Q2普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情として,どのような事情を立証すればいいのですか?
普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情としては,実務上,以下の①②が争われることが多いとされています(東京地裁労働部の裁判官によって執筆された『労働事件審理ノート』)。
① 勤務成績,勤務態度等が不良で職務を行う能力や適格性を欠いている場合か
当該企業の種類,規模,職務内容,労働者の採用理由(職務に要求される能力,勤務態度がどの程度か),勤務成績,勤務態度の不良の程度(企業の業務遂行に支障を生じ,解雇しなければならないほどに高いかどうか),その回数(1回の過誤か,繰り返すものか),改善の余地があるか,会社の指導があったか(注意・警告をしたり,反省の機会を与えたか),他の労働者との取扱いに不均衡はないかなどを総合検討する。
② 規律違反行為があるか
規律違反行為の態様(業務命令違反,職務専念義務違反,信用保持義務違反等),程度,回数,改善の余地の有無等を同様に総合検討する。懲戒解雇の場合は,普通解雇の場合よりも大きな不利益を労働者に与えるものであるから,規律違反の程度は,制裁として労働関係から排除することを正当化するほどの程度に達していることを要する。
ここで注意しなければならないのは,漠然と,会社が解雇を有効と判断すべき事情が多いように思えた場合であっても,解雇しても大丈夫だとは直ちにはいえない点です。
勤務成績,勤務態度等が不良であるというためには,その評価を基礎づける「具体的事実」を立証できなければなりませんが,「仕事ができない。」「勤務態度に問題がある。」「協調性がない。」といった抽象的な説明しかできない事例が散見されます。
解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実を説明できないようでは,大した理由もないのに,何となく気に入らないから解雇しただけなのではないかとの疑いを払拭することができなくなってしまいますので,最低限,どこがどのように問題なのか,その評価を基礎づける具体的事実を説明できるようにしておく必要があります。
「彼の勤務成績,勤務態度が悪いことは,本人が一番良く知っているはずだ。このことは社員みんなが知っていて証言してくれるはずだから,裁判にも勝てる。」といった安易な考えに基づいて「問題社員」を解雇する事例が見られますが,訴訟になるような事案では,労働者側はほぼ間違いなく自分の勤務成績,勤務態度には問題がなかったと主張してきますし,社員等の利害関係人の証言は経営者が思っているほど重視されません。
したがって,解雇に踏み切る前の時点で,解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実を説明することができるのかどうか,その事実を立証できるだけの客観的証拠が準備できているかどうかを確認する必要があります。
そして,相手の言い分を聞かないことには,解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実があるのかないのかを確認することが難しいのが通常ですから,解雇に踏み切る前に,「問題社員」の言い分を十分に聴取し,使用者側が認識している事実関係と照らし合わせて,客観的にどのような事実が認定できるかを検討すべきと考えます。
社員を解雇する場合には,労働者に指導,注意,警告しても改善の見込みがないような大きな問題がある場合でない限り,解雇に先立ち,十分な指導,注意,警告をし,反省の機会を与えることが必要となります。
実際に解雇に踏み切る場合の「警告」としては,原則として,当該社員に対し,具体的問題点を指摘し,それが改善されない場合には解雇する旨警告し,実際に改善されなかった場合に初めて,解雇すべきと考えます。
このような警告がないままいきなり解雇した場合,労働者にとって不意打ちになりますから,労働者の納得を得にくく,トラブルになりやすいですし,問題社員の解雇であっても,解雇が無効と判断されやすくなります。
警告の内容としては,「具体的」に問題点を指摘し,具体的にどうすれば解雇されることを回避できるのか,労働者が理解できるようにしておく必要があります。
具体的に問題点を指摘できない場合は,解雇事由が存在しないわけですから,解雇を回避する必要があるという結論になります。
また,警告した結果,問題点が改善された場合には,解雇事由が存在しなくなっているわけですから,やはり,解雇すべきではないという結論になります。
ここで重要なのは,最初に解雇を決定し,それから,どうやって辞めさせるかを検討するのではなく,解雇を回避する方法がないか検討したものの,やはり解雇を回避できない事情があるため,やむなく解雇に踏み切るというスタンスです。
まずは,十分に指導,注意,警告をした上で,それでも改善されない場合に初めて,解雇に踏み切るべきことになるのが通常ですので,順番を間違えないようにして下さい。
弁護士 藤田 進太郎
普通解雇・懲戒解雇において,解雇権濫用の有無を判断する具体的事情としては,実務上,以下の①②が争われることが多いとされています(東京地裁労働部の裁判官によって執筆された『労働事件審理ノート』)。
① 勤務成績,勤務態度等が不良で職務を行う能力や適格性を欠いている場合か
当該企業の種類,規模,職務内容,労働者の採用理由(職務に要求される能力,勤務態度がどの程度か),勤務成績,勤務態度の不良の程度(企業の業務遂行に支障を生じ,解雇しなければならないほどに高いかどうか),その回数(1回の過誤か,繰り返すものか),改善の余地があるか,会社の指導があったか(注意・警告をしたり,反省の機会を与えたか),他の労働者との取扱いに不均衡はないかなどを総合検討する。
② 規律違反行為があるか
規律違反行為の態様(業務命令違反,職務専念義務違反,信用保持義務違反等),程度,回数,改善の余地の有無等を同様に総合検討する。懲戒解雇の場合は,普通解雇の場合よりも大きな不利益を労働者に与えるものであるから,規律違反の程度は,制裁として労働関係から排除することを正当化するほどの程度に達していることを要する。
ここで注意しなければならないのは,漠然と,会社が解雇を有効と判断すべき事情が多いように思えた場合であっても,解雇しても大丈夫だとは直ちにはいえない点です。
勤務成績,勤務態度等が不良であるというためには,その評価を基礎づける「具体的事実」を立証できなければなりませんが,「仕事ができない。」「勤務態度に問題がある。」「協調性がない。」といった抽象的な説明しかできない事例が散見されます。
解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実を説明できないようでは,大した理由もないのに,何となく気に入らないから解雇しただけなのではないかとの疑いを払拭することができなくなってしまいますので,最低限,どこがどのように問題なのか,その評価を基礎づける具体的事実を説明できるようにしておく必要があります。
「彼の勤務成績,勤務態度が悪いことは,本人が一番良く知っているはずだ。このことは社員みんなが知っていて証言してくれるはずだから,裁判にも勝てる。」といった安易な考えに基づいて「問題社員」を解雇する事例が見られますが,訴訟になるような事案では,労働者側はほぼ間違いなく自分の勤務成績,勤務態度には問題がなかったと主張してきますし,社員等の利害関係人の証言は経営者が思っているほど重視されません。
したがって,解雇に踏み切る前の時点で,解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実を説明することができるのかどうか,その事実を立証できるだけの客観的証拠が準備できているかどうかを確認する必要があります。
そして,相手の言い分を聞かないことには,解雇されてもやむを得ないと考えられるような具体的事実があるのかないのかを確認することが難しいのが通常ですから,解雇に踏み切る前に,「問題社員」の言い分を十分に聴取し,使用者側が認識している事実関係と照らし合わせて,客観的にどのような事実が認定できるかを検討すべきと考えます。
社員を解雇する場合には,労働者に指導,注意,警告しても改善の見込みがないような大きな問題がある場合でない限り,解雇に先立ち,十分な指導,注意,警告をし,反省の機会を与えることが必要となります。
実際に解雇に踏み切る場合の「警告」としては,原則として,当該社員に対し,具体的問題点を指摘し,それが改善されない場合には解雇する旨警告し,実際に改善されなかった場合に初めて,解雇すべきと考えます。
このような警告がないままいきなり解雇した場合,労働者にとって不意打ちになりますから,労働者の納得を得にくく,トラブルになりやすいですし,問題社員の解雇であっても,解雇が無効と判断されやすくなります。
警告の内容としては,「具体的」に問題点を指摘し,具体的にどうすれば解雇されることを回避できるのか,労働者が理解できるようにしておく必要があります。
具体的に問題点を指摘できない場合は,解雇事由が存在しないわけですから,解雇を回避する必要があるという結論になります。
また,警告した結果,問題点が改善された場合には,解雇事由が存在しなくなっているわけですから,やはり,解雇すべきではないという結論になります。
ここで重要なのは,最初に解雇を決定し,それから,どうやって辞めさせるかを検討するのではなく,解雇を回避する方法がないか検討したものの,やはり解雇を回避できない事情があるため,やむなく解雇に踏み切るというスタンスです。
まずは,十分に指導,注意,警告をした上で,それでも改善されない場合に初めて,解雇に踏み切るべきことになるのが通常ですので,順番を間違えないようにして下さい。
弁護士 藤田 進太郎