもかかわらず,同定年退職者に対して再雇用拒否の意思表示をするのは,解雇権濫用法理の類推適用によって無効になるというべきであるから,当該定年退職者と被告との間においては,同定年退職者の再雇用契約の申込みに基づき,再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。」
とした上で,所定の要件を満たすかどうかについて検討し,
「本件再雇用拒否は,原告が再雇用就業規則3条所定の要件を満たすにもかかわらず,何らの客観的・合理的理由もなくなされたものであって,解雇権濫用法理の趣旨に照らして無効であるというべきである。そうすると,原告は,再雇用就業規則所定の取扱い及び条件に従って,被告との間で,再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するというべきであるから,原告の平成19年7月30日付け再雇用契約の申込みに基づき,原被告間において,平成21年4月1日付けで再雇用契約が成立したものとして取り扱われることになるというべきである。」
と結論づけました。

高年法には私法的効力がないという判断がいくつかの裁判例でなされていたところですが,この判決からは,就業規則の規定によって私法的な拘束力が生じるリスクがあることが分かります。
対策としてまず考えられるのは,就業規則の内容をよく吟味して,作成,改訂することです。
東京大学出版会の再雇用就業規則の「(1) 健康状態が良好で,8条(勤務日,勤務時間)に定める勤務が可能な者,(2) 再雇用者として通常勤務ができる意欲と能力がある者を再雇用する(3条)」という規定の仕方はちょっと…。
今さら,就業規則の改定が難しいようなら,65歳までの現実の雇用を免れない可能性が高いことを前提として,60歳までの賃金額を減らし,それを60歳以降の賃金に振り分ける等の工夫ができないか,検討していくことも検討してもいいのではないでしょうか。
こちらも難しい会社も多いとは思いますが,賃金表などを作成しておらず,昇給幅が経営者の裁量に委ねられている会社などでは,工夫の余地があるように思えます。
安易な就業規則作成は,リスクが大きいですね。

個人的には,10年後,20年後に,年金支給開始年齢がまた引き上げられる可能性があると考えています。
その際,定年が65歳以上でないとダメだとか,70歳までの雇用確保措置を取れだとか,規制が強まるリスクがあります。
現在の法規制のみを前提にものを考えるのではなく,時代を先取りして,対応を検討しておいた方がいいのではないでしょうか。
その意味で,いっそのこと,定年を65歳くらいまで上げてしまって,これまで60歳までで支給していた賃金の一部を,60歳~65歳の賃金に振り分けて対応することを検討してもいいかもしれません。

それにしても,再雇用まで,このような形で強制されるというのでは,新規採用時の選別には,本当に,手間暇をかけないといけませんね。
いったん雇ってしまうと,辞めさせるのが大変です。


弁護士 藤田 進太郎

労働組合による街宣活動の違法性

2010-12-16 | 日記
Q30労働組合による街宣活動が違法と評価されるのは,どのような場合ですか?

 労働組合は,団結権,団体交渉権が法的権利として保障されており,その目的とする組合員の労働条件の維持,改善を図るために必要かつ相当な行為は,正当な活動として,不法行為に該当する場合でも,違法性を阻却されることになります。
 労働組合の組合活動としての表現行為,宣伝行動によって使用者の名誉や信用が毀損された場合,当該表現行為,宣伝行動において摘示されたり,その前提とされた事実が真実であると証明された場合はもとより,真実と信じるについて相当の理由がある場合も,それが労働組合の活動として公共性を失わない限り,違法性が阻却されることになりますし,当該表現行為,宣伝行動の必要性,相当性,動機,態様,影響など一切の事情を考慮し,その結果,当該表現行為,宣伝活動が正当な労働組合活動として社会通念上許容された範囲内のものであると判断される場合には,行為の違法性が阻却され,不法行為とならないことになります。
 したがって,会社建物前でなされた街宣活動については,よほど酷いやり方をしない限り違法とはなりにくいものと思われます。
 名誉毀損についても,明らかに虚偽の事実を摘示して使用者の名誉を毀損するようなことをしない限り,違法と評価されることは多くないものと思われます。

 他方,企業経営者の自宅付近で行われる街宣活動は,会社前路上などで行われる通常の街宣活動と比べて,大幅に制約されることになり,企業経営者の住居の平穏や地域社会における名誉・信用という具体的な法益を侵害しないものである限りにおいて,表現の自由の行使として相当性を有し,容認されることがあるにとどまることになります。
 労使関係の場で生じた問題は,労使関係の領域である職場領域で解決すべき問題です。
 企業経営者も,個人として,住居の平穏や地域社会における名誉・信用が保護,尊重されるべきはずです。
 このため,労働組合の諸権利は企業経営者の私生活の領域までは及ばないと考えられるからです。

弁護士 藤田 進太郎

団体交渉の打ち切り

2010-12-16 | 日記
Q29団体交渉が行き詰まった場合は,団体交渉を打ち切ることができますか?

 労使の主張が対立し,いずれかの譲歩により交渉が進展する見込みがなくなったような場合は,団体交渉を打ち切ることができるものとされています(池田電機事件における最高裁第二小法廷平成4年2月14日判決)。
 ただし,交渉が進展する見込みがなくなったといえるかどうかの判断が難しいケースも多いと思われますので,できるだけ組合の了解を得てから交渉を打ち切るべきでしょう。

弁護士 藤田 進太郎

不誠実団交

2010-12-16 | 日記
Q28使用者が団体交渉に応じているにもかかわらず,団体交渉拒否と評価され,不当労働行為となることもあるのですか?

 労組法7条2号は,使用者が団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むことを不当労働行為として禁止していますが,使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団体交渉に当たったとは認められないような場合も,同規定により団体交渉の拒否として不当労働行為となると考えられています(カール・ツアイス事件における東京地裁平成元年9月22日判決)。
 具体的には,使用者は,

① 労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり
② 必要な資料を提示するなどし
③ 結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても,その論拠を示して反論する
 などの努力をすべき義務があるとされています。
 使用者には譲歩の義務がなく,労働組合の要求に応じる必要はありませんが,上記のような誠実交渉義務がありますので,注意が必要です。

弁護士 藤田 進太郎