新村出の広辞苑は、当然ながら「あ」で始まり「ん」で終わる。そして辞書の最後は「終わりなんとす」の言葉で幕を下ろす。辞書を編集した人の心がそこに込められていた。長い小説を読み終えたような感慨を覚える。今まさに一つの事が終わらんとする、だがまだ終わらない。この進行形がいい。幕が降りつつある状況がドラマチックに感じさせる。自然界もいま夏から秋へと移り始めた。完全な衣替えとなる秋本番もいいが、その途中もまた味わい深い。終わりなんとする緑葉から、始まらんとする紅葉への変わり目。複雑に色彩が交錯していた。一番美しい時節とも言える。
紅葉や落葉には少し間がある十月初旬、わが軍馬山へと足を踏み入れた。いつもの秋より少し遅い感じがするが、着実に山は厳しい冬を迎える準備を始めていた。落ちた葉もたくさんあるが緑もまだまだ山を覆っている。その中で日々少しずつ色を変える姿に惹かれる。山のすべてに息遣いを感じる。自然の鼓動に合わせるように息を吐きながら歩いた。
また来年まで見ることができない光景を惜しむ気持ちと、雪に埋もれる風景にまた出会える楽しみの気持ちが複雑に交錯していた。つかの間とも言うべき、道東の短い秋が始動していた。
デジブック 『色たちぬ』
生命があるものすべては、ひと時も留まることなく変化し続ける。時の流れに添うように。それが生命というもののすべてなのかもしれない。つかの間の、一瞬の今から変化する。明日は必ず来るけど、同じ明日はない。
季節の変わり目は、そんな哀しさも含まれている。
*写真の季節にもなった。久しぶりのデジブックです。
つい先日草刈を終えたばかりなのに、もう冬とは・・やれやれです。