「リニアと原発」事業の性格が似ている 地震学者が共通点を指摘「原発開発の初期と同じです」
5/10(金) 8:32配信 AERA dot.
東京-名古屋間を40分、将来は東京-大阪間を67分で結び、時速500キロで走り、「空飛ぶ地下鉄」とも呼ばれるJR東海のリニア中央新幹線。静岡県の川勝平太知事の辞職表明で、前進に期待の声が上がる中、住民の生活破壊の問題も横たわる。コロナ禍を経て、脱炭素社会における中、リニアは本当に必要なのか。AERA 2024年5月13日号より。
* * *
そもそもなぜ、JR東海はリニアを建設するのか。
「大規模災害への抜本的な備えとして、日本の大動脈輸送を東海道新幹線とリニアで二重系化するため。さらには首都圏、中京圏、近畿圏の三大都市圏が一つの巨大都市圏となり、人と人が会うことで新たなイノベーションが生み出され、余暇の過ごし方などライフスタイルの変化を通じて豊かで多様な暮らしを実現するなど、新たな可能性が生まれると考えています」(同社)
だが、その発想の下でそこに暮らす人たちの生活がないがしろにされていないか。今年3月、都内に住む45人が、国にJR東海が申請した大深度地下使用の認可取り消しを求める行政訴訟を東京地裁に起こした。
「憲法が保障する財産権だけでなく、平穏生活権までも侵害されます」
この「NO!大深度リニア訴訟」の原告団の団長で、大田区田園調布に暮らす三木一彦さん(66)は訴える。
財産権は憲法29条が保障する権利。平穏生活権は憲法13条(幸福追求権)と憲法25条(生存権)の法意に照らし、人格権に基づく平穏な生活を送る権利として保障されている。
リニアは、開発が進んだ都市部では、地表に影響が出ないとされる地下40メートル以深の「大深度地下」を通る。大深度地下は、道路や鉄道など公益の事業は地権者の同意や用地交渉、補償なしでも、国や都道府県の認可を受けて使用できる。それを可能にしたのが、01年に施行された「大深度地下使用法」だ。リニアの場合、首都圏では品川(東京都)から町田(同)までの33キロにわたる。
三木さんは18年、近所の幼なじみから、自宅のほぼ真下をリニアのトンネルが通る計画があると知らされた。まさに「青天の霹靂」だった。
不安がより現実味を帯びたのは20年10月、東京外郭環状道路(外環道)の地下トンネル工事中に起きた陥没事故だ。巨大なシールドマシン(掘削機)で深さ約50メートルの地下でトンネルを掘っていたところ、道路が陥没した。使っていたシールドマシンは直径16メートル。リニアの工事で使うのは直径14メートル。リニアでも、同じ事故が起きても不思議ではない。しかも事故が起きる前から、周辺住民は騒音や振動、低周波音に苦しめられていたと知った。陥没した穴は閉じられたが、多くの住民が引っ越しを余儀なくされ、財産権を侵害され平穏生活権を奪われ、苦しみは続いている。
「法律をつくれば何をやっても構わないというものではありません。事実上、告知も同意も補償もなくトンネルを掘ることができるとする大深度法は、違憲な法律です」
■コロナ禍での価値観変容、工事中止し議論すべき
そして、「JR東海は傲慢で住民軽視」だと批判する。説明会は行っても形だけで、工事の進捗状況すら聞いても教えてくれない、と。祖父の代から田園調布で暮らす三木さんは言う。
「ここは私にとって『故郷』。故郷を壊されたくありません。この裁判は、お金ではあがなえない価値を守る闘いでもあります」
原告の一人、世田谷区在住の池田あすえさんは言う。
「リニアは公共の利益ではなく、そこに暮らす人たちの大切な終のすみかと生活基盤を奪うもの。人権侵害を受忍する理由はありません」
地震学者で神戸大学の石橋克彦名誉教授は、11年の東日本大震災で東京電力福島第一原発事故が起こる前から、原発が地震に弱いことを警告し「原発震災」の可能性を指摘していた。今「原発とリニアは事業の性格が似ている」と指摘する。
「まず、両者とも国策民営です。そして、御用学者たちのずさんな審議でゴーサインが出された。また、マスメディアはリニアの『負』の側面を伝えず、専門家の批判も弱く、国民は『夢』のイメージしか与えられませんが、これも原発開発の初期と同じです。沿線住民が大きな犠牲を強いられ、JR東海が住民軽視で強引に事業を進めているのも同様です」
そして、コロナ禍を経て社会の価値観も変わる中、「リニアは時代錯誤」だと語る。テレワークが普及したコロナ後の世界で三大都市圏を高速で結ぶ必要があるのか、と。しかも、大阪まで延伸した際のリニアのピーク時の消費電力は国土交通省の試算で約74万キロワットと、原発1基分の出力に相当する。脱炭素社会において、電力多消費型のリニアは時代に即した乗り物なのか、と。そしてこう提言する。
「様々な問題が噴出してきた今、いったん工事を中止し、今まであまりにも不足していたリニアの必要性と安全性、環境への影響などの議論を、徹底的に行うべきです」(編集部・野村昌二)※AERA 2024年5月13日号より抜粋 野村昌二
5/10(金) 8:32配信 AERA dot.
東京-名古屋間を40分、将来は東京-大阪間を67分で結び、時速500キロで走り、「空飛ぶ地下鉄」とも呼ばれるJR東海のリニア中央新幹線。静岡県の川勝平太知事の辞職表明で、前進に期待の声が上がる中、住民の生活破壊の問題も横たわる。コロナ禍を経て、脱炭素社会における中、リニアは本当に必要なのか。AERA 2024年5月13日号より。
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そもそもなぜ、JR東海はリニアを建設するのか。
「大規模災害への抜本的な備えとして、日本の大動脈輸送を東海道新幹線とリニアで二重系化するため。さらには首都圏、中京圏、近畿圏の三大都市圏が一つの巨大都市圏となり、人と人が会うことで新たなイノベーションが生み出され、余暇の過ごし方などライフスタイルの変化を通じて豊かで多様な暮らしを実現するなど、新たな可能性が生まれると考えています」(同社)
だが、その発想の下でそこに暮らす人たちの生活がないがしろにされていないか。今年3月、都内に住む45人が、国にJR東海が申請した大深度地下使用の認可取り消しを求める行政訴訟を東京地裁に起こした。
「憲法が保障する財産権だけでなく、平穏生活権までも侵害されます」
この「NO!大深度リニア訴訟」の原告団の団長で、大田区田園調布に暮らす三木一彦さん(66)は訴える。
財産権は憲法29条が保障する権利。平穏生活権は憲法13条(幸福追求権)と憲法25条(生存権)の法意に照らし、人格権に基づく平穏な生活を送る権利として保障されている。
リニアは、開発が進んだ都市部では、地表に影響が出ないとされる地下40メートル以深の「大深度地下」を通る。大深度地下は、道路や鉄道など公益の事業は地権者の同意や用地交渉、補償なしでも、国や都道府県の認可を受けて使用できる。それを可能にしたのが、01年に施行された「大深度地下使用法」だ。リニアの場合、首都圏では品川(東京都)から町田(同)までの33キロにわたる。
三木さんは18年、近所の幼なじみから、自宅のほぼ真下をリニアのトンネルが通る計画があると知らされた。まさに「青天の霹靂」だった。
不安がより現実味を帯びたのは20年10月、東京外郭環状道路(外環道)の地下トンネル工事中に起きた陥没事故だ。巨大なシールドマシン(掘削機)で深さ約50メートルの地下でトンネルを掘っていたところ、道路が陥没した。使っていたシールドマシンは直径16メートル。リニアの工事で使うのは直径14メートル。リニアでも、同じ事故が起きても不思議ではない。しかも事故が起きる前から、周辺住民は騒音や振動、低周波音に苦しめられていたと知った。陥没した穴は閉じられたが、多くの住民が引っ越しを余儀なくされ、財産権を侵害され平穏生活権を奪われ、苦しみは続いている。
「法律をつくれば何をやっても構わないというものではありません。事実上、告知も同意も補償もなくトンネルを掘ることができるとする大深度法は、違憲な法律です」
■コロナ禍での価値観変容、工事中止し議論すべき
そして、「JR東海は傲慢で住民軽視」だと批判する。説明会は行っても形だけで、工事の進捗状況すら聞いても教えてくれない、と。祖父の代から田園調布で暮らす三木さんは言う。
「ここは私にとって『故郷』。故郷を壊されたくありません。この裁判は、お金ではあがなえない価値を守る闘いでもあります」
原告の一人、世田谷区在住の池田あすえさんは言う。
「リニアは公共の利益ではなく、そこに暮らす人たちの大切な終のすみかと生活基盤を奪うもの。人権侵害を受忍する理由はありません」
地震学者で神戸大学の石橋克彦名誉教授は、11年の東日本大震災で東京電力福島第一原発事故が起こる前から、原発が地震に弱いことを警告し「原発震災」の可能性を指摘していた。今「原発とリニアは事業の性格が似ている」と指摘する。
「まず、両者とも国策民営です。そして、御用学者たちのずさんな審議でゴーサインが出された。また、マスメディアはリニアの『負』の側面を伝えず、専門家の批判も弱く、国民は『夢』のイメージしか与えられませんが、これも原発開発の初期と同じです。沿線住民が大きな犠牲を強いられ、JR東海が住民軽視で強引に事業を進めているのも同様です」
そして、コロナ禍を経て社会の価値観も変わる中、「リニアは時代錯誤」だと語る。テレワークが普及したコロナ後の世界で三大都市圏を高速で結ぶ必要があるのか、と。しかも、大阪まで延伸した際のリニアのピーク時の消費電力は国土交通省の試算で約74万キロワットと、原発1基分の出力に相当する。脱炭素社会において、電力多消費型のリニアは時代に即した乗り物なのか、と。そしてこう提言する。
「様々な問題が噴出してきた今、いったん工事を中止し、今まであまりにも不足していたリニアの必要性と安全性、環境への影響などの議論を、徹底的に行うべきです」(編集部・野村昌二)※AERA 2024年5月13日号より抜粋 野村昌二