原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

カラス空襲警報、発令!

2009年07月10日 09時09分38秒 | 自然/動植物
カラスが人を襲うなんて、ショッキングな話だが、これは現実。ヒッチコック監督の古い映画を思い出させる。さすがに映画ほどのスリルはないが、遭遇すると衝撃だ。私は最近三回続けて、黒い軍団の空襲を受けた。カラス側には理由があった。この6月から7月にかけては卵を温め、雛に孵す季節。巣に近寄るものすべてが敵となる。彼らは相手選ばず攻撃を仕掛ける。あの独特の悲鳴に似た鳴き声と、急降下の攻撃は精神的にも堪える。

それは突然であった。いつも通いなれた山道を歩いている時、頭上でけたたましく鳴くカラスがいる。その声に呼ばれるようにもう一羽が駆けつけてきた。どうやら夫婦らしい。二羽は激しく「ガー!ガー!」と叫び続ける。明らかな威嚇だった。状況はすぐに認識できたが、近くに巣らしき影は見えない。どうやら緑の葉で見えないらしい。
そのうち、一羽が私をめがけて急降下してくる。手を振り上げるが、何とも弱弱しい自分がいる。すれすれで急上昇して、再び降下を繰り返してくる。身の危険を感じて小走りにその場を去った。
翌日も同じ目にあった。カラスは大脳が発達していて、脳神経の密度も濃いという噂を耳にする。私を敵として認識したのかもしれない。とは言っても、所詮鳥族。知能指数が高いとはとても思えない。私が考えるのに、人間でいう海馬の神経(これは知能とは関係ない)の密度があって、記憶という経験値がつながっているだけ。貝殻を道路において車に轢かせたり、上空から落として破壊するなども、この海馬のなせる技。基本的に理解している行動ではない、と思っている。


あることを思い出した。アイスランドのある半島に行った時、北極アジサシのコロニーを通った。ちょうど産卵時期で、草原いっぱいに彼らの巣が造られていた。産卵時期は車の通行が禁止され、人間はここを歩いて行かなければならない。アジサシはちょうどカラスぐらいの大きさ。当然ながら人間を威嚇してくる。この時ガイドは両手を高く上げろと言った。バンザイの形だ。二本の腕が武器のように見える。これでアジサシは究極の接触を避けるのである。


これだ、こっちに武器があると思えば、そうやすやすと襲われる心配はない。三日目、私は森の入口で手頃な棒を見つけ、それをもって山に入って行った。昼の時間であったせいか、昨日、襲われた地点にはカラスの姿はない。静かな森の風景であった。いつも通り、池の周りの撮影をして三十分ほど経ったとき、上空に黒い影が走った。カラスだ。どうやら偵察にきたらしい。ほどなく、いつもの叫び声が森に響く。
すぐ、同調するもう一つの声が重なる。私は静かに武器を握りしめた。不思議なことに武器があると思うだけで、恐怖感は全くない。むしろ、戦闘意欲がわき上がる。「さあ、来い!」という心境であった。
叫び声は、ますますそのボルテージを上げる。その時、気付いた。その声の数が明らかに多い。二羽だけではない、明らかに五つか六つの声、いやそれ以上かもしれない。仲間を呼んだということか。一瞬、心がひるむ。再び、武器を握りしめて上空を睨んだ。
木の陰に二羽の黒い影が現れた。いよいよ攻撃態勢だ。身構える私をめがけて急降下。すかさず伝家の宝刀を振りかざした。一瞬、敵はびっくりしたように向きを変えた。やはり、効果はあった。続いての第二弾も同様に振り払った。これで少しは近づかないだろうと思ったのが、間違いであった。第三弾、第四弾と執拗に繰り返すではないか。ようやく自分の無謀さに気づいた。
彼らは知能で攻撃しているのではなく、単なる本能なのである。こちらにどんな武器があろうと、彼らは巣を守る使命感の方が強い。攻撃の手を休めるわけがない。しかも、数が圧倒的多い。その時になって思い出した。カラスは巣を守るためなら、猛禽類のトンビとも対等で戦う。その光景は何度も見ていた。

恐怖感がようやくわいてきた。ここは撤退するしかない。森の出口までの三百メートルを必死で逃亡した。こうしてカラスとの戦いは見事な敗戦で終わったのである。


森に棲むカラスはハシボソカラス。くちばしが小さく、だみ声で鳴く。東京の街で見かけるやつはハシブトカラス。本来は街中に住むのがハシボソで山里に棲むのがハシブトであった。大都会ではハシブトが幅を利かせ始めている。わが町のハシボソは街に比較的近い森に居を構えている。普段はおとなしいくせに、雛を抱えると狂暴化するのだ。しばらくの間は近づかない方がいい。私はルートを変えることにした。無駄な争いは避けるに限る。

しかし、この場所は国の保護林の中にあり、子供連れでも気軽に行ける場所である。せめて7月の時期だけは、「カラスに注意」の札を出すべきと思うのだが。このことを、町自体が認識していないのではないだろうか。

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4 コメント

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やはり敗北でしたか。 (numapy)
2009-07-11 11:07:49
カラスの攻撃、思ったよりもすごいでしょ!
去年は頭頂部ピンポイント爆撃を受け、隣に回覧板を持って行くのにコーモリを差していかねばならなかった。
今年もある時まで騒いでましたが、帰寒してみるとピタッと止んでました。今日そのあたりを歩いていたら、叢に子ガラスの死体を発見。「そうかあ、テリトリー争奪戦に巻き込まれたんだ」
カラスの世界も紛争だらけのようです。
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敵も (原野人)
2009-07-12 06:38:38
彼らは連係プレーも身につけてました。どこで覚えたものか、それとも生まれついて持っている性質なのか、わかりませんが。自然界は遺伝子を残すための摂理を彼らに分け与えているのかも。不思議な鳥であることは確かです。「君子危うきに近寄らず」をきめます。
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湿原の生態系! (numapy)
2009-07-13 16:47:32
実は真剣にカラスの駆除を考えたことがありました。
というのも、秋も終わりごろ、夕方になると裏山に恐らく700羽以上のカラスが集まります。
これはもう、怖い。ヒッチコックの「鳥」が現実味を帯びてきます。で、カラス駆除は1羽200円の駆除費が出るという話を聞いたので、真剣に考えました。
でもこれだけ多くのカラスを駆除したら、湿原の生態系が狂うんじゃないか?ミミズだらけになっちゃうんじゃないか?で、君子危うきに近寄らず、状態が続いてます。
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生態系は難しい! (原野人)
2009-07-14 10:03:01
生態系への影響はもう出ているのでは。そんなにカラスが集まる状況が従来と違うのでは。全部、駆除するのは大変ですし、難しい。でも間引きすることは可能なのでは。と、簡単に考えるようにはいきませんね。われわれ人間と野生たちの共生は、究極のテーマです。もっと言えば永遠に考えなければならないテーマなのかも。しかし、身の危険に対処する知恵も必要です。コミュニケーションが取れれば、簡単なんですが。北朝鮮なみに難しいです。
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