原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

ナルシスト、キビタキ

2015年06月02日 10時04分20秒 | 自然/動植物
なかなかに見目麗しき野鳥である。黒い背中に映えるオレンジの胸。遠目からでもその存在は確認できる。ヒタキ科の鳥であり胸の色からキビタキと名づけられたのであろう。しかし、この鮮やかな姿は雄のもの。雌はと言うと意外に地味な色あい。対照的な一対となる。自然界はどちらかと言うと雄の方が派手な装いが多い。これは、できるだけ目立って、雌を呼び込み子孫繁栄を達成するための神の采配。人間界隈とはちょうど逆の立場。人間が間違ったのか、神がそうさせたのか。ま、どちらでもいいのだが。



雌と雄の対照的な姿からイギリス人は、この鳥にインパクトのある名前を付けた。英名をナルキッソス(Narcissus)フライキャッチャーという。「飛翔する昆虫をとらえる水仙」という意味。ナルキッソスは水仙の花をさす。「水仙の花のように美しい」という意味であるが、これはもちろん雄に対する評価から生まれたもの。雌よ、怒ってはいけない。
ナルキッソスの名前で分かるように、ギリシャ神話の美少年伝説に由来する。ナルキッソスという少年がいた。彼は自分の美貌に全く気付かなかったのだが、ある日、水面に映った自分の姿を見て、恋をしてしまう。そのために水辺を離れることができなくなり、そのままそこで死を迎えてしまう。少年は死んで花となりいつまでも水辺で咲き続けた。花の名はナルキッソス(水仙)と名づけられ、「ナルシスト」の語源となった。

(突然現れたもう一匹のキビタキ。雄であった。戦いが始まるかと思ったら、片方がさっと逃げた)

キビタキが聞いたら迷惑な話であろう。かの鳥がナルシストなわけがない。人間の勝手な思い込みなのだが、おかげでこの鳥はより印象づけられたのだから、それはそれでいいのかも。野鳥好きなイギリス人らしい命名だ。彼らのこの鳥に対する思いを感じる。

(キビタキの雌。あまり目立たない姿をしている)

キビタキは渡り鳥。冬はフィリピンやボルネオなどの東南アジアで過ごし、5月ごろから日本に渡ってくる。夏に日本で繁殖する。キビタキは他の鳥の鳴きまねもできるらしい。器用な一面もある。また雌をめぐって雄同士で熾烈な戦いも演じる。この戦いに、時に雌も参加するというから、気性はかなり激しい。ただのナルシストではない。

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