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 私の思いと技術的覚え書き

歴史小説、映画、乗り物系全般、事故の分析好きのエンジニアの放言ブログです。

レーシングエンジンのテクノロジー

2010-07-09 | 技術系情報

 現在のフォーミュラ1などのレーシングフィールドにおいては、マシン全体の戦闘力に占めるエンジンのウェイトは、かつての様に大きいものでなく低下してきてると云われています。しかし、各レーシングチームにおいては、他に勝る出力、トルク特性、メインテナンス性、耐久性を求め、しのぎを削り続けているのです。
 さて、そんなレーシングエンジンの現在について、現行のフォーミュラ-1を中心に私が知る範囲のことを記してみます。
 2010年現在のフォーミュラ1のエンジン規定では、排気量2,400cc、気筒配列V8と規定されています。このスペックで、最大出力700bhp※以上を得ている様ですから、自然吸気(NA)エンジンであってもリッター当たり300オーバーと、市販車と比べれば桁違いに高い比出力を生み出しています。それもそのはずで、最高出力時の回転数は18千回転と極めて高速回転となっています。この最大回転数も規制を受けた後のもので、規制前は2万回転を超えつつあったと伝えられています。※bhp=英馬力、ps=仏馬力との関係は1php=1.014ps
 この高速回転エンジンを支えるテクノロジーですが、一つは超ショートストロークによるピストンなどの往復運動パーツの負担軽減と、バルブスプリングに空気バネ(ニューマチック)を使用した高速サージングの回避となります。まず、超ショートストローク化ですが、現行F1エンジンのボア×ストロークですが98mm×40mm程度に設定されている様です。このビックボア、ショートストロークですが、当然の如く採用されている吸排気の4バルブのバルブ面積を大きくしたいという面にもマッチするものとなります。もう一つのニューマチックバルブスプリングですが、金属バネですと往復慣性力から共振周波数となる高速回転におけるサージングによるカムの飛び越し(ジャンプ)などの悪影響から逃れることは困難です。しかし、ニューマチックバルブにより、慣性力によるサージングの影響を高度に回避することができる様です。なお、このニューマチックバルブスプリングですが、低速と高速では空気圧を変える機構となっていると想定されますが、市販車に採用するには長期間のエア漏れを高信頼性を持って防止しなければならず、なかなか難しい面がありそうに思えます。
 その他エンジンをその上部から下部に向かって構造面から概観して行きます。
 まず、最上部に位置するシリンダーヘッド部ですが、材質的にはアルミニウム合金で市販車と変わらぬものです。なお、製造法としては大量生産の市販車ではダイキャスト法などの鋳造となりますが、高度なレーシングエンジンでは素材ブロックからのマシニングセンターでの削り出し製作が当然の様です。なお、ヘッド部には吸排気ポートが付帯しますが、その吸気ポートはバルブ角に沿う様に直線的に外部に続く形状とされ、通気抵抗を極力回避する様にされています。このため、インテークポート上部にはスロットル用スライドバルブと短いエアファンネル(吸気トランペット)が付きますが、ほぼ垂直に近い角度となります。市販車の場合、吸気ポート内で90度近く吸気通路は曲げられ、インテークマニホールドに接続されます。なお、エアファンネルの管長ですが、最高出力における吸気脈動と共振する周波数を持つ値として設定されますが、管長固定の規制を受けるまでは、可変長エアファンネルが採用されており、これによりトルクバンドを広げる効果を得ていました。
 ヘッド下部に位置するシリンダーブロックですが、先に記した通りバンク角90度、V型8気筒配列に規制をされています。なお、材質はヘッドと同様にアルミニウム合金と規定されており、製造方法もヘッドと同様に素材ブロック材からの削り出しとのことです。また、シリンダー内面は、ニカシルなどと呼ばれるニッケル、シリコンのメッキ処理を施したものとなりますが、これも市販車でポルシェなどにおいてかなり古くから採用されている手法です。さらに、ブロック下面にオイルパンが位置しますが、これはレーシングエンジンの定石通り、ドライサンプとして極薄いオイルパンが装着されます。この一番の目的はエンジン搭載位置を極力下げ、重量物を低重心化させたいことによります。
 エンジン内部のピストンですが、かつてはベリリウム(毒性を持つ金属)など比強度の高い材料が使用されたこともあった様ですが、現在はアルミニウム合金と規定されており市販車と変わらぬ材質です。なお、当然において鍛造で製造されたものが使用されますが、これも市販車でも高性能エンジンで採用されています。また、ピストンの形状ですが、サイドスカートのない非常に上下寸法の小さいものが使用されますが、これは市販車において冷間時のピストンクリアランスの大きい時のサイドスラップ音(打音)を小さくする必用がないことや、長期間の耐久性が求められないことなどによるものと想像されます。
 ピストン下部のクランクとを接続するコンロッドですが、比強度の高いチタン合金製が採用されています。なお、エンジン内部のチタン合金の採用部位は、コンロッドの他、吸排気バルブ(排気の傘部は異なる?)にも採用されているそうです。
 さらに下部となるクランクシャフトですが、市販車ですと熱間鍛造製ですが、これも特殊鋼素材ブロックからの削り出し製造とのことです。なお、クランクはカウンターウェイトのバランシングが必用となりますが、市販車の様にウェイト部をドリルドしてではなく、比重の高いタングステンピースの装着によりバランス調整を行っているとのことです。また、クランク関係の軸受けですが、市販車と変わらぬプレーンベアリング(メタル)です。
 最後に、エキゾースト系ですが、昔のF1では、エキゾーストマニホールドから集合された排気管がかなり後方まで伸びていたものです。しかし、現在のF1ではカウルを装着している状態では、ちょっと見ただけではエキゾーストが何処に出ているか判らぬ程です。これは、カウル形状から露出させることにより生じる空力への悪影響を極力排除したいということと、排気管集合部までの寸法と排気管出口までの寸法を含め、なるべく短い管長として、高速回転での脈動周波数に共振し易いものを追求した結果の様です。なお、エキゾーストマニホールド+パイプの材質ですが、インコネルの薄板で製作されますが、職人が一品一品手作りしている様ですが見事なものです。
  


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