ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

成瀬巳喜男・2~『噂の娘』

2020年01月30日 | 日本映画
『噂の娘』(成瀬巳喜男監督、1935年)を観た。

東京、下町の老舗である酒店。
店主の健吉は婿養子で、危機に瀕している今の灘屋の経営をやり繰りしている。
長女・邦江は、この店をどうにか立ち直らせようと、妻に先立たれている健吉と共に頑張っている。
この家族は他に、邦江からみて隠居した祖父と妹・紀美子がいて、店には使用人もいる。

邦江は和服が似合う古風な女性、片や妹の紀美子は洋服を着る今風のモダンな娘で、二人は腹違いである。

ある日、叔父が邦江の縁談話を持ってくる。
この縁談が上手くいけば経済的に助かるという思惑もあり、邦江は叔父と、それに紀美子も同行させて相手の佐藤新太郎と見合いをする・・・

父・健吉にはうどん屋の店を持たせている妾のお葉がいる。
お葉に好意を持っている邦江は、もし自分が結婚したら家を出て、その代わりにお葉が正妻となって家に入って欲しいと思っている。
だが、紀美子の方はお葉のことをよく思っていない。

邦江の縁談は、あらぬ事か、新太郎が妹の紀美子の方を気に入ってしまった。
そして、二人はこっそりと付き合い出していた。
邦江はそれを知らない。

昼間から店の酒を飲む祖父は、酒の味が落ちていると、飲むごとに言う。
祖父の味覚が鈍ったのか、それとも本当に灘屋の味が悪くなったのか。

このような話が絡んで、後半一気にクライマックスとなる。

邦江が二人の仲を知る瞬間。
水上バスに乗った邦江が、ふと見上げ、橋の上に紀美子と新太郎がいるのを目撃する。
その紀美子も川を行く船上の邦江に気づく。

そして、物語は終盤へと雪崩打つ。

叔父からの電話で、紀美子と新太郎のことを健吉が知る。
そこへお葉が家に来る。
健吉は、邦江に悪いだろうと、紀美子を問い詰める。
紀美子をお葉の前に連れて行く。
お葉が紀美子の母親だと明かされる。
ショックを受ける紀美子。

邦江が望んでいた、健吉と紀美子とお葉の3人が、この家で一緒に暮らしてほしいとの願いは崩れ去る。

そこへ、追い打ちを掛けるように、警官が訪ねてくる。
警官は、署まで健吉を連行しようとする。
酒に違法な混ぜ物をしていたことが発覚したのである。

灘屋という老舗が崩壊していく瞬間を、1時間以内でまとめ上げる成瀬巳喜男の手腕はただ者でない。
この作品の感想は、“真の傑作である”という一言しか見当たらない。
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