原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

逃げたくなる気持ち、分かります。

2009年04月10日 09時59分38秒 | ニュース/出来事
4月2日、千葉市の動物公園からアフリカハゲコウが逃走して話題となった。一見すると禿鷹のような不気味な頭と鋭い嘴をもつアフリカハゲコウ。しかし、性格はいたって大人しい。それでも逃げ出した鳥の捕獲には大勢の人が動員された。結局、72時間で自由な旅は終り、再び動物園に戻る。捕獲されたアフリカハゲコウの姿を見た時、サバンナで見た颯爽とした姿と、あまりにも違って見え、何か複雑な思いを感じざるを得なかった。

アフリカ全土に広く棲むアフリカハゲコウ。体長は150センチに及び、体重も7キロくらいになる。子供並みの身長がある。黒い羽根を持ち、ピンクがかった頭部は羽毛がなく、外観はいかにも悪役に見える。しかし、猛禽類のコンドルとは違って、コウノトリ科のいたって大人しい鳥である。サバンナの川に十羽ほどの群れでいたのを見たのが最初であった。小魚や蛙などをその長い嘴で捕獲していた。黒い塊が十個も集まるとちょっとした風景となる。いきなりアフリカを感じさせたことを鮮明に記憶している。
至近距離で見たのがケニアのスイートウォーター私設動物保護区。バンガローの宿泊施設の庭に自由に飛来してくる。レストランの大きなガラス戸にぴったり張り付くように近づいて来た時は驚いた。間近でその顔を見るとさすがに迫力がある。鋭い目が野生そのものであった。レストランの残飯を分けてもらうのが目的であった。観光客が近づいても全く逃げる様子を見せない。何度か餌をもらっているらしい、慣れた様子である。ところがホテルのスタッフがちらりと顔をみせると、サッと姿を消す。決してのろまな鳥ではなかった。ケニア山を眺望する広大なサバンナを生き抜く野生の片鱗を見た思いであった。

(スイートウォーターの敷地を闊歩するアフリカハゲコウ)

千葉市動物公園のアフリカハゲコウの羽根は仮切り(片方の羽根を切っている)され、飛べないように工夫されていた。放し飼いという形ではあるが、飛べないアフリカハゲコウとなっていた。ところがその日、風速8メートルの風が吹いていた。その風に乗るようにして柵を超えたらしい。彼女(雌であった)にとって、サバンナを飛翔していた気分を少し味わったに違いない。しかし、柵の外はサバンナとまったく違うコンクリートジャングルであった。とりあえず建物の屋根という高い位置にたどり着いたものの、困惑したことだろう。サバンナの川も草原もそこにはなかったからだ。
人間から見れば、動物園の方が安全で餌は貰えて、暮らしが良いように感じる。たしかに猛獣に襲われる心配もなく、平和に暮らすことができる。しかし、そこには自由は全くない。サバンナの大空を自由に飛び回っていた彼らにとって、どちらが幸せなのか。比較するまでもないだろう。餌はふんだんに与えられても、自由のない平和など、野生にとっては望む世界ではない。逃げ出したくなる気持ちが痛いほど分かる。

(アフリカハゲコウの背景に見えるケニア山。サバンナのかなたにある)

自由ということはそれと同等の不自由が同居していることを理解しない人が多い。会社員になると自分の時間がなくなるから、フリーターや派遣社員の方が人間らしく生きられると語る若者がいた。自由とは不自由が平行してあることを忘れている証拠でもある。不況になると真っ先に切られるのがこうした派遣社員なのだ。そうした危険な半面、自由もあるという身分である。昨今の不況は派遣を希望しなくてもそうなる立場に追い込まれるので、すべてがそうだとは言えないことは承知している。しかし、数年前、自由に生きたいと話し、フリーターを目指した若者の行動がが一種のブームになっていた。それを企業がうまく利用していたし、マスコミはこうしたムードを盛り上げていた。社畜人になるなと提唱していた人たちもいたではないか。

人間の都合で柵に囚われたアフリカハゲコウが、少しでも自由になれた時間があったことはよかったのかもしれない。同時にサバンナと違う日本では柵の中にいた方がいいなと、彼女も分かったのではないだろうか。生きるということは、はかなく無常に満ちている。
アフリカハゲコウは、現在、日本国内の動物園に16羽いるという。

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4 コメント

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ハゲコウの写真もあるんですね。 (numapy)
2009-04-10 16:10:49
帰寒しました。
ハゲコウ、おっしゃるように彼女は柵に守られていた方がいいと思ったかもしれませんね。
でも、「本当にいい娘です。そろそろ捕まってやろうと思って、降りてきてくれた」とコメントしたあの動物園長発言には、多少の違和感があった。
むしろ、「ゴメンネ、しっかり面倒見てなくて、お前を外界の危険な眼にあわせたのは、私達の責任だ」が妥当ではなかったか?
一度、人間が手を入れてしまったら、永久に手を入れ続ける必要がある。マスメディアには、猛省を促したい。そんな風に思うのですが・・・。
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人間は勝手ですね。 (原野人)
2009-04-10 16:25:32
捕まった時、かなり弱っていたそうです。重大な傷はなかったものの、ほとんど食事もとっていなかったようです。名前を付けて動物園の目玉にするそうですが、これでよかったのでしょうかね。難しいところです。
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悩ましいところですね (numapy)
2009-04-10 17:43:31
名前をつけて、目玉ですか。
確かにハゲコウのお陰で全国区になった。
動物園も入園者減少に悩んでますから、これを機に、
というのがあるんでしょうね。
もし、彼女のお陰で入園者が増えたら彼女が園長でしょうね。くうちゃんのように。
あ、そうそうくうちゃんの話がなくなったみたい。
もう、帰っちゃったんだろうか。一時、釧路に元気を与えてくれたのに。
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クーちゃんはまだいます (原野人)
2009-04-10 21:44:08
近いうちに行ってみますが、まだ釧路川で遊んでいるようです。でもそろそろ出かけると思います。
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