今日の社内連絡(ブログver)

sundayとかオリジナルテンポとかの作・演出家ウォーリー木下のつれづれなるままのもろもろ。

デンタルホラー(後半)

2015-05-09 | Weblog
もう2ヶ月以上前の話の続き。東京のあるところの歯医者。一応駅前だ。なのに、言葉を選ばなければ「いつつぶれてもおかしくない雰囲気」の、たったひとりの女医がきりもりしているところで、中も薄暗く(昼間なのに)、ぱちぱちという謎の音だけがする。そこできしむ椅子に座らされ、インフォームドなんちゃらはおかまいなしで、尖った何かを歯茎に順番にあてられる。激痛が走る。麻酔なしでよくもここまでやるよ、てくらいに激しい痛みが襲う。僕は泣きそうになる。ああ思い出すだけでも辛い。僕はうめき声を出すが、女医は眉一つ動かさないで尖ったものを当てていく。僕はさすがに「ほってまっっへ(ちょっと待って)」と、「虫歯を治してくれませんか?」と言った。女医はまるで愚者を見るかのように僕を見下ろしそれからこう言った。「虫歯を治す前にしなくてはいけないことは、その歯の土台をなおすことです。あなたの歯茎はいまだめになっています。歯茎は地面です。歯が家です。どれだけ家を修復しても地面ががたついていては何度も同じことを繰り返すだけです」
たしかに言ってることは一理ある。筋も通っている。僕はおとなしくあげた腰を下ろし、再び施術に身を任せた。激痛が走る。今度は言い負かされた悔しさもあって本当に泣いた。なんだろうこのSMプレイ。いや、別に興奮しないし。その日はとにかく完敗だった。結局虫歯の治療は途中で止まったまま。聞くと、次回は歯の磨き方を伝授しますとのこと。「毎日のケアが大事なんですからね」
いや、いま、虫歯があって、それを治してほしいんです。その言葉は出てこなかった。完全に負けたのだ。
1週間後、僕は歯ブラシを持って再訪した。でも院内に入る前から決めていた。今日こそは「虫歯を治して下さい」そう言おうと。なんせ治療の途中なのだ。大阪のホストクラブみたいな歯医者が懐かしい。いい人たちだった。
がちゃ。やはり患者は誰もいない。この歯医者はどうやって成り立ってるのだろう。僕は壁に貼ってあるポスターを見ながら女医が出てくるのを待った。そこには「痛みの無い治療を心掛けます」と書いてあった。嘘だろ・・・とつぶやいた。
まず20分かけて歯磨きの練習だ。虫歯のことは言えない。女医が僕の歯ブラシで僕の歯をごしごし磨くのだけど、それもまた痛い。歯ブラシ折れるんじゃないかって強さ。そのあとにようやく治療が始まる。虫歯のことを言う。お願いします、治してください、と。懇願だ。
女医は10秒くらい黙ったあとに、「わかったわ」というようなことを言った。・・倒錯してないだろうか。ここは歯医者だよね??
ともかく麻酔をされてようやく虫歯の治療がはじまったのだけど、型をとったのでそれができるまで3週間、その間に毎週ブラッシングのために通院してください、と言われ、さすがに暇じゃないんで、と断って、結局今は「まともな」歯医者に通っている。
しかしなんだったんだろう。まるでイヨネスコの戯曲のようだった。いつか歯医者のふたり芝居作れるな。(転んでもただでは起きない)