私の思いと技術的覚え書き

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プレス成型品から思うこと

2019-02-17 | 技術系情報
 またまた長文の下らない話しですが、クルマの生産に関わるテクノロジーとメーカーの底流に流れる思想の物語を記して見たいと思います。

 写真2枚はイズズプラザ(藤沢市)で見たエルフのドアアウターパネルのプレスおよびブランク(打ち抜き)工程を示す展示です。これを見て、何を思うかは人それぞれでしょうが、私は過日トヨタが発表した国内ディーラーの再編(販売ブランドの縮小)のことを思う次第です。

 展示を見てもらって判る通り、このドアアウターパネル1枚を作るために。少なくとも3組のプレス(もしくはブランク)金型が必要なことが判ります。このパネルの鋼板板厚は0.9mmといったところでしょうが、鋼板ロールという延べた鋼板を丸めて積層した、ロール1本で10トンを超えると云うようなものから、切り出して個別バーツを作って行きます。その際に、丸めた鋼板のクセ取りから、個別バーツの必要サイズへの裁断が事前に行われます。そして裁断した平パネルはプレス機の脇へ、積層されて運ばれストックされるのでしょう。

 想像ですが、このドアアウターの3段のプレスおよびブランクの工程は、トランスファープレスマシンという3階建てアパート並の巨大なマシンで、製造していると想像します。マシン下部には、3組の下金型が横一列にならび、マシンのスライド部(上下可動部)には上金型が3組並んでセットされています。天井部には大型の三相モーターで駆動される巨大なフライホイールがブン廻っており、No1金型にワーク(被加工部品)をセットし、マシンを駆動をスタートさせると、フライホイールが電磁クラッチで接続されクランク機構でスライドが下降し、最初のプレスがなされます。スライドが上昇すると共に、No1のワークは取り出され移動機構でNo2金型に移動されます。No1金型には、新ワークを供給します。そして、2度目のプレス動作のスタートです。こんな具合で、ワークは順々に金型を移動し、個別パーツが完成してきます。プレス機だとかダイキャストマシンの能力を示すのに○○トンという表現がされますが、金型の型締め力を示す値ですが、この様なトランスファープレスですと数千トンの能力でしょう。

 話しが拡大しますが、この様なプレスマシンにしてもダイキャストマシンにしても、小型でも100トンとかいう能力を持っています。一つ間違えれば、腕を切断するどころか、死亡する事故も起きかねない(実際今でも起きてはいるはず)訳です。ですから、それなりに安全装置が施されており、プレスのスライド範囲に赤外線を通し、何らかの遮蔽が生じるとスライドが起動しないとか、スタートボタンも2つのボタンを両手で押すことで、遊んでいる片手が挟まれないなどの思想は取り入れられている訳です。しかし、クランクプレスなどの場合は、クラッチが接続されスライドが駆動されてからの停止は構造上から不可能です。私もこれら機器の専門家ではないので想像ですが、事故は何らかの要因で作動が途中で止まった場合に生じるのだろうと思えます。スライドが僅かに降下して止まったとか、スライドが降下し反転上昇しないなどです。こうなると、スライドの可動範囲に入り原因を取り除かざるを得ないのですが、予想に反した駆動の復元が生じ挟まれ死傷する事故が、プレス工場での死傷事故の多くを占めている様に想像します。この様な事故が起きないように、専門保守要員を要しトラブル対処を担当させるなどしているのでしょうが、つい現場作業者が手出し、事故を生じるケースは、あまり公表されていませんがあり得る話しでしょう。

 話しを戻し、プレス金型のコストを考えて見ましょう。今回のドアアウターの3つの金型ですが、大きさとしては、上下型共に2×3×1(各m)程度の鋼の塊を精密に凹凸に削り込んで作られています。コンピューター技術が未発達の時代は、総て手作業で作っていた様ですが、現在はCNCマシニングで作られる訳です。それでも乗用車の外板など、品質を要求されるものは、CNCのエンドミルの削り痕跡を手作業で砥石で擦って目消しを行うなど、手間を要しています。しかも、金型にはプレス数に応じた寿命があり、強く折り曲げ加工される部位の金型面が劣化したりと、プレス回数や製品品質に応じて金型の補修や、場合によっては金型の新製が必要になってきます。コストとしては、新製金型で今回のNo1金型で数億という感じでないかと想像します。ブランク用のNo2、3は、その半分程度でしょうか。これが、ドアのアウターだけの話しで、インナーとなると金型はプレスおよびブランクの2種ぐらいかもしれませんが、鋼板はヒンジ側の厚板とそれ以降後部の薄板のテーラードブランクとしてレーザービーム接合と、粗切りブランクが必要でしょう。その他、ドアのサイドインパクトビームを別途製作する必要があるでしょうが、パイプタイプであれば必要寸法での切断とか、前後に鋼板プレスBKTが必要となってくるでしょう。

 こうして眺めてくるとドアだけで10組ぐらいのプレス金型もしくはブランク金型などが必要になってくるのです。ところが、クルマの外板はボンネット、左右前後ドア、ルーフ、トランクの7枚ですが、それぞれインナーパネルが別途プレスおよびブランクが必要です。しかし、モノコックとなる内板骨格は、パーツリストに表示される数の10倍軽く超える数多い細かいパネルがそれぞれプレス&ブランクされ製作されているのです。以上述べてきたのは、外板や内板の金属パネルのことでしたが、内装のインストルメントパネル、ステアリング、各ガーニッシュ、ドアライニング、ルールライニング、シートなどなど、おびただしい樹脂用の金型も必要になってきます。これら、金属および樹脂金型の総コストは幾らになるのでしょうか。少なく見ても50億は超えるのではないでしょうか。

 今度は生産ラインの話しですが、正確な数字は把握できないので想定です。今や、どのメーカーでも共通プラットフォームのクルマは、単一ラインで混流生産しているそうです。その1ラインから作り出されるクルマは、上下あるのでしょうが、およそ10万台/年というものでしょう。工場の年間休日を120日とすると、稼働日は245日、1日3直体制の24時間操業とすれば5880時間が年間総作業時間です。年間10万台を作り出すとすれば、1時間当たり17台/hです。車両単価を200万とすれば、1時間当たり3400万の売上です。工場費として建屋とかベルトコンベア、各種ロボットや生産治具や従前記して来た金型などを含め5年償却を前提として時間当たりコストは概略300万、工場要員を3千人として時価当たり人件費600万円と仮定できますが、これらは生産台数が10万だろうが1万だろうが変わりません。つまりメーカーとしては、工場ラインを最大効率で稼働させ儲けようと思えば、1ライン10万台体制程度には持って行きたいのは当然でしょう。そうなると、車種を統合して、売れるクルマでプラットフォームを共通化した、セダンとSUVとか1BOXを混流生産して、1ライン10万台を目指したいという思想でしょう。そして、未達の製造工場は整理閉鎖して原価低減を図るということでしょう。従って、今までディーラーブランド別に作っていた車種は、大幅に減らされることで、ブランド別店舗は成立しないが、元受けメーカーの背に腹は代えられないというところでしょう。



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