自 遊 想

ジャンルを特定しないで、その日その日に思ったことを徒然なるままに記しています。

伐折羅像

2008年04月09日 | Weblog
 仏像の類で惹かれるもののひとつだ。惹かれる理由は畏怖の念をもたされるからだ。切手の図案にもなった、あの形相は単に恐ろしいだけではないと思う。新薬師寺の本尊薬師如来を護る十二神像のひとつだが、慈愛に満ちた薬師如来を伐折羅たちが敬愛し護っている。その敬愛が恐ろしい形相に深く刻み込まれていて、敬愛と恐ろしさが、観る者をして畏怖の念を与えるのだと思う。
 新薬師寺は背後に春日原生林をひかえ、この寺の少し南には滝坂の道がある。柳生に通じる石畳の道で、その昔、柳生の剣士や荒木又衛門が往来したそうだ。途中には首切り地蔵や朝日観音、夕日観音など、土俗信仰の名残がある。ハイキングコースになっているのだが、この道を始めて歩いたとき、迷ってしまい、柳生へは辿りつかず、聞いた事のない集落に入ってしまった。その集落で窯を築いている無精髭の陶工に道を尋ね、ついでに焼き物談義をした。道に迷うのもいいものだと思った。
 話がそれたが、新薬師寺の本殿は元々は食堂(じきどう)なのだが、天平の建築様式を残す貴重な建物である。この建物の姿がいい。屋根の勾配が、後世の寺院のそれと比べると緩やかでゆったりとし、おおらかである。人出の少ない時にこの建物を観ていると、時間の経過を忘れる。忘れた時に我に帰ると伐折羅が眼の前に居た。