(朝刊より)
新藤 兼人さん(99)
「『私』が主人公の映画。うけるか心配だったが、立ち見も出ているそうで、びっくりです」と笑う。6日に東京と広島で先行上映され、好評を博す監督49作目の『一枚のハガキ』。80年近い映画人生の「最後の作品」と宣言し、自身の戦争体験を描いた。13日から全国で順次公開される。
豊川悦司さん演じる元海軍二等兵が「私」。フィリピンへ行く直前、妻からのハガキを見せ、「受け取ったと伝えてほしい」と言った戦友は南海に散った。
一緒に招集された100人中94人が戦死した。内地か戦地か。上官が引いたくじが、終戦を内地で迎えた自分との運命を分けた。あの妻はどうなったのか。片時も忘れ得ぬ思いに初めて向き合った。
「かけがえのない人を十把一絡げで殺すのが戦争。二等兵の角度から見なきゃわからない」。
ラストシーンは金色に染まった麦畑。踏まれて成長する麦に、苦難を乗り越えて歩んだ戦後の日本人を重ねた。今は東日本大震災の被災者に思いをはせる。「私には何も出来ないが、映画で人間が持つ強さを揺り動かせたら」。
広島出身。原爆投下後3秒間で多くの広島市民が殺された。その様を描く映画を撮る夢がまだ残る。体は動かないが、福島第一原発事故で更に思いは募る。「私でなくていい。核廃絶の映画を、核の原点・広島が作ってほしい」。
(僕は新藤兼人ファン。)