原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

大地の恵み、ピート

2009年03月27日 10時02分09秒 | ニュース/出来事
海の底から浮かび上がって生まれた釧路湿原。この湿原のベースとなっているのがピート層であることは意外に知られていない。泥炭とか草炭と呼ばれ、植物などの遺骸が石炭へ変質する初期段階のもの。一千年で十から十五センチの層ができると言われている。スコットランドでは昔からウィスキー(シングルモルト)のフレーバー造りに欠かせないものであった。北欧ではこのピートの有効利用の研究が進み、実績を上げている。

釧路湿原がそうであったように、湿原をいかに有効化できるかは、人類にとって昔からの開発テーマであった。泥炭は燃料として使っても燃焼効率が悪く(不純物が多い)、湿原地帯は地盤が緩く建築物を建てるには土台作りに金がかかる。畑になる土壌ではない。灌漑用水などを実施して湿原の改良には昔から多くの金をかけていた。
この湿原が自然の環境に重要な意味を持つことが分かったのは、なんと二十世紀も半ばを過ぎてからのことである。世界中にエコロジーや環境問題が提起された中で、湿原の持つ意味がようやく認識された。ナムサール条約が締結され、湿原から開発という名が消えていったのである。

(アイラ島のピート。島の四分の一を占める。3~4メートルの層となっている)

湿原の土壌となっているピート層は世界中にある。その利用法は小規模ながら少しずつ有効化されてきた。スコットランドは特に有名で、ウィスキーの製造過程には欠かせない要素となっている。原料となる大麦の熟成を停止させるためには熱して乾燥させなければならない。この時に使う暖房燃料がピート。ピートを燃やす際にあがる煙を大麦に沁み込ませ、スモーキーな香りを生み出す。
中でも有名なのはアイラ島。この島のピートには海藻が入っているので、さらに独特の香りがする。シングルモルトに潮の香りやヨード臭をもたらすのだ。マニアにはたまらない香りとなる。北の端にあるオークニー諸島のピートはアイラ島のものとは成分が少し違う。海藻が入っていない。そのためにアイラと違う味を生み出す。ウィスキーは蒸留方法でも味は異なるが、ピートの違いによる味の違いもある。こうした違いを味わうこともシングルモルトの楽しみなのである。
(余市にニッカのウィスキー蒸留所が建設されたのは、ピートがあったからであることは、以前のブログで紹介している)

(シングルモルトを作るために燃やされるピート)

ピートの有効利用はウィスキーだけではない。かつてアイルランドやスコットランドでは暖房用の素材として使われていた。さすがに燃焼効率が悪いので活性化はなかった。しかし、北欧とくにフィンランドではその有効利用が急速に進化。火力発電のエネルギー源として大規模な利用が実施されている。なにしろフィンランドのピートは北海油田の二倍の埋蔵量がある。国の政策としてその有効利用が重要なテーマとなっているからだ。
昨今の園芸ブームにもピートは使われている。ピートモスは園芸用の腐食土として最適。世界中からピートが集められてピートモスが造られている。土壌改良にもピートは使われている。
もう一つ、温暖化対策としても注目されている。ヒートアイランドを緩和するためのベランダや屋上の緑化にもこのピートが利用されているからだ。環境問題を解決する重要なポイントにピートの存在がある。
しかし、問題がないわけでもない。東南アジアでは泥炭の火災が発生。二酸化炭素の排出と資源浪費が表面化している。ピート一つとっても、未来に向かって人間の知恵が本当に必要な時代になっていると言えるだろう。

(釧路湿原のベースにはピート層がある。コッタロ展望台にて)

かつてマイナス要素でしかなかったピートが、有効利用が可能な資源であり、また自然資源の保護に重要な役割を持つことが認識されたことはやはり人類の進歩の証なのではないだろうか。当然ながら、釧路湿原のピートは国立公園内にあるので勝手に掘り出すことはできない。しかし、北海道にはまだたくさんのピート層があることが分かり始めている。自然を破壊しない範囲でその有効利用を考えることもさらなる未来への一歩になると思う。
(巻頭の写真はオークニー諸島にあるピート畑。掘り出して、少し乾燥させてから使う。周辺はぬかるみが続く湿地地帯)


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4 コメント

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湿原は可能性、大! (numapy)
2009-03-28 09:37:06
>原料となる大麦の熟成を停止させるためには熱して乾燥させなければならない。この時に使う暖房燃料がピート。ピートを燃やす際にあがる煙を大麦に沁み込ませ、スモーキーな香りを生み出す。

大麦の熟成停止にピートが役立ったんですかぁ。なるほどねえ。
シベリア辺りにも湿原は多いですね。その意味では
これらの湿原とどう付き合っていくか、いろいろ可能性は大、ですね。

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もっと知りたいですね。 (原野人)
2009-03-28 15:19:02
北海道にいながら、意外に知らないことが多いものです。隠れている北海道の資源はまだ沢山ありそうです。北海道が明治以来、公共事業を頼りにしすぎたために、自分たちの宝をなおざりにした結果が現在の姿なのかもしれません。突破口はたくさんありそうな気がします。
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郷土愛! (numapy)
2009-03-28 16:01:31
先日、釧路市民大学の本年度終講セミナー、というのがあって、市長が講師だったので聞きに行ってきました。
彼の高校の同期生は300人以上だったそうですが、
いま、釧路に残ってるのは60人に満たないそうです。
産業がないということもありますが、郷土を好き、ということが宝の再発見に繋がるのではと・・。
少し質問しました。
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Unknown (ボーモア)
2016-09-21 18:08:31
スッコトランドのようなピート層を通って茶色くなった水で、飲用(スコッチを割る水)に適したものはないのかなぁ。ニッカさんボトルに詰めて売れば結構需要はあると思うんですがね。
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