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【パーツ研究】EPS

2021-03-16 | BMWミニ
 平成生まれの整備屋は知らぬだろうけど、今でのステアリングギヤは乗用車から3トンクラスのトラックまで、ラック&ピニオン式(L&P)がコンベンショナルな方式として定着してしまった。それ以前は、L&P式は少数派で、主流はリサキュレーティングボール式(ボール循環式)という、一種のウォームギヤ式で、被駆動側ギヤとの間にベアリングボールを介在させ、転動荷重を軽減させ滑らかなステアフィールを可能とした方式だった。

 何故、L&Pが主流になったのかだが、ステアフィールがダイレクトで、剛性感が高められるとか、ステアリングリンクを含め構成部品数が少なくコストが低減できるとかに主な理由があったのだろうと想像している。

 それと、精度の高いラック歯溝を作る技術も未熟だったこともあるのかもしれない。20年近く前の軽自動車だったが、L&P方式で直進時近くはまったく遊びは感じられなかったのだが、ものの90度程ステアすると、大きな遊びが出て、酷い歯切精度だなと驚いた経験を思い出す。

 さて、本題のEPS(電動パワステ)の話しに移る。このEPSは、まずは軽自動車から普及が始まったということを忘れてはならないだろう。それが、普通車にまで拡大してきたのは、大きな理由としては、燃費の向上にあるのだろう。つまり、従来の油圧式だと、まったく油圧を作り出していない直進時も、油圧ポンプは空回りといえども回転していて、その駆動損失などから燃費の点で不利だったのが、EPSにすることで、直進時の駆動損失は解消されることになった。

 EPSだが、そのステア助勢方式として2つに大別できる。一つは、コラム部に助勢用の駆動モーターが装着されているタイプで、もう一つが助勢用駆動モーターがL&Pギヤに付いているタイプとなる。

 一般に、安くてステアフィールなどあまり重きを置かないクルマはコラム式を、上級車とかスポーティ車などステアフィールに重きを置くクルマは、L&Pギヤ直付け式を採用していている場合が多いと感じる。

 ところで、EPS採用の初期だが、トヨタのプリウス(20型)で、恐ろしく幼稚なリコールを生み出したことを付記しておきたい。この明細は下記リンクを参照してもらいたいが、コラム式EPSなのだが、従来の油圧式用のステアリングで使用していたインターミディトシャフト(コラムとギヤを接続するユニバーサルジョントを介した連結シャフト)を利用していて、強度不足が販売後に発覚したというリコールだ。

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 さて、脇道に逸れたが、油圧でも電動でも、ステアの倍力(助勢)機能を検出するには、トーション方式という機構を採用している場合が多い。これは、ステアリングシャフトの軸内を一部空洞にして、内部に一段細いトーションバー(捻りシャフト)を内蔵させておき、ステアリングの切り始めなどステアリングホイールを廻す負荷を、トーションシャフトの捻りとしてステアリング操舵の初期に生じさせ、その捻りで検出するものだ。油圧の場合は、トーションバーの先に油路を切り替えるフラッパーバルブが組み込まれ、油圧の倍力機能が働く。EPSの場合は、トーションの捻れをホール素子センサーなどで検出して、倍力用モーターを駆動する。正常に倍力機能が働くと、トーションの捻れがなくなり、倍力機能が停止するというものだ。

 なお、トーションバーは無制限に捻れを許す方式とはなっていない。目視であるが、直進時から左右回転で1~2度程度の範囲で制限され、その範囲でステアリングの反力を検出している。もし、無制限に細いトーションバーの捻りを許すと、油圧でもEPSでも、細いトーションバーに過負荷を生じて破壊してしまうからだ。

 次にEPSのモーターでの倍力機能の一例を記してみたい。この写真の事例(BMWミニR56型ジェイテクト製)では、L&Pのピニオン軸に固定された樹脂製ヘリカルギヤと、直交するウォームギヤをモーターで駆動して倍力させている。

 ここで、ウォームギヤの特性として知っておかなければならないこととして、ウォームの歯切角度が15度位を境として、被駆動側から駆動側への動力伝達は不可能になるという特性があることだろう。つまり15度より小さい、ほとんど水平に近い歯切角を持つウォームだと、ホイールアライメントのキャスターなど、ステアリング機能自体が持つ復元力を押さえ込んでしまい、ステアリングの自動復元力を規制していまうということだ。このジェイテクトのウォームギヤは、目視で45度くらいの歯切角度になっていることが判る。





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