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 私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

自動車メーカー経営者論

2016-11-06 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 恐れを知らず、自動車メーカーの経営者とは、かくあるべし(かどうか疑わしいが?)論を記す。相当な偏見や勝手な思い込みと感じる諸兄も多いと思うが、戯れ言と聞き流されたい。

 かつて、本田技研は創業者の本田宗一郎(社長)と藤沢武夫(副社長)の二人三脚体制が、ホンダを急発展させたことには、何度か触れて来たし、世間一般の論評でも確かなことだろう。当時のホンダは、青山の本社が出来る以前の八重洲に小さな本社がある時代だった。ものの本によれば、当時、宗一郎さんは八重洲の本社へ表れることは極少なく、ほとんどを和光のホンダ技術研究所に詰めていたという。従って、本社のマネジメント業務や資金繰りなど、実質的な経営は藤沢さんが取り仕切っていたのであった。確か、宗一郎さんの言葉として「俺は会社の実印なんか見たことも押したこともないよ」というのがあった。そこまで、宗一郎さんは藤沢さんを信頼していたし、そんなことに関わる様なみみっちい拘りもなく、「俺は良いクルマを作る技術屋なんだ」という気概だけがすべてだったろう。とかく権力者となると、すべてを決済したがり、そうでなければ安心できぬというのが一般的だと思うが、そこが宗一郎さんの寛容というか偉大さでもあったと思っている。

 そんな宗一郎氏も藤沢さんの退任の意を知るや、即座に自らの退任を決めた。そして、藤沢氏は自らが退くに際し、種々の方策と指針を示した。その中の一つに、本田技研の社長は技術者であるべき、そして本田技術研究所の社長がなるべきという意があったと伝わる。宗一郎氏の退任以後、2代目:河島 喜好、3代目:久米 是志、4代目:川本 信彦、5代目:吉野 浩行、6代目:福井 威夫、7代目:伊東 孝紳、8代目(現在):八郷 隆弘(以上敬称略す)と社長は変遷して来たが、8代目の現在の社長だけは、技術部門の出身ではあるが、本田技術研究所の社長は経験していないという。これが今後のホンダにとって吉となるのか凶となるのか?

 ここからは更に強い私見が入るが、お許しあれ。自動車メーカー社長はクルマが好きであるのは当然だろうと思う。それも、単にドライビングが好きとか上手いだけじゃなく、メカニカルなスキルが一定水準を超えるものであって、高度なレーシングドライバーやベテラン実験部門の評価者程でないにしても、自らクルマなりバイクの理想論を有し、ドライブして理想に近づいているのか遠ざかっているのかぐらいの判断できるスキルがあるのは当然と思っているのだ。そういう点では、ホンダでは4代目の川本信彦氏辺りまでは、強烈な理想のクルマ論を保持していたと感じられるし、それなりのホンダらしいクルマ作りをしていた時代だったと思える。

 話はホンダからベンツに変わるが、ベンツ車というと、ある1台のクルマと一人の人物の名が浮かんで来る。そのクルマは、俗称300SLR(型式W196S)であり、人物名はルドルフ・ウーレンハウトということになる。ベンツSLシリーズといえば、ベンツ社の歴史の中でも最も歴史を持ったスポーツカーであり、過去に300SL(W198)というクルマがあったが、このSLRとは直接的な関係は無い様だ。ただ、スタイリングの類似性だとか、市販車のイメージアップのために付与された名称であったということの様だ。

 300SLR(W196S)の話に戻るが、元々F1マシンとして設計されたのがW196Rで、これをスポーツ・プロトタイプ・レーシングカーとして開発したのがW196Sな訳だ。排気量はF1用の2.5Lから3.0Lにアップしているが、直列8気筒(4気筒づつを前後配列し、センター部よりアプトプットする)、デスモドローミック・バルブ(バルブ強制開閉カム機構)、シリンダー内直接噴射、等々当時の技術として凄まじいばかりのものがあったクルマだ。そして、ウーレンハウトだが、このW196シリーズの設計者であると共に、当時のレーシングドライバーに見劣りしない程のドライビングセンスを持っていたことが伝わる。すなわち、自らが思考して設計し、テストドライブして評価し、更に高度な性能に煮詰めていくという、一種の職人芸みたいなものを持っていた方であろうと想像されるだ。

 現在のクルマ開発では各種計測機器やシミュレーションにより、またレースではテレメトリー(ホンダが最初に使ったと聞く)による諸データ解析から、セッティングを煮詰めて行くのであろう。しかし、人の感じるすべてをデータ化するなんてことは到底不可能であって、テストドライバーやレーシングドライバーの伝える評価の価値が無くなる訳ではない。ただ、人が評価を伝える場合、コミュニケーション能力やドライバーの有しているスキル、つまり「この問題の原因はこう考えられこの様な対策が功を奏する」等の問題は大きな問題として生じると想像されるのだ。その点で。W196開発における設計者がレーシングドライバー相当の評価能力を有していたことは、大きな強みとなったことだろう。

 最期に、現代のデジタルクルマの悲しき現状を想像して見よう。世界的なコスト競争は、最も日本の得意とするところであろう。プラットフォームの共有化は当然として、それが大幅な部品の共用に留まらず、同一ラインにおけるセダンとSUVの混流生産など、大幅な合理化が進められている。しかも、フロントコンストラクションの共通化は、衝突安全テストの結果予測を容易にし、大幅にテスト回数を減らせる。そして、ハードウェアを作り直すことなく、制御ユニット(ECU)のパラメーター変更だけで済ませる。また、耐久性や走行評価についても、起振機やシミュレーションを大幅に取り入れ、実走を減らしテストドライバーの官能評価を信じるより、搭載した計測機器のデータを重んじる。もし、こんな想像通りのクルマであれば、到底走って楽しいものになり得るはずもない。



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