のり巻き のりのり

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ムーンナイト・ダイバー

2016年05月28日 | 読書
このところお出かけやレッスンでなかなか読めなかった本、やっと読了

  天童荒太 文藝春秋

以前「海峡の鎮魂歌」(3月17日)を読んだときに、潜水夫の小説でこんなのがあるよと紹介してもらった「ムーンナイト・ダイバー」

震災から4年半、消失した漁村は避難指示区域に入っていない。
けれど、幼いこどもを持つ家族連れはおおかた避難先に身を落ち着け、行き交う人はまばらで車の姿もない。

主人公は幼い頃から海とともに育ち、潜水にかけては魚に同化することができるほどの男である。
様々な思いを抱えながら生き残った人々は、そんな彼に「禁止の海」に潜って、何か手がかりになる物を上げてきて欲しいと頼む。

禁止の区域なので、夜、月の光を頼りに潜水すると、そこには突き刺さった車、三角の屋根、電柱やフェンスなどかつての町の残骸が現れる。
短い時間の中で、小さな髪飾り、ストラップ、指輪などをそっとそっと探していく。危険な作業である。

夫の指輪を「見つけ出さないで欲しい」という女性の気持ちが、「見つけ出して欲しい」という気持ちに変わっていく過程が、新しい愛への転換に揺れる女の心情として小説に表現されています。

生き残った人たちが前に進むために、海から拾い上げた小さな物が力となっているのです。
未だ復興が進まず、町が消えていく地域。

東北だけでなく熊本地方でも崩れ落ちた我が家や町を見るのはどれほどつらいことでしょう。
でも前に進むしかない人々の気持ちに、どれだけ寄り添っていくことができるでしょうか。

サミットも広島もあっという間に去ってしまいました。
これからは我が国の実態に即した、地に足のついた政策を進めてほしいものです。