ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『海にかかる霧』を観て

2020年01月15日 | 2010年代映画(外国)
2001年のテチャン号事件を戯曲化したものを、ポン・ジュノがプロデュースした『海にかかる霧』(シム・ソンボ監督、2014年)を観てみた。

漁船チョンジン号のカン船長は、不漁に苦しんでいた。
故障した船の修理代も出せず、金策に悩んだ末、中国からの密輸業を請け負っているヨ社長から朝鮮族の密航を引き受ける。
船員たちはこの仕事を躊躇するが、カン船長が説得。

そして決行の夜。
約束の座標に辿り着いたチョンジン号の前に、密航者たちを乗せた中国船が現れる。
荒れ狂う雷雨の中、中国船からチョンジン号へ飛び移ってくる密航者たち。
その中の若い女、ホンメが海に転落するが、新米乗組員のドンシクが無事に救出。

やがて海が穏やかになると、監視船が接近してくる。
現れたのは、カン船長と旧知の仲のキム係長だった。
二人が甲板で酒を飲んでいると、密航者たちを匿っている魚艙から異音が響く・・・
(アジアドラマチックTVより)

異音に怪しむキム係長。
それを冷凍庫の故障とごまかすカン船長。
疑念を持ちながら監視船に去るキム係長。
その後で、危機は去ったと魚艙を開けてみると、思わぬ事態が起きていた。

冷凍機からのフロンガス漏れで、密航者たちは一人残らず窒息死していた。
ただホンメだけは、事前にドンシクが機関室に招き入れていて生き残る。
密航がバレルのを恐れた船長は、魚の餌になるよう死体を切り刻んで海に棄てろと命令する。

ためらう船員たち。
これをキッカケに、人間としてのタガが徐々に外れ、ついには殺戮となり、船は狂気の世界と化する。
冷酷無比の殺人者となっていく船長といい、気が触れた船員といい、極限の中での狂気サスペンス。

だがそれは、あまりにもアクションが強すぎ、その反動で、活劇の枠にすんなりと収まっていってしまう。
この作品が、アカデミー賞外国語映画賞韓国代表だとなるともっと厳しく見たいが、それにしても、代表としてはチョットなぁと、首を傾げたくなる。
しかし、飽きずに楽しめたことだけは確かである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『TOKYO!』を観て

2020年01月11日 | 2000年代映画(外国)
ポン・ジュノ監督の作品が入っているオムニバス映画『TOKYO!』(2008年)を観てみた。

1:インテリア・デザイン(ミシェル・ゴンドリー監督)
売れない映画監督の彼氏アキラと共にマイカーで上京し、友人アケミのアパートへ転がり込んだヒロコ。
愛車は駐車違反で持って行かれ、仕事も住まいも見つからず、アキラのみバイトの面接に合格して働き始める。
次第にアケミにも疎まれ始めるヒロコだったが、ある日、自分は徐々に“椅子”になって行き・・・

2:メルド(レオス・カラックス監督)
謎の怪人メルド。
彼は東京都内のあちこちのマンホールから現れては走り回り、通行人にぶつかって倒したり、持ち物を奪って食べる等の奇行を繰り返して恐れられていた。
メルドの住む下水道奥の地下深くには、旧日本軍の戦車の残骸や、手榴弾が残されていた。
やがて手榴弾をいくつも持ち出し、渋谷の街に次々と投げ、爆発させるメルド。
警察は地下に乗り込んで、遂に彼を逮捕する。
そして、不条理なテロ事件の裁判が始まる・・・

3:シェイキング東京(ポン・ジュノ監督)
一軒家に独り暮らしの引きこもり男。
父親からの仕送りの現金書留で生活し、自宅に来るピザや宅配便の配達人とは決して目を合わせず、テレビも見ずに読書三昧。
そんな生活を10年も続けていた。
ある日、女性ピザ配達人のガーターソックスが目に入り、思わず顔を上げて目を合わせてしまう引きこもり男。
丁度そこに地震が起こり気絶して倒れてしまう配達人。
どうしたらよいか戸惑い、右往左往する男だったが、彼女の手足には押しボタンのイラストが描かれており、なぜか「起動ボタン」のイラストを押すと目が覚めた。
その後、彼女がピザ屋を辞めたことを知った男は、会いたさが募り、遂に玄関の外へと踏み出し・・・
(Wikipediaより一部修正)

第一話の監督、ミシェル・ゴンドリーの名は初めて聞く。
調べてみると、ビョーク等のミュージック・ビデオやテレビコマーシャル作成の出身とのこと。
だがこの作品は頂けない。
テーマが、ヒロコによるアパート探し中心かなと思っていたら、後半で突然“椅子”に変わって行って、そのことに癒やされる女の話になってしまう。
真面目に観ていて馬鹿らしくなった。

続いてのレオス・カラックス作品も同じ。
“ゴジラ”のテーマ曲が流れるなか、汚らしい怪人メルドが動きまくり人々に嫌がられる。
何のために、こんなのを作るの?とウンザリする。
もっとも観るまでは、久し振りのカラックス作品なので期待していた。

カラックス(1960生)と言えば、私がまだ30歳台の頃、『ボーイ・ミーツ・ガール』(1983年)、『汚れた血』(1986年)、『ポンヌフの恋人』(1991年)の作品で凄く魅力にたけた監督だった。
そして当時、ジャン=ジャック・ベネックス(1946生)、リュック・ベッソン(1959生)と共に、ヌーヴェル・ヴァーグ以後のフランス映画界の「新しい波」だった。
この3監督の感性の鋭さに共感し、その何ものにも代えがたき思いはいまでも続いているが、それにしても、このカラックスの体たらくにはガッカリする。

そう言えばこの3監督、年齢的にはベネックスが私よりチョット上、後の二人はまだ60歳ぐらいのはずなのに新しい作品を聞かない。
もっともリュック・ベッソンは作っているようだが、私からするとあまりパァとしない。
と、この第二話を観て、どうでもいい他のことを思い出してしまった。

第三話のポン・ジュノの作品。
これがメインだったけれど、なるほど飽きはしないけれど、だからそれでどうしたの、と言う程度。

そもそもこの3作品、“東京”を題材にして、何を作りたかったのか。
単なる、意味のないお茶濁しの作品作りなのか。
そんな疑問が先に立つような内容だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『スノーピアサー』を観て

2020年01月09日 | 2010年代映画(外国)
『スノーピアサー』(ポン・ジュノ監督、2013年)をDVDで観た。

2014年、地球温暖化を防止するため78カ国でCW-7と呼ばれる薬品が散布されるが、その結果、地球上は深い雪に覆われ、氷河期が再来してしまう。
それから17年後、かろうじて生き延びた人々は「スノーピアサー」と呼ばれる列車の中で暮らし、地球上を移動し続けていた。

列車の前方は一握りの上流階級が支配し、贅沢な生活を送る一方、後方車両には貧しい人々がひしめき、厳しい階層社会が形成されていた。
そんな中、カーティスと名乗る男が自由を求めて反乱を起こし、前方車両を目指すが・・・
(映画.comより)

地球を1年かけて一周する列車「スノーピアサー」に乗り込んでいる者たち。
さながらノアの方舟列車。
そんな中での、最後尾車両から最前列にいる車両主のウィルフォードに向けてのサバイバル。
前方へ一列車ごとに進む、カーティスがリーダーとなっての最下位層。
それを武器でもって阻止しようとする護衛隊との乱闘。
途中カーティスは、壁ケースに閉じ込められていたセキュリティ開発のナムグンと娘ヨナを開放して味方にする。
行く先々には、植物園、水族館と、これが列車なのかという風景も現れ、最下位層の者からすると不思議な光景を目にする。

と、それは興味を引く設定、あらすじにはなっているが、それは原作によるものか。
映画的には、出だしのあたりで物語の前提としての全体像が示してないので、最前列の車両に向かおうとする必然性が見えてこない。
だから個々の人物像もわからなく、ただ安易なアクションの繰り返しとしか見えない。
ひどいのは、肝心な殺されたはずの者が後でまた起き上がってくるので、やられてもやられなくっても同じになってしまう。

そうなると、面白くも何ともなく、単なる終わりまでの時間潰しの映画と化する。
そればかりか、このようなアクション映画によくあるように、状況設定を描くのが難しいのかバックを明確にせず、よって映像が暗く汚い。
要は、誤魔化し映像。
もっと次いでに悪く言えば、SF的な状況や筋の流れを説明するのに、セリフに依存していること。
これがポン・ジュノの作品かと思うとガッカリするが、それでももう少し付き合って他も観ようかなと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ほえる犬は噛まない』を観て

2020年01月08日 | 2000年代映画(外国)
『ほえる犬は噛まない』(ポン・ジュノ監督、2000年)を観た。

ユンジュは、出産間近の年上の妻ウンシルに養われている、ヒモ同然の大学院出の浪人。
最近、マンション内に響き渡る犬の鳴き声に神経過敏になっていた。
ある日、となりのドアの前にチョコンと座る犬を見つけて、ついふらふらと地下室へ閉じ込めてしまう。

ヒョンナムは、マンションの管理事務所で経理の仕事をしている女の子。
毎日ボーと仕事をしていたが、団地に住む少女の愛犬ピンドリがいなくなり、迷い犬の貼り紙を貼っている少女に代わって、町じゅうに紙を貼るのだった・・・
(映画.comより一部抜粋)

お腹が大きい妻が働きに出ていて、自分はブラブラしているために頭が上がらない夫のユンジュ。
そんな彼に先輩から、教授になれる話が舞い込む。それにはワイロとしての1500万ウォンが必要。

マンションの屋上で、友人チャンミの双眼鏡をヒョンナムが覗いていると、向こうの屋上から子犬を投げる男を目撃する。
子犬が失踪する犯人は“こいつだ”と追いかけ出すヒョンナム。
こうしてユンジュとヒョンナムの接点が生まれる。

物語のテンポはコミカル。
かと思えば、地下室で警備員が鍋物を作るために犬を料理しようとする場面を、ユンジュが覗き見てしまうところになると、正しくサスペンス調。
そこに、なぞの浮浪者まで絡んできて、観ているこちらをグイグイと引っ張っていく。
そればかりか、ラストに至る皮肉さ。
それも良しか、と肯定させ納得させてしまう演出がうまい。
そして、これが長編デビュー作だと言うから、後の『殺人の追憶』(2003年)、『グエムル-漢江の怪物-』(2006年)、『母なる証明』(2009年)からすると、
やはり監督としての力量はただ者ではないと感じる。

だから未見の作品をもう少し続けてみたいと思う。
それにしても、韓国では食犬文化があるようだとこの作品から知り、そのことにビックリもした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ポン・ジュノ アーリーワークス』を観て

2020年01月02日 | 1990年代映画(外国)
ポン・ジュノ監督のカンヌ国際映画祭パルムドール受賞作『パラサイト 半地下の家族』が今月10日から上映されるのを機に、
DVD題名『ポン・ジュノ アーリーワークス』を観てみた。

このDVDには同監督の初期短編が収録されている。
延世大学社会学科を卒業後の自主制作作品『白色人-White Man-』(1993年)。
韓国映画アカデミー在籍中の課題制作『フレームの中の記憶たち』(1994年)、『支離滅裂』(1994年)の3作品である。

『白色人-White Man-』
朝、窓を開けてタバコを吸っていた男は金魚鉢を見、そこから金魚を掴み出してタバコの火を押しつけようとした。
その後、出勤するため駐車場に行った男は、車の横に落ちていた“指”を見つけ、拾う。
職場に着いた彼は、人に見つからないようにひっそりと、キーホルダーに入れた“指”を大事そうに慈しむ・・・

『フレームの中の記憶』
少年が学校から帰って来ると、開いている黒い大きな門から見えている犬小屋の中に、いるはずの“パンウル”がいない。“パンウル”を探す少年。
少年は“パンウル”の名を呼びながら野原も探す。犬の鳴き声がどこからか聞こえて来る。
夜、寝ている少年は犬の鳴き声で目を覚まし、2階から下りて暗闇の中を“パンウル”を探しに行く。机の上の“パンウル”の写真。
翌日、黒い門を開けて少年は学校に行きかけたが、もう一度戻り、閉めた門を開けたままにして行く。門の向こうに見える犬小屋。

『支離滅裂』
・エピソード1 ゴキブリ
研究室でヌード写真集を見て楽しんでいた教授は、授業時刻がギリギリなっっていて急いで教室に行く。
講義をし出したら、うっかり資料を忘れてきたのに気付き、入口近くにいた女学生のキムに取りに行かせた。
キムが出て行ってから教授は、研究室の机の上にヌード写真集を置いてきたのを思い出し、慌ててその後を6階まで追いかけ・・・

・エピソード2 朝の路地
新聞社の論説委員は、朝、ジョギングしながら、他人の門に置いてある牛乳を勝手に飲むのを習慣にしている。
丁度、新聞配達の青年が来たので、論説委員はその家の主人のふりをし、青年にも牛乳を渡し走り去る。
青年が飲んでいると、門の中から夫人が出てきて怒り、新聞の解約を言い渡す。
めげた青年が再び家々に新聞を入れて行くと、路地で、走っている論説委員とバッタリ出くわし・・・

・エピソード3 最悪な夜
宴会場から出て、部下が送ると言うのを断った検事はタクシーで帰ろうとする。
だがタクシーは捕まえずバスに乗る。
酔っている検事は眠りから覚め、途中でバスから降りる。
またタクシーを拾おうとするがままならず、そうこうするうちに便意をもよおす。
我慢が出来ず公園の建物の陰でしようとしたら、管理人に見つかってしまい・・・

・エピローグ
テレビ番組の「明日を診断する緊急討論」。テーマは現代社会の道徳性。
出演しているのは、延世大学心理学科のキル教授と朝鮮日報の論説委員のホ氏。それに西区支庁のピョン検事。
3人が社会問題に関して真面目に対談を行っている・・・

3作品を観てみると、『白色人-White Man-』の、ぎっしりとひしめく貧困街の家々の向こうにそびえ立つ高層マンションの風景が印象的で納得する。
『フレームの中の記憶』は、「伝えたいことを5ショットで表現する」という課題の、少年と愛犬との離別を5分間でまとめた作品が成る程と思う。
そして『支離滅裂』、“情けない男”のブラックユーモアが、後の優れた作品群のニュアンスを連想させて感心させられる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする