ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

忘れ得ぬ作品・9~『逢びき』

2019年03月06日 | 戦後40年代映画(外国)
十代最後の年、テレビで観た作品が今だに忘れられずにいる。
中年男女の不倫恋愛物語なのに、現実の恋愛も知らない当時にあって、なぜこれ程記憶に残っているのか不思議な気もする。
題名は、デヴィッド・リーン監督の『逢びき』(1945年)。
それを50年後の今、当時の思いと共に観てみた。

平凡に日常生活を送る主婦ローラ・ジェッソンは、毎木曜日、買い物のためにミルフォード駅へ出かけて本を借り、食事の後で映画を観る。
そんなローラが、ある日疲れきった様子で家に帰り、気遣う夫の言葉も上の空で音楽をかける。
流れてくるラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を聞きながら、傷心のローラは数週間の出来事の回想に耽る。

いつものミルフォード駅で列車が通り過ぎる時、ローラの目にゴミが入った。
それを通りかかったチャレーの開業医、アレック・ハーベイが取ってくれる。
次の木曜日、ミルフォードで行き会った二人は、翌週、ローラがいた満員の食堂にアレックも入ってきて相席になった。
そして、食事をしながら各々紹介しあって・・・

そんな些細な出来事から、人と人はたまたま知り合っていく。
どこにもいそうな中年の男女。
それも、どちらも家庭があり分別も持っている二人。
その二人が、特にローラはためらいながら、磁石のようにアレックに吸い寄せられていく。

ローラのモノローグで進む物語がうら悲しい。

“愛する夫、わかってくれるのは世界であなただけなのに、あなただけには知られたくない秘密。あなたを傷つけたくはない”
そのようなローラが恋に落ちていく。
 
誰もいない公園でのボート漕ぎ、心地よい日の、赤の他人といることの幸せ。

しかし片や、罪の意識や恐れ。
人目を忍んでウソをつくことで、幸せから遠ざかる自尊心や良心。

人が人を愛するということ。
家庭を持っていることへのそれぞれの心の重圧。
ローラの張り裂ける思い。

分別ある二人の別れ。

“この惨めな思いは長く続かない、いずれ忘れるから。
幸せも絶望も長くは続かない、人生も同じ。
いずれ元気になる日がくる、愚かな過ちだったと思える日が。
でも、そんな日が来るのもイヤ。
すべてを覚えていたい。
死ぬ日までずっと”

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