燃費データ改ざんを40年近く口頭で“継承”、IHIは不正の連鎖断ち切れず
長場 景子 日経クロステック/日経ものづくり
2024.05.10 日経クロステック
IHIグループの不正の連鎖が止まらない。子会社で船舶エンジンなどを手掛けるIHI原動機(東京・千代田)が、長年にわたり船舶用エンジンなどの燃費性能に関わるデータを改ざんしていたことが明らかになった。IHIは2019年にも、航空機エンジン整備で検査不正が発覚しており、その時の教訓が生かせなかった形だ。
2024年5月8日に開いた2024年3月期の決算説明会で、IHI社長の井手博氏は、今回の不正について謝罪し、「あってはならないことがまた起こった」と力なく語った。再発防止に向け、同年5月1日に特別調査委員会を立ち上げ、調査を始めた。こうした不正が続いた以上、どこかでまた不正が出てくる可能性があるとし、経営として調査やモニタリングを続けていく意向を示した。
エンジン検査をめぐっては、2017年の日産自動車による無資格者検査問題に端を発し、自動車業界で検査不正が相次いだ。その後も、2019年にIHIで航空機で、2023年には豊田自動織機でフォークリフトなどの産業機械における不正が発覚した。今回のIHI子会社の問題で、船舶用エンジンにも不正が見つかり、品質という日本の製造業の根幹を揺るがす事態となっている。
製造業でエンジンの検査不正が広がっている
自動車をはじめ、航空機や産業機械、今回船舶用エンジンにまで不正が広がった。(出所:日経クロステック)
不正は長年にわたり組織的に
IHI原動機による不正は、2024年2月下旬に、同社社員による申告で発覚した。これまでのヒアリングの結果、1980年代後半から不正が行われていたとの証言も出てきている。事実であれば40年近くにわたり不正が続いていたことになり、不正は組織的に行われていた可能性がある。現在調査できているのは2003年以降の出荷分のみで、船舶用エンジンについては約9割に相当する4215台で改ざんが見つかっている*。今後、遡って調査を実施する予定で、データ改ざんの台数はさらに増える可能性がある。

組織的な不正だったのではないかと疑わざるを得ない理由が、不正が長期にわたる点以外にも2つある。1つが、「(試験データの書き換えを)前任者から引き継いだ」という証言だ。燃費データをよく見せようとしたり、データのばらつきを是正するように修正したりといった口頭での引き継ぎがあったという。「文書によるマニュアルはなかった」(IHI 常務執行役員 資源・エネルギー・環境事業領域長 武田孝治氏)としながらも、口頭で悪しき習慣が継承され、不正が常態化していた可能性がある。
* 今回不正を行ったIHI原動機は、1910年に新潟鉄工所として創業し、2003年にIHIの前身である石川島播磨重工業が事業継承している。その後2019年にIHIがグループの原動機事業を統合し、現在は100%子会社となっている。IHIグループとなってからも不正が続いていたと考えると、不正の芽を摘みきれなかったIHIの経営責任は免れない。
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IHI子会社で燃費の試験データ改ざん、船舶用エンジンの9割で
2024.04.25 日経クロステック/日経ものづくり 長場 景子
IHIは2024年4月24日、子会社で船舶・陸上用のエンジンを製造するIHI原動機(東京・千代田)が、船舶用のエンジンなどで燃費に関わる試験データを改ざんし、出荷していたことを公表した。調査対象とした2003年以降に出荷した船舶用エンジン全4881台のうち、約9割に当たる4215台について、エンジンが一定の出力を出す際にどのくらいの燃料を消費するかを示した「燃料消費率」を、実測値とは異なるデータに書き換えていた。発電装置や鉄道車両に用いられる陸上用のエンジンでも、同様のデータの改ざんが行われていた。データ改ざんは1980年代後半から行われていたとの証言もあり、長年にわたって組織的な不正が続いていた可能性がある。
試験データの改ざんが行われた機種の一部
このほかに、船舶用の高速ディーゼルエンジンを含む、計4361台でデータの書き換えが発覚した。(写真:IHI)

改ざんが行われていたのは、IHI原動機の新潟内燃機工場(新潟市)および太田工場(群馬県太田市)の2工場。2024年2月下旬に、同社の社員による申告で発覚した。同社では、各工場の製造部門がエンジンの加工・組み立てを行ったのち、完成検査・試運転を行い、そこで計測した実測値を社内向け記録書および顧客に提示する仕様書(工場試験成績表)に記録している。その際、燃費データをよく見せようとしたり、データのばらつきが少なかったように装ったりするため、実測値とは異なる値に書き換えていた。
使用時において、安全性に疑義を生じさせる事案は確認されていないとしながらも、船舶用エンジンについては関連法令や規制を逸脱している恐れがある事例が確認された。具体的には、海外向けの製品について、海洋汚染防止法と国際海事機関が定める窒素酸化物(NOx)の規制で基準を逸脱している恐れがある。さらに、漁船検査規則で定められる燃料油消費率についても同様に基準逸脱の事例があるという。
今回の不正を受けて国土交通省は、NOx規制への適切な対応が確認されるまでの間、IHI原動機に対し規制への適合を示す関連証書の交付は行わない旨を伝達。2024年5月末までに、判明・措置した事項を報告するよう指示した。船舶の所有者は、この証書の交付を受けたエンジン製品でなければ設置できないため、同社には製品を出荷できないといった影響が出る可能性がある。IHIは、近日中に外部有識者から成る特別調査委員会を設置し、原因究明や再発防止策の策定を進めるとする。
同社は2019年にも航空機エンジン事業で検査不正が発覚している。以来、同社ではコンプライアンスに対する取り組みを強化し、経営層は現場との対話を続けてきたが、是正の道半ばで再度こうした事態を招いた。同日東京・江東の本社で開いた記者会見に登壇した副社長の盛田英夫氏は、子会社の不正について「日本のものづくりの根幹を揺るがすものであると重く受け止めている。品質を保つためには、(ルールを守らなければならないという)意識改革と(不正が行われないようにする)仕組み作りの両面で取り組んでいきたい」と述べた。業績への影響は精査中との表現にとどめた。
長場 景子 日経クロステック/日経ものづくり
2024.05.10 日経クロステック
IHIグループの不正の連鎖が止まらない。子会社で船舶エンジンなどを手掛けるIHI原動機(東京・千代田)が、長年にわたり船舶用エンジンなどの燃費性能に関わるデータを改ざんしていたことが明らかになった。IHIは2019年にも、航空機エンジン整備で検査不正が発覚しており、その時の教訓が生かせなかった形だ。
2024年5月8日に開いた2024年3月期の決算説明会で、IHI社長の井手博氏は、今回の不正について謝罪し、「あってはならないことがまた起こった」と力なく語った。再発防止に向け、同年5月1日に特別調査委員会を立ち上げ、調査を始めた。こうした不正が続いた以上、どこかでまた不正が出てくる可能性があるとし、経営として調査やモニタリングを続けていく意向を示した。
エンジン検査をめぐっては、2017年の日産自動車による無資格者検査問題に端を発し、自動車業界で検査不正が相次いだ。その後も、2019年にIHIで航空機で、2023年には豊田自動織機でフォークリフトなどの産業機械における不正が発覚した。今回のIHI子会社の問題で、船舶用エンジンにも不正が見つかり、品質という日本の製造業の根幹を揺るがす事態となっている。
製造業でエンジンの検査不正が広がっている
自動車をはじめ、航空機や産業機械、今回船舶用エンジンにまで不正が広がった。(出所:日経クロステック)
不正は長年にわたり組織的に
IHI原動機による不正は、2024年2月下旬に、同社社員による申告で発覚した。これまでのヒアリングの結果、1980年代後半から不正が行われていたとの証言も出てきている。事実であれば40年近くにわたり不正が続いていたことになり、不正は組織的に行われていた可能性がある。現在調査できているのは2003年以降の出荷分のみで、船舶用エンジンについては約9割に相当する4215台で改ざんが見つかっている*。今後、遡って調査を実施する予定で、データ改ざんの台数はさらに増える可能性がある。

組織的な不正だったのではないかと疑わざるを得ない理由が、不正が長期にわたる点以外にも2つある。1つが、「(試験データの書き換えを)前任者から引き継いだ」という証言だ。燃費データをよく見せようとしたり、データのばらつきを是正するように修正したりといった口頭での引き継ぎがあったという。「文書によるマニュアルはなかった」(IHI 常務執行役員 資源・エネルギー・環境事業領域長 武田孝治氏)としながらも、口頭で悪しき習慣が継承され、不正が常態化していた可能性がある。
* 今回不正を行ったIHI原動機は、1910年に新潟鉄工所として創業し、2003年にIHIの前身である石川島播磨重工業が事業継承している。その後2019年にIHIがグループの原動機事業を統合し、現在は100%子会社となっている。IHIグループとなってからも不正が続いていたと考えると、不正の芽を摘みきれなかったIHIの経営責任は免れない。
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IHI子会社で燃費の試験データ改ざん、船舶用エンジンの9割で
2024.04.25 日経クロステック/日経ものづくり 長場 景子
IHIは2024年4月24日、子会社で船舶・陸上用のエンジンを製造するIHI原動機(東京・千代田)が、船舶用のエンジンなどで燃費に関わる試験データを改ざんし、出荷していたことを公表した。調査対象とした2003年以降に出荷した船舶用エンジン全4881台のうち、約9割に当たる4215台について、エンジンが一定の出力を出す際にどのくらいの燃料を消費するかを示した「燃料消費率」を、実測値とは異なるデータに書き換えていた。発電装置や鉄道車両に用いられる陸上用のエンジンでも、同様のデータの改ざんが行われていた。データ改ざんは1980年代後半から行われていたとの証言もあり、長年にわたって組織的な不正が続いていた可能性がある。
試験データの改ざんが行われた機種の一部
このほかに、船舶用の高速ディーゼルエンジンを含む、計4361台でデータの書き換えが発覚した。(写真:IHI)

改ざんが行われていたのは、IHI原動機の新潟内燃機工場(新潟市)および太田工場(群馬県太田市)の2工場。2024年2月下旬に、同社の社員による申告で発覚した。同社では、各工場の製造部門がエンジンの加工・組み立てを行ったのち、完成検査・試運転を行い、そこで計測した実測値を社内向け記録書および顧客に提示する仕様書(工場試験成績表)に記録している。その際、燃費データをよく見せようとしたり、データのばらつきが少なかったように装ったりするため、実測値とは異なる値に書き換えていた。
使用時において、安全性に疑義を生じさせる事案は確認されていないとしながらも、船舶用エンジンについては関連法令や規制を逸脱している恐れがある事例が確認された。具体的には、海外向けの製品について、海洋汚染防止法と国際海事機関が定める窒素酸化物(NOx)の規制で基準を逸脱している恐れがある。さらに、漁船検査規則で定められる燃料油消費率についても同様に基準逸脱の事例があるという。
今回の不正を受けて国土交通省は、NOx規制への適切な対応が確認されるまでの間、IHI原動機に対し規制への適合を示す関連証書の交付は行わない旨を伝達。2024年5月末までに、判明・措置した事項を報告するよう指示した。船舶の所有者は、この証書の交付を受けたエンジン製品でなければ設置できないため、同社には製品を出荷できないといった影響が出る可能性がある。IHIは、近日中に外部有識者から成る特別調査委員会を設置し、原因究明や再発防止策の策定を進めるとする。
同社は2019年にも航空機エンジン事業で検査不正が発覚している。以来、同社ではコンプライアンスに対する取り組みを強化し、経営層は現場との対話を続けてきたが、是正の道半ばで再度こうした事態を招いた。同日東京・江東の本社で開いた記者会見に登壇した副社長の盛田英夫氏は、子会社の不正について「日本のものづくりの根幹を揺るがすものであると重く受け止めている。品質を保つためには、(ルールを守らなければならないという)意識改革と(不正が行われないようにする)仕組み作りの両面で取り組んでいきたい」と述べた。業績への影響は精査中との表現にとどめた。