私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

O2センサーからA/Fセンサーへの移行は何故か?

2022-02-13 | 技術系情報
O2センサーからA/Fセンサーへの移行は何故か?
 AFと聞くとカメラのオートフォーカスを連想するのだが、ここで云うA/F(エーバイフェーエルと読む)は日本名で空燃比センサーと呼ばれるセンサーだ。ガソリンエンジンの排気ガス規制において特効薬となったのは、CO、HCの酸化とNOxの還元を同時にできる三元触媒(CCRO)を利用があったが、このCCROは理論空燃比(14.6:1)の空燃比を高精度に維持することが必要となる。そこで、必須センサーとして開発されたのがO2センサーだったのだ。

 このO2センサーだが、その機能が発揮できるのはある程度の高温(500°程度)に達しているという制限があるのだが、排ガス検査が冷間始動時を含めた検査が取り入れられるのに対応して、ヒーター付きO2センサーが採用され、活性までのアクテティブタイムの短縮が図られている。

 一方、これは筆者の理解なので100%正しいとは限定しないで欲しいが、主に米国の規制は10万マイル後(16万キロ)の触媒劣化時の検出ができなければならないとする規制が採り入れられたことが主因だと判断しているが、触媒上流および下流にO2センサーを配置することで、この触媒劣化を検出するできる方式が世界の主流となった。

 その様な中、既に5、6年前より、特に上流側のO2センサーの代わりにA/Fセンサーが使われるのが主流になっており、現代ガソリンエンジンでは、ほぼ上流側はO2センサーではなくA/Fセンサーの使用が常套化していると云っても良いだろう。このことは、外観目視上、O2センサーでもA/Fセンサーでも、ほとんど差異はなく、その接続コネクタピン数も、車種にもよるがヒーター付きO2センサーは4ピンだが、ヒーター付きA/Fセンサーでも4ピンコネクタもあり、外観目視上上では判別は難しい。

 では、何故O2センサーで達成できたものをA/Fセンサーが普及してきたかと云う問題を考えてみたい。
 O2センサーの出力特性は、図(Fig.2)に示す通り、A/Fが14.6という理論空燃比を境に、その空燃比がリッチになると1V弱まで立ち上がり、リーンとなるとほぼ0V近くまで急激に低下するという、デジタル的な出力特性を持つ。エンジンECUでは、リッチもしくはリーン信号を検出すると、基本噴射量から一定量(例えば5%とか10%)を減量もしくは増量し、それでもO2センサー値が反転しない場合は、繰り返し減量もしくは増量して行くというアルゴリズムを行う。つまり、O2センサー出力が反転するまで、噴射燃料の微量減量もしくは増量の動作を繰り返し、反転して初めて、反転の増量もしくは減量を行うことを連続するのだ。こういう動作をフィードバック制御と呼ぶが、最終的に追い込んで定常状態になると、僅かな増量もしくは減量で、即座にO2センサー出力は反転しつつ、多少上下に振れはするが理論空燃比燃焼を保ち、三元触媒は最大効率で排気ガスを浄化できるという理論なのだ。


 ところが、クルマは何時も定常走行で走行する訳でなく、加速したり減速した時、せっかく追い込んだ増量もしくは減量の中央値から大きく目標値が食い違うという状態が発生する。すると、最初に記した様に、微量の減量、もしくは減量の繰り返しを経て、O2センサーの出力反転、すなわち目標値へのアルゴリズムを繰り返すという訳だ。

 つまり、O2センサーは、理論空燃比で出力が急変すると云うことを検出できるだけで、どれだけ濃いのか薄いのかというA/Fそのものを検出できないという問題があったのだが、A/センサーがどの程度狂っているのかを検出できれば、即座にそこまでの減量もしくは増量を行い、引き続いて適正値になったと云う確認を行いつつ、その状態を維持出来ると云う訳で、空燃比変動に対して適正値に持って行くまでのレスポンスが格段に向上すると云うことがあるのだ。


 ところで、ガソリン燃料噴射の開発は独ボッシュ社が先行開発して来た歴史があるのだが、ボッシュ社が名付けた、吸入空気量を直接検出して、それに応じた基本噴射量を決めるLジェトロ方式と、予め給気管負圧とスロットル開度、エンジン回転の要素で、三次元マッピングを持ち、そのマッピング参照により基本噴射量を決定するDジェトロに大別される。

 エンジンの様々な運転状態とか経時変化に高精度に対応するにはLジェトロの方が高精度なのだが、Dジェトロはエアフロー(もしくはエアマス)センサーが不要で、簡略化できるなどから、比較的小排気量エンジンでは多用される。ただし、ターボなど過給エンジンの場合、給気管は負圧だけでなく正圧となることや吸入空気量が急激に増大することから、マッピング制御では過渡域を含め対応困難なので、まずDジェトロが使われることはあったとしても極少数であり、ほぼLジェトロ(つまりエアフロー付き)となる。このエアフロー付きの場合の基本噴射量は、係数×吸入空気量(流量もしくは質量)/エンジン回転数で決まる。通常の定常走行であれば、この式の係数は理論空燃比となる値が利用される。なお、例えばエンジン負荷条件が大きい、スロットル開度大で急加速だとか急登坂状態、高速高負荷状態では、係数は出力空燃比(12:1程度)を目標に制御なされる。この場合、O2センサーもしくはA/センサーによるフィードバック制御も停止されるアルゴリズムとなっている。

 また、そもそも下記のデンソーニュース資料(pdf)によれば、O2センサーからA/Fセンサーが開発される途上で、最初に開発されたのが、リーンセンサーなのだ。これは燃費向上を目指し、ある一定の条件で空燃比をあえてリーンにして燃費を稼ごうといういう思想のエンジンだったのだ。これは一過程の流行だったのかもしれないが、例えば三菱のGDIもガソリン直噴が肝の様に思われているが、リーン燃焼を基本としてやっており、そのための着火性の確保(プラグギャップ付近に噴射する)だった様だ。このリーン燃焼の欠点は、急加速などでそれなりにスロットルを踏めば出力空燃比に移行する訳だが、軽くスロットルを踏み増す程度では出力空燃比には移行せず、運転者が感じるのは「付いてこないエンジン」すなわち力感不足という印象になったと云うことらしい。

 最後に、O2センサーでもA/Fセンサーでも同様なのだが、フィードバック運行中は、絶えず理論空燃比へ収束する様に補正制御を続けているのだが、その補正が基本噴射量より総体としてリッチ側に偏位しているのかリーン側に偏位しているのかをフューエルトリムという概念がある。例えば、運転状態の変化で、それに対応すべくフィードバックを繰り返し収束させる制御におけるリッチもしくはリーン側への偏位を短期フューエルトリムと呼んでいる様だ。これは、特段異状ではなく経過処置として順当なものなのだが、ある程度の一定時間(15分以上)とかの定常運行中で、平均的にリッチ側もしくはリーン側に偏った制御が継続(これを長期フューエルトリムと呼ぶ)されていると、何処かに基本噴射量を変移される故障があるとしてフュエールトリムエラー(P0170など)が出て警告灯が点灯する場合がある。

 これの原因は、様々な要因が考えられる。エアフローの出力異常なら、別のエラーコードが出るが、出力特性が狂っているとこのエラーが出る可能性がある。また、A/Fセンサーも同様で、出力がリーンもしくはリッチのままで反転しないなら別のエラーとなるのだが、特性が狂っている場合もあり得るだろう。ただし、こういうセンサーや電気系を疑ってばかりもいられない。インジェクターの詰まり(噴霧不良)だとか、インテーク系(スロットルバルブ下流)のエア漏れなどが原因となる場合もあるから、なかなか難しい考察を行える知識が必用になる場合もありそうだ。

※参考資料
A/Fセンサーの開発 デンソーテクニカルレビュー Vol.3 1998(pdf)
https://www.denso.com/jp/ja/-/media/global/business/innovation/review/03-1/03-1-doc-dissertation05-ja.pdf
触媒付き積層A/Fセンサの開発 デンソーテクニカルレビュー Vol.17 2012(pdf)
https://www.denso.com/jp/ja/-/media/global/business/innovation/review/17/17-doc-5-ja.pdf
#近年のO2センサーからA/Fセンサーへの変化の理由


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。